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カノン  作者: リコ
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ユリュクスの雫



素材収集箱は、多くは魔力のある子供が産まれたその日に両親から送られる。

指輪やネックレス、時計等の装飾品の見た目の物が多く、初めて教えられる呪文で発動される。

僕の場合は、シンプルな腕時計で呪文はリスト。どちらも一般的な見た目と決まり文句だ。


発動された素材収集箱は、目の前に本として浮かび上がり、開いたページは立体化して、細かく仕切られた箱が現れる。そこに素材を収納していく。


ページと仕切りの数は最初からきまっていて、この世界の全ての素材が収納できるようになっている。

僕のような一般的な学生はせいぜい1ページが20区画あるとして、50ページ分でも埋まっていれば良い方だ。

全部で何ページあるのか、は最初のページにある目次を見れば誰にでも分かる。キリが良いんだか悪いんだか999ページ。

でも、最後のページにどんな素材が収まるのか知る人は少ない。

目次にはただ、希少素材とだけ記してあり、その全てを知ることは多くの研究者が探究し、とっくに匙を投げてる。

その筈なのに、何故か僕のリストの最終ページのひと区画には、禍々しい虹色の光を放つ脂の塊のような球体が収まっている。


僕がリストを発動させたのは、6歳の冬で、これは理由あって少し遅めだ。

12歳の春に初めて採集した希少素材はユリュクスの雫で、そして、その後は僕の意に反して次々と希少素材を採集することになる。




ミスティナでは、魔力のある子供達は12歳になる年に学園に送られる。

入園式は4月で、すぐに寮生活がスタートし、5年後の卒園式まで一歩も外へは出られない。

両親とまた会えるのは5年後で、魔法使いは17歳で成人する。

1人1部屋の個室は与えられるが、簡素なベットと机のみ、電子機器の持ち込みは携帯端末を1種類のみというまるで娯楽の無い生活を強いられ、魔力を持たないナチュラルの子供達が恨めしいという同級生の言葉が身に染みる環境だ。

そんな親元を離れ、慣れない生活に右往左往している新入生に全く喜ばれない新入生歓迎遠足での出来事が、僕の平凡な毎日を大きく揺るがした。



「あれがユリュクス。気持ち悪いでしょ」


やけに水面が光ると思えば、蛍だった。

隣で湖を指差している少女は、眉をしかめて言った。


「気持ち悪い…ですか?蛍が?」

「ホタル?あれはユリュクスだけど、光ってる虫なんて気持ち悪いよ」


せっかくの整った顔を歪めて、うげー、と舌を出している。年上の女性への、といっても14歳の少女だけど、幻想が打ち砕かれるのでやめてほしい。


「僕の国では、蛍っていう初夏の虫です。とても風流があって綺麗です」


ふぅん、と興味無さそうに言って、上級生の女の子は僕を見た。


「あれがホタルでもなんでも、あいつらの巣にある希少素材が欲しいの。協力して」


こちらに向けた目に威圧を感じる。上級生には逆らわない方が良さそうだけど、どうにも危険な予感がした。少し考えて、首を傾げた。


「その、僕に何か手伝えることがあるんでしょうか。まだ使える魔法も少ないですし」


入園したての、寮生活にも慣れてない、日常魔法も満足に覚えてない、ないない尽くしの12歳の平凡な男の子だ。


「正直1人でも行けるけど、虫はあんまり好きじゃないから」

「田舎出身なので、虫は平気な方ですけど、危険な虫ですか?毒があるとか」


彼女はにっこり微笑んだ。


「ぜーんぜん安全よ。フウリュウのある、ホタルってやつなんでしょ?」


笑顔が眩しいほど可愛いんだけど、全く信用できないまま、頷いた。




実は僕は、彼女の名前は知っていた。

2学年上の柘榴(ざくろ)

つやつやの黒髪のショートボブに、真っ白な肌、黒目がちの大きなひとえの瞳は繊細なまつ毛に飾られて白雪姫みたいな可愛いらしさなのに、クールで滅多に笑わない成績トップ。

世界中から思春期の子供達が集まる学園内でも、群を抜いて有名人だ。


そんな彼女が、新入生歓迎遠足の上級生補佐役に就いていたのは意外だったらしく、遠足前からかなり話題になっていて、彼女とバディを組んだ班はかなり羨ましがられた。

僕も嬉しかった。自由時間にふらふら歩いて行きついた湖のほとりで協力しろと笑顔で威圧されるまでは。


「見て。あの繁みにユリュクスが他より集まってる。あの奥に巣があるはず」


鬱蒼と繁る水草の奥を指差す柘榴を横目に、携帯端末でユリュクスを検索すると、気味の悪い幼虫と共にドクロマークが表示された。


「ちょっとこれ、猛毒ですよ。針に刺されたら麻痺するって…」


麻痺して動けないところを幼虫達が襲い、ゆっくり柔らかいところから肉を貪るらしい。

巣の中で意識があるうちに虫に食われる姿を想像し、身震いした。

こんなのがうじゃうじゃいる巣なんて、絶対に入りたくない。


「さぁ、行くよ。それっ」


そっとその場を離れようとしたぼくの腕を掴み、いつの間に右手に持った杖を振って直線状に強風を起こした。

繁みは綺麗に両側に倒れ、露わになった土壁に大きな穴が空いている。


「攻撃呪文を唱和無しで打てるって、すごいですね」

「攻撃呪文こそ無唱で打てないと意味ないじゃない」


冗談かと思って柘榴を見たが、特に何の反応もなく、当たり前のように僕の手をひいて進んでいく。


そんなサバイバルな日常を僕は知らない。



柘榴の使った魔法で、集まっていたユリュクスは吹き飛んでいた。

ぽっかり空いた土壁の穴の中は、僕らが中腰になれば進める大きさで、水草や苔がとことどころ突き出し、じめじめと湿っていて嫌な感じがした。

前を行く柘榴は制服にマントの姿だったので、マントは半分ぐらい泥水で汚れている。

もちろん僕のマントもブーツも同じ状態で、新品のそれらの姿が悲しい。


「あの、ユリュクスってだいぶ危険な虫みたいなんですけど、学園ってそんな難しい課題が出されるですか」


掻き立てられる不安を散らしたくて、気になったことを聞いてみた。

一年生の素材回収の授業はまだ簡単な身の回りの素材を収集するだけだ。

たった2年後に希少素材の収集ができるレベルになるものなのか。


「学園は責任とれないような危険な課題は出さないよ。むしろバレたら内申減点されるんじゃない」

「課題じゃないんですか?なら、何で希少素材なんて必要なんですか」


この先、なぜか無関係な僕まで命を掛けて収集する素材の使い道は知っておきたい。


「何でって、素材回収箱に収集するためよ」


当たり前のような顔で、いや、ちょっと馬鹿にしたような顔で柘榴は言った。


「そうですか。先輩は素材コレクターなんですね」


確かに、コレクターなら希少素材の情報を知れば危険な場所でも収集へ向かうだろう。

僕が1人納得していると、柘榴がこちらへ振り返った。


「…新入生、名前は?」

(しずく)です。偶然いまから収集する素材と同じ名前です。幸先良いと信じたいですね」


力なく笑って見せると、柘榴は何故か眉を下げた。


「変な子」


大声で反論したい。こっちのセリフです。




前髪の上を水滴が滑り落ちた。ぽつ、ぽつと2回。

見上げようと頭を傾けたその途端、


「下向いて!」


頭上に放たれた魔力がバチッと音を立てて何かを焦がした。

目の前に黒焦げのユリュクスの幼虫が落ちる。


「うわ、これは予想を超える気持ち悪さ…」


小指程の幼虫の集合体は、ひだのような足が何十本も生えた個体がもつれ合い、尻尾と思われる先端の蛍光色に小さな棘がある。

刺されていたらと思うと、ゾッとする。

柘榴は転がったそれらを見下ろし、ふんと鼻を鳴らした。


「ユリュクスの雫は巣のいちばん奥に守られてるの。こいつらがうじゃうじゃいる。虫は平気なんでしょ?」


頼りにしてるね、とまた嘘くさい笑顔を向けられた。打算と分かっているのに可愛くて直視できない威力が凄まじい。


「僕の田舎にこんな危険な虫はいませんよ」


都会は怖いです、と続けた僕を無視して、どんどん奥へ進んでいく。


ぽつ、ぽつ、と落ちる水滴は増えていく。


「前だけ見て進んで。目を見ると攻撃してくる」


頭上に確かな気配を感じながら進む。背後でベチャっと地面に幼虫が落ちる音と僕らの足音が響く。

中腰で走れないのに、自然と足は疾く動く。奥へ進むほど暗闇は深くなり、魔法で灯りを出すか聞こうとした時だった。


「着いたよ」


突然空間が開き、苔蒸した地面に真っ直ぐ立っていた。後ろにさっきまであったはずの泥道はない。


「魔力が満ちてる。ここがユリュクスの巣よ」

「なんだか、不思議な場所ですね」


天井は丸く、星空に見えるのはたぶんユリュクスの成虫がゆったり飛んでいる。

光はそれだけの筈なのに全体がぼんやりと明るく、地面はところどころ突き出ている岩以外は苔が茂り、目の前の石段と相まって荘厳な雰囲気だった。


「あの階段、先が見えません。そんなに先まで空間が続くようには思えないのに」


途中から星空に溶けるように階段が消えている。ぼんやりと引き寄せられるようにそちらへ進むと、柘榴に手を引かれた。


「この湖の名前をしってる?」

「なんですか急に。魔神の湖ですよね。歓迎遠足の案内に書いてありました」

「そう。魔神の名前はユリュクス」

「ユリュクスが?確かに危険ですけど、虫ですよね」


首を傾げて柘榴を見る。

柘榴は階段の先をじっと見つめて、片手に杖を構えていた。


「あれはまだ幼虫。何万年生きてるボスが、あの奥にいる」


「何万年…」


「さっき幼虫を攻撃したから気付かれてる。相手は魔神で知能もある。気を付けて」


「知能がある?」


全然話が違うんですけど。

話している内に、前方からちりん、と音がしてそれはどんどん多く、大きな音となり、何か巨大なものが近付く気配に脚が震えた。


「先輩、僕は魔神は平気じゃないです」


柘榴はうふふ、と笑って杖を振った。



柘榴の白い指が、ふわりと宙に円を描いたのは覚えている。

杖も使わず、呪文も唱えず次々と強力な魔法を繰り出し、魔神から逃げて進んでいく。


「魔神には絶対に攻撃しないで。まともにやったら勝てない」


ここでの勝てない、はすなわち死だ。

授業やゲームじゃなく、僕は全く興味のない希少素材の為にいないをかけていた。


僕は恐怖に駆られて、この時の記憶はほとんどない。

魔神、と呼ばれる直視できないほどの魔力の塊に弄ばれていて、うじゃうじゃと行手を阻む幼虫を踏み潰す感覚、柘榴の放つ魔法の光。


自分の呼吸の音がうるさく響いて、辺りが静かになったことに気付いた時には、もう遅かった。



        *    *    *



「お前ら学生だろ。こんだけ人の家を荒らして、何のつもりだよ」


目の前で小さな男の子が泣いていた。

真っ白な髪に、金色の瞳をうるうるさせて、母性本能を擽ることしかない姿のその子の頭が容赦なく叩かれた。


「いてっ!なんだよおまえ、」

「うるさい。早くユリュクスの雫を出せって言ってんのよ」

「ぜったいに嫌…っいたい!」


今度は泥だらけのブーツでガシガシ蹴り付けている。

意識が戻ったとたん、最悪の絵面だ。


「ちょっと、先輩、やめてください。小さい子に暴力なんて」

「そうだ、やめろ!こんな可愛い子供の俺様に何するんだ」

「何万年も生きてる魔神のくせに恥ずかしくないの?」


蔑みに満ちた目で見られて、子供は一層瞳を潤ませ、こちらを見た。


「おい、おまえ!ひどいぞ!勝手に家に入ってきて、荒らして、こんな可愛い俺様をボコボコだ!」

「あ…はい。酷いですよね、やっぱり」


泣きじゃくる子供に正論をぶつけられる。

この子が魔神でも、言ってることは真っ当だ。


「おじゃまします、ってノックして入れてくれて希少素材くれんの?あんただって殺す気で攻撃してきたくせに」


「ここまでされるって知ってたらさっさと渡したわ!ほら、これ持ってさっさと出ていけよ!」


ぽいっと黒い塊が投げられる。ゴミのように足元に落ちたそれを見て、思わず顔をしかめた。


「うわぁ、禍々しい色ですね。これがユリュクスの雫ですか」


それに、ほんとにこの子供が魔神なんだ。

6歳ぐらいの幼児にしか見えない。

僕の視線に気付いた魔神が、なんだよ、と睨んでくる。


「くそ、寝起きじゃなきゃお前らなんか敵じゃないのに。100年ぶりに目が覚めたらこのザマだ。悪夢じゃないか?」


「アルマンディン」


ぶつぶつ言っている魔神を無視して、柘榴は素材収集箱を発動させた。

右手の指輪の赤い宝石から出てきた本のページをめくり、ユリュクスの雫へ手を伸ばす。


「…何ぼーっと見てんのよ。あんたも早く収集して」


「え!僕も貰っていいんですか」


何故か両手足に力が入らず、座り込んだままの僕を、柘榴は真顔で見つめた。


「当たり前でしょ。手伝ってくれたんだから」


美人に真っ直ぐ見つめられると、いたたまれない。耳が心なしか熱い気がする。


「あ、ありがとうございます。全然役に立ってないと思いますが。では、お言葉に甘えて」


僕がそう言ってリストを発動すると、魔神は不思議そうにこちらを見た。図々しいと思われただろうか。

しかし、希少素材はその名の通り希少だ。

生きてる間に1つでも収集できる人間は数えられる程しかいない。ぜひ、頂きたい。


柘榴の隣で、ユリュクスの雫に手をかざして収集する。


「おれの子供たちが…」


この禍々しい球体はユリュクスの幼虫の卵らしい。ボックスの中で永遠に生き続けることをせめて願おう。


「大事にしますね」





柘榴は心なしか輝いた目でボックスを見つめていて、僕はやっと一息ついて、周りを見回した。

気を失っていた間にどんな壮絶な戦いがあったのか、辺りは酷い様子、というか無だった。

岩場すら削られた平地に、よろけたようにユリュクスがところどころ浮かび上がり、石段も破壊されていた。


「ユリュクスの魔神さん、なんですよね?ずっと1人でここに?」


まだシクシク泣いている魔神に声をかけた。


「1人じゃねぇよ。子供達がいる。100年ぶりに目覚めたらお前らがいたけどな。」


やってること強盗と同じだからな、と潤んだ目で睨まれ。誠に申し訳ない。


「今回はたまたま俺が不意を突かれただけだ。他の希少素材を守る奴らはお前らなんかにやられないぞ」

「希少素材ってやっぱり貴方ぐらい強い魔神が守ってるんですか?」

「通常時の俺様ほどじゃないが、まぁそうだな」


ふふん、と得意げに鼻を鳴らした魔人にいつの間にこちらを見ていた柘榴が言った。


「他の希少素材がどこで誰に守られているか、強い魔人様には分かるんだ」


柔らかい声に、驚いて振り返る。これは、打算があるときの柘榴の微笑みだった。


「まぁな。俺様クラスになると、そのぐらいは当然把握してある」

「あの、ちょっと魔人さん。そういうことはあまり人に喋るのは…」

「すごぉい。ちなみに、ここから一番近い希少素材がある場所ってどこなんですか?」


猫撫で声の割にギラギラした目に、魔神は気付かない。柘榴は自分の魅力を熟知した仕草で首を傾げて、魔神へ近付いた。

魔神はきょとん、として柘榴を見つめた。


「どこって、ほとんどだろ。希少素材は学園にいる間にしか手に入らない」


常識だろ、と続ける魔人に、柘榴は微笑んだまま頷く。


「…やっぱりそうなのね。」


14歳で、泥だらけの姿で、こんなにも妖艶な雰囲気を纏えるものだろうか?しなやかな指で、優しく魔人の前髪を払う柘榴は、この空間も相まって何だかこの世のものに思えない。


「な、何だよ。素材を渡したんだから早く出てけよ」

「ユリュクスの魔神は、この学園内では最強の魔力を持つと言われてるけど、それって本当なのかしら」


微笑んだまま、かなり近い距離で訊ねてくる柘榴に、魔神はふん、と鼻を鳴らした。


「当たり前だ。まず、ここの誰よりも永く生きている。魔力というのは元々の素質はもちろんだか、歳を重ねるほど重厚に強大になる」

「そうね。貴方は素質が高い上に、途方もない時を生きてる。でもその代償として、多くの眠りを必要とするわよね」


魔神の目がすっと細められた。


「…お前、何故それを知っている?」


さっきまで目を潤ませていた小さな子供から錯覚かと疑う鋭い威圧が放たれる。それをものともせず、柘榴はにっこり微笑んだ。


「ふぅん。やっぱりそうなんだ」


納得したように頷きながら立ち上がり、きっぱりとした口調で魔神に言い放つ。


「その秘密、バラされたくなかったら私に協力して」


「…は?」


あまりにも堂々と脅迫してくる柘榴を、魔神は呆気に取られて見つめていた。


「いくら貴方が強くても、眠る度に攻撃を受けたら鬱陶しいでしょう。最強の魔神で居たいなら、私の素材集めを手伝って」

「手伝う?この俺様が人間を?」


威圧も吹っ飛ぶ程面食らっている魔神を尻目に、柘榴は見るからにご機嫌で頷いた。


「先輩、それはユリュクスの魔神に希少素材の場所を教えろ、ということですか?」

「教えるだけじゃなく、収集を手伝えって言ってるの」


何言ってんのこいつ、という目で睨まれる。


「いやー…流石にそれは、ねぇ?魔神さん」


人間に手を貸す魔神なんて聞いたことがない。

まず、ユリュクスの湖を守る魔神が、ここから離れる話も聞いたことがない。


「俺様は人間には関わらない。お前らは助けてやってもすぐ死ぬし、腹の底では何を考えているか分からないから好きじゃない」

「あ、そういうメンタル的な問題…」

「私は腹黒じゃない。もともと欲望の為なら汚い手を厭わないし隠さない」


堂々と汚い手を使う人間です。と言い放つ目の前の眩しいほど綺麗な人は、どうしてこんなに自信に溢れた目をしているのか。凡人の僕には理解できない。


「お前はさっき俺をボコボコにしたから嫌いだ」


「貴方が私に協力する仲間になったら、私は貴方を決して殴らない」

「…仲間?」


きらきらした目で、魔神が柘榴を見つめる。

やばい、この子魔人のくせにびっくりする程純粋だ。


「そう、一緒に希少素材を集める冒険をする仲間だから。大事にする」

「冒険…」


瞳の輝きが溢れ落ちそうな魔神は確実に柘榴に口説き落とされている。

僕は、僕と同じ過ちを犯して命の危機を迎える人を見て見ぬふりはできなかった。


「魔神さん!貴方はこの湖を守る仕事がありますよね?ここから離れることはできないでしょう」

「いや、ずっとここに居るが、そもそも襲われることは少ない。少し離れるぐらいなら大丈夫だろう」

「この人はさっきは脅迫してきたんですよ!信用して良いんで…」


ここで僕の口は攻撃魔法で塞がれた。

殺されるんじゃないかという目つきで睨まれながら。


そして柘榴は、殊更大きな声と、眩しいほどの笑顔で魔神に手を伸ばした。


「さぁ!ユリュクスの魔神よ、その強大な魔力で希少素材への道を切り開き、進むのよ。私たち3人の仲間が揃えば必ず素材コンプリートの夢は達成されるわ」



自分の欲望を宣言しただけの柘榴を眩しそうに見つめる魔神に同情しながら、3人って誰のこと?と不安に襲われた僕は、そっと目を閉じて思考を放棄した。




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