第2話
翌日の夕方。
私は、ある二人にスマホで連絡して、自宅に来てもらった。
やって来た二人、藤田博士と浅見不二子が来てくれた。
2人と知り合ったのは、通っている塾で出会った。話していると中々に気が合い、ハッカーであることもうっかりしゃべったが、2人は何かを期待したのかように受け入れてくれた。それからは、ハッキングした内容を言っては色々と妄想して楽しむ悪友みたいな感じで接してきた。
そんな2人に事情を話すと。博士は。
「それは興味深い。五感全てを味わえるシュミレーションゲーム。アニメの世界だけかと思ったが実在するとは、どのような仕組みで、どんな世界か。そして、その者は何を企んでいる?これだけの技術を世間に出さないとは、やましいことでもあるのか?それとも、とんでもない野望を持っているのか?・・・」
ブツブツ言いながら、己の妄想に入る博士。
深く考えることが大好きで、特に国家転覆とか世界危機とか、物騒な事を考えてはそれを解決した時の達成感と高揚感に酔いしれている自分を想像し、にへら笑いをする。一方、不二子は。
「全てが体感できるゲーム。ってことは、痛みを感じるという事ね。・・どんな事がおきるのかしら、もしかして、敵に捕まって、あんな事やこんな事、いっぱいされるとか、でもでも、拷問系とも考えられるはね。現実では起こっていないことだし、そしたら、私は。・・・・ああ!!!」
と変な想像をして、身をくねらせる不二子。
分かると思うが、重度のマゾで、よくエロゲーのこんなシーンを味わいたいと、私と博士におねだりをしてくる。さすがにそれはやりたくないので断ってきた。しかし、このゲームなら彼女の願いが叶うことは間違いない。少なくとも敵のダメージによる痛みで。
2人はすんなりと受け入れ、早速ヘルメット作成を開始した。
それから、五日後。
ヘルメット二人分が完成。3人装着して、早速パソコンを開いた。あの後、どうやって知ったのかメールボックスに例の人物からのアドレスがきた。そのアドレスであの世界にいつでも入れる。
私は、アドレスを開き、画面に`スタート`と表示したボタンを押した。
その瞬間、目の前が暗くなり、段々と光が大きくなっていった。
気がつくと、前にいた草原では無く、目の前にデカい施設が建っていた。周囲を見ると、二人は背後にいてすごく喜んでいた。感触を確かめ、走り回ったり、この世界を体感していた。
そうしていると、建物の扉から画面が映し出された。3人は画面を見た。そこには、フードをかぶった人物が写っていた。あの時の人物だと私が思っていると。
「ようこそ、我が世界に、待っていたよ。君たちがいつでも来れるように準備はしていた。・・さて、オープンワールドにしようかと思っていたが、時間が掛かるから短編的なストーリーを作ってみた。君たちにとっては不本意かもしれないが、この世界で遊びたいのなら、こちらの指示には従ってもらう。いいかねぁ?」
その言葉に、3人は頷いた。
元々この世界は、あの人物が作った物。こちらは無断で侵入した。ならば、指示を出すのがあちらなのは当然。そう考えたのである。人物は。
「よろしい。では説明する。この施設はある破壊兵器を作っている。君たちはその兵器を破壊するために来た潜入工作員。もちろん、この中にはあらゆる罠と敵がいる。装備は現地調達だが、服装だけはこちらで用意した。さすがに一般の格好では雰囲気が出ない。スパイ用に様々な服があるどれでも好きな物を選んでくれ。スタートは、扉の下にある排水口から。それと、最後に、罠に掛かったり、敵にダメージを負ったりして、HPが0になった場合。退出することは無い。但し、その場から消えて、拷問部屋に強制転移。そこで何をされるのか。想像に任せる。助け出すこともできるので、ずっとというわけでは無い。そこだけは安心してくれ。最後にゲームクリアの報酬としていつでもこの世界で遊べるように無料のフリーゲームとして配信する。今度はオープンワールドとして。では幸運を祈る。」
そう言って画面が消えた。
目の前にボックスが3つある。開けると色々なスパイ服がある。色は全部黒。種類は様々。その中で私は、兵士がよく着る戦闘服を選んだ。ボディアーマーを装着。動きやすさを重点にした。博士は、ビジネススーツを着ていた。確かにあるが、なぜと思い聞いてみた。
「こっちの方が着慣れているから。それに、兵器の破壊だからな、弱点とか調べるために変装して、情報収集した方が良いだろう。力任せは苦手だ。・・そうだ、せっかくだからコードネームで呼ばないか、俺は`ドクター`ってのはどうだ。意味は違うが、この際、細かいことは気にしない。そっちは?」
何か話を進めているが、コードネームは悪くない。私は。
「そうだな、`ウルフ`にしよう。カッコいいし、・・・不二子は、どうだ?」
そう言って不二子に振り向いた時、興奮した。
全身をラバースーツ、ボディアーマーも薄い。元々、スタイルがよく、胸もCカップあったのでそのエロさはすごかった。何よりも注目したのは、首輪を付けていた。私は、それはと聞いてみた。不二子は。
「この首輪?こんな体験は絶対に味わえないから思い切って装備したの。それに、負けた時の事を考えるとすごくゾクゾクしちゃって。だから、私の役目は敵の注意を引きつける囮役。コードネームは`キャット`捕まった時は、私のことは気にせずにクリアしてもいいわよ。私は私で楽しむから。」
そう言ってにへら笑いをする不二子。
私と博士は、`おう`と引き気味で返事した。準備完了、排水口に潜入した。
中に入ると、研究施設と呼ぶべきコンテナや物資が置いていた。私は。
「それじゃ、手分けして捜査するか。各々がやれる方法でクリアしよう。何かあれば無線で知らせる。いいか?」
その言葉に頷く二人。では、ミッションスタート。
不二子もとい、キャットは。
囮役と言ったが、派手に立ち回らず、ヒントとなるべきものを探し、それをウルフに伝える。その過程で敵と戦闘した場合、できるだけ応戦し、目立って行動。素晴らしいアイデアと何かを期待して行動した。
そして、とある部屋に入った。そこには拳銃があった。扱いやすい拳銃だ、そう思い装着。周囲を見ると、別の箱を発見、資料があった。内容は破壊兵器の注意事項と書かれていた。これは重要だと思い、ウルフに連絡した。
「こちら、キャット。ウルフ並びにドクター聞こえる?」
無線から二つの返事が聞こえ、続けた。
「ある部屋で、資料を見つけた。内容は、兵器に関する注意事項。何でも兵器の装甲は厚くどの火器でも通用しない。胸の部分にアンテナがあり、音波による索敵を可能にしている。この資料はここまで、役に立てた?」
その質問にドクターは。
「十分だ。後はコンピュータールームに潜入して、詳しい情報を引き出す。キャットはそのまま行動してくれ。ウルフは?」
「こちらは、兵器格納庫にいるが、人間サイズだけだ。いろんな物があるから持てるだけ持って行く。」
3人の情報共有が終わり、キャットは行動を再開した。
資料を持って行こうとしたら、箱の中が赤い点滅をしていた。彼女はそれを見て、罠?! と焦りと同時に期待を抱いていた。
彼女は直ぐに部屋から出ると近くの通路から足音が複数、近付いてきた。直ぐにそこから離れ、角を曲がりに曲がった。がそこは行き止まり扉も無く、あるのは身を隠せる蓋のない箱が一つ。足音がどんどん近付き、彼女はここまでかと思いつつ、囮役としての責務を全うすることにした。箱の影に隠れ、拳銃を手に取った。そして、敵が姿を現すと同時に発砲。一人に命中。そこからは銃撃戦となった。
一方、ウルフは。
兵器格納庫で、あらゆる火器を持って行った。デザートイーグル、対戦者ライフル、ロケットランチャー、手榴弾、サブマシンガン。それらをポケットに入れるとすっと入っていった。手を目の前でスワイプすると画面が現れ、持っていいる火器と弾数が表示された。準備は完了。
後は、ドクターからの連絡待ち。ドクターと別れる前、コンピュータールームに潜入後、兵器の情報と場所を特定するから、体力は温存しておいてくれ。と念押しされた。目的はゲームクリアして、この世界をこれから先も楽しむこと。ゲームオーバーはゴメンだ。と思っていると無線が入った。
「こちら、ドクター。ウルフ聞こえるか?」
無線機からドクターからの通信。ウルフは答えた。
「今、コンピュータールームに潜入。情報を収集中だが、兵器がある場所は、施設の奥にある実験場に置いてある。その扉はロックされているが、ここから操作して扉を開ける。ウルフはそのまま、奥に向かってくれ。キャット、聞こえるか?」
その時、無線から。
「プレイヤー1人、拷問部屋にいます。」
というアナウンスが聞こえた。それを聞いたウルフは。
「・・・仕方ない。俺はこのまま奥に行く。キャットには、楽しんでいてもらうか?」
その答えにドクターは同意し、そのまま移動した。
一方、キャットは気絶していた。
虚ろな目で自分が何をしていたの思い出していた。確か、罠に掛かって、行き止まりで敵と交戦して、弾切れになった時、敵の銃弾で蜂の巣にされて、それから・・・そう思って動こうとしたが、体が動かなかった。手が拘束されているのに気付いてすぐに我に返った。
自分の状況を確認した。手足は拘束され、大の字に磔にされていた。服はスパイスーツのまま、拘束台は傾いており、扉と何かの装置が見えた。キャットはこの光景を見て、内心かなり興奮していた、ようやく願いが叶ったと、どんなことをされるのか胸の高鳴りが収まらなかった。そして、扉が開き、科学者の格好をした女が現れた。見た目は美人でスレンダー、眼鏡をかけており妖艶な雰囲気を出していた。女は。
「初めまして、侵入者さん。私はあなたの拷問係よ。名前は、そうねぇ、サキって呼んで、早速だけど、あなたを拷問するわ。何か言うことある?」
そう言って、キャットの顎を撫でるサキ、キャットは。
「な、何も無いわよ。言っておくけど、私は屈しないから。」
そう言って睨むキャット。
内心はどんなことされるのか期待して、そして、サキは装置の前に立ち。
「では、これからある特殊な電波を流すわね。この電波は相手の痛覚に反応して激しい痛みを与えるわ。何度も、休憩はなし。我慢できなくなったら、許してください。と叫ぶのよ。そしたらやめてあげる。後はそのまま牢屋送りで何もしないわ。」
そう説明してきた。
キャットは、絶対に言わないと闘志を燃やしていた。このまま、拷問を味わい続けるわと覚悟を決めて。サキは装置を起動した。
「!!きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
体に走る激痛。
そこから本能的に出ようとしたが体が拘束されていて、離れられなかった。拘束台で身を激しくよじるしか無かった。装置は止まり、荒い呼吸をした。サキは。
「よく耐えたわね。それじゃぁ、次、いってみよう。」
そう言って装置を起動。キャットは悲鳴を上げ、身をよじっていた。
しばらくして装置が止まり、キャットは、痛みを感じながら喜んでいた。これこそが望んでいたもの、もっと味わっていたい。そう思いながら、装置は起動し、悲鳴が上がった。
一方、キャットが楽しんでいる中、ウルフは。
例の破壊兵器がある実験場の扉前にいた。あれから、罠である赤外線や落とし穴を回避し、敵を見つけては無駄な戦闘せずに、無音で回避した。そんな危機を乗り越えてここまでやって来た。ウルフは無線機でドクターに伝えた。
「こちらウルフ、実験場前に到達。扉のロックはどうだ?。」
「こちらドクター、扉のセキュリティは今、解除に成功。扉はいつでも開く。あと、兵器の弱点について調べていたが、キャットが言っていた胸の部分にあるアンテナが弱点だ。そこをロケットランチャーで攻撃しつづければ、機能不全になって兵器撃破に成功。ゲームクリアだ。」
その吉報を聞いた瞬間、無線越しから警報が鳴り響いた。
「!!どうやら見つかったようだ。俺はここまでだ。後は、頼む。」
そう言って無線が切れた。ウルフは目を閉じ、二人を思いながら扉を開けた。
一方、ドクターは。敵に囲まれていた。
持っている武器は無く、両手を挙げて降参していた。敵兵の中からフードをかぶった男が現れた。男は、ドクターに。
「ようこそ、私の世界に。長話は好きでは無いが、何か疑問に思うことがあるのなら答えてもいい?」
そう言ってきたのでドクターは。
「それじゃ。質問があります。なぜ、このゲームを世に出さないのですか?これだけリアルなゲーム。どの会社からも売ってくれ言われること間違いなし。なのに、そんなことをせずに、それどころか俺たちを呼んで、何を企んでいるのですか?」
その疑問に男は。
「ふむ、その辺りに気付くとは。中々の洞察力だ。いいだろう。教えてやる。私の目的はある体験をすることだ。・・・・・人殺し体験をな。」
「!!人殺し体験?! なぜそんなことを?」
「君は、この世にある体験学習を全て知っているかね? 色々ある。外国では日本にはない体験学習もある。だが一つだけ、どこにも無い体験がある。それが人殺しだ。世の中では人殺しはよくないと言いながら、人を殺す者達が多い。ならば、人殺しをすればどんな気持ちになるのか、そう言う体験学習があってもおかしくない。やるのは、死刑囚を使えばいい。なのに、そんな体験学習は無い。ならば、この世界を作り、私が人殺しをし、どんな気持ちになるのか、確かめようと思ったが。NPCを殺しても何も感じない。本物の人間で無いとダメだと考え、諦めていた頃、彼が私のパソコンにハッキングしたのを知って、これは使えると思った。人数を呼んだのもその為だ、3人の方が、体験しやすいからだ。所が、一人は拷問部屋で、痛い思いをしながらなぜか楽しんでいる。あの子はダメだ。だから、君で体験することにした。」
「だが、いくら本物で体験してもここはゲームの世界、本当に死ぬわけが無い。それでは意味が無いんじゃ無いですか?」
「その点は、解決済みだ。私自身に自己暗示をかけ、ここが現実だと思い込む。私が君を殺すのも、仕事として殺す。そういう設定でな。さて、話は終わりだ。そろそろ体験させてもらうか。」
そう言って、男の周りに光の粒子が集まり、回り出した。そして、それが消えると男は。
「悪いな、侵入者。これも仕事だ。」
そう言って、ドクターに銃を向け、発砲した。
彼の体は倒れ、血が流れていた。絶命である。男は、その光景を見た後。自己暗示が解けた。すぐに自分の心拍数を調べた。そして、暗示に掛かった時、人を殺した心拍数を見たが、何も変わることは無かった。確かに、男は、ここは現実で、自分は人殺しは初めてと思い込んでそれでも仕事だからと人を殺した。その時の気分は何だったかというと、何も感じなかった。虫を殺すみたいで、何も感じなかった。男は。
「人を殺せば、何か感じると思ったが、こんなものか。これで刑務所で何十年も過ごすとなると馬鹿馬鹿しい。」
そう思い、男は部屋を出た。
最後に、あのハッカーとの戦いをするために。