95:お祝い
夜はお昼に食べきれなかった料理と、新たに作ったきつねうどんとミックスサンドイッチで済ませた。
王太子殿下とキナル王子も、同じ物をと仰り譲られなかったので……。本当に良いのかと思いつつ、同じ物を皆で頂いた。
食後は早々に、各キャンピングカーに分かれて寝る事になったよ。
勿論ジャドゥさんご家族用のキャンピングカーも用意されていたので、ジャドゥさんご家族はそちらで休まれる。
「クーもルーも、随分大きくなったな!」
「本当。大きくなるのが早いわね」
「クー、ルー!」
「元気そうだね!」
〘うん!大きくなったよ!〙
〘とっても元気!〙
我が家はクーたち用のコンテナハウスに、お風呂を済ませてから近況報告やサーラちゃんとカールくんのお祝いに集まっている。
疲れたのだろうフィリベールくんは、皆が集まる前に夢の中へ。なので、ベッドに寝かし付けてある。
「サーラちゃん、カールくん、婚約おめでとう」
「おめでとう」
「お姉ちゃん、ユリシーズさん、ありがとう!」
「優さま、ユリシーズ兄ちゃん、ありがとう」
二人はちょっと照れながら、素晴らしい笑顔でお祝いの言葉に返事を返してくれた。
「これ、私からのお祝い」
「こっちは俺から」
庶民の結婚は、式でウェディングドレスを着るとか、指輪の交換、華やかな披露宴を開く……。そういった、日本人が想像するような結婚式ではない。信仰している宗教の教会で、宣誓と手続きのみという、とても簡素な物だ。
だって、日々の生活だけで手一杯の人が殆どの時代だ。時間的にも金銭的にも、そんな事をする余裕はない。
そして、お祝いの品を贈る習慣もないが、有難い事に私はお金には困っていない。だから、二人にお祝いを用意した。私が用意するならと、ユリシーズさんもお祝いを用意してくれたんだ。
「お祝い?ありがとう、お姉ちゃん、ユリシーズさん」
「ありがとうございます!優さま、ユリシーズ兄ちゃん」
早速風呂敷を開き、二人は絶句した。
「……!凄いブレスレットと、滑らかな肌触りの生地!?」
「うん。私の国では、『バングル』っていうタイプのブレスレット。サーラちゃんのは、ピンクゴールドに銀の縁。カールくんのは、銀に金の縁。
裏に『誕生石』っていう、二人の生まれた月に因む宝石を入れてあるよ。誕生石は、幸運のお守りに持つにも良いって言われているんだ。
生地は、不思議な町の特産品。魔物の蚕から取れた、天然の薄オレンジの絹」
「こっちは陶器の食器と、上等な革?!」
「ああ。優が陶器の食器に盛り付けた料理は、とても綺麗だろ。サーラも料理が上手。木の器より、陶器の食器の方が料理が映えると思って。
革は、手入れすれば一生使えると言われている、エルフの鞣した羊の物だ」
「おお!良い物もらったな、サーラ、カール」
「本当、素敵なお品ね!」
二人はお祝いにと渡された高価なお品に、見事に固まった。
サーラちゃんの生家なら、お母さんから娘へ譲る贈り物があるくらい。兄弟姉妹は、それより安価な品を贈る事があるくらいなのだ。
カールくんはご両親が生きておられても、格別何かする家ではない。いや、男の子だから、女の子の実家から持参金をもらうか。しかし、個人がお祝いをもらうお家ではなかった。
「二人には驚く事かも知れないけど、私には結婚のお祝いをするのは普通の事だから。それに、これでもなかり厳選したから、気楽に受け取って」
「かなり厳選させて、かなり品を絞ったのは本当。この数倍高価な贈り物しようとしていたのは、流石に止めたから。受け取ってくれれば良い」
そうなんだよね。これでもかなり、贈り物は厳選した。ユリシーズさんに、それはもらった方が高価過ぎて困るだろうからって止められた物も多い。
「あ、り、がとう……。ありがとう、お姉ちゃん、ユリシーズさん」
「優さま、ユリシーズ兄ちゃん。ありがとう」
サーラちゃんの生家は商売に成功した裕福な家庭だったけど、幸せではなかった。
カールくんはご両親が亡くなり、孤児院で生活していた。
貴族の結婚は早いが、庶民の結婚はそれより遅い。結婚しても、若いと家族を養えないからだ。
だが、この二人なら生活には困らないだろう。
そんな二人だ、お金で買えない物に恵まれるように……。幸せになって欲しいと。凄く凄く……。心の底から、二人の幸せを願って止まない。
◇
くるみ、アーモンドなどのナッツ類。ポテトフライ、黒大根のバターカナッペ、生ハムバター、トマトソテーなどの軽め物。ベーコンやソーセージの、ちょっとどっしりした物。
お摘みを摘みながら、今年十六歳の誕生日が来てエールが解禁になったサーラちゃん、十七歳のカールくんの二人はエール。
私、ユリシーズさん、お父さん、お母さんはワインを呑みながら、近況報告とお祝いは夜遅くまで続いた。
「えー、お父さんたち、いくら食べたの?良いなーっ!」
「優は鱈の白子、食べたんだろう?オレはそっちが羨ましいぞ!」
「白子はたまたまだよ。筋子は頂いてしまってあっても、処理の仕方を知らなくって食べられないんだよーっ。
いくら、食べたーい!」
「他にも、色々美味い物を食べたんだろ?聞いているぞ!」
「精……巣……」
「お姉ちゃん、お父さん……」
「……」
「シ・ラ・コ、美味かったぞ」
「お?ユリシーズはイケたか?豚の脳みたいだったろ?」
「はい。ニホンシュに合っていて、美味かったです」
「うえ……。お父さん、豚ブレンズとか食べた事があるの?」
「あるぞ。地球の行きつけの焼肉屋が、良いのが入った時だけ出していてな。何回か食べたが、美味かったぞ。
優はないのか?」
「脳を食べるのは、流石に抵抗が……」
話はいつしか、調査行軍へ行ったから食べられた、美味しい物にも及んだ。
「オオシロも優も、時々とても変な物を食べるわね……」
「こっちの方は、動物を余す事なく食べるじゃない?日本人は動物じゃなくって、魚を余す事なく食べる方へ向かっただけだよ」
「言われてみたら、そうかもな」
「そう言えば……。ニホンジンは骨髄とか脳は、一般的には食べないんだったわね。骨髄や脳、ザリガニやかえるの料理を作ったら、オオシロが驚いたものだったわ……」
「骨髄はスープになっていて食べる事はあるが、食材として料理して食べる事がないからな。
かえるは、昔は食べていたらしいが。オレたちの生きていた時代は、一般的には食べられない物になっていた。だから、食材って認識がないからな」
「いくらはキャビアがあるなら、そこまで変わった食材でもなくない?」
「きゃび……あ?」
「あー……。チョウザメがいないらしくってな。キャビアはないんだよ」
「えっ?そうなの?」
暫く魚卵の話になり、夜も更けたのでお開きとなった。
「お母さんとサーラちゃんと一緒に、三人で寝るのは初めてだね」
「本当ね。優は落ち着いて家にいる事が意外と少ないから。それもあるわね」
「うん!でも、お母さんとお姉ちゃんと一緒に寝れるの、とっても嬉しい!」
キャンピングカーの一つに、私はじめ女家族が。もう一つに、男家族に分かれての就寝。女だけ、男だけだから話せる事もあるだろうって事らしい。
修学旅行みたいで楽しく、寝付くまで三人で女子会をしながら、この日は眠りに就いた。
朝ご飯は、昨夜の余波を受けた献立となった。
お父さんに筋子の処理を教わり、いくらと鮭の親子丼、はらこ飯、いくら大根が和風の朝ご飯になったんだ。
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