82:冬季野営訓練
サトウカエデの樹液の採取は、時期が悪いんだろうな。あまり量は採れなかった。甘さはかなりあったから、雪解けの頃にたっぷり採れるのを期待だな。
その後、前みたいに学者さん達と一緒に生活しつつ、溜まっている書類を片付けながら一週間程が過ぎた。
そんな生活をしていると、軍で冬季野営訓練があるが、参加するかと尋ねられたんだよね。
返事は勿論、参加します!だ。
オートキャンプばっかりだったから、テント泊したい!オートキャンプは快適だけど、キャンプはやっぱりテント泊だよ!
冬がそれなりに厳しいシュシェーナ王国では、冬キャンも重要な軍事演習なのだそうだ。
確かにな。雪山とか、雪が積もっている所でのキャンプは、夏や雨の日などとは勝手が違うからね。
ナポレオンの冬将軍での敗退しかり、八甲田山での八甲田雪中行軍遭難事件などなど……。悲惨な結末を迎えた事柄は、いくらでもある。
雪には慣れている雪国のシュシェーナ王国の方たちといえど、冬季の野営訓練は重要と考えているそうだ。
日中は根雪のある森を、馬で進む。行軍も、素早い展開の訓練などがある。
これは、私が犯人……。
頭を怪我して、ベッドで安静にしていた時だ。暇過ぎて、ちょっとだけパソを見ていたんだけどさ。
その時見ていたのが、某大学の集団○動の映像だったんだ。その音声を聞きつけ、何事かと、護衛の方たちが部屋に踏み込んで来られたのだ。
その件は報告された結果、その映像を国王陛下、王太子殿下、将軍さま方と見る羽目になったんだよね……。
見たら、訓練次第であのような展開が可能かも!あの速さで自在に展開可能なのは、大変有利である!
有利となれば、訓練あるのみ。歩兵と騎馬で、陣形変形の訓練が恐ろしく厳しくなったそうだ。
うう。兵の皆さん、ごめんね。
「総員、止まれ!本日はここで夜営とする」
将軍さまの号令で、皆が夜営の準備に取り掛かる。
「下、地面である事を確認致しました!」
湖や沼地が多いから、凍った水の上でないか確かめないとね。万が一割れたら大変。
「うむ。皆、天幕を張ってから休息。休息の後、野営食の訓練とする」
普段は料理してくれる方たちも同行している。しかし、移動速度重視とか、ケースによってはその同行はない。そんな時は、料理も自分たちでする事になる。今回はそんなケースの想定の訓練だ。
皆それぞれ小隊ごと、馬のお世話をする方、ポップアップテントを張る方などに分かれて行動を開始だ。
私は勿論、テントの設営組。アークとアイルは、将軍さまの馬のお世話をする方がして下さっている。ありがとうございます。
「結構雪が深いね。杭が地面まで届かないよ」
「うん。雪が深いと、そうなる。しっかり杭が刺せなくて困るんだよな……」
「そりゃ、雪中用の長い杭にしていないからだよ。これ、普通の杭でしょ?」
「杭って、雪のある所では変えるの?」
「そりゃそうだよ。変えないと、杭が地面に届かないから使い物にならないでしょ。
雪が積もっている所で使うなら、こんな感じの長い物だよ」
無限収納から鉄のインゴットを取り出し、錬金術で杭を長くする。
「十センチ伸ばして、やっとこの辺りに見合う杭になったね」
「かなり長くしないと、使い物にならないんだな……。金槌も、一つは壊れるな……」
「そうだね。凍った雪と地面に無理に杭を刺すから。どうしても、壊れる事が増えるね」
日本の標準的な杭よりは長いが、ここで使うには短い杭じゃあね。冬の装備とはいい難いな。
金槌は劣化で壊れたりする事もある物だが、雪中泊の時に高確率で壊れるのは、雪中泊あるあるの一つだ。
軽く除雪をしてから雪を均し、グランドシートを敷いた上にポップアップテントを張ったが……。注目されていて怖いんだけど……。元々、私のを見て真似するって話だったけどさ。
「杭の長さは……」
「鉄は、持ち運んでおりませんね」
カーンさまとショアラさんが、杭の事を話していらっしゃる。
「杭の予備は、数がありますか?交差させて埋めて、上に雪を被せて踏み固める方法もありますよ」
「折れたり曲がったりもしますから。多めにあります」
ショアラさんから杭の予備があるとお聞きし、杭をクロスさせて使う方法を実演してお見せした。
「なるほど。刺した時程ではなくても、それなりに使えるのですね」
「はい。長さが足りないのはどうしようもありません。なら、他の方法を取るしかありませんが、それなりには使えないと意味がありませんから」
ここまでの作業は、手前で見学していた方から後方で見えなかった方に伝播してゆく。
私は後方へ周り、杭の使い方をレクチャーしたり、困っている方のヘルプに入る。
全部のテントの設営が終わると、休憩となる。グランドシート、ポップアップテント、厚地のインナーシート、インナーテントのお蔭で、冷えはかなり軽減されている。そこで簡易ヒーターを使うと、周囲よりかなり暖かい。ファスナーできっちり、出入り口や窓が閉めれるのも大きいだろう。
荷物は脚付きの梯子みたいな物に乗せるので、雨の日でも荷物は水で濡れなくなっている。人はコットで寝るので、やはり濡れなくなっている。濡れた着衣は、錬金術の水分分離乾燥法で乾かせるので、乾いた服を身に着けられる。夜は人型の寝袋で眠れるので、温かくてしっかり眠れる。
この人型の寝袋は、ファスナーで膝下辺りでつけ外しが可能だ。下を外していれば、防寒着として夜警などの時にも使える。上からトレンチコートを羽織れば、風もかなり凌げて温かい。
これらは私が来てから変わった事だ。物によって軍の方たち、冒険者さんたち、傭兵さんたち、商人などの旅をする方たちにとても喜ばれているそうだ。
軍の方たちからは、直接お礼をお聞きする事もある。冒険者さんたちや傭兵さんたちの感想は、ユリシーズさんやデジレさん、ミラさん、紅き剣、カーニバルの皆さんからお聞きした。
お役に立てているっていうのは、とても有難い。私もきっと、他の事でお世話になっているんだもん。そのお返しが出来ていれば、良いなと思う。
おっと。考え事はこのくらいにして、休まなきゃ。
「ユリシーズさん、もう鎧は脱いでゆっくりする?」
「いや、夜までこのままで」
この時代の鎧は、一人で着脱ができないパーツがある。なので、この会話は良くするよ。
「分かった。脱ぎたくなったら言ってね」
「ああ」
ユリシーズさんの鎧は、エルフさんたちの手によって修復して頂いた物だ。とても丁寧に修復がされ、丈夫になって返って来たって教えてくれた。それが嬉しいのかも。
そうこうしていると、全員集合の号令がかかった。晩ご飯作る時間か。
「では、優公。頼む」
皆が集まると、将軍さまから食事の指導を任された。これも訓練出発前、お話のあった事だ。
「はい。分かりました。夜ご飯はご要望のあったポテと、“カチョエペペ”を作ります」
ポテは味も良いが、熱い料理で具沢山。体が温まるし、お腹も膨れると希望があった。
カチョエペペは、寒い時はカロリー大事って事で。パスタにカチョエぺぺたっぷりの一品だ。味付けも、胡椒とチーズのみ。焦がす以外には、失敗のしようはないだろう。それに、今日は生ソーセージを付ける。
使う道具と野菜、調味料などを説明し、全部準備して頂く。
「じゃあポテから作りますね。あ、パスタ用のお湯も沸かして下さい。
さて。塩漬けのオーク肉は四等分にします。野菜は皮を剥いて、一口大に切ります。野菜の皮は、馬にあげられる物とあげられない物に分けて下さいね。人が食べられる物と食べられない物にも分けて下さい。
野菜が切れたら、具を全部飯盒炊さんに入れ、水を米四合の線まで入れて煮込みます。
ポテはこれで四人分です」
皆がポテを煮込み始めたら、次はカチョエペペに取り掛かる。
「お湯はしっかり湧いていますか?じゃあ少なめの塩を入れて下さい。
今日のパスタは、“リゾッターレ”っていう方法で作ります。フライパンでパスタを茹で、仕上げまでします」
皆さんちょっとずつ練習しておられたそうで、手際がかなり良くなっていらっしゃる。助かるわー。
「フライパン一つで、二人分になります。
先ずフライパンで、粒胡椒を軽く炒めます。胡椒が炒められたら飯盒炊さんで沸かしていたお湯を、フライパンの底から一センチくらいのところまで入れて下さい。そこへパスタを入れます。
パスタが少し柔らかくなったら、パスタ同士がくっつかないようにフォークを使ってくっつかないようにして下さい。お湯が減ったら、飯盒炊さんからお湯を取り、足しながら茹でますよー」
うんうん。ここまで、誰も困っていないようだな。一安心。
「パスタ、さっきより柔らかくなりました?じゃあフォークをスプーンに持ち替えて、お湯に空気を含ませるように全体を混ぜます。こうすると、美味しいソースの素になります。
手の空いている方は、生ソーセージを飯盒炊さんに入れて茹でて下さーい」
生ソーセージは、加工過程で一度も加熱されていない。だからそのまま摘み食いなど、もっての外。生の腸とミンチを食べているも同然だ。
一度茹でると、中心までゆっくり火が通る。さらにこの後焼くと、直に焼いた物より皮は破れにくいしパリパリになるんだ。中の食感は、プリプリした感じが堪らない。
「パスタはお湯が煮詰まっていますか?煮詰まったら、チーズを入れて下さい。チーズが蕩けたら完成です。
お皿に盛ってから、好みでチーズも胡椒も追加しても良いですよ」
暫く待つと、パスタはお皿に取り分けられた模様。
「空いたフライパンを軽くゆすいで、火に掛けて下さい。フライパンが乾いたらオリーブオイルをたらして、茹でていた生ソーセージを焼いて、焼きあがれば料理は全部完成です。
ポテは、塩、胡椒、生姜などで、好みの味に調えて下さいね」
「うむ。出来たようだな」
「はい。出来ました」
「あい、ご苦労だった。
各自、腹の減り具合をみて食事を摂るように。夜警に付く者はそれまでに食すようにな。
“魔道具しんぐるばーなー”は導入が決定しておる。“めすてぃん”、“ハンゴウスイサン”、“だっちおーぶん”、“魔道具ほっとぷれーと”、フライパンは、使い勝手の良い物中から一つ支給される。
それ故、使い勝手の良い物を見極める旨、忘れるな。
朝食だが、朝食は夜の内に米を炊きおけ。米、カリカリに焼いたオーク肉を入れた焼き味噌玉の汁物で済ませるように。以上」
ほ。こうして、西部調査行軍の冬季野営訓練の一日目は、無事に終わった。
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