72:エルフの村へ入る準備
「あったーっ!!」
辺りは黄色く色づいた木々が増え始めており、緑の時より探すのが楽だった。
暇を見付けては探して、とうとう見付けたんだ。
見付けたのは楓!そう、メープルシロップの原料、メープルウォーターが採取出来る木だ。
「この木がどうかしたの?」
「うん!この木ね、地球では“メープルシロップ”っていう、液体の甘味料が採取できるんだ!」
私に作れるかは分からないが、お酒も作れる。
「へえ、甘い液体が?」
採取できるのかは試さないと分からないし、採取出来ても、果たしてメープルシロップになるのかも分からないが……。
「メープルシロップの原料のメープルウォーターの採取は、二月の末から三月上旬までとか、三月一杯とかだったかな?
試すにしても、まだまだ先だな」
「そっか。エルフの住む森に、もっと生えていると良いな」
「うん!」
変わった生き物や植物は沢山見たが、お目当ての物が見付かるのは珍しい。
この国には南米原産の植物も多いが、何でもかんでもある訳じゃないからな。
とうもろこしは南米原産だが、この国では見かけた事がない。まだ行っていない地方とか、他の国にあるかも知れないが、そこまではちょっと分からない。
楓は南米原産ではないし、ないかもって思っていたが、あって良かった。
まあ、植生までヨーロッパと同じじゃないみたいだから、あってもおかしくないのかも知れないが。
あってもおかしくないなら、あって欲しいのはコーヒー!紅茶より、コーヒーが好き。食後には必ず飲んでいたし、コーヒーブレイクも良くしていた。
チョコは滅多に食べないが、冬の間に一度か二度、無性に食べたくなる。なので、カカオも欲しい。
どんぐりからチョコの代替品は作れるが、やっぱりカカオのチョコがあれば良いなと思っている。
◇
「ここが、エルフさん達の暮らす森……!」
楓の木を見付けてから二日。他に変わった物は見付からなかったが、私たち一行は、無事、一冬お世話になる村のある森の近くに着いた。
調査行軍の一行は、不思議な町を予定より五日遅れで出発したが、エルフさん達の暮らす森には、予定より二日早い到着となった。
西部の中でも北にある森だが、降雪も少ない方で、比較的過ごしやすいのだそうだ。
ただ、雪はもう降った。一晩で解けたが、ちょっと積もったよ。
不思議な町にいる間に、フィリベールくんの腹巻きや手套、長袖の肌着などなど、地道に作っていて良かった。
防寒の為の肌着とか手套。そういうのは一般の家の方には買えない贅沢品なので、持っていなかったから作ったんだ。
腹巻きは、こちらにはないアイテムだったけど。
田舎だと、冬、家の中に家畜を入れて、家畜と寝て暖を取るとかは普通なんだよ。
町でも、まだそんなお家もあるそうだ……。
田舎でそうするのは、貴重な家畜を狼等に襲われないというのもあるからだが……。
豚、まだ牙があるのに……。何かの拍子で気が立って、怪我させられたりしないのかな?
とはいえ、家畜は貴重な財産だ。相続する時、家で一番良い家畜は、領主さまに税金として納める法律があるくらいの財産なんだよね。
野生の生き物も、地球では領主さまの財産って考えられていた時代もあったんだよ。
領主さまの財産なので、その時代、領民は狩りができなかったんだよね。
しかし、こちらでは、普通の生物は決められた頭数は狩りが許されている。人口によって、この村は兎が何羽、鹿は何頭、猪が豚がといった具合。
一方、魔物の狩猟には狩る許可も要らないし、自由に狩って構わない。
領主さまにとって領民は財産。それも、所有物としての意味での財産である。その領民が減ると税収が翌年から減るので、それは避けたいらしい。
冒険者は獲物をギルドに持ち込む事で税金を払うので、ある程度自由に狩りが出来る。
それでも一人一人、動物毎に狩れる数は決まっている。旧王都や王都など、人口の多い所に近い所と田舎でも、狩れる数が変わるよ。
ルールがなく、みんなが皆、好きに狩っていたら?
色んな動物がすぐに絶滅するから、それは良いと思う。
害獣認定された個体や肉食動物、増えすぎた為、自由狩猟の許可の出た生き物はその対象外。
王家の方々が狩猟する森とか、一切狩猟が禁止されている所もあるけどね。
地球だと、どんなに酷い飢饉になっても、そんな所での狩りは禁止だった。そんな所があったから、絶滅を免れた生物もいるので、複雑な気分になる。
で、エルフさん達の暮らす森だが、ここは一種の治外法権みたいな土地になっている。
国のルールではなく、エルフさん達のルールが適用されるんだ。
ハイエルフさん達の暮らす所も同じく、治外法権みたいな土地になっているそうだ。
エルフさん達やハイエルフさん達の暮らす森は、どこも基本的にとても豊かだそうだ。
森との共生に、とても長けていらっしゃるのだろう。
「皆、準備は整ったか?武器、防具、靴は別として、革製品や毛皮製品は、一人一つしか身に付けておらぬな?」
エルフさん達のルールの一つがこれ。『衣服として身に付ける革製品、毛皮製品は、一人一点』っていう物。
皮などの生き物を殺して作られる製品は、とても嫌がられるのだそうだ。
武器、防具や靴は身を守るのに必要だが、衣服は他の物でも作れるでしょ?って事らしい。
なので、植物性か、羊毛みたいな生き物を殺さないで得られる物で作られた衣服を身に着けないと、友好的に村へ入れて頂けないそうだ。
動物……。フィリベールくんが、植物由来の石鹸には負けるのだ。だから、動物の脂で作られた石鹸を使っているんだけど、これはどうなのかな?
泡立ちが良いのが植物由来の石鹸の特徴だが、それが刺激になっているのかな?動物の脂から作られた石鹸は、今のところ負けた事はないんだけどね。
「アレクサンドリーヌさん、動物の脂で作られた石鹸はどうなんでしょうか?」
「動物の脂で作られた石鹸?エルフにも、動物の脂で作った石鹸を使っている者もいるわよ。
脂も、食べるにしろ石鹸なんかにするにしろ、生き物の命をもらった限り、無駄にしないようにしている分には煩くないわ」
「なるほど、そうなんですね。教えて下さってありがとうございます」
「優、フィリ、だいじょうぶ?」
「うん、大丈夫だって。良かったね」
「ん!」
「んっふふ……。皆、どんな反応するのかしらね」
「反応が楽しみね」
ん?アレクサンドリーヌさんとマルゴーさんが、何やら話していらっしゃるな?何だろう?
私たちはこの森の村出身のアレクサンドリーヌさんとマルゴーさんの助言に従い、村に入る前、エルフさんに友好的に受け入れて頂ける仕度を整えてから村へ入る事にした。
そしてそれは、村の方たちにとても好印象を持って頂けたよ。理由は他にもあったが、それはまたね。
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