8:調査行軍出発
「体には気を付けるんだぞ」
「うん、十分気を付ける」
「無事に戻ってね」
「無茶はしないよ。ちゃんと帰って来るからね」
「お姉ちゃん、たまには連絡してね」
「週一くらいで電話するつもりだよ」
「ユリシーズ、優を頼んだぞ」
「はい。しっかり守ります」
公爵への叙爵から一週間後。私は予定通り、シュシェーナ王国西部の調査行軍に出る事ととなった。
「ああ、早まったねえ。パーティーを抜けてなければ伝説のSランクパーティー、カーニバルと同行できたかもしれなかったのに…」
今回の調査行軍から、アレクサンドロス大王の話を聞いた国王陛下のご指示で色々変わっているそうだ。
一番変わったのが、錬金術系の学者さん達及び自然史系の学者さん達の同行。その数も30人と中々の人数だ。
二つ目は軍人さん以外の同行。それがアカザさんが羨むSランクパーティー、カーニバルの参加だ。
カーニバルはアカザさん達女性冒険者の憧れの的なんだって。
女性四人のパーティーでありながら、女性だけで結成されたパーティーとして初めてSランクにまで上り詰めたんだと教えてもらった。
そんなパーティーだが、いつまでも自分たちを頼っていては下が育たないと姿を出さなくなっていたんだって。
それが集団暴走を食い止める戦いに現れ、今回の調査行軍への参加要請に漕ぎ着けた経緯らしい。
「冒険者だからやっぱり上を目指すものなんでしょうが、私は出会ったアカザさんと、紅き剣が好きだよ」
ランクなんて関係ない。アカザさんと、アカザさんの率いる紅き剣が本当に好きだったと伝える。
アカザさんは驚いた顔の後、破顔した。
「…それも悪くないね」
どうやら気持ちは伝わったようだ。
「優さん、ユリシーズさん、そろそろ馬に乗りな」
家族と別れを惜しんでいると、カーニバルのリーダー、エルフのアレクサンドリーヌさんに声をかけられた。
「分かりました。旅の間、お世話になります」
「こちらこそ宜しくお願いね」
神聖隊みたいなBLの精鋭部隊から行進が始まり、私が入るのは正規軍の最後方。直ぐ後ろは学者さんたちの一団。その後ろは洗濯や料理をする方たちや、それらに加わる正規軍の方の奥さんや恋人に、黙認された娼婦の方達といった非戦闘員の一団。最後尾はまた正規軍の一隊で構成されている。
色々混じってはいるが、ちょっとドイツ傭兵のランツクネヒトを彷彿とさせるね。さすがに酒保商人はいないけどさ。
物申したい参加者もあるが、黙認された娼婦がいないと、通りかかった町や村での婦女暴行率が跳ね上がるらしい。
しかし軍の編成にまで口は挟めないので、黙っているしかなかった。
これでもその辺まで考えられて組織され、常駐の国軍たるシェーナ軍はその勇名を天下に轟かせているそうだ。また、品行方正さでも名を馳せているとも。
他の国には常駐の軍はほぼなくて、事が起これば領主軍や傭兵が主戦力となる中世らしい構成みたい。
戦争は殺し合いメインより、捕虜にして身代金をとるスタイルも似ている。
まあ、そんな構成のシュシェーナ王国正規軍と、私達や非戦闘員の人たちからなる314人は西へと向かう。
「お父さん、お母さん、サーラちゃん、行ってきます!」
「本当に優もユリシーズも気を付けろよ」
「はい!」✕2
◇
「よし、本日はここで野営とする!」
将軍さまの言葉であたりには天幕が張られたり、夕食の煮炊きが始まる。一部の方は肉類は現地調達が基本のため、猟へ出る用意をしているな。いくらかは持っているが、初日から気は抜かずに狩りをするようだ。
そんな様子を横目に、私は土魔法でお風呂を作る。続けて女性たちのための土魔法のアパートも作る。
「将軍さま、お風呂と女性たちの宿舎できました」
「うむ。女性達には仕事が終わったら入らせ、風呂は隊ごとに使わせよう」
毎日お風呂へ入る決まりも今回できた。寝るまでにヒーリングを受けるのも決まりにしてもらっている。
軍医さんたちのヒーリングのお力は相当なもので、狂犬病やエキノコックスなどは知らなくてもちゃんと癒せる癒し手だと陛下の医術団の長、ヘイエルバート・サフォランド卿からお伺いしている。
以前は菌や寄生虫の存在を知らなくても、それなりの確率で癒していらしたそうなのだ。
だが菌や寄生虫を知ってからは、癒せる確率が跳ね上がっているって!凄い!
「アーク、アイル。また明日お願いね」
[うむ]
アークとアイルは非戦闘員の馬たちのお世話係さんが一緒に面倒を見て下さるので、そちらへお預けする。
私とユリシーズさん、それにカーニバルの四人は変形40フィートのコンテナハウスで寝泊まりするので、さっさとコンテナハウスを出してしまう。
「さ、カーニバルの皆さん、ユリシーズさん、クー、ルー。私たちもご飯にしよう」
カーニバルの四人はポカーンとなさっている。まあこのサイズの物がしまえる人はいないからね…。
「ご飯より、とりあえず温かい飲み物が飲みたいな」
「まだ雪も残ってて寒かったもんね」
〘クーはヌクヌクしたい〙
〘ルーはゴロゴロしたいのー〙
「そうだね。一日ゆっくり走ってたもんね。毎日走れそう?」
〘うん!〙
〘平気なのー!〙
クーとルーはたくさん走れて、逆にご満悦なようだ。さすが獲物が弱るまで後をつけて狩りをする事もある狼。まだ子供のフェンリルだが、スタミナはバッチリみたいで安心した。
「優、とにかく入ろう」
「そうだね」
こうして調査行軍の初日は何事もなく過ぎたのだった。
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