90:ハイエルフさんたち
「お待たせしました。次が焼けましたよ」
調査行軍の野営地の、行軍全体の食堂。ダイヤカットしたお肉を次々焼き、お昼ご飯を提供していく。
「うっまー!」
「これ、本当に魔物の肉?!」
「魔物の豚の肉も、網目に切っただけで、かなり食べやすくって美味くなるんだな!」
魔物のお肉は、普通の生物のお肉より硬い事が多い。筋肉が発達しているからだと思われる。
だから魔物のお肉は、大抵は煮込み料理に使われるそうだ。しかし、だ。体が資本の方たちには、あっさり味しかない煮込み料理は微妙な人気。なので、焼いて美味しく食べる方法がないかと相談されたんだ。
日本のスーパーで手軽に買える、日本人好みの柔らかいお肉とは違うから、こんなもんだと思っていたよ。日本にも、硬いお肉はあるしね。そんなお肉は、私はダイヤカットにしてしまう。
調味料は使わない。柔らかくするのに、漬け込む時間もいらない。手間が多少掛かるが、それ位は構わないだろう。ここでは、調味料も物によっては高価なんだしさ。
「火が入るのも早いな」
「ああ!少しの時間で、しっかり火が通っているな」
「『食材に火を通すのと、食材を燃やすのは違います』だったか?あれで料理の時の火加減を覚えられたけどな。
先にこれを教わっていも、炭にしていたかもなあ……」
自分で焼きたい方は、シングルバーナーを使って各自でダイヤカットのお肉を焼いていらっしゃる。そこでの会話だ。
「春、夏は普通の生物。鳥類はどっちも。秋は肉の量に合わせて変化。魔物の肉は硬い物が多いから、冬は魔物の肉の煮込み料理が多いって知りませんでした」
「私らも、地球と同じなら、牛は赤い部分が多少あっても大丈夫。他の肉、特に豚はしっかり火を通さないと腹を壊すとか、酷いと命に関わるなんて知らなかったよ」
それは、私やお父さんには当たり前の知識。こちらでは、経験則で知っている方は知っているが、知らない方は知らない事らしいのだ。
菌とかウイルスが知られていないからな……。経験則で知っている方がおられても、情報伝達とか知識が共有される事も、地球と比べるべくもないしね。
牛肉以外は生焼けで食べてはいけないと知らない人が多くても、無理はないのかも知れない。
行軍中、時々体調を崩していた方の何人かは、もしかしたら生焼けのお肉が原因だったのかも知れないな。生焼けのお肉は危険って知らないから、変な物を口にしなかったか尋ねても、何もないって答えだったのかも。
「これからは、牛肉以外はしっかり火を通して食べて下さいね。魔物の牛肉も豚肉も、こうして切れば食べやすくなりますし、火の通りも早くなります」
これも経験則でだが、普通の生物のお肉より、魔物のお肉で食中りになる事が多いらしい。
主に、野営食の訓練をした後だそうだ……。
「ああ、分かったよ!鳥類は、オイル煮がお勧めだったね!」
「はい。ゆっくり、でも中まで火が通せてしっとりした食感に仕上がりますから」
ユリシーズさんは週に二回、朝の軍の鍛錬に参加させて頂いている。私もその日は、軍の食堂で食事当番をしている。
今日がユリシーズさんは鍛錬の日で、私は食堂で料理当番。ユリシーズさんの鍛錬が終わり、食事を頂くとコンテナハウスへ戻る。
勿論クー、ルー、シルバーも一緒に来ているから、一緒に戻る。
一昨日タイプライターが届き、暫くタイプライターの使い方の講師に掛りっきりになると思っていたんだけどさ。
「ただいま」
「戻った」
誰も居ないコンテナハウスの一階から中へ入り、一休みしてから講堂へ向かう。
「お帰りなさい」
「お帰り」
「戻りました。タイプライターの扱いを教える担当をして頂いて、ありがとうございます」
「どういたしまして。使い方は覚えたから、教えるのは問題ないわ」
「食事の他に、今夜からは部屋も借りる。対価に、少しは働かねばな」
「気を使って頂いて、ありがとうございます。助かります」
そう。タイプライターの使い方を、ジャドゥさんご夫婦が難なく覚えてしまわれたのだ。昨日一日で。ちなみに、タイプライターが届いたのは一昨日だ。
確かに、大抵の事は一度で覚えると仰っておられたよ。でもまさかタイプライターの使い方も、一日で覚えられるとは思わなかった。しかし、お蔭でそちらはお任せする事が出来、普通に過ごす事が出来ているのは有難い。
お客さまなんだから、ゆっくりしていて下さいと勿論お伝えしたよ。でも、私たちはこの村の村人ではないから、さしてする事もない。暇を持て余すから、任せてもらえた方が有難いと言って下さったんだ。
やる事もなくって、ゆっくり過ごして下さいと言ってもね……。確かに暇を持て余す。それならばと、お言葉に甘えさせて頂いた。
「こちらこそ、楽しい時間を過ごせていているわ。ありがとう」
「普段、忙しくしているそうだね。貴女たちこそ、ゆっくりすると良いよ。何かあれば尋ねる」
「こっちも、何かあれば尋ねるわ」
「ゆっくりすると良い」
「エグランティーヌさんもシルヴェストルさんも、ありがとうございます。
三階で、ジャドゥさんたちの部屋の用意をしていますから。何かあれば三階へ来て頂くか、そこのスマホを使って呼んで下さいね」
もう一つのゆっくり出来ている理由が、エグランティーヌさんとシルヴェストルさんのお蔭。その日、手が空いている方が来て下さり、学者さんたちの論文に目を通して下さる事になったからだ。
動植物に詳しいエルフさんの参入に、学者さんたちは沸き立った。
四人から、分かったと返事があり、講堂を後にする。そして、ジャドゥさんたちに使って頂く予定の部屋を、しっかり整える。
補助ベッドで、元のベッドと壁の間の通路を埋める。シーツを張り、その上に温かい加工の毛布を敷く。掛け布団は、羽根布団。その上に、温かい加工の毛布。
床暖房もヒーターもあるので、寒くはない。窓は二重だし、シャッターもある。ただ、それでも窓の下は冷えが入って来るので、そこだけ注意だな。
窓に、シルバーワイヤーとパワーストーンで作ったサンキャッチャーを取り付けて……、完せ……。そうだ!
「安眠に、薄い紫のアメシストクラスター。小さいけど、これをヘッドボードに置いて……っと。こっちはこれで良いかな?」
「大丈夫じゃないかな?」
「うん、大丈夫だよね?じゃ、次の部屋の用意しよう」
二部屋の用意が終わると、鉋屑で作った薔薇みたいな花を使ったリーフと、糸掛けアートを組み合わせた飾りをドアに飾る。
「ちょっと狭いけど……、本当に大丈夫かな?」
「部屋を見てもらって、通路は潰すって説明したんだ。それで大丈夫って事だったろ。大丈夫だよ」
三階は簡易キッチンと、それぞれ二つあるトイレとお風呂が備わっている。そんな三階はミラさんが手入れして下さっていて、とても綺麗だ。ユリシーズさんが大城家の掃除を教えてくれたので、本当に綺麗に保たれている。大城家のやり方に倣って下さったミラさんに、感謝しかない。
「部屋もコンテナハウスも、気に入って下さると良いな」
「優は心配性だな。きっと大丈夫だ」
ユリシーズさんの言ってくれた通り、ジャドゥさんご一家にコンテナハウスも部屋も、とても気に入って頂けた。
サンキャッチャーと、鉋屑と糸掛けアートを組み合わせたリーフはとても喜ばれたしね。対価を支払うので、これらも譲って欲しいとお願いされたくらいだ。
自然がお好きなハイエルフさんたちに、コンテナハウスで生活をして頂くのは心配だった。だが、気に入って生活して頂く事が出来、ほっとしたよ。
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