7:調査行軍前のある一日
「これ着るなら、んー…。インナーはこれ。ボトムはこれで、靴はこれかな」
ユリシーズさんは冒険者としての服はそこそこあるが、町人としてブラブラする服はあまり持っていない。
いや、あっても全てが天然素材だから虫食いであっという間にダメージがね…。
あと、仕事着にもなる武器防具の他に普段着の服まで潤沢に賄うのは、出会った頃のCランク冒険者では難しい。
そんな実情があって、あまりコーデは得意ではないんだ。
最近はどうしても着たい物を選んでもらって、それ以外を私が選んでコーデしている。
もちろん虫食いとかでダメージがある物は処分して、代わりに手作りの服を増やしてきた。こちらのは私が勝手が分からなくて、コーデし難いからだ。
今日はまだまだ寒いので、ムートンのショートコートを着たいって。それに羊毛素材の、中肉厚のわりと光沢のある生地の細身のボトムスと、綿のロンT。革靴を合わせた。
現代みたいにあれこれ揃えられないので、なかなか難しい。
「じゃあ着替えてて。歯磨きしてくるね」
「ああ」
ユリシーズさんが着替えてる間に、私は洗面をする。私が着替えてる時は、ユリシーズさんが洗面をする。さすがに一緒に着替えないよ!
こうして身だしなみを整えると、王都へ繰り出す。
まだ雪も残ってて、自転車は恐くて使えない。魔物の馬、アイルに二人で乗ってあちらこちらを回る。
武器防具をメンテナンスに出しているお店、薬草やポーションのお店。ロープなど、冒険者の必需品を扱っているお店にと、本当に色々だ。
「王都でも、もう飯盒炊爨出てるんだ」
「本当だ。買っておこう」
「えっ?飯盒炊爨もメスティンも渡したよね?」
「うん、もらったのはちゃんとあるよ。これは予備。
前は予備を持ち運ぶ余裕がなかったから」
ユリシーズさんは無限収納が広がってから、予備の準備にも余念がない。
冬キャンへ行った時、二口バーナーが出てきたのにも驚かされたぞ。
「あ、これも買う」
ユリシーズさんが次々手にする物を見て思う。
「けっこう厳選した物だけを持ってたんだね」
「そうだな。無限収納があっても、運べる限界があったから。何より、Cランクの稼ぎじゃ手の出なかった物も多いからね」
しっかり準備を整えるのも、生き残る大きな要因だろう。うきうきとしながらあれこれ手にしている。
それにしても…。
「全部買うの?」
「…」
多い自覚はあるんだな。どうしようと悩んでいるっぽい。
まあ、私もネットサーフィンしててキャンプ用品はあれこれ欲しくなった事があるから気持ちは分かるけど、さすがにちょっと多いと思うんだ。
「…買う…」
「そっか。じゃあお会計に行こ」
お会計をすませ、外へ出るとお昼をずいぶん過ぎた時間になっている。
「お腹空いたね。何か食べて帰ろうか」
「そうしよう。腹減った」
「王都はおすすめの屋台とかある?」
いつもばたばたしていて、意外と王都をゆっくり巡ってなくて美味しい物とか全然知らないや。
「そうだな。羊の料理が美味しい」
「じゃあ羊の料理を色々摘もうか」
ラム肉のシチュー、ラム肉の串焼き。あとはパンと生姜湯とエッグノッグ。
「いただきます」✕2
温かい生姜湯が骨身に染みる。三口ほど飲むと、ラム肉のシチューにパンを浸して頂く。
ラム肉のシチューはちょっと癖があるけど、野性味と思えばどうって事のない範囲で美味しい。
「優やオオシロさん、サーラちゃんのご飯で慣れるとちょっと癖が強く感じる」
「あはは、うちのご飯が美味しいならなにより」
「うん。前は美味しかったエッグノッグも微妙に感じるくらい、優の家の味に馴染んだかもな」
蜂蜜を垂らし、良く混ぜた卵をホットミルクに入れた飲み物だ。これは私は馴染めなかった。
不味いんじゃないけど、ホットミルクなのか甘いスープなのか脳が混乱するんだわ。
「うちは私やお父さんが作れる料理が基本の食事だからね。
こっちの料理にも美味しいものがあるけど、なかなか作れないままー」
冷えたパンを千切って、チーズがたっぷり入ったシチューに浸して口へ運ぶ。
「ああ、マーチャさんもサーラちゃんもニホンショク好きだよな。こっちの料理を作ってるのを、ほとんど見てないかも」
「そうなんだよねー。教わりたいんだけど…。お母さんはニホンショクの方が美味しいから、食べるならニホンショクが良いって言ってるからね」
おかげでお母さんも日本人くらいのニホンショクのレパートリーがあって、こちらの料理を作らなくても食事に困らないレベルになっている。
「優が月一で届けてもらってる海老には、特にハマってるな」
「そうなんだよ。町に海老を扱ってる魚屋さんも増えたよね。
おかげでちょくちょく海老の刺し身が食べられて嬉しいけどさ」
前に港町に立寄り、海老をおが屑を敷き詰めたトロ箱に入れて活海老をお土産に持ち帰った事があった。
それ以降、海老を月一で送ってもらってた。今は町でも探せば買えるくらい売られている。
お母さんの実家、金の大鷲亭で海老フライを出したところ、海老フライに人気が出たのも大きい。それで町でも買えるようにしてもらったのだ。
「今旧王都では、唐揚げ、豚カツ、海老フライが人気なんだっけ?」
「そうみたいだね。海老フライの料理教室の日は、教室がパンクするくらい申込みがあるらしいよ」
「ずいぶん人気になったな。前は見向きもされなかったのに…。
あ、そうだ。帰る前に魔石の店に寄りたいけど、良い?」
「うん、良いけど…。魔石も買うの?」
「うん、予備」
そろそろ渇いた笑いが出そうだが、予備は大事。
日帰りの予定で山に猟に入って、急遽一泊するはめに陥った事を思い出す。その時、みんなの無限収納に色々入っていて助かった経験がある。
「じゃあ魔石屋さんに寄って帰ろう」
こうして十分すぎると思われる準備を整え、調査行軍に出発する日を迎えた。
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