69:驚愕のお餞別
「優さん!これも持って行ってくれ!」
「こっちも、遠慮なく持って行ってくれよ!」
「わあ!凄い沢山!ありがとうございます」
町を離れる前、農家の方たちや畜産家、酪農家の方たちから色んな食材が届けられた。
野菜に絞ると、漂着した難破船に生き残っていらした乗組員から伝わり、まだまだ生産量が少なく希少だというピーマン。
観賞用だったのが食用になり、まだ生産量の少ない茄子。
ドニさんにライ麦パンと交換して頂いた事もある、様々な色のトマト。
赤や黄色、紫などのじゃが芋。
春蒔きの人参。こちらも、白に黒に紫に鮮やかな黄色い品種にと、とてもカラフルだ。
しかもミニサイズからごぼうみたいに長いのまで色々あって、見ているだけでも楽しくなる。
その他にも、色々な夏野菜が沢山届けられたよ。
しかし、こんなに良いのかな?冬の食料は大丈夫?
「嫁からも母親からも、乾燥野菜や水漬けの野菜作りを手伝ってくれて、いつもの年より沢山保存食が作れていると聞いているよ!」
「ああ!それにライ麦パンもあるし、問題ねぇよ」
「そうそう!それに、売るにも保存食にするにも間に合わないような、どうするにも困る野菜を、それも適正な値で毎日買ってくれていたからな!
懐も温かいから、屋台料理でメシが賄える日も増えるはずだ!問題ねぇ!」
「妊娠中のうちのが、運んで来てくれていたメシのお陰か調子が良いらしいんだ!
他にも色々世話になった礼だよ」
「あ、ありがとうございます。お代……」
「馬鹿言うんじゃねえよ!」
「そうだぜ!礼だって言っただろ!」
「本当にありがとうございます。助かります」
「助かったのはこっちだぜ!」
「本当、そうだよな!なあ、皆!」
おお!と大きな声で答えてくれた皆に、深々と頭を下げる。
世話になったな、達者でな、元気でなと皆さんが置いて行って下さった食料に、将軍さまがあんぐりしていらっしゃる。
「西部でこれほど食料を分けてくれるとは……」
町の皆が下さった食料を無限収納にしまいながら、将軍さまに応える。
「『人は奪い合うと足らず、分け合うと余る』と、地球にいる母が良く言っていました。
だから、私は“分ける”にあたる買い付けをしていました」
「ふむ。なるほど。それに加え、善行と優卿の人柄もあっての事の様だったな」
人柄は分からないけど、“分ける”にあたる買い方は心掛けて来た。
それなりの値で買うから、この量を供出しろみたいな、強制での買い付けはしていない。
これくらいの量になるまで、手に余る分を売ってもらえませんかという買い付けだ。
毎日ではないが、近くの村へもハンググライダーで回って買い付けていた。
そして、西部では貴重な野菜がこうして届けられた。冬も困らなさそうだからと届けられた貴重な食材に、胸が一杯になる。
長く留まったので、沢山思い出ができた。それに比例して、お世話になった方も仲良くなった方も沢山できた町となり、いざ離れるとなると感慨深い物がある。
「また来る事もあろうよ。来るまでに時間が少々過ぎようとも、町の者たちは優卿を忘れはしまいて」
「そうですね。また、来たいです」
少し離れたくらいなら、ハンググライダーで来る事も可能だ。
何かのついでに立ち寄っても良いだろう。
何より、今生の別れではないのだ。
◇
思わぬお別れの挨拶とお餞別に、少し出発は遅れた。それでもいざ出発となり、初めてこの町へ来た時にも通った坂道を下り始める。
「本当に、またこの町へ来たいな」
「人が懐っこくておおらかで、居心地の良い町だったな」
「うん。良い人ばっかりだったね」
名残を惜しんで町を振り返っていると、子どもたちの声が響いて来た。
「優先生ーー!!」
「待ってーーっ!」
「皆!」
棚田の間にある道を、小走りに駆け寄って来る子どもたち。孤児院の子どもたちも何も関係なく、寺子屋で見知った顔ばかりだ。
「どうしたの?皆」
「うん!あのね、これ!」
「皆で収穫のお手伝いして、優先生が美味しいって言っていたミラベルを分けてもらったの!」
アークにはデジレさんとミラさんが二人で乗っておられるため、アイルにユリシーズさんと二人で跨っている。
アイルの背からでは高さがありすぎるため、ユリシーズさんの手を借りてアイルから降りる。
すると、子どもたちが籠に沢山盛られたミラベルを差し出してくれた。
「こんなに沢山……。皆、沢山お手伝いして用意してくれたんだね。ありがとう」
「優先生にあげるって言ったら、たくさんくれたんだ!」
「うん!いっぱいくれたんだよ!」
「そうなんだ。大事に味わって頂くね」
「へへ……っ」
「後ね、もう一つあるんだよ!」
「そーそー!優先生、色んな物を調べているんだろ?」
「これ!」
今度は蓋のある、蔓植物で作られた入れ物を差し出された。
「???これは?何?音がするから、何か生き物?」
「そう!今年はあんまり見なくて、すっごい探して見付けたんだ!」
「去年はもっといたのにね」
「逃さないように、後でゆっくり見てよ!」
「そうだね、そうするよ。ミラベルと生き物、本当にありがとうね」
最後尾から離れすぎないようにとユリシーズさんに促され、その場でそのまま見送ってくれた子どもたちとは別れた。
ミラベルは無限収納へしまい、生き物の入った籠は、馬車に乗っているフィリベールくんに預かってもらう事にしたよ。
そして、お昼の休憩になって中を見てみる事に。
小一時間毎にある小休憩の時は、ちょっと落ちつかないからお昼まで待ったんだ。
「……んん?????」
生き物の大きさやどんな性質かが分からないから、ちょっとだけ蓋をズラして見てみたんだけど……。よく分からないな。
ガラスの材料を錬成して、水槽みたいな物を作って移してみようかな。
水槽を作ると籠ごと中へ入れて、生き物が出て来るのを待った。
しばらくして、その生き物が出て来たのだが……。
「!!!!これ、まさか“鼻行類”?!」
「あ、これ……。“タコアシハナハナネズミ”だったかな?」
「おお!タコアシハナハナネズミは実在したのか!」
「凄いわ!デジレ!」
「優?これ、鼻で歩く……、ネズミ?」
籠から出て来たのは、地球では“鼻行類”と言われているパロディ生物だった。
鼻が進化して蛸の足みたいになっていて、“鼻行”の名の通り、蛸の足みたいになっている鼻で歩くんだよ。
こちらではタコアシハナハナネズミと呼ばれている、実在する生物らしい……。
「そうだよ。それにしても……、うえぇ……。ちょっと気持ち悪い……」
「そうだな……。何とも言えない気分になる生物だな……」
子どもたちがくれた、驚愕のお餞別。不思議な町は、最後まで不思議な町だったという思い出が増えたのであった。
お読み下さって有難うございます。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
面白かった、良かったなど、お気楽に下の
☆☆☆☆☆
にて、★1から★5で評価して下さいね。
いいね!も、宜しくお願いします。
続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!
感想や応援メッセージもお待ちしています。