99:ジャドゥさんご一家のコンテナハウス
「王太子殿下、キナル王子、お元気で」
「ありがとう。優公も元気で」
「優公、本当に戻るのかい?」
「はい。戻ります。行ったから、ライ麦や陸稲があると知る事が出来ました。
こんな事が他にもあるのなら、行かなくっては知りようがありませんから」
「そうなのだが……。兄上と私の妃の、出産に関する改革の出費や、他の件での……」
「キナル王子。ありがとうございます。それでも行きます。
流通していない、食べられる物を見付けられたりした事もありました。行軍の皆さんに、料理をお教え出来る機会もありました。他にも色々、お役に立てた事もあったと思います。
何より、色んな方たちに出会うのが楽しいです。だから、戻ります」
「……そうか。では、体にはくれぐれも気を付けて。
クーもルーもシルバーも、元気で」
「ありがとうございます」
〘優がいるから、大丈夫だよ!〙
〘優が毎日、癒やし魔法してくれるのー!〙
〘餌にも困らないから、大丈夫。守れる力がある〙
「優。休みに戻って来るのを、皆で楽しみに待っているからな。
風邪引いたり、怪我するなよ」
「うん。お父さん、気を付ける。お父さんも気を付けて。
終わりは始まりの休みには、ユリシーズさんのご両親も一緒に戻ると思う」
「ああ。楽しみにしている。
ユリシーズ、優をまた宜しく頼む」
「はい。任せて下さい」
「うん。ユリシーズも、病気や怪我に注意するんだぞ。
クー、ルー、シルバーも、優を頼むな」
ちょっと長くなった挨拶を終えると、私たちはコンテナハウスへ入る。
「それじゃ、またね!」
ブルヴィにコンテナハウスを持ち上げられる直前、お父さんたちに手を振る。
皆も、それに手を振り返してくれた。
昨日までにライ麦、陸稲とか、西部で入手した物を無限収納から出し、変わりに、補充をお願いされた品々を収納したり。
その他の細々した事も終わって、西部の港へ向かう。
七日は、あっという間に過ぎた。きっと、楽しかったからだ。
◇
ブルヴィに、西の海沿いまで飛んでもらう。海沿いに着くと、そのまま海沿いを大きい港を探して飛んでもらった。
大きな港が見付かると、そこで二泊して、沢山魚貝類を買った。
蛸もイカも牡蠣もあって、しかも沢山買えたので大満足!
港の人たちを驚かせた爆買いが終ると、ジャドゥさんたちのお宅へ向かう。
万が一の不備がないか、確かめるためだ。
エルフの村まで乗って来られた馬さんは、欲しい方がもらっても良いし、野生に返しても良いそうだ。野生の馬を捕まえて二年、長くて三年乗ると、野生に返すからだそうだ。
野生に返せる飼育をしているので、野生に返しても問題ないって。
「ああ、見えたわ。あそこよ」
「精霊さま方に願い、今は見えるようになっているけどね。普段は見えないんだ」
「え?いつ祭壇を設けられたんですか?」
色んな精霊さまのお力で、お家は隠して頂いているんだと知れる一言だね。
「あれは特殊なのよ。こことここって、思う場所がある時にする方法なの」
「普通は、『私たちが安全に通れる通路をお作り下さい』と願うからね。目印はいらないんだ」
「そうなんですね。作られた通路は、そのまま残しておかれるんですか?」
「いいえ。綺麗に元に戻して頂くわ」
「通りたかっただけだからね。通り終われば、残す意味がないから」
それもそうか。残っている通路を人が見付けたら、きっと利用しているだろうしな。
大カロン山にそんな通路があれば、大変な事になっていただろう。他にも通路があったから、大変な事になった地もあったかも知れない。
通り終わったら元に戻しておられて、人は助かっているのかも知れないな。
そんな話しをしている内に、ジャドゥさんたちのお宅に到着した。
ある川を越えてここへ着くまで、焼き畑で森林を削り、森林だった所を削って畑にした所は見なかった。
ぽつぽつと、雷が落ちたり、魔物が火魔法で焼いたのか、開けた所がいくつかあったけどね。それ以外は、白っぽい葉の植物の原生林が、どこまでも広がっているだけだったよ。
中世では、森はとっても大切。森で豚を放し飼いにすると、秋には丸々と肥えた豚が育つんだ。だから森は『豚が○○匹の森』っていう様な、それくらいの豚が育つ森っていう表現もあったらしい。
他にも、獲物や薪、果実、木の実、建材などなど。様々な恵みを齎してくれる。だから森は、本当に大切だったんだよ。
こちらでは、魔物の豚がまだ割と森で放牧されているよ。普通の豚では、魔物の餌になって減る数が多いからね……。
強い魔物も出る広大な森林を、そりゃ人にはなかなか越えられないって……。
「いらっしゃい」
「ようこそ、儂らの家へ」
「初めまして。優と申します。一日、お世話になります」
「ユリシーズです。お世話になります」
ブルヴィの事は聞いていらっしゃっても、ジャドゥさんのご両親は驚いておられた。当たり前か……。しかし、挨拶もそここそに、コンテナハウスの設置に取り掛かる。
まだお昼過ぎだけど、夕暮れが早いからね。急がないと。
お昼ご飯がまだだったので、無限収納に入れてあった物でぱぱっとお昼を済ますと、コンテナハウスの設置に取り掛かる。
「精霊さま方。今まで暮らした家をお与え下さり、ありがとうございました」
「ありがとうございました。新たな家を持つ事になりましたので、家としてお借りしていた土を、どうか大地へお戻し下さい」
ジャドゥさんご夫妻が、言葉を紡げば……。
「おお!凄い!家財は丁寧に地面に置くようにして下さって、建材になっていた土は元に戻った!」
「!!!!」
「すごぉーい!」
「ふふ。さあ、家財はしまって、コンテナハウスを出すわ」
「うん。家財は私が」
出る方の引っ越しが、一分掛からなかった!早……っ!
「……基礎はここまで大地に埋まり、そして『コンテナハウス』が揺らがぬ大地へ変じて下さいますよう、お願い申し上げます」
「精霊さま方よ、どうか我らに心安く暮らせる地をお貸し下さい」
建てる方も、すっごい短時間で終わったよ……。でも、初めての事で、これでも建てる方は時間が掛かったそうだ……。
いや、基礎が二分で終わるとか、普通はないから……。
「まあ。人族は、驚くような家を作ったのね」
「これなら、家を丸ごと出し入れが出来るね」
「そうなのよ。あ、ここが、お父さんとお母さんの部屋よ。ゆっくりしていて」
「他の部屋を整えますから。暫く、ゆっくりなさっていて下さい」
コンテナハウスが建てば、次は各部屋を整えなきゃね。
先ず、ジャドゥさんのご両親の部屋を整え、次に子どもたちの部屋を整えちゃう。そして、ジャドゥさんご夫妻の部屋、いくらかある、台所用品なんかを収納して……。
荷物が少ないから、前の家を出てからこの家への引っ越しが終るまで、二時間も掛からなかった……。
いや、引っ越しってさ……。うん。もう考えない。
子どもたちがスライムを捕まえて来てくれたから、排水設備もばっちり完備できたよ。
「あちらこちらに掴まれる所があって、動くのも楽ね」
「火の扱いも楽で、これなら白湯を好きな時に作れるね」
「お布団はどう?軽くて温かい物を買ったの」
「優殿の所で使って気に入り、ジャドゥがこれをお義母さんたちにと。買ったんですよ」
「ええ、ええ。触ったけど、とても良さそうね」
「厚みがあるのに軽くて、使うのが楽しみだよ」
お世話になるので、晩ご飯を作らせて……。頂けなかった。
一緒に台所に立つから、魔道具の使い方をジャドゥさんのご両親、オンブルさんとノランさんに教えて欲しいと頼まれたからなんだ。
「あ、お湯を出すだけなら、これを使って下さい」
陶器のポットに、高品質な水の魔石を嵌めただけの魔道具ポット。ポットだから、沸かし続ける事は出来ないよ。
シャワーヘッドに普通のランクの魔石を付けただけで、お湯のシャワーが出るんだよ?カランに普通のランクの魔石を付けただけで、お湯が出るんだよ?なら、ポットだって出来るよ。
なくても良いかと思っていたんだけど……。中洲の町にいる間に作った魔道具だ。
中洲の町には、溜まり過ぎている書類を持って、ローニーさんとサイラさんが旧王都から来られていてね。
ローニーさんとサイラさん、アベラさんの三人で書類の清書をして下さっていたんだけど。それでも人が足りなくて、中洲の町の統括ギルドの方たちの手も借りて清書して下さっていたので……。
「優卿!仕事を増やしますか?!」
「優卿!私、そろそろ泣きますよ?!」
「先輩お二人が一緒でも、この町の職員の方が手伝って下さっても終わらないって何ーっ!?」
……。なんて事があったけどね……。お詫びに、毎日甘いおやつを差し入れした。
仕事が多いから、本当は下書きしたらアベラさんにお任せだったのだ。でも、書類作りの練習を続けていて、できる範囲で清書もしていた。減ってこれならと、皆頑張って下さったよ。
「蓋と取手を触りながら、『百度のお湯を、ポットの半分』といった具合で念じます。そしたら、必用な温度のお湯が、必用なだけポットに出ます」
「?!」
「水の魔石から、お湯?!」
「まあ!使えるのは、シャワーや蛇口だけではなかったのね!」
「テーブルで、簡単にお湯が使える魔道具……。これがあれば、フィンガーボウルの水を、温かい物に出来そうだね」
え?フィンガーボウルがあるのー?!
この日、最後の最後にお互いに驚く事があった。でも、懸念していた不備はなく、ほっとできたのは幸いだった。
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