91:異世界でも地球と変わらない事
「……本当に、それも?」
「食べるのか?」
「優が食べると言ったんだ……。食べるかな……」
そりゃ食べるよ。
ユリシーズさん、ジャドゥさん、リアムさんを青ざめさせた料理。
「こっちが、鱈の白子鍋。そっちは、鯛のアラ鍋。一番向こうは、鯛の魚しゃぶです」
皆固まっているが、白子も鯛の兜も食べられるよ!美味しいんだからね!
「精巣……」
「…………」✕大人たち
「せーそ?」
「頭ーっ?!」
「お目々っ!!」
「くわいぃーっ」
んー……。シュシェーナ王国にも、魚の精巣の白子というような呼び方もなければ、白子を食べる文化もないんだよね。だから、白子と言っても、白子は精巣と翻訳されていると思うんだ。
見た目もアレなんで、外国の方が、日本ではそんな物も食べるのかっていう食べ物の一つでもあるらしいしな。
魚もね。小魚なら、丸ごと食べる料理はある。フリチュールとかが。ある程度大きな魚になると、尾頭付きはない。尾頭付きは、鮎が限度みたい。それより大きい魚は、殆どが三枚に下して半身か、更に切り分けて切り身で食べるもんね。
これは多分、箸と違ってフォークとナイフで魚の身を解すのが難しいからかなって思っている。
あと皆、内陸育ち。川魚とはちょっと違う海魚を、食べ慣れていない……。
「えーっと……。日本では、魚の精巣は『し・ら・こ』と言って、普通に食べます。魚の頭も、『アラ』と言って食べます。頭も目も目の周りも、体とは違った味わいで美味しいですから。一口食べてみて下さい」
白子は一口サイズより、少し小さめに切ってある。鯛の頭は、一度軽く焼いてから鍋に入れた。
見た目はインパクト大だが、普通に美味しいから!
日本で良く食べられている魚の鍋をとの事で作ったけど……。やっぱり、ちょっとハードルが高かったかなあ……。
「……優の作った料理だから、きっと美味いハズ…………。きっと……、美味い……」
ユリシーズさん……。それは何かの呪文?あ、でも食べてくれた。
「………………シ・ラ・コ……。不思議な食感だけど、いける……かも?」
私が食べる、和食に限りなく寄せたご飯も食べられるようになっているユリシーズさん。流石の白子には恐々としたが、食べてくれた。
うん、食べてみてくれて良かったぁ。
「……あれ?本当だ。とろっとした不思議な食感だが、悪くないね」
「そうね、見た目は悪いけれど……。味はとても良いわね!」
デジレさんとミラさんもオッケー!
私は子豚とか子牛、兎の丸焼きとかで、動物の頭まで出て来る料理より忌避感がないけど……。
お別れの宴の席に、丸焼きが出てきた事が今までに何回かある。動物の顔を見ながらの食事は、かなりキツかった。
カエルとかの両生類、ヘビとかの爬虫類なんかは、原型がなくっても食べるの無理だしな。
私にもそんなのがあったんだ。食文化の違いだから、食べ慣れない物は、やっぱり躊躇もするか。
「し・ら・こや鯛の兜、あ、頭です、は、受け付けないようでしたら他のを食べて下さいね」
酒の肴に、アテも色々作ってある。そちらでも、お腹は一杯になるはず。
「優は食べるの?」
「うん。食べるよ。私の国でも駄目な人もいたけど、私は食べる。他の部位とは違う美味しさがあるから」
「フィリね、優が食べるなら食べるの。でもね、頭はこわいの。だから、身だけにしてからちょうだい」
「食べてみるの?うん、じゃあ、解してお皿に取り分けるね」
これが契機となり、やっと皆鯛の兜にも手をつけ始めた。
いつもは我先にと一通り食べ、その後は賑やかなタドリィ親方、セーマルくん、アベラさんも、ようやく食事を始めたよ。
「!白いの、ニホンシュに合うの!」
「日本食と日本酒ですから。やっぱり合いますよ」
「鯛の頭も、凄く美味しい……!」
「見た目が悪くっても美味しい物は、結構あるからね」
「本当に、白いのも鯛の頭も美味しい!」
「ヒノモトノクニノタミが亡くなってから、大きな魚の頭は食べていなかったな。久しぶりで驚いたけど、やっぱり味は良いね」
「ジャドゥさんたちが丁度良いサイズの、締めて直ぐの鱈と鯛を分けて下さいましたから。活きの良さもあってでしょうね」
ジャドゥさんたちに、魚の締め方を教えた昔の日本人。その方の生きていらした時代から、日本人は魚の締め方には拘りがあったみたい。ジャドゥさんたちは、日の本の国の民から魚の締め方を教わったそうだ。お蔭で、こちらで売られている一般的な魚よりも、状態が良い。
初めは恐る恐るだったが、食べ始めると白子と鯛のしゃぶしゃぶが直ぐになくなった。
「しゃぶしゃぶがなくなりましたね。次は蟹しゃぶをしますね」
「優……?その甲羅は?」
「ん?蟹しゃぶの、蟹味噌を作るんだよ」
ヨーロッパでは、動物のモツとか頭は意外と食べられている。しかし、魚の頭とか内蔵の他に、甲殻類の味噌も食べられない。だから、蟹味噌も食べる文化はないんだわ。
多くの日本人には、魚の頭や蟹味噌を食べるのは、豚の頭とかより精神的なダメージはないけどな……。馬刺しとか、馬を食べるのは衝撃的らしいけど……。これも食文化の違いだろうな。
「蟹味噌が駄目なら蟹味噌は付けずに、ポン酢とか、他の調味料で食べて」
「優!魚の頭ね、おいしかったよ!カニのシャフフもおいしい?」
「フィリベールくんには、まだ美味しい味ではないかも……。日本酒とは合うんだけどね」
その一言で、日本酒もお好きなタドリィ親方が、蟹味噌のしゃぶしゃぶに挑戦する事にしたみたいだ。
「どうやって食べるんじゃ?」
「この甲羅の中の、蟹味噌を出汁で溶いた物で蟹脚を軽く湯がいて食べます。あまり蟹味噌を付けたくなければ、先に出汁で湯がいて、蟹味噌はちょっと付けるくらいで試してみて下さい」
実演しながら説明し、蟹しゃぶを食べる。すると、タドリィ親方は出汁で蟹脚を湯がいて、引き上げると身の先にちょっと蟹味噌を付けて口へ運ぶ。難しかった表情がゆっくり緩み、そして冷酒を呑む。
「ふいーっ!苦味や諸々が、酒に良く合うわい!」
タドリィ親方の言葉に、皆おっかなびっくりながら蟹しゃぶに手を付ける。
これは大丈夫な方と、無理な方に割れた。
「うーん。食文化って不思議だよね。
皆は牛ならモツや骨髄料理、豚の頭も大丈夫。でも、軟骨や魚の兜や内蔵は尻込みする料理なんだから」
「モツや骨髄料理、豚の頭は私たちには普通の食材。でも、軟骨や魚の頭や内蔵は食べない部分ね」
お父さんは、食べなくて済むなら食べたくはない。でも、出されたら、それらもカエルもヘビも食べられるそうだ。
骨髄料理は、初めは無理だったそうだ。今ではすっかり、好物になっているそうだしね。
「優は、生魚や魚の内蔵は食べられる。それに、牛や豚の内蔵も食べられる。
だけど内蔵でも、アンドゥイエット系は苦手だよな?」
「あー……。アンドゥイエット系は、そうだね。生臭さが強く残っているのと、知る限り日本には、内蔵に内蔵を詰めて食べる料理はないから。食べ慣れていないかな」
それに、日本のモツ鍋とかホルモン焼きと、なんか違うんだよね。
「ああ、確かに。肉に比べると、かなり臭みはあるな」
「人族は、そんな物まで食べるのね……」
「頭付きの豚やら牛……。それに内蔵……。……食べるのなら、魚の頭の方がまだ抵抗なく食べられそうかな……。小さな魚は、頭も食べているわけだしね」
「動物にしろ魚にしろ、頭にも内蔵にも変わりはない。魚の頭や内蔵は、慣れんでちいと驚いたが」
「そうなんですけど……。動物か魚か違うだけなんですけれどね……。親方みたいに、直ぐには割り切れないですよ……」
「そこを割り切るんじゃ。何せ嬢ちゃんは、儂らの食わん生魚を食うじゃろ?嬢ちゃんの普通は、儂らの普通とは違う。違うが、美味いモンを食わせてくれる!」
「そう言えばそうでしたね……。サシミィにも、かなり驚きましたっけ。初めは味なんて分かりませんでしたけど、食べ慣れると美味しいって言って食べてますね……」
わやわやそんな話をしていると、いつしか鯛のお頭の入った鍋も蟹しゃぶも、全部綺麗になくなってしまっていた。
そして、自然とこちらの奇食にご馳走とか、色んな食べ物の話になったんだ。
一応、自主規制しておくよ……。地球にもあるけど、かなりの奇食も多かったから……。
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