87:おもてなし
ブルーベリーのワイン。ブルーベリーのエール。ホワイトウォッカに漬けて作られた、ブルーベリー、木苺、杏の果実酒。
並ぶ料理は、精進料理を彷彿とさせる、彩り豊かなエルフさんの伝統料理の数々に、私の作った料理。
どれも口にするのが楽しみ!体を動かし始めて五日。痩せてはいないけど、体は引き締まって来たから。安心して味わえる。
「ニホンシュ、ニホンショク。とても美味しそうね」
「花の形の野菜や、果実を籠に細工した物や……。目にも楽しいな」
そう仰るのは近くの山で清閑な暮らしをなさっているハイエルフさんで、奥さんのジャドゥさん、旦那さんのリアムさんご夫妻だ。
十才前後のお子さん三人も、一緒に席に着いていてね。子どもたちは変わった料理と、変わった切り方の野菜や果物に目を輝かせている。
か、可愛い!とっても可愛い!いや、子どもなのに凄い美形!
「今年も無事、お越しになられて重畳です。お疲れでしょうから、今日はゆるりと飲食を致しましょう」
「遥々のお越し、ありがとうございます。温かいうちに食べましょう」
今日は年に一度、物々交換のためにやって来られるハイエルフさんをおもてなしする、特別な日なんだって。
ハイエルフさんたちはエルフさんたち以上に、静謐を好まれるのだそうだ。
そのため、エルフさんでさえ行き来に苦労する深い森の奥深くとか、険しい山の中に家族単位で生活しておられるんだって。
しかも家には強力な目くらましが掛けられており、エルフさんにさえ、ハイエルフさんの家を目つけるのは不可能だそうだ。
だが、生き物の活動が減った冬の初め。その頃に、この村へは毎年、穀物などの食料や布の調達に、ジャドゥさんご家族はいらっしゃるのだそうだ。
穀物や野菜は、採取生活では冬を越すのに充分な量を蓄えるのが、かなり難しいからだろうな。
「どうぞ。これは『湯豆腐』という料理です。この白い食べ物が、大豆から作った『豆腐』という食材です」
豆腐、白菜、人参、ネギの、シンプルな湯豆腐を取り分け、皆に配る。人参は、紅葉の飾り切りにしてある。
湯豆腐を真っ先にお勧めしたのは、見慣れない食材の料理を、じっと見詰めていらっしゃったからだ。
「このタレ、ポン酢をちょっと付けてお召し上がり下さい。あ。ポン酢はビネガーと同じで、酸っぱい液体です」
豆腐を小さく分けてポン酢を試し、口に合わなければ擦り下ろした生姜でどうぞと言って、ハイエルフの皆さんを見守る。
「柔らかな食感に、優しい味。とっても美味しいわね」
「そうだな。葉っぱかな?の形が嬉しいのか、子どもたちが珍しく、すんなり人参を食べたよ」
子どもの人参嫌いは、異世界でも共通らしい。美味しいのにね。
ハイエルフのご夫婦の子どもたちは、フィリベールくんと仲良く湯豆腐を食べている。
「川牡蠣の牡蠣飯、海老フライ、かぼちゃのそぼろ煮、茶碗蒸しの一種で、小田巻き蒸し。ジェノベーゼのパスタ、ポテ、ささ身とブルーベリー入りサラダ。以上が、私のご用意した料理です」
「少しずつ、色々な料理を召し上がって頂こうと思い、あっさりした物と、しっかりした味付けの物を優にお願いし、用意してもらいました。
どうぞ、お召し上がり下さい」
「ありがとう。味わわせて頂くわ」
「感謝する」
こうして、和やかな食事の時間が始まった。
日本食やハーブは、きっとお口に合うだろうとお聞きしていた。しかし、実際に食べてみて頂かない事には、本当にお口に合うのかどうかは分からない。そのため、二口、三口分くらいで色々作る事にした結果が、このメニューだ。
この国の方たちは、辛い物はあまり口になさらない。辛いのが苦手な私は、自然とフランス料理に興味を持った。フランス料理には、辛い物はあまりないって聞いたからだ。イタリア料理も、少し覚えた。
とはいえ、覚えたのは簡単な物で、手軽に手に入る調味料で作れる物だけだけど。
そんな理由で覚えたフランス料理やイタリア料理だが、お口に合いそうな料理を作れて良かった。
「これ!えびフライ、すごくおいしいの!白いこれ付けると、もっとおいしいの!」
「えびのフライってはじめて!」
「フライも、いつも食べているフライとなんかちがう」
「しろ、おいちい!」
フライは元々、乾パンやビスケットを砕いた物を使っていたっぽいからな。パン粉のフライとは、見た目も少し違うかも。
子どもたちには子どもたちで、外れがなさそうな物を何かと思い、パン粉の海老フライを作ったのは正解だったらしい。タルタルソースと共に、とても人気だ。
「チャワシもね、おいしいの!」
小さなフィリベールくんには、茶碗蒸しの発音は難しいみたい。茶碗蒸しと言えず、毎回チャワシになるのが可愛い!
「あ!下にウトン!」
「お花のニンジン!かわいい!」
「えんどう、ぱっぱ?」
「良く分かったね。人参はお花、ほうれん草の茎で人参のお花の茎、えんどう豆で葉っぱの模様にしてあるよ」
それより、だ。
「うどんを知っているの?」
「ええ、知っているわ。貴女が知っていて、私たちも驚いたわ」
「かなり昔、助けた者に教わった。その男は、『ヒノモトノクニノタミ』だと言っていた」
「日の本の国!私が住んでいた国の、古い名称です」
ブルーベリーで作ったワインは甘口で口当たりが良く、とても飲みやすい。ブルーベリーが豊作だった年にだけ作られる、希少なワインだそうだ。今年は作られず、去年の物との事。無限収納に入れて、保管していた一本だって。
保存技術がまだまだで、中世のワインは作られた年に飲み切るのが普通。長期保存するなら、無限収納へ入れておくものなのだそうだ。
ブルーベリーのエール、ホワイトウォッカに漬けた果実酒は常飲する飲み物で、毎年作られるって。
エルフさんたち、ハイエルフさんたちにとって、ブルーベリーは特別な食べ物なのだと教えて頂いた。
エグランティーヌさんの作ったエルフさんの民族料理も美味しくって、ブルーベリーのワインやエールとの相性がとても良い。
美味しい、しかも珍しいお酒と料理に気分が解れ、色んなお話が出来た。
「川の下に、人馬の行き来出来る通路ねえ……」
「生き物の生息地を減らさないためにも、少しの土地から、より多くの収穫を、か……」
「はい。他にも色々考えていますが……。今はその二つに絞って、色々と模索しています」
話は、川の下に作るトンネルの事。冷夏が続いても困らない食料を確保するためにも、土地を開拓し過ぎないためにも、主食の麦類、米類、じゃが芋の収穫量を増やす方法を探している事にも及んだ。
「そうね。ニホンショクを教えてくれたら、地下通路作りに協力しましょう」
「え?!本当ですか?」
そんな事で、協力して頂けるの?!
「今日頂いた、貴女の作った料理には、私たちにはその価値があるわ」
「ああ、その通りだ。体の中から浄化されるようで、心地良かった。これが毎日食べられるなら、地下通路を作るくらいはお安い御用だ」
「ありがとうこざいます。とても有難いです」
ハイエルフさんは、エルフさんよりも魔法の能力が高い。川越えや山越えで、トンネルは普通に作るので慣れていらっしゃるって。
そんな方たちにトンネル作りを手伝って頂けるなら、有難いお申し出だ。
「食料ねえ……。人族が作物を育てると、私たちエルフ族よりも、収穫量がかなり少ないわね」
「それもあって、人が増える程にどんどん畑を拡げているな」
「ええ、私たちが子どもの頃と比べても、随分拡がったわね。
収穫量を増やす術を教えたとして、対価ねえ……」
「そうだ。ユリシーズの腕輪。あの作り方を教えてもらうのはどうだい?」
「力があると分かる品よ?秘密じゃないかしら?」
そう仰るエグランティーヌさんの視線は、私をしっかり捉えている。
「秘密じゃありません!お好きな石の組み合わせで、販売もしています!」
「そうなの?なら、もっと早く聞くんだったわ!」
エグランティーヌさんたちとも良いお話になって、ラッキー!
食事の後、エルフさんやハイエルフさんはお好きなんじゃないかと思っていたグラスハープの演奏をしたら……。
「その楽器を譲ってくれたら、他の対価はいらない!是非、譲って欲しい!」と懇願された。
これは無償で大丈夫とお伝えしたら、何故かそれで揉めたのが謎だ。
ただのグラスと水だから、無償で良いんだけど……。無償が気になるようなら、ガラスの素材を頂ければ充分だよ。
お読み下さって有難うございます。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
面白かった、良かったなど、お気楽に下の
☆☆☆☆☆
にて、★1から★5で評価して下さいね。
いいね!も、宜しくお願いします。
続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!
感想や応援メッセージもお待ちしています。