78:冬の味覚の鳥
「ユリシーズさん!大丈夫?!」
「ああ、大丈夫。兜のお蔭で助かったよ」
戦闘が終ると同時に、私はユリシーズさんに駆け寄った。
兜の表面には、ブルビィの脱皮した革を貼ってある。なので、この部分にあたったのであれば、貫通どころか、凹みすらできていないだろう。
だが、強化スライムガラスの部分の強度。これがトツゲキドリの突撃に耐え得るのか不明だ。
「良かった……っ!無事だった」
ユリシーズさんに近寄り、自分の目で無事を確認してほっとした。
「ガラスに突撃して驚いたけど、大丈夫だよ。優の作ってくれた兜が、守ってくれた」
トツゲキドリは名前の通り、突撃攻撃を得意とするのだ。その威力はかなりのモノで、人の体くらいなら、難なく貫通する程の威力がある。また、特に頭を狙って突撃する。
ユリシーズさんと一緒に読んだ本には、そう書かれていた。
「うん、うん……。兜被ってくれていて良かった……」
「優は?優こそ大丈夫?」
「私は大丈夫。結界張っていたから」
「そっか。優が無事で良かった」
暫くはそうして、お互いの無事を確かめあった。良い物を見付け、テンションが上がっていた。嬉しくて、ちょっと警戒が疎かになっていたかもしれない。そのくらい、見付けたのが嬉しい物。
「草食動物も大きめの鳥も沢山いたから、それでこの辺を餌場にしていたのかな?」
「そうだと思う。この植物のある辺りは、この時期、穀物を食べる動物にとって良い餌場だと思うから」
今日は朝から先へ進み、この植物が生い茂る一帯へ辿り着いていた。ここは動物たちの餌場であり、私が喜んだ植物が繁茂している。
この一帯に生えているのは、陸稲と書き、りくとう、又はおかぼと地球では言われる稲だと思う。
陸稲は畑で育つ稲で、小麦みたいに畑に種を直に撒く稲だ。
〘優!ユリシーズ!〙
〘追っ払って来たの!〙
〘二人共、無事?〙
「クー!ルー!シルバー!追っ払って来てくれてありがとう。皆も、怪我していない?うん、私もユリシーズさんも無事だよ」
大丈夫って返事と、体を見せてもらってほっとする。うん、怪我がなくて良かった。
鳩より一回り大きいくらいの大きさのトツゲキドリは、小さな群れを作って生きている猛禽類だ。群れで狩りをするのは、狩りの成功率をあげるためではないかと推察されている。
大きさ的に一羽ずつ倒すのは手間なので、群れに向けて強い氷魔法を放って倒すのがベターだそうだ。
その為、戦闘をした辺りには、氷漬けになったトツゲキドリが何羽も落ちている。
〘無事で良かった……!〙
〘優たち、やっぱり強いの!〙
〘そうだね。優にしてもユリシーズにしても、一人にしても、いくらか安心できる強さだね〙
シルバー。災厄級の強い魔法が使えるフェンリルと、ただの人間の強さを比べないで!
「強さはそうでもないけど……。
それより、クー、ルー。初めてのトツゲキドリとの戦いはどうだったの?」
〘そうだなぁ。翼を狙って風魔法放つより、倒すの簡単だった!〙
〘そうなの!空にいる群れへ、思いっきり氷魔法放ったら倒せるの!〙
〘とても素早いし、小さいし……。一羽ずつ相手はしていられないからね〙
火魔法って、実はあまり使わない。標的だけが燃えるのなら良いが、下手すると大規模な火災の原因になるからだ。
川や小さな池など、水が少ない場所に火魔法が着弾するような使い方も、基本的にしない。水の温度が上がって、広範囲の生き物が全滅なんて事に成りかねないからね。
熱い空気や水蒸気による、気道熱傷や辺りへの被害も恐ろしいからっていうのもある。
その為、魔法での攻撃は、風魔法か氷魔法、土魔法を用いる。
ただ、氷魔法だけは若干、使い方に注意が必要だ。
これは魔物だろうと人だろうと、余程の事がなければ変わらないと、ユリシーズさんとシルバーから教えてもらった。
だから地面には、完全に氷漬けになった個体以外にも、片方の翼だけとか、飛べない程度に凍っているが、まだ生きているトツゲキドリがばたついている。
そんなトツゲキドリたちに止めを刺し、無限収納へ入れていく。
〘この鳥、割と美味しいんだって!〙
〘食べるの、楽しみ!〙
〘優、これ、茹でてくれないかな?〙
「良いよ。美味しいなら、私も食べるの楽しみ」
「独特の癖がちょっとあるけど。それが気にならない人には、美味い鳥だって人気がある」
「へー?そうなの!私はどっちだろうな。ユリシーズさんはどっち?」
「俺は、癖がちょっと気になるな。出されたら食べるけどって感じ」
「そうなんだね」
積極的には食べない感じか。
「優ーーっ!おにーーちゃーーん!」
お?フィリベールくんが、お昼寝から起きたようだ。アークとアイルはコンテナハウスの横、土魔法で作った厩舎に入っている。
コンテナハウスと厩舎を、結界で守っていて良かった。夜とかのクーたちがいる時でも、結界は張っている。
狂った生物は、フェンリルの気配がしても襲ってくるからだ。過去にそんな生物を目の当たりにしたので、結界は必ず張るようにしているんだ。
「直ぐ戻るから。暖かい中で待ってて!」
フィリベールくんに返事を返し、トツゲキドリを集める事に専念する。
陸稲もそれなりに刈り取れているし、集め終わったらコンテナハウスに戻ろう。
◇
「この鳥は、寒くなると高地から平地に下りて来るんだ。だから、冬の味覚の鳥とも言われている」
「冬の味覚の鳥って、何だか不思議。日本には、冬の味覚の鳥はなかったから」
「へえ、そうなんだ。俺にはその方が不思議」
コンテナハウスに戻り、数羽のトツゲキドリの血抜きをして、八十度のお湯の中でする羽毟りが終わっている。
毟った羽は後で羽毛と羽根に分け、羽根はさらに羽軸が細く短い物を選り分けて残す。羽毛布団とか羽根布団、枕などに使うためだ。
本体の方は、次は内蔵を取るのだが……。
私は、これはにはまだ慣れれない。なので、この作業はいつもユリシーズさんがしてくれている。
「あ、これ、雌だ。キンカンがある」
キンカンは卵の元というか、卵の黄身だけの様な物というか……。まあそんな物だから、雌からしか取れない、希少な物だ。
ユリシーズさんの好物の一つでもある。
「いつもみたいに、甘辛く煮るね」
「うん、楽しみ」
ユリシーズさんが解体してくれている横で、クーとルーとシルバーのためのトツゲキドリを茹でている。
アクを取りながら軽く茹でて冷ますと、ご飯用の器に入れて三匹に出してあげる。
「お待たせ。茹でトツゲキドリだよ」
〘わーい!食べ易いご飯!〙
〘毛も羽もないご飯!〙
〘人にしか作れないご飯、食べ易いよね〙
クーたちも、物凄く注意すれば火魔法で丸焼きなら作れるかもしれない。風魔法で食べ易く切る事もできるかもしれない。
だが、茹でた物は作れない。ましてや、羽を毟ったり皮を剥いで作る物はね。
そういうのは食べ易くて好きらしいので、たまにリクエストされるのだ。
〘うまっ!うまっ!〙
〘骨は美味しいのに、毛とか羽は美味しくないもんね!〙
〘ああ。口に残るし、美味しくないね〙
そう言いながら三匹は、この大きさなら切り分けなくて良いといったトツゲキドリの丸茹でを、バキボキと骨を噛み砕く音を立てつつ食べている……。
流石、肉食獣の食事だ。三匹の食事風景だから怖くはないが、ちょっと引くのはご容赦願いたい。
クーとルーは一羽。シルバーは三羽食べ、満足したようだ。
〘ごちそうさまーっ!〙
〘お腹いっぱい!〙
〘くあ……っ。お腹が膨れたら、眠くなっちゃうな……〙
「寝てて良いよ。ご飯の準備していて、外へは行かないから」
そう言うと、三匹は丸まって眠り始めた。
「優、部位毎に分けれたぞ」
「ありがとう。じゃあ、夕飯作るね」
今日はトツゲキドリのトリ尽くしご飯の予定だ。
以下、鳥と言うが、鳥飯、鳥天、鳥ステーキ、ロースト鳥、蒸し鳥などなど。鳥一羽分を、少しずつ色々な料理するんだ。
料理ができて味わってみて、私は陸稲で作った鳥飯が、一番美味しかった。お米はあったものを収穫したから、いい状態ではなかったけどさ。
有難い事に、お醤油や日本酒があるが、それはどれもどこか風なんだ。このお米は、古米っぽくはなっているが、食べ慣れたお米にとても近くて……。
酷く懐かしくて、そして、とても美味しかった。
ユリシーズさんは鳥ステーキ。フィリベールくんは、蒸し鳥が美味しかったそうだ。
食べてみて、確かに癖を感じた。美味しくなる調味料や調理方法を考えて、限りなく日本食に近い物を作ろうと思う。
それより先に、明日の朝。炊きたてご飯にみそ汁、焼き魚、だし巻き卵のご飯を食べるんだ。
記憶から遠ざかりつつある、本当の和食の味を思い起こさせるお米。これを兎に角食べたいからね。
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