97:買い物三昧
「お布団は、羽毛布団か羽根布団をご希望ですか?」
「ええ。軽くて温かくて、使わせてもらってすっかり気に入ったの」
「あの布団は、本当に良いよね」
「羽根の布団なら、温かいのは間違いないな」
昨日、一箇所目のトンネルが完成した。私たちは次のトンネル開通予定地に移動するまでの間、自由にしていて良いそうだ。
そこで、ジャドゥさんたちの買い物の続きに、中洲の町へ繰り出している。
コンテナハウスを買っても、ベッドや布団とかはついていないからね。そういうのを、買い揃える予定だ。
「お!この布団は良いぞ。布団地に魔物の蜘蛛の糸を使っているんだが、特殊な加工がしてあってな。糸同士はそれなりにくっつくが、他の物は殆どくっつかない。糸も丈夫で、なかなか切れない強度がある。
その特性で、羽毛が飛び出し難いんだ」
「あ、それは良いね!羽毛とか羽根が減ったり、羽根の羽軸が折れると、ふかふか感も機能も落ちる。
中の羽根が減りにくいと、ふかふかが長持ちしそうだね」
「まあ、そうなの?じゃあ、この生地の使われている布団を選ぼうかしら」
「ああ、そうしようか」
地球では、蜘蛛の糸にヒントを得た糸の開発をしている方がいらっしゃった筈。こちらでは、蜘蛛の糸その物を使うらしい。
「羽根布団は、ベッドの大きさに合わせたらいいのかしら?」
「一人ならそうです。冬、大きな布団で二人で寝ると、隙間が出来て寒くないですか?それをどうにかするなら、布団は別々で。上に大きなカバーを掛けて、別々って分からないようにしたりする方もいらっしゃいますよ。
寒くてもくっついていたい方は、大きな布団に二人で包まって眠られます。
どちらが良いか、どちらが好みかによりますね」
「なる程。子どもたち、寝相が良くないから……。皆、別々の布団で、人数分買うのが良さそうね」
「そうだね……。冬なのに布団をベッドの下に蹴り落としてしまっていて、布団を被っていない事もあるね……」
「だってね、布団は落ちやすいよ?」
「うん。するするって。落ちちゃうこともあるよ?」
「あ、もしかして。ベッドは、壁に付けて置いていますか?」
「ええ。そうしているわよ」
「それがどうかしたかい?」
「はい。ベッドを壁に付けていると、掛け布団がズリ落ち易いんです。壁から十センチくらい離すと、意外と布団が落ち難くなるんですよ。試してみて下さい」
こたつ布団みたいに、ズレ防止紐とかを付けても良いとは思う。が、子どもでもゴロゴロすれば、すぐ紐が切れそう。なら、ベッドを少し離すとかの工夫で問題が解決するなら、それで良いと思う。
「後は『スリーパー』とか、直ぐに足が出せなくっても良いなら『寝袋』とか。そういうのを使ってみるのも良いと思います」
「そうなの?」
「帰ったら、壁からベッドを離すのは早速試そう」
「優の部屋のベッドが、壁限々に置いていない理由はそれか!」
「ん?お父さんも知らなかった?」
そんな事を話しながら、寝具を一通り選び終わる。
袋状のカバーは、まだまだ高級品。なので、冬用の敷パット。夏用には敷く為兼、ベッドカバー兼、掛け布団の一番下に入れて汚れよけに使うフラットシーツを選んでいらっしゃった。
ハイエルフさんも、かなりの綺麗好きみたいだね。
寝具は、このお店だけで揃った。あたり前だが、中洲の町は西部からの荷物の流通量が多い。
西部は、羽根や羽毛の素材に適した鳥が多くって、羽毛などの流通量も多いのだ。湖なんかも多いし、水鳥が多いからだろうな。こちらのお店は、そういった商品には特に強いのだそうだ。
しかもこのお店、王室御用達なんだよね。その為、寝具関係の在庫は多いらしい。
ユリシーズさんは、こっそりダウンコートを買っていた。ここは元々寝具の専門店で、良質な羽毛や羽根と生地を取り扱っていた。そこから、ダウンコートやダウンベストなど、アウターにも手を伸ばしたらしい。
アウターの取り扱いは、私のダウンベストを見た方からの依頼がきっかけらしいが……。
ユリシーズさんが買ったのは、デジレさんとミラさんの物。ユリシーズさんは、何回か私のダウンベストを着た事がある。それに今は、ユリシーズさんが自分で買ったダウンコートも持っていて、ダウンコートの良さを知っている。それで、お二人の物を探していたんだって。
しかし、ユリシーズさんのお買い物は皆に知られちゃってね。後で時間があれば探そうと思っていらしたジャドゥさんご家族も、ここでダウンコートを買っていらした。
「フィリベールくんも、この外套買う?」
フィリベールくんは、私が作った革のコートを着ている。
「うううん、いらないの。フィリね、優と同じ外套が好き!」
それならと、無理にダウンコートは買わず、ダウンベストを買った。
「お父さんとお母さんはには、お母さんに良い革を渡したから。革のコートを仕立ててくれると思うけど、ダウンコート、要る?」
サーラちゃんとカールくんは、ダウンコートを着ていたから。買うなら、ダウンベストかな。
「うーん……。悩むなあ……。それぞれ、良いところがあるからなあ……」
「じゃあ、ダウンベストは?単品で着るも良し。コートの下に着るも良し」
それを聞いて、皆ダウンベストを追加で買っていた。
あ、コンテナハウスと寝具以外のお品。それは、ジャドゥさんたちの自腹。コンテナハウスの値段を知って、それ以外の買い物の、国庫からの支払いは辞退なさったんだ。
ハイエルフさんの、大規模な魔法行使への報酬としては少ないのでは?と、王太子殿下もキナル王子も言葉を尽くされた。
有難いお話だが、自分たちがこれくらいが対価として充分と思えるだけ。それだけ頂けたら、それ以上はもらい過ぎだって。固辞なさった。
そして最終的に、コンテナハウスと寝具一式が報酬として落ち着いた。
ハイエルフさんって、物欲もないんだな。
話は逸れるが、この生地。いつだったか、ユリシーズさんの為に頂いた物とちょっとだけ関係がある。
頂いた生地は、布団に使われている生地の、本来の開発目的の生地なんだ。防刃生地を開発する過程で、ダウン製品に適した生地が開発されたんだって。
使われている、魔物の蜘蛛の種類は違うらしいけど。
ダウン製品に使う蜘蛛は、よく見かける種類。防刃生地が作れるのは、一番強度のある糸を吐く種類の蜘蛛なのだとか。
で、その強い蜘蛛の糸で、やや厚手の生地を作るでしょ?すると、防刃が可能な生地になるんだって。今、それは、布鎧の裏地に使われ始めているそうだ。
でもねー、生産量がとても少ない。だから、出来た防刃生地は、全部軍へ行ってしまう。開発が国からの依頼だ。仕方ないね…。
そんなお品で、普通では手に入らないからさ。報酬として、防刃生地を頂けないかお伺いしてみたんだ。有難い事に、生地を頂く事が出来た。今ではすっかり、ユリシーズさんの主力の防具となっている。
「あ!ダウンのラップスカートがある!レッグウォーマーも!これ、デジレさんとミラさんのお土産にしようかな?ユリシーズさん、どうかな?」
「母さんは寒がりだから、温かく過ごせる服は喜ぶと思う。親父は、手足だけが冷え易いらしいから。やっぱり喜ぶと思う」
「そうなんだ。じゃあ、これにしよう。お母さんとサーラちゃんと……。カールくんも使うかな?お父さんも使う?」
お土産は色々渡したけど、ダウン製品はなかったからあげていない。これは今度帰る時のお土産か、お父さんに預けるかな。
「いや、家建てるんだ。そっちへ回せ」
「それは大丈夫。問題ないよ。
あ!襟カバーもある!」
「いや、そうだろうけどな……」
アウターコーナーには、ちょこちょこ目ぼしい物があった。
ジャドゥさんたちも、ここで結構買い込まれていて……。皆、なかなかの金額の買い物になった。
ジャドゥさんたちはこの後、魔道具ギルドでもかなりの買い物をなさったんたけどね。
途中で高品質な魔石の原石とか、宝石の原石。そういった物を、いつくか買い取りに出されたんだ……。それは高品質過ぎて、ちょっとした騒ぎになったりした。
そんな事もあったけどね。色んなお店を回って、買い物三昧の二日間を過ごした。
買い物をしながら、ほっとした事も多い。この世界のテンポで、この世界の人たちに必用な物が、この世界の人たちの手によって開発された物を沢山見たからだ。
ゆっくりがこの世界のテンポなら、それで良いよね。
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