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狐彪の短編

オフ会

作者: 狐彪

別サイトの上げていたお話です。


リンク→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17493747





「……」

 ざわざわと蠢く。

 都会の喧騒はこんなにもなのかと。田舎で生まれ育った私は、その恐ろしさに圧倒されていた。

 もう二度と来たくない―と心の中で誓いながら、でもまた会う機会があれば来てもいいかもしれないと、すぐに前言撤回している。

「……」

 分かりやすい目印になる所で会おうと、ここらでは有名な待ち合わせスポットに、1人。

 所在なさげにきょろきょろと周囲を見渡す。

 ―らしい人は居ないが、まだ来ていないのだろうか。

「……」

 待ち合わせ。

 そう、こんな田舎者が、都会のこんな人混みの中。きょろきょろとしているのは、人と会う約束があるからである。

 と言っても、その相手は、知り合いとか友達とか親戚とかではない。赤の他人である。

 ―いや、知り合いといえばそうなのだろうか。

 赤の他人ではある。

 顔も知らない。本名も知らない。

 知っているのは、ハンドルネームと共通の趣味があるということと、声がいいという事。

「……」

 つまりは、SNSでたまたま知り合い→共通の趣味で意気投合→某チャットツールで通話をするようになった―赤の他人。

 その、赤の他人との、待ち合わせ。

 気持ち的には、オフ会のようなもの、と思っている。

「……」

 いつだったか、一度会って話してみたいですよね~という会話になり。そういえば、今度リアルイベントがあるんだという話が持ち上がり。せっかくだから、一緒に行きませんかという話になり。ついでに色々お話しませんか、ということになり。

 今まで、こうゆう風にSNSで知り合った人間と会ったことがないものだから、よくわからないのだが、コレはオフ会と銘打ってもいいモノなのだろうか。あまりあれの基準がよく分からない…。

 しかしまぁ。共通の趣味の延長で会いに行くようなものだから…オフ会ということに。

「……」

 そして、今日。

 今。

 待ち合わせ時間は、あと10分後という所。―少々早く来すぎたかもしれない。時間まで大人しく待つことにした。


 :


 それから、15分後。

 もちろん、約束の時間は過ぎている。

「……?」

 さすがにおかしくないだろうか。

 相手が大人なのか子供なのか、年上なのか年下なのかは知らないが。それでも良識ある人間であれば、時間に余裕をもって現れるものと思っていたが。何分たっても来る気配すらなかった。

「……」

 もしや、私が時間を間違えているのかと思い、過去のやり取りを見返すが、時間に相違はない。もう既に10分近く過ぎようとしている。

 何かがあれば連絡しますとも、してくださいとも、言われている。だから、何かしらあれば連絡が来るだろうと、楽観的に考えていたのがよろしくなかったのだろうか。

 しかし、今朝まで普通に連絡を取っていたのだが…その後に何かのっぴきならない事でも起きたのだろうか。

「……」

 よく見れば、私が送信した『到着しました』というメッセージを、確認している形跡がない。

 んん。あまり、こういう約束事を疎かにするような人には思えていなかったのだが。所詮は赤の他人なので、知ったようなことは言えないが。

 過去にも、約束をしていて、何かがあれば事前に連絡してきていた人だ。そんな人が、今日に限って、連絡もなしとか、そんなことあるのだろうか…。

「……」

 こういう時に、何もアクションがないのは、非常にこたえる。不安が胸中に巻き起こる。

 何かに巻き込まれているのかとか、連絡すら取れない状況に追いやられているのかとか。

 嫌な予感―しかしそれと同時になぜか寒気を覚えた。

 なにかよくわからないモノと対峙しているような…。


 ブブブブ―


「!?」


 途端、スマホが震える。ポップアップされた表示を見れば、待ち合わせの相手から。

 やはり、何かに巻き込まれたのだろうか。焦りと、嫌な、予感。

 ―なぜか鳴り響く警報。

「――、、~~~、~―、、、」

 通話申請に許可を下ろし、耳に当てる。

 しかし、聞こえてきたのは、あの声ではなく、雑音。

「もしもし…?」

 声を掛けてみる。返事は来ない。代わりにザーザーという雑音が返ってくる。

 ―いまだ止まない警報。

「あの―」


 プつ―


 突然、一方的に切られた。何が何やら分からぬままに、茫然と立ち尽くす。

 やはり、あの人に何かあったのかもしれないという焦燥感が私を襲う。

 ―先ほどより大きくなる警報。

「……あれ?」

 何かあったのだと判断し、もう一度、今度はこちらから接触をと思い、通話ツールを立ち上げる。

 しかし、いくら下にスライドしても、その名前が出てこない。

 そも、それなりにやり取りをしているのだから、一番上に来るようにしていたはずだ。それがない時点で、気づく。

「どういうこと…?」

 この状況になって、ブロックでもされたのか?連絡先を消された?

 実は近くに来ていて、想像とは違う人間が居たから、会いたくなくなったのか?

 それは別に構わないのだが、それならそれなりに適当にごまかせばいいものを。

 なぜ、アカウントごと、連絡先ごと、消失している?


「……?」


 いや、そもそも。

 私は、なぜ、こんなところに来ている?

 人と会うためと言ったって、もう少し場所の選びようはあったろうに。

 リアルイベントがあるなら、その会場集合にした方が、正確性が格段に上がる。

「……」

 違う。

 そも、この、この人、とは

 ―誰だ。

 この赤の他人は、だれだ。

 知らない、こんな人。

 オフ会―?

 なんだそれは。

 そんなことする相手も、する意味もない。

 ―だって、私は。

「……」


 私は、誰と会おうとしていた。

 何と、遭遇しようとしていたのだ。


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