第1話
この世に存在するあらゆる体験ツアー。
農業、工場、建築等、いろんな物があり。外国では、刑務所に入ればどうなるかという体験学習もある。
あなたは、あらゆる体験をしたと胸を張れますか?
私は、海嶋 郷司、高校2年生。
パソコンが得意で、操作は勿論、修理や改良もしており、今使っているパソコンは、従来の物より性能もよく記憶容量が多く、待ち時間もなくスムーズに動く私の自信作。
これを使って、私はよくある事をしている。
それは、ハッキングだ。
人のパソコンに侵入し、あらゆるデータを見て楽しむ。そんな趣味に、今は没頭している。ちなみに、両親は、共働きで、父はIT企業のプログラマー、母は通販業の窓口。 二人とも遅くまで仕事しており、日によっては帰ってくる事もなかった。
私は、そんな両親に寂しさを感じた時期もあったが、今では、ハッキングするのにちょうどいいと考えている。
今日も夜、他人のパソコンにハッキングをしていた。
今度の相手は、中々のプロテクトだ。腕が鳴る。 時間にして、10分。ついにプロテクトを突破。
パソコン内を見ると、機械工学の資料や医学の資料、人間心理の資料。ずいぶんとジャンルが違う物を集めているなぁと思った。頭がいいのか悪いのか。悩んでしまう資料の数々、その中である資料を見つけた。
ダイブバーチャルシステム。人間の五感をゲームにリンクし、視覚、嗅覚、聴覚、味覚、痛覚。といった人間が感じる当たり前の感覚をゲーム内で体感するシステム。
つまり、フルVRみたいな物か。この資料を見ると、その為のシステムとゲームコントローラーと呼ぶべきヘルメットは完成している。しかし、ニュース欄を見てみるとそんな告知はない、ここまで完成しているのならテストプレイヤーの募集ぐらいはするだろうに。空想の資料か、と思いやめようと画面を閉じようと仕草をしたが、・・・気になる、見た限りでは、完成度は高い。細かな作り方も完璧。私は、好奇心に駆られた。
それから、3日後。
私は、資料をコピーし、ヘルメットを完成。材料は電気店や工具店で簡単に手に入る。作りも見た目は高度そうだが、中身はそれほど難しくなく、資料見ながら楽に作れた。
ヘルメットをコンセントに差し、電源を入れた。ランプは正常に点き、頭に装着。しっくりときて、痛みも無し。さて、私は、相手のパソコンに再びハッキングした。 ダイブするシステムは、相手のパソコンしか入っておらず、自分で作成には難しすぎる。そう思い、ハッキングに成功。例のシステム欄で`起動`のボタンを押した。
その時、頭に電気が奔り、気を失った。
気が付くと見知らぬ草原を目にした。あたりは草しか生えておらず、触ってみると草を引きちぎる感触、匂いを嗅ぐと草独特の匂い、時折吹く風の冷たさ。
私は、呆然とした気持ちから、大喜びの気持ちになった。
「すごい。これがゲーム? 現実そのものだ! どうして、これほどの物が世間に出されないのか疑問だが。そんなことはどうでもいい!! 誰も味わったことのない体感を思いっきり感じるぞ!!!」
そう叫びながら、私は走った。
町から少し離れた、周りに畑だけがある家。
うす暗い家の中には、あらゆるパソコンが起動していた。画面は様々、テレビだったり、ネットのニュース欄だったり、何かのグラフが表示していたりといろんなものが映し出されていた。
その数あるパソコンの中心に1人の眼鏡をかけた男がいた。
男は、ある画面を見ていた。草原を走る高校生ぐらいの子が大喜びな顔をしているのを。
男は、`ニヤリ`と笑みを浮かべ。
「どんなハッカーが潜入しているのかと思えば、まだ子どもか。・・・そうだ、こいつを使って、あの計画を実行するのも悪くない。」
そう考え、男はヘルメットを装着した。
私は、草原を思いっきり走り込んで、前転し、寝転んだ。
これほどまでにリアルとは、感激しすぎてどう表現したらいいのか分からない。どう思っていると私に近付く足音が聞こえた。起き上がり、見てみるとフードとマント着た、いかにも怪しい存在がいた。その存在が。
「ようこそ、我が世界に招かれざる客。ここに入って来れるということは、お前、ハッカーだな?」
そう言われ驚く私に存在は。
「本来なら、警察に通報して、このデータを全消去するべきところだ。」
その言葉に私は。
「ちょっと待ってくれ。警察はともかく、全消去ってなんで!?」
その疑問に存在は。
「お前は見る限り高校生だ。警察に連行されても、少年法で無罪放免になるのは確実だ。ハッキングしているが実害を出していないからだ。そして、この世界を知ったのなら再びハッキングするだろう、どれだけプロテクトを強化しても意地でも突破するだろう。ならばいっそ、データを全消去したほうがお前がここにハッキングする理由はなくなる。そうだろう?」
そう言われ、黙り込む私。
確かに、データが無ければハッキングする理由は無い。例え、警察に捕まり、事情を話し、データを消さないよう言っても、警官が動くことは無い。なぜなら、データを消すのは個人の自由であり、権限を使う理由は無い。そう考え、落ち込む私に存在は。
「だが、ある条件を飲めば。データを消さないし、警察にも言わない。それどころか、ここに自由に入れるように、回線をつないでもいい。どうだ?」
その提案に私は。
「受けます! この世界で楽しむ為にも! どんな条件ですか?!」
即答した。存在は。
「簡単だ。お前を入れて、3人。この世界に呼べ。但し、大っぴらに言うな。しゃべっていいのは、口が固く、信頼できる者だけだ。お前くらいの年なら、そんな人物に心当たりはあるだろう? 」
その条件に私は。
「・・分かりました。呼ぶのに時間は掛かりますが、期限はいつまでですか?」
この質問に存在は。
「期限は、1ヶ月。それを過ぎたらデータを削除する。この期間ならば、呼んで、人数分のヘルメットを作成するには、充分だろう?」
それを聞いた私は。
「分かりました。必ず呼びます。・・絶対に!」
そう心強く言った。それを聞いた存在は。
「ならば、今は去れ。自分だけ楽しむのは、呼んだ2人に悪いだろう。」
そう言われ、私は頷き、ログアウトした。
目が覚めると、自室にいた。
パソコンの画面は閉じられ、相手のパソコンに入っていない状態になっていった。
私は、座りながら考えた。この世界のこと知っても、誰にもしゃべらない、自慢しない、秘密を守れる人を。・・・学校には友人と呼べるやつはいるが、どいつもこいつも口が軽い。
とすれば、学校以外で、よく会い、気ままにしゃべれて、口が固い。・・・あの2人に声をかけるか。他にもいるが、家の事情や親の都合で、声をかけにくい奴らもいる。あの条件を守れる人物は、あの2人ぐらいだ。
しかし、性格がちょっと特殊というか、何というか。 まぁ、大丈夫かな。あの2人なら。
そう思い、明日電話することにした。
連作ですが、短い物語です。
不定期で送ります。気が向いたら書くので、ご容赦ください。