80:色違いは材質違い
昨日はカーニバルの皆さんも、そのまま一緒に過ごした。
夜はそんなに食べれないって事で、遡上ダツの天ぷら、湯豆腐、茶碗蒸しを作ったよ。
四畳半の小上がりに置いている、六人用こたつ。それがちょっとぎゅうぎゅう詰めになったのは構わない。
問題はご飯。遡上ダツの骨が青いのは、地球のダツと同じだった。なので、驚く事でもない。だが味は全く違い、サンマに近くてなかなか美味しかったからさ。またも、もりもりご飯を食べてしまったのが辛かったわ…………。
寝るのは二階建てキャンピングカーを急遽出し、カーニバルの皆さんにはそちらで寝て頂いた。
朝こそは軽めの食事って事で。雑炊、トラウトサーモンの切り身の焼いた物、柿の白和え、収穫してすぐ食べられる品種の白かぼちゃの煮物の朝食を摂った。
トラウトサーモンは、川で一生を過ごすサケ科の魚全般を指す。トラウトサーモンはこちらでも鮭に良く似た味で、とても美味しい。大衆魚として、広く食べられている魚の一種なんだ。
大衆魚というくらいだから、トラウトサーモンの切り身の味は分かっている。
白かぼちゃは、こっちへ来て初めて食べて好きになったよ。
熟成の必要な種類は、たまに熟成不足で甘くない物に当たる事があるんだけど……。収穫してすぐに食べられる種類は、殆ど外れがない!しかも、栗みたいにほくほくしていて、甘みが強くて美味しいんだ。
味がしっかりしているので、ほとんど味付けしていない薄味の煮物にしても美味しい。一番美味しいのは、じゃがバターみたいにした一品。これは老若男女問わず、好きな人が多いんだって。
甘い物が少ないしね。とても甘いので、納得だ。
雑炊は、これもかなり薄味にしたからか?皆、そんなに食べなかった。
そして、軽めの朝ご飯を食べ終えると……。
「水海胆ー!」
昨日食べた川牡蠣も水海胆も初物だが、身の大きさも味も良かったそうだ。なので、少し村へ持って帰ろうと、カーニバルの皆さんに教わりながら、川牡蠣と水海胆採りをする事にした。
雪が深くなりそうって事で、これが終わったら、そのまま村へ一緒に帰る事にもしたよ。
「優は牡蠣も海胆も、採るのが早いな」
「優ー。フィリもとりたいよー」
「そうかもー。牡蠣も海胆も、いそうな所が分かったかな。
フィリベールくんは……。子ども用の防水着がないから、冷たい川には入れないよ。
川に入るより、採れたのを見張っていて。牡蠣も海胆も逃げるかもしれないから。見張っていてくれたら嬉しいな」
牡蠣も海胆も、バケツから逃げ出せはしないだろう。嘘も方便だ。
「とったのに、逃げちゃうの?逃げちゃダメーっ。フィリ、みはっている!」
「そうしよう。俺と見張っていような」
ユリシーズさんは、この行軍中に冷たい水に入る事になるとは予想していなかった。そのため、胴長みたいな物は持って来ていない。だから、銛で突いて採れた物を川辺りに投げると、フィリベールくんと拾い集めてくれている。
私も持って来ていなかったが、私はエブリンさんの予備をお借りできた。そろそろ新しい物に変えても良い頃合いだから、準備していらっしゃったんだって。
お借り出来たのは嬉しいんだけどさ……。エブリンさんは長身痩躯で足も長く、足の部分が余るのが悲しい……。
それにしても、冷えが伝わるな〜……。
魔法攻撃の軽減の魔石とか守護は、魔法攻撃にしか効かないんだ。
今みたいに攻撃を受けていない時は、加護があっても加護なしと変わらないという……。
お借りしている胴長みたいな物。火や氷の魔法攻撃を受ける場での使用を想定していないから、そもそも魔法攻撃の防御仕様にしていないそうだ。湖に注ぎ込むまでの間に、防御魔法が必要な魔物がいないから、魔石を使っても守護を施しても、意味がないって事だしね。
魔法で防寒はされていないが、フエルトみたいな物で作られた裏地は、胴長に取り付けられてはいる。だが、そろそろ限界かなと思った時だった。
「もう終わりにしましょう」
「そうね、もう充分採れたわね」
長い銛の先、かかった最後の獲物を引き上げつつ、了承の返事を返すのも忘れて見入っちゃった。
「これ……、白スケバージョンのスケーリーフット???」
獲物に合わせた細い銛の先の、スケーリーフットみたいなのの殻。死骸なのか、殻だけだけど……。白というか、銀色をしている。板金鎧マイマイは黒っぽくって、黒スケと同じく鉄を纏っていた。
んじゃあ、銀色のこれは?
「さすが優さん!」
「銀色の、板金鎧マイマイ?新種かしら?」
「ホントだ。黒くないね」
「板金鎧マイマイが、黒くなる前ぇ?」
固まっている私の周りに、カーニバルの皆さんが集まって来られる。水の中で話すのは寒いから、岸に上がってゆっくり観察しようとなった。
それもそうだと、隠れ家になっているのか、沢山川牡蠣と水海胆がいた、葦の茂みを離れる。
雪で足元は少々悪かったが、出しているからそのままここまで乗って来たキャンピングカーへ。暖房は点けたままにしていたので、中は温かい。だが、どうせならお風呂へ入って、体が充分温まってから観察しようと提案した。
皆お風呂に入り、人心地つく。全員が揃うとじゃが芋のポタージュを飲みながら、銀色の板金鎧マイマイの事を話し始める。
「銀色のスケ……、板金鎧マイマイは、今まで発見された事がなかったんですか?」
「知る限り、黒いヤツだけだよ」
ユリシーズさんの言葉に、カーニバルの皆さんも頷いていらっしゃる。
「鉄の産地で、鉱滓も出ず、純度の高い鉄が簡単に採れるから飼われているけど」
「どれも黒いわよ」
板金鎧マイマイは、土や鉱石を食べる事で含有されている鉄を、殻や鱗状の鉄に錬成するのだそうだ。掘った穴は排出物も上手く使って塞ぐので、後の心配もないと。何とも優秀な鉱夫だ。
紐を着けて朝に放ち、昼頃に紐を手繰って回収する。すると、錬成して新たな鉄を体に付けていると。殻以外の鉄を取って、夜間は餌と休憩の時間となる。一晩休ませ、朝に穴へ入れると、昼頃にはまた、鉄が採れるようになっているって。
採れる量は、体から四回も鎧状の鉄を剥がせば、自然に生息している個体の三倍くらいの厚みの殻と鎧になるそうだ。
いや、本当に。優秀すぎだろ!板金鎧マイマイ!
「鉄を採るのに、かなりの数が人の目に触れている」
「そう。それでも、黒い物しか報告されていないの」
「分類され直す前は、鉄カタツムリって言われていたくらい昔からの事よ」
「へー?そうなんだ。昔からとしか知らなかったわ」
「頭使う事は、皆に任せるぅ」
獣人のお二人はそう仰るが、森の賢者とも言われるエルフとエルフのハーフのお二人に、知識では敵わないだけだ。獣人のお二人も、Sランク冒険者に相応しい大変な知識を持っていらっしゃる。
今日は完全に、アレクサンドリーヌさんとマルゴーさんに任せるようだが。
取り敢えず、銀色の板金鎧マイマイの殻を無限収納へしまう。銀製の殻と念じたら出てきた。これで銀色の物質は、銀で確定だ。
色々話し合った結果、午後から川の周辺やちょっと上流を、少し調べてみようとなった。
◇
ユリシーズさんとフィリベールくん。カーニバルの皆さんは、川の周辺で銀の板金鎧マイマイを探している。
私は結界を張り、浮力で浮かないようにしつつ、川底を探してみる事にした。
紀元前生まれのアレクサンドロス大王が、ガラス玉で水中遊歩した事があるらしいのだ。
地球の紀元前に、そんな事ができていたんだよ?魔法なんかがあるこの世界なら、工夫すれば似たような事が出来るんじゃないかと。単純に思ったんだ。
もう一つ、結界を工夫した理由がある。
冷え性ではないが、胴長で、冬の水の中の活動は流石に寒いからね。結界なら、濡れずに水中も覗けるしさ。胴長の時と同じく湯たんぽも持っているんだが、今の方が断然温かい。濡れないし温かいし、一石二鳥。
休憩しながら夕方まで探してみたが、残念ながら今は収穫はなかった。
しかし翌年の夏、国から正式な調査隊が派遣され、綿密な調査が行われた。そして新たな銀鉱山と、生きた銀の板金鎧マイマイが発見されたんだ。
この世界でも、各国、国外への金の流出は避けている。貿易には金の代わりに、銀が貿易通貨として使われているんだ。だから、銀は需要が高い。
はい……。またも凄い高額の報奨金を、来年の冬に頂く事になると、今の私はまだ知らない……。
お読み下さって有難うございます。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
面白かった、良かったなど、お気楽に下の
☆☆☆☆☆
にて、★1から★5で評価して下さいね。
いいね!も、宜しくお願いします。
続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!
感想や応援メッセージもお待ちしています。