74:修理と新たな兜
「こんなに凹んだまま使っていたんですか?!もっと早く、ちゃんと修理してもらえば良かったのに」
調査行軍がお借りしている広場の一角。
「そうなんですが……。度々は気が引けて、どうしても……」
エルフさん達の村に着いた翌日は、一日お休みだった。
お休みの翌日の今日からは、冬支度と武器防具の修理をして、厳しい冬に備える。
武器、中でも刃物系は、鍛冶師さんにメンテナンスして頂くのが一番良い状態になるんだ。
なので、刃物はタドリィ親方達鍛冶師さんにお任せとなる。
しかし、防具。それは錬金術で直しても、職人さんが直したのとそこまで差はないので、私にもお手伝い可能だ。
食料の確認はもう終わったので、こちらのお手伝いを申し出た。武器の手入れだけでも、かなりの時間がかかるからね。
防具は凹んだら、すぐ直さないとだしさ。脱げない、外せないレベルならすぐに修理に出されるが、少々の凹みだと、後回しにする方が多い。
凹みをそのままで使うとだな……。
「足、見せて下さい。このくらい凹んでいたら、青タンができていたり、鬱血したりしているでしょ?」
戦闘中でも余裕があれば、直せる範囲は直していらっしゃる。錬金術があるおかげで、地球では修理に苦労する物もさっと直せるからね。そうしないと、思うように体を動かせなかったりするので危険なのだ。
だが、いざ戦闘が終わると、まだ良いかと、後回しにするケースが増える。
そして、自然に治るのを待てない、酷い青タン等を作ってしまうのは困るのだ。
「調査行軍へ出発前、説明があったはずですよ?遠慮はいらないって。だから、度々はとか、言いっこなしです」
思った通り。足には見事な青タンが出来ている。一昨日、狩りへ行っていて出来たという凹みで出来た青タンだから、まだ治っていない。
「痛いのを庇いながらじゃ、しっかり戦えないでしょ?ご自分の命を守るためにも、ちゃんとすぐ修理に出すようにして下さいね。
足はヒーリングしましたけど、まだ痛いですか?」
「いえ!すっかり良くなりました。助かりました。
次からは、早めに修理に出します」
「そうして下さいね」
お一人分修理が終わると、次の方の修理に取り掛かる。
皆が使っている物には、消音魔法と強化魔法、魔法攻撃のダメージを軽減する魔石が組みこまれているのはお揃いだ。
甲冑、特に金属製の物は、あちこちから物音がするからね。消音魔法で音を消し、物音で気配を悟られないようにするのは当然。
魔法攻撃、特に炎と氷魔法のダメージを軽減するのも常套なのだそうだ。
だが、同じ軍と思えないくらい、鎧も剣も材質もデザインもバラバラ。
武器は有料で貸出しもあるが、基本的に装備は自前だからね。
何故なら板金鎧は大変お高いのだ。国が一人一人に用意すると、国庫を圧迫可能なレベルでお高い。
剣もそれなりの物となると、やはりお高い。
あと、出来るまでに時間がかかる。それをいっぺんに何人分も用意しようと思っても、量産品ではないので不可能っていうのもある。
見た目が揃っているのは、意外と古代の方が揃っていたりするんだ。または近代。
槍の長さとかも決まっているが、使いやすい長さに切ったりしてカスタマイズもザラ。
これで矢衾を作ると面が凸凹しちゃうが、こちらでは見た目より、取り回しや扱いやすさ重視で問題ないらしい。
そんな事を知っていて、色んな方の色んな装備を眺めて楽しむのも悪くない。
魔物を相手にする方たちだからか、多くの生き物が狙ってくる首周りの装備はしっかり着けているよ。喉当と兜から独立した首のギプスみたいな錣、両方着けている方が殆どっぽい。
鎖帷子か、それに変わる装備もしっかり着込んでいるな。けど、対人戦みたいに股関節を狙われる事が少ないのか、草摺を装備している方はいないね。
あ、ミラノ式甲冑みたいな方もいるよ。ミラノ式甲冑は盾を持たないから、左肩と左肘のパーツを大きくして、それを盾代わりに使うんだ。
あれはやっぱりミラノ式甲冑みたいに、あのパーツを盾代わりに使っているのかな?
槍を使う方は、槍掛があるからすぐ分かるな。良く見ると、左右の腕のパーツも違うしね。
将軍さまや双頭隊の方たちは、胴鎧の一部に、緻密で美麗な模様をあしらった物も多いな。あれ、そこが割れやすいとかないのかな?
とはいえ、やはり良い甲冑は見応えがあるな〜。
などなど。眼福、眼福。
地球のとはちょっと違うかも知れないが、一度にこんなに甲冑を見る事はそうないからね。
魔物相手だからか、ある程度は機動力も確保されている物へ進化したみたいだ。
西洋の甲冑、転んだら一人で起きれない物もあるって聞いていたが、それじゃ魔物とは戦えないと思う。魔物と戦う機動力を確保しつつ、重装備へと進化したっぽいのが面白いな。
そしてこの装備は、槍を使う方は腕の装備を。足技の多い方は、足の装備をしている。
剣や魔法で戦う方は、頭と首、胴を護る装備だけだが、慣れると動きやすいからか、不評から一転。好評に変わっていた。
以前、有志で作られた部隊も同じだったな。その部隊では動きが変わったので、剣の主流が変わりつつあるらしいとも聞いている。
覆っている部位が減った分、夏も過ごしやすかったそうだ。
鎧の形をした鍋の中にいると考えれば、かなり劣悪な環境だというのが分かるだろうか?それとは比べるべくもないだろう。
ただ、頭。兜はどうにかしたいんだけどね。
兜を被ると、先ず、視界が極端に狭くなる。音も遮断されて、音を聞き取り難い。暑くてぼーっとなりやすい。など、問題も多いんだ。
ユリシーズさんは、兜は被っていない。兜まで揃えられるのは、Aランクになって少しして、やっと購入を考える装備らしい。
Sランクの今は金銭的には揃えられるが、兜の装備は考えていないそうだ。
なので、装備しているのは兜から独立した、首のギプスみたいな錣。胴鎧。肩当。それに剣というスタイル。プラス、マント。それで全て。
マントはちょっと良いお品で、それは冒険者になった時にミラさんから剣と共に贈られた一品なのだそうだ。
デシレさんはその頃には家にいなかったので、デシレさんから贈られた物はないそうな。デシレさんとミラさんらしいな。
そんなユリシーズさんが選んだ防具は鉄製ではないが、魔物素材で鉄と同等か、それ以上に防御力がある高級品だと聞いている。
仕事道具にお金かけるのは当たり前と、切り詰める所は切り詰めてまでお金を融通して選んだ一品なんだって。これはこれで、ユリシーズさんらしいと思ったものだ。
しかし、……。
「うーん……」
「優?」
「ユリシーズさん。兜被ろう?」
「あー……。音が聞き取り難くなるから。何より、視界が狭くなる」
ここまで幾つか戦闘を見て思った事。ユリシーズさんには兜を装備して欲しいって思った。だが、利点より難点が先に立つらしい。
「これ、被ってみてよ」
無限収納から出したのは、バイクのフルフェイスのメットみたいな兜。
シールドは、スライムの成体の革を魔物の膠で接着して五重にした、強化スライムガラス。少しでも視界が確保出来る様に、横に長めに強化スライムガラスを使ってみた。強度が許す限り穴も空いていて、呼吸も多少は楽に出来るようにしてある。
音はねー……。耳の辺りに穴を幾つか開けたけど、ちゃんと聞こえるかな?
「ありがとう。嬉しいけど、俺の装備より、優の装備だろ。何一つ、まだ装備を持っていないままなんだから」
「私?冒険者でも傭兵でもないし、使わないよ」
「あのな……」
この後すったもんだしたが、私の装備を作る事になってしまった。すったもんだしている間に、ユリシーズさんに作った兜は何故か沢山注文が来たんだが……。
で、これ。やっぱり私が作るの?
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