88:父から届いた物
「クロックムッシュ、ファリオのフリチュール、豆腐グラタン、そら豆と根菜のスープ。
今日のメニューは以上ですね。早速作りましょう」
「はい!」✕多数
いつの頃からか、料理を習いたい調査行軍の方も混ざってご飯を作るようになっている。
調査行軍の方で来られていたのは、下級貴族や平民出身の方が多かった。元々料理もされていたから、抵抗がないみたい。そんな出身の方の比率が高かったんだが……。最近は自ら料理をする事もないだろう、上位貴族出身の方も増えている。
私から直に教わって、帰還してから家族に作れれば?それって、凄いんじゃないかと気付いたらしい。
まあ、人が増えて助かる事もある。ちょっと調理場が狭いけど。
そんな調理場に、皆にはエルフさんと説明している、ハイエルフのジャドゥさんご夫妻も混ざっていたりするよ。
本来の用事が終られたら、ジャドゥさんのご家族も暫く一緒に生活する。それまでは食事を作る頃に来られ、食事が終るとエグランティーヌさんの家へ戻られる事になっているんだ。
メニューの確認をしたのは、一週間分のメニューが壁に張り出してあるから。銀筆で書いて、盤は錬金術で綺麗にして繰り返し使っている。
コンテナハウスでは、朝ご飯が一番どっしりしたご飯。昼、夜は軽めが基本。
カーニバルの皆さんは、エルフのお二人はご実家に。獣人のお二人は、アレクサンドリーヌさんとマルゴーさんのご実家に、別れてお世話になっていらっしゃる。
が、カーニバルの四人が抜けても、調査行軍から来ている料理を作って下さる方たちに、学者さんたちの従僕さんたち。
そこに料理を習いたい方たちも加わっているから、朝からご飯を作る時も食べる時も賑やかだ。
メニューによっては、ネーレさんたちだけでももう作れるから。最近は、私がずっとここにいるわけではないけど。今日は豆腐グラタンの作り方を教えるので、学者さんたちのための食堂へ来ている。
「豆腐を水切りしてから崩してマヨネーズ、塩、胡椒で味を調えて……。火の通り難い食材は、先に少しだけ炒めるか蒸すかしておいて、崩した豆腐と混ぜます」
今日は具材は、きのこが三種類と、鶏肉。器に盛れたら、チーズ、パン粉、ブロッコリーをトッピングしてオーブンへ。取り敢えず十分。その後は、様子を見ながら焼き上がれば完成。
「トゥオフーがあると、ぐらたんも簡単だねえ」
「本当本当!トゥオフーの作り方も覚えたから、簡単にぐらたんが作れるようになるわね」
お、グラタン好き?確かに美味しいし、冬は食べたくなるよね!
……。それにしても、魚組、静かだな。まだ鱗、取らないのかな?ってー!
「鱗!鱗取らなきゃ!口の中、鱗で切りますよ!」
「ああ!それで!前に野営で焼いた物を食べた時、口の中を切ったのか……」
ごめん……。それは言わなくても知ってると思って、言わなったよ……。
たまにはこんな事もありながら、ご飯の用意が調っていく。
「後はお任せして、大丈夫ですか?」
「ああ!大丈夫だよ」
「それじゃあ、後はお願いします」
準備の出来た料理を持つと、コンテナハウスの一階のキッチンへ向かう。
そこはクーたちの使っているコンテナハウスに、土魔法で増設した部分だ。風除室の代わりに、広いキッチンを作ったんだ。二階のキッチンでは、クーたちのご飯を作りながら、大人数の食事を作るには手狭なんだもん。
わざわざコンテナハウスへ行くのは、食事中も質問やら何やらで落ち着かない。そのため、食事はコンテナハウスで食べるようにしたんだ。
「……、これで出来上がり。作り方、大丈夫ですか?」
メモとか取られていなかったけど、良いのかな?
「ええ、大丈夫よ」
「大体の事は、一度で覚えられる」
大体の事は、一度で覚えられるの?!羨ましい能力なんだけど!
「ハイエルフは文字を持たないわ。あらゆる事は記憶して、口伝で伝えるの」
「だから、記憶力が良いんだ」
いやいや。文字を持たないから書き残せない。だから記憶するって!?それはある種のチート!
ハイエルフさんの記憶力に驚かされたわ。まあ兎に角、ご飯が出来たので食事にしよう。
村に着いてから、アベラさん、タドリィ親方、セーマルくんも一緒に生活している。冬の快適な生活と、日本食が報酬に含まれているからだ。
ご飯を作っている間、子どもたちの面倒をアベラさんたちが見て下さっていた。とても助かる。
「お待たせしました。朝ご飯にしましょう」
二階では、全員揃って食事するスペースがない。そのため、クーたちのスペースに小上がりを増設して、こたつも増やしている。
「おお!良い匂いがしとったからな!皆で待ちわびとったぞ!」
「優さまのご飯、本当に美味しいから!楽しみ」
「冬以外も、優さまのご飯を条件に入れるんだったわ!」
「気を使わなくて良いよって言ったじゃない。春からも、このまま一緒に生活しますか?」
「今更条件を変えても良いんですか?!」
「構いませんよ。それに、通うのも大変でしょ?」
話しながら、皆でこたつに食事を運ぶ。私はクー、ルー、シルバーのご飯から。
「簡易椅子に座った方が食事しやすければ、遠慮せず使って下さい。大人は普通に座るより、あぐらの方が良いかも」
ジャドゥさんたちが側面に布を張った簡易椅子を使うか使わないかが決まると、食事となる。
「決まりました?それじゃあ、頂きます」
クロックムッシュの代わりのご飯、コカトリスの卵の炒り卵、コカトリスハム。その上にたっぷりチーズを乗せて焼いた物以外、学者さんたちの食事と同じ朝ご飯を頂く。
醤油、粒マスタード、グリーンとブラックタプナードなど、好みの味にしてもらえるよう、調味料やソースも多数用意してある。
「昨日のご飯もだけど、このご飯、とっても美味しいわ」
「ああ、良いね。こちらのトウフのぐらたんも美味しいよ」
「コカトリスのハムもおいしいよ!」
「人ぞくのごはん、おいしい!」
「おいち!」
ほ。ジャドゥさんご家族のお口に合ったようで、ほっとする。
感覚的に、精進料理とか喜ばれそうだけど。
「うーむ。白ワインかニホンシュが呑みたくなるわい」
「親方!昨日、チェイサー飲まずに強いお酒呑んで大変だったんですからね!ちょっとは控えて下さいよ!」
「親方のチェイサーは、アルコールの低いお酒だから。あんまり意味がないような……」
昨日、晩ご飯を作らないから、お詫びに梨のブランデーを置いて行ったんだが……。シュシェーナ王国では日本みたいに、水割りとかお湯割りでお酒を呑む事がない。
前に苺のブランデーの水割り出した時、出してから気付いたよ。
海外ではブランデーはストレート、またはロックでしか呑まれない。良いお酒の味と香りを、そのお酒本来のまま楽しむためみたいだ。
ここ、シュシェーナ王国もそこは同じみたい。
そして『チェイサー』という、水分補給や悪酔い防止に、メインのお酒とは別で、水やメインのお酒より弱いお酒を呑むのが一般的。
国によっては真逆だったりするけどね。メインが弱いお酒で、チェイサーが強いお酒パターンもある。
何にせよ、エールは呑み慣れているがブランデーは呑み慣れていない親方である。ストレートでかぱかぱ呑めば、酔も回るって。
エグランティーヌさんのお宅から帰ってきたら、二階のダイニングのこたつで酔って寝てたもん。
「あ、親方。昨日寝ちゃってて、預かった優さま宛の荷物、まだ渡せてませんよね?」
「おお、そうじゃったな。預かった物があったの」
そう言って、タドリィ親方は無限収納から荷物を取り出し、渡して下さった。
「ありがとうございます。お父さんからだ。何だろう?」
中身は後で確認しよう。
◇
食後、ちょっとゆっくりしてから確認した荷物。
『インクが完成した。それに合わせて微調整も終わって、完成品が出来たから送る』というメッセージが添えられていた。
転移して来た早い段階で、パソコンを見た方たちから開発を熱望されていた物。
パソコンは無理とお伝えすると、何か文字を表す道具を頼みたいとの事で、開発に着手した。
「タイプライター!シュシェーナ王国の共通言語版のタイプライターと、外交言語版のだ!やった!
最後はお父さんに任せきりになったけど、出来たんだ!」
タイプライターが完成する前に調査行軍に出る事になり、最後はお父さんに丸投げになってしまった経緯がある。
それでも私が関わった物の中で、一番開発に時間の掛かった品、タイプライター。それが、お父さんから届いた物だった。
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