81:サトウカエデ
「優。その木から、甘いしるがとれるの?」
ココアを作った日。エルフの皆さんに楓の葉を見て頂いた。そうしたらアレクサンドリーヌさんが、後日、似た葉の木の林へ案内すると言って下さった。
村へ帰るには遠回りになるが、今、その林へ向かっている。
「そうだよ。ホットケーキに掛けたり、お砂糖の代わりに使える、甘い液が採れるかも知れないんだ。それを調べるんだよ」
「地球では、アルコールの強い、希少な酒も作れるんだったか?」
「私が自分でそのお酒は作れないけど……。その液から、アルコールの強い希少なお酒は作られていたよ」
メープルブランデーとか、メープルスピリッツという種類のお酒だったと思う。
昔、転移して来た、多分西洋の方のお蔭で、お酒はいくらか現代の物に近づいたらしい。それでも、アルコール度数の高い物は希少。原料の糖度が低かったり、蒸溜技術が低いからのようだ。
以前、自家製レモンチェッロを作るのにスピリタスを使ったが、スピリタスか???って感じだった。
ワイン以外は、まだ殆どのお酒が自家製。これは地球の中世ヨーロッパのように、教会でビールが作られるといった、ある程度の大量生産される事がないからだ。
だから各家庭や店で、必要な量が作られていね。それはつまり、作り手によっても、使った材料によっても、アルコール度数も味もかなり変わる事になる。
店でエールを頼んでも、別の店で飲んだのと、微妙に味が異なるのが普通だったりするんだな。だから美味しいエールやビールが出る宿や酒場は、それだけで人気の店になるくらいだ。
中世にはエールしかないと思われているが、ビールとエールがあった。西洋史における中世、十五世紀を少し過ぎるが……。千五百十六年、ドイツで『ビール純粋令』っていう法令が制定されているのだ。ビールと定義される物がなければ、そんな法令は制定されないだろう。
ラガービールに少し触れると、ラガービールの原型が誕生したのは、ビール純粋令が発布される前、十五世紀頃の事と言われている。ラガービールの登場は、まだ少し後になるけどね。
そんなエールとビールをざっくり説明すると、ホップは使われておらず、従来のハーブ入りの物がエール。ビールはホップ入りの物のみを指す。
もしかしたら中世のビール類は、現代と同じように分けようとすると、混乱するのかもしれないね。ただ、ビールとは呼ばれていたお酒はあったみたい。
そんなビールは水が飲み水に適さず、身分も年齢も関係なく、水代わりに飲まれていた時代や国があったそうだ。そんな歴史は、こちらも地球も同じらしい。子どもも飲み水代わりにしていたのだ。アルコール度数は、そこまで高くないと思われる。いや、そうであって。
日本茶やコーヒー、紅茶がもてはやされたのも、安全に飲める飲み物という理由も大きかったみたいだけどね。
蒸溜酒がいつからあるのか知らないが……。糖度が重要であるなら、サトウカエデは充分な糖度があるだろう。だから、糖度の心配はないと思う。糖度が充分で、ある程度の蒸溜技術があれば、それなりにアルコール度数の高いお酒も作れると思う。
メープルブランデーは、アルコール度数が四十度くらいだったかな。結構きついが、甘い香りで呑みやすい。洋酒も好きな兄貴からは、そう聞いた。
「蜂蜜酒も美味しいけれど」
「アルコールの強い美味しいお酒……」
「ごく……っ」
「呑みたーいぃっ!!」
エルフさん達には五十歳くらいから百歳くらいになるまでの約五十年、旅をして色んな経験を積む風習があるのだそうだ。
アレクサンドリーヌさんとマルゴーさんは、百歳近いと教えて下さった。そんなアレクサンドリーヌさんたちが、最後に可能な限り、あちらこちらを見て回ろうと組んだパーティ、カーニバル。
あちらこちらを見て回る強さもあり、国外も精力的に見て回り、その土地の食べ物もお酒も楽しんで来られたそうだ。
そんなカーニバルの皆さんに、美味しいお酒?!期待されても、お酒そのものを作った事はないんだって!!
それより、私はコーンスターチが欲しいぞ。スイートコーンは、食用として馴染み深いよね。爆裂種からはポップコーンが。デントコーンから、コーンスターチは作られる。家畜の飼料としても、この種類が使われていたはず。
コーンスターチがあれば、料理の幅が広がるのになあ。
「優ー!フィリね、温かいミルクとか、甘いここあみたいなのが良い!フィリがのめる、甘いおいしいの!」
「そうだね。メープルシロップは飲めないけれど、メープルウォーターは飲めるよ。ほんのり甘くて、美味しいらしいよ」
フィリベールくんの可愛い希望に、意識が引き戻される。はあ、可愛いな〜。
「それには先ず、探している木なのか確かめてからか」
「うん。サトウカエデは触った事があるから。葉っぱとかがあれば、無限収納へしまえば分かる。後は、地球と同じであることを祈るばかりだね」
無限収納は、ある程度鑑定として使える。
成分でルビーと鑑定出来なかった昔の地球では、赤いルビーっぽい石全般をルビーと言っていた。
だから、どこかの宝物でルビーとされていた宝石が、現代になり、鑑定してみたら赤いスピネルだったと分かったなんて事があるんだ。
こちらでは、成分は分からなくても無限収納へ入れてみたら良い。変わった使い方だと、王族や貴族は毒見が終わり、運ばれて来た食事を一度無限収納へしまうでしょ。そして、「毒の入っていない食事」と言って、出て来るかどうかで毒の有無の鑑定に使う事だな。
これは毒見の後に、毒を盛られていないかの確認だって。
お父さんと私が作った食べ物で、そうやって鑑定している方を見た事がないけどね……。
この方法は冒険者も使っている。ある程度馴れた冒険者だと、この方法で似た違う物が混入していないかの選別に使う人が多いそうだ。
他にも知らない土地で、初めて見る獲物を食べる時とか。きのことか、素人に食べれるきのこかどうか見極めるのが難しい時にも便利だそうだ。
私はこの行軍中にユリシーズさんに教わり、無限収納へ入れた食べ物には実施している。聖魔法より簡単なんだよ。
積極的に無限収納での鑑定が推奨されているそうなのだが、まだまだ浸透していないのが残念だな。
「ここよ。多分、見せてもらったのと同じ葉っぱの木の林だと思うんだけど……」
「ありがとうございます。確かめてみますね」
キャンピングカーの外へ出ると、落ちていた葉っぱを拾い、無限収納へ収納。いざ!
「サトウカエデの葉」
「出てきたな」
「探していた木なのね!?」
「甘い汁は採れるかしら?」
「冬の終わりに、汁が採れるか確かめるんだったわよね?」
「まだまだ先の話ー」
「お酒ぇ……」
冬の始めは、樹液の採取の時期と違うけど……。皆があまりにも期待しているので、試しにメープルウォーターが採れるのか試してみる事にした。
直径三十センチ以上ある木を選び、小さな穴を開ける。そこへ金属の取水口を取付け、樹液を溜める蓋付き容器をぶら下げれば準備完了。
「明日、樹液が溜まっているか確かめに来ましょう」
大人は皆オッケーなんだけど、小さなフィリベールくんには樹液が溜まるのを待つというのが理解できず……。
今日はメープルシロップの代わりに、スウェーデンのお菓子でエッペルモース。これはりんごを煮潰し、最後に砂糖で味を調えた物だよ。ここでは蜂蜜で作った物だけどね。それにアップルカスタードパイ。それをおやつにして、今日の楽しみを作ってあげた。
ふふふ。子どもは大人以上に、二つの事を同時に考えられないから。上手く誤魔化されてくれて助かった。
我儘が言えるようになったのなら、それはそれで喜ばしい事ではあるんだけどね。
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