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王子の末路

 これで政略なんかで嫁いだリディアを切り捨て、俺の王族としての人生が始まる。この花国第一王子のヴィクトール・クラールの王道が。

 ヴィクトールは今日この日まで、自分の王道の始まりなのだと、そう思っていた。



「馬鹿者!何でリディア嬢にあのような事をした!」

 卒業パーティが終わり、ユリエと逢瀬を楽しんでから、夕方に城に帰ると国王である父から告げられた第一声がそれだった。

「まあ、貴方。その位、良いじゃない」

 母が取りなしてくれる。いつだって母は第一王子ヴィクトールの味方だった。

「それ位だと?」

 イグナーツ国王は敵でも見つけたような視線で王妃を睨みつける。

「陛下。落ち着いてください。気持ちは分かりますが最悪にならないよう私がいるのですから」

 そこにはロセツキ公爵夫人がイグナーツを抑えるように口にする。


「む、……少々取り乱した。すまぬ」

 公爵夫人に頭を下げて元の席に座る。ヴィクトールは父に何があったのかと問うように弟たちに視線をむけるが、弟たちは知らぬと言わんばかりに視線を逸らす。

 一人は武官希望で1学年下のカミル・クラール。リディアと同じクラスの二年生だ。

 もう一人は魔導学に興味がある理系畑のエリク・クラールで一年生だ。次年度より学園に入学してくるロセツキ公爵夫人の娘とは幼馴染で仲が良いらしく婚約の話が出ている。もしかしてその話の為にロセツキ公爵夫人が来ているのだろうか?とヴィクトールは考える。


 他にも、第二王子カミルの母ボジェナ・クラーロヴァ、そして元使用人であり第三王子エリクの母クラーラ・クラーロヴァもいた。どちらも側妃である。子爵令嬢と騎士爵令嬢とどちらも立場は弱い。


「家族で話がある為に今日はここに全員を呼んだのだが……」

「ならば何故ロセツカ公爵夫人がここに?一番関係ない人でしょう?」

 ヴィクトールはロセツカ公爵夫人を指差して口にする。

 あまりに無礼な態度にロセツカ公爵夫人はピクリと眉を動かす。


「無礼な態度をとるな、ヴィクトール。彼女がいなかったらお前、殺されていたぞ?」

 イグナーツは怒鳴りつける。


「カミル、貴方も肝に銘じておきなさい」

「も、もちろんです。レーナとは仲良くしていますよ。学生結婚をしようかというくらいラブラブです」

 側妃ボジェナとその息子カミルが青い顔して頷き合っていた。カミルは兄弟の中では一回り大きく、父親似の武骨な男だが何かを怯えているようなそぶりを見せていた。

 そのカミルから婚約者とののろけを聞かされるのは誰もが閉口してしまうが。


「さて、これから王族としての話をする。ロセツカ公爵夫人は証拠人として呼んでいる」

「エステルのお母さまが?」

 第三王子エリクは幼馴染であり最も仲の良い異性の友人でもあるエステルの母親がいる事に少しだけ緊張する。


「よろしくお願いいたします」

 ロセツカ公爵夫人は丁寧に礼をする。


 彼女は帝国皇帝の皇妹で、有能な魔法使いでもあり、魔導技術関連研究で知り合ったロセツキ公爵に嫁いでいる。イグナーツは彼女を良く王族の相談役として呼んでいたりする。

 この国で遠慮なく国王に進言できるのは辺境伯と他国の姫であるロセツカ公爵夫人だけだった。

 しかも、彼女は花革命時に行方不明になっていた王族の子孫で、花国が信奉する偉大なエルフに育てられてた過去がある。国王であっても配慮する相手だ。彼女が王を望めば、退かなければならない程に重要人物である。

 つまり、ヴィクトールの態度は事実を知らないとはいえ、非常に無礼な事で、本人に落ち着けと言われているから落ち着いているが、彼女がいなければガチで殴っていた事案だった。


「ヴィクトール。いくらお前が今後は関わらないから関係ないように振舞っているが、リディア嬢への態度は非常に拙い。あれでは殺してくれと言っているようなものだ。反省せよ」

「ですが…」

「反論はいらぬ。お前の気持ちは分かる。ユリエ嬢との愛に生きるのだろう?だがリディア嬢は辺境伯の孫でもある。公爵ならば話せば許してくれるが、辺境伯は許さんだろう。公然と婚約破棄を告げるなど、それは辺境伯に対して宣戦布告をした事になる。内乱が起きかねない事態だった。先程、ロセツカ公爵夫人が無理やり魔法で寝かしつけてくれたから事なきを得たが……。肝が冷えたぞ。お前が帰ってきた瞬間に首を刎ね兼ねない勢いだ。折角、平和の時代が訪れたのに、こんなくだらない事で再び内乱になるような事態を引き起こす真似をするな。辺境伯邸に引き取り願ってリディアに取りなしてもらえるよう頼んでおいた」

 イグナーツはため息をついて説明する。

 いない間にそんな恐ろしい事があったのかと自分の事を他人事のように考えていた。


「リディア嬢は人間じゃなくて天使なんじゃないの?さんざん蔑ろにしてきて、公衆の面前で婚約破棄した男の尻拭いをしてくれるなんて」

 三男エリクは両手を合わせて拝み、

「まったくだ。俺が怖くて動けなかった位だ。ヴィクトールを出せ。あの小僧の首を落としてくれるわ!て、学園の方へ向かおうとする始末だったし」

 次男カミルは恐怖に体を震わせる。


「し、しかし何で辺境伯が出て来るんですか?全く関係ないでしょう?」

 不思議そうにヴィクトールは首を傾げる。


「いや、むしろ兄貴が何で知らないのさ。リディア嬢は公爵の娘で辺境伯の孫娘だ。あの祖父様も孫には甘いって有名だろ。俺の婚約者レーナとリディア嬢は従姉にあたる。何で元婚約者の兄貴が知らないんだ?そもそも父上がこの国の王になれたのはあの祖父様のお陰なんだぜ。親父が将軍として英雄になったが、その上役である軍務総帥が辺境伯様なんだから」

 ヴィクトールはリディアに興味がなかったので、右から左へと聞き流していたからだ。

 軍閥寄りの第二王子はその辺が非常に詳しかった。だから、王族を殺すと剣を抜いても、誰も文句が言えないくらいだったのだ。

 彼に勝てるのは彼が若き頃に仕えた国王の孫にあたるロセツカ公爵夫人だけだった。呼んでなかったら大惨事だっただろう。


「さて、気を取り直して話をしよう。基本的には変わらない。先日、ヴィクトールが私に話してくれたようにヴィクトールはリディア嬢と婚約を解消して、スヴァトショヴァ男爵令嬢と婚約をすることになる。良いな?」

「ああ。覚悟はできている」

「そんなっ!?嘘でしょう?聞いていないわ!?」

 と王妃ドミニカがあまりの事に叫ぶ。


「母上、本当です。私はユリエに真実の愛を見つけたのです。リディアのような面白みのない女ではなく、彼女のような楽し気で守ってあげたくなり、また、聡明な女性が良いのです」

「そんな…あああっ!?」

 頭を抱えて、大きい悲鳴を上げるとドミニカはそのまま気絶してしまうのだった。


 そうなるよなぁと他の妃達が哀れむように倒れたドミニカを眺める。使用人が二人で持ち上げてドミニカを寝室へ運びに行くのだった。

 元伯爵令嬢が王妃になり、大いに権勢を振るって、息子を甘やかして育てていた。そのツケを払う事になったのだ。哀れと思うが誰も同情しなかった。


「パーティでは色々とあったが、本来であればこちらで婚約解消の同意書を書いて…となるが今更なしにできないし、ヴィクトールは帰りが遅かったからさっさとすべての手続きを終わらせておいた」

 ヴィクトールは面倒な作業が無くてラッキーと内心では喜ぶ。


「でも、どうするんですか?兄上は良いとして…。リディア嬢の結婚相手だって王家が探さないといけないでしょう?」

「それは問題ない。ヴィクトールがユリエ嬢を紹介しに来る以前に、実はリディアとヴィクトールの婚約解消は皆に話していないだけで、とっくに決まっていたんだ」

「え?」

 初耳だったヴィクトールは驚いた表情で父親を見る。


「ヴィクトールは定例の茶会には来ない、贈り物も手紙も贈らず、社交ではエスコートもしない。公爵も辺境伯も愛想が尽きたと婚約解消をするように言ってきた。その場に次の婚約者となる男も来ていたのでね。彼の第二正妃として嫁ぐ事となった」

「第二正妃?」

 ヴィクトールはその言葉を口にしてふっと鼻で笑う。近隣の諸王国の側室か後妻にでもなるのだろうと感じたからだ。


「そうなのか?修学旅行時、戦争に巻き込まれたが、帝国のヴァイスフェルト子爵が彼女を救う為に単身乗り込んで救出しただろう?てっきり彼の所かなって思っていたけど。元々、リディア嬢は兄上にはもったいなかったし、帝国子爵と言ってもあれほど武勇に長けた男なら惚れたって仕方ないと思うよ。公爵家だって武勇に長けた婿が来てくれるなら辺境伯に頼り切りにはならないし、ありがたいでしょ」

 と政治的観点も含めてカミルが意見を言う。

 そんな事があったのかと今更になって知らされるヴィクトールだった。


「うむ、その通りだ」

 国王が第二王子の言葉を肯定する。

「でも、親父。第二正妃って言ってたけど、確か帝国って一夫一妻制で二人目以降は妾になるんだろう?」

 第二王子は疑問に思うのだった。

「ああ。よく勉強しているな。剣ばかり振っていると思っていたがな」

「フェルナントの奴、あれで頭も良いし、戦場でも俺たちを生かして帰すために、戦略や戦術を駆使して、時に相手国の風習まで知っていて、即興で戦場をかき乱していたからな。武人としても王族としても、もっと学ぶべきと思っただけだ。負けてられないからな」

「そうか。ふふっ息子たちも子供だと思っていたが、随分と大きくなったものだな。まあ、もう少し知っていれば気付いてたと思うが…そのヴァイスフェルト子爵は今度帝国の貴族から属国の王になる事が決まった。魔大陸の領土を切り取ったものの帝国では管理できず属国にするらしい。切り取った本人がまとめるしかないから彼が王になったという訳だ」

 と淡々と説明する国王に多くの人間の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。


「あの、陛下。申し訳ありませんが…その、カミルの同級生が魔大陸を切り取ったと聞きましたが、世間で謡われる話では、魔大陸を切り取ったのは紅の英雄、ローゼンハイム公爵の嫡男様では?」

 不思議に思ったボジェナが挙手をして尋ねる。


「高級ウールで有名なヴァイスフェルト地方を賜ったのがローゼンハイム公爵だ。ローゼンハイム公爵令息の彼は9歳の時に外交で活躍し、ヴァイスフェルト子爵を皇帝から授かったから、その名を使ってる」

「じゃあ、あいつが紅の英雄だったのか?」

 驚きの声を上げるのはカミルだった。同学年で自身の目標とした男が実は既に功績を挙げている世界的な英雄だったと知らされたからだ。


「嫁探しに来ているからな。身分を隠していたから学園では親戚のエステル嬢とサミット時に顔合わせをしていたリディア嬢しか知らなかった。情報を持っていればすぐに気付ける事だったが、学生レベルじゃ気付かれないだろう。特に我が国は内向的で外に疎い。本名を名乗っているのに気づかない辺り、今後はもっと外に目を向けねばならぬな」

 イグナーツの言葉に全員が苦い顔で同意する。


 特に同学年のカミルは恥じる様子で俯くのだった。初めて会った頃は生意気な他国の小貴族という感じで敵視していたが、結局器の大きさやあらゆる技能を持っている強さに尊敬し目指すべき存在として認めざるを得なくなった。

 まさか、権力さえも敵わないなど思いもしなかった。


「私に娘がいれば彼に嫁がせたのだがな、リディア嬢に取られたが仕方ない。そして紅の英雄には魔大陸の我らの領土を彼に渡すことを条件に、花国と魔大陸をトンネルでつなげるプロジェクトを提案された。帝国が魔大陸側から掘り、我らが花国側から掘る。費用はすべて向こう持ちで人的資源を欲しいと言われている。これによって多くの労働者が必要になり景気が上がるだろう」

「そんな夢物語、父上は信じたのか?詐欺の常套句じゃないか?」

 ヴィクトールは眉間にしわを寄せて尋ねる。それだけ大事業になったら自分の代まで面倒になると思ったからだ。


「お前より一つ下の子供だが、彼はこの資料を作ってきた」

 分厚い紙束を取り出す。それは計画の全容が書かれているプロジェクト資料だった。

 中を覗き込むとトンネルの作り方、それに使う資材、運用する人の数、それに掛かるコストと期間、メリットとデメリットなど。


「我々の想像もつかない工事手法からそれに必要な資材のコストなど綿密に数字を出している。世界で最も富と技術を持っているローゼンハイムだから捻出できる内容だ。皇帝と公爵の保証するサインも入っている。この資料だけで欲する人間なら莫大な金を出すだろう。長い話し合いの末、この計画を締結する事になった。口先だけの貴族の仕事じゃない。二国間の国家事業をする国の代表者としての言葉だ」

「俺より年下……」


 放心しているヴィクトールを放って肩を竦めて両手を上げるのはカミルだった。

「文武に優れてるという話は嘘じゃないが、どっちも規格外すぎだろう。もう大人の世界で戦ってるわけか」

「僕も話してみたいなぁ。これはとても興味深い」

 弟王子たちは感心してそれを見ていた。同世代の王侯貴族の作った資料だったからだ。


「まあ、王族がこのようなものを作る必要はない。部下に作らせる必要が出て来るのだ。その時に多くの情報が足りていない事がある。それを指摘できなければならない。これには多くの臣下に見せて意見を貰ったが、欲しい情報はほとんど入っていた。帝国の秘匿情報や技術情報以外はな。本人が書いてしまうのは才能だが、そういった才ある者を用いてもすべてできる人間など普通はいない。帝国が彼を皇帝にしなかったのは恐らく自分でできてしまうからだろう」

 イグナーツは首を横に振る。


「自分で出来る事が良くないのでしょうか?」

「上役が専門分野の人間より詳しかったら、うるさくて面倒だろう?私は国王になる予定がなかったが、内乱で活躍して空いた玉座に座っている。武官の長となり軍略に長けていたが、今の現場を武官の長からすれば私への報告など事細かく尋ねられてウンザリしていただろう。辺境伯も軍部の連中からするとうるさい爺さんだと思われているだろう。多くの事を表面的に知っていて、金と人間の管理や計画性やリスクとリターンを確認できる程度の知識があればよいのだ。実際、私は武官出身なのに文官からの方が評価は高い様だぞ」

 とゲラゲラと国王は大笑いする。

 臣下に評価されるなどとは王としては言ってはならない事ではあるが、元々、国王は臣籍降下したものの、内乱の末に王になった英雄でもあるからだ。

 剣の実力と優れた軍略によって将軍になっているため、武官の多くは元部下になる。

 そもそも、辺境伯は国王の上司だったりするから、軍事出身なのに元上司が部下になっているので、非常にやりにくいのを良く知っていた。


「カミルよ、次の王になるかは分からぬが、軍部に行くのならば多くの事を学べ。エリクも魔法省を志望しているならば魔法省で多くのものを学べ。こんな壮大な事をする必要はないが自分の仕事だけでなく周りの人間が何をしているのか、所属してる周りの部署、会社や省庁がどういう関わりを持っているのかを知るのが重要だ。底辺でやっている部下たちがどのような苦労をしているのかもな。これからプロジェクトが始まると忙しくなるだろう。軍部も魔法省も関わりがある話だ。土木関連や国土交通関連も大きく関わってくるからそれらを見るのもいいだろう。視野を常に広く持て。良いな?」

「「はい」」

 第二王子と第三王子とで和やかに話をして、ヴィクトールはあれ、俺は?と首をひねっていた。


「あ、あの、私には……」

「ヴィクトールは家を出る事になるだろう?今後上手くやる事を願っている。公爵や辺境伯に睨まれてしまったから良い爵位はやれないが、私もできる限り頑張ろう」

「は?え、いや、……ええっ!?」

「だが、どちらにしても職を決めておくんだな。爵位で食っていくには王都は物価が高いからな」

 そう言ってイグナーツはヴィクトールの肩を叩いて去っていく。

 それに続いて妃達も去る。




「え?ちょ、何で俺がまるで王位継承権を破棄したみたいな言われ方してんだよ」

 触る神に祟りなしと言わんばかりに皆がその場を去っていく。とはいえ、弟たちは哀れむように兄の方へと向かう。


「まさかとは思っていたけど、兄上は何も知らないでいたのか?」

 カミルが呆れたような視線をヴィクトールに向けて尋ねる。


「何もって何がだ?」

「父上は英雄として国王になったが、元々は多くいる王子の中でも王位継承権が低く、内乱を収めた際に父上より上の王子がいなかっただけに過ぎないんだ。兄上の母親だって伯爵だ。俺達は貴族の後ろ盾を必要としていた。そして最も権力も武力もある後ろ盾のあるのがリディア嬢だった。そのリディア嬢を切り捨てた時点で王位を捨てたと皆が思っているんだ」

「はあ?リディアが何だっていうんだ!俺は第一王子だぞ!」

「兄上の競争相手はリディア嬢じゃなくて俺やエリクだろ」

 呆れたようにカミルは兄を見る。


「俺の母親は正妃で、側妃じゃないか。俺が上なんだから何の問題があるというんだ」

「いやいや、……ごめん、エリク。この馬鹿に説明できる?」

 丁寧に説明しようとしているのに、おかしなことを言う兄に説明困難になってカミルは頭脳派の弟に投げる。弟は頭痛をこらえるように前に出る。


「そうだね。まず僕らの王位継承権ってのは兄上が言っている通りで正しいよ。そうだね、兄上の王位継承権は100点とするなら、カミル兄は80点、僕は50点って所だね」

「そうだろう」

「で、軍閥出の父の息子という点や王に相応しい能力があるかという点で成績が良いかという点を見ると兄上には10点が加算されて110点とするとカミル兄は25点加算されて105点、僕は40点が加算されて90点って所だね」

「何でお前達にそんな加点されてるんだ!」

 ヴィクトールは声を上げる。

「兄上は成績も悪いし魔法も剣も大して出来ないでしょ。10点は学校卒業したという誰でも入る点数だと思ってよ。対するカミル兄は成績は普通だけど武力に優れている。僕は兄上が王子としての仕事を放り投げて押し付けられているから、王位に興味なかったのに、僕の点数が無駄に上がったんだよ。分かる?自分で自分の首絞めているの」


 馬鹿に説明するのは面倒くさいなという顔でエリクは説明する。

 当の兄が理解してくれてるのでカミルも文句は言わなかった。実際、そんなもんだろうなと。弟のエリクが王位に興味があればカミル自身出る幕もないとさえ思っていた。

 一番末の弟が一番賢く優秀だから。


「で、婚約者となると今まではリディア嬢がいて50点くらいの加点があった。何せ辺境伯に可愛がられてる公爵家の娘だよ。兄上はどんなグズでも王になれるポジションにいたんだ。それを捨てて110点で寸止まり。対してカミル兄は辺境伯令嬢のマグダレナ嬢が30点の加点になり135点、僕もエステルがいるからかなり高得点だ。どうもエステルは僕らが知ってる以上に花国にとって大きい力が働いているみたいでね。その為、父上もカミル兄か僕が王位につくと言っていたんだ。さらにヴィクトール兄は辺境伯に睨まれてる。王位なんてとてもじゃないけど無理だよ。そもそも父上を王位につけたのは辺境伯なんだから」

「い、いや、り、リディアが辺境伯の孫なんてのも知らないし、辺境伯がそんな力があったなんてのも知らなかったんだよ!」

 とヴィクトールは慌てて弁解するが、僕らに弁解されても困るよと言わんばかりの弟たちだった。二人は兄の馬鹿さ加減が想定を振り切っていた事実に気づかされることとなっていた。


「そ、そういう事か。ふっ、ならば話は早いな。仕方ないからリディアを俺の側室にすれば何も問題ないだろう。今すぐリディアを呼びつけよう」

 とんでもない事を言い出す兄に、マジか!?と二人の弟は目をむく。


「エリク、どうしよう。俺兄貴が分からない」

「もう辺境伯に差し出そうよ、この人」

 うんざりといった顔で二人の弟は兄の迷走に困り果ててしまう。


「そうだな、善は急げだ」

「あほか、もうリディア嬢は次の婚約者が決まってんだよ。そもそもあんたが勝手に婚約破棄する前から、公爵も辺境伯も婚約解消を父上に求めて承認されていたんだ。馬鹿なの!?っていうか、絶対馬鹿だよね?」

 兄の愚行を止めに入るのは涙目のエリクだった。一歩下がった物言いの末弟がかなり酷い口調で兄を罵る。


「何を言っているんだ?リディアは新興国の側妃なんだろ。だったら俺の側妃でも構わんだろ」

 自信満々で言い切るヴィクトールの言葉に二人の弟は一瞬気が遠くなって倒れそうになる。


「国の規模が違うっての。ローゼンハイム公爵はあの帝国の経済を支えてるウチの国よりも巨大な家なんだよ!しかも魔大陸の3分の1を支配した嫡男が国を興してんだよ。帝国の属国でもうちよりでかいんだ!今更リディア嬢を連れ戻そうとして見ろ。国が亡ぶぞ!馬鹿なの?馬鹿なんだろ」

「カミル兄。今確信したよ。王位継承権を奪うべき人がただその通り奪われただけなんだよ。リディア嬢がいなかった国政が出来ないからどっちにしても無理だよ!」


 とんでもないバカだった兄を見て二人の弟は頭を抱えるのだった。

 もう少しまともな人だと思ってたのに………。


 知っていたなら死ぬ気で王位継承権1位の座を引き摺り下ろしに行っていたと、二人は危うい未来を思って少しだけ安堵していた。




 ちなみに、ヴィクトールの廃嫡を知ったユリエ・スヴァトショヴァ男爵令嬢は、伯爵に臣籍降下したヴィクトールと距離を取り、後に他の男子生徒との間に子供が出来たと言い出す。

 公然と王族との間に婚約宣言してそれは許されないと、誰もまだ相手も子供の事も知らないなら、腹を裂いて子供を取り出して無理やり結婚させればいいという話になってしまう。

 そして、ユリエ嬢は腹を裂かれる前にどこともなく消え失せたという。


 とんでもない女だったと発覚したが、弟王子のカミルとエリクは兄が愚かだった事実を知ってしまった今となっては、『実は彼女こそが花国の救世主だったかもしれない』と言っていたそうだ。


 ユリエ嬢に逃げられた後、ヴィクトールは仕事にも就かず伯爵に支給される年金を早々に食いつぶし、雇った使用人たちに逃げられ、与えられた屋敷は売り払う事になった。

 第2王子が立太子された頃、借金苦でついに労働奴隷にされる事となった。

 トンネル工事の労働を強いられ、まさかかつての友人達と出会う事になるとは夢にも思わなかっただろう。一人だけ現場の作業指示者として来ていた事で羨ましがられた友人がいたとかいないとか。


 王子がめでたい結末を送ったのかは、彼の心の中次第である。

 本作はこれにて終了となります。

 テンプレな話の裏に実は隠し設定があり、こんな後日談があったという話です。

 書きたかったからやってみた。後悔はない、みたいなノリです。


 ちなみに、本作は『最凶ヒヨコ伝説』という別作品の未来の話になっております。


 ()()の話なので、本作はそちらの盛大なネタバレにもなっています。

 まだヒヨコなの?ビジュアル変わってね?フェルナント君のお守をまだしてたの?2部4章のあとがきにあった構想の先の話ってこれ?最終章早く書け!


 というヒヨコへの突込みが入りそうなので、そちらでは本作を宣伝してません。


 後でするかもしれませんが、シリーズとして入れているのでバレるのも時間の問題ですが。


 五話完結の短編です。

 ブックマークを付ける前に読み切れる為、面白いと思った方は積極的に評価を付けてくださると助かります。もちろん、つまらないと思っても評価を付けてくださる分には一向に構いませんよ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 弟二人のツッコミが的確すぎて…!! 確かにこのまま王位継いでたらとんでもないことになっていたので、早々に廃嫡されたことで国の未来が救われたましたな。 [一言] 面白かったです!!
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