66:ゼラチン
「いやあ、この"かぷせる"に入ったポーション!」
「素晴らしかったです!」
不思議な町に着いてすぐ、高山の動植物の調査へ行っておられた一隊が戻って来られた。
帰営して将軍さまにご挨拶をすると、皆さんがコンテナハウスへ来て下さったよ。
天候の関係で三日遅れの帰営となったが、皆さんご無事で何より。
そんな皆さんが仰るカプセル入りポーション。
膠はこの世界でも広く使われていた。
だが、ゼラチンは知られていなかった……。
私もお父さんも、ゼラチンその物の作り方は知らなかったから。ゼラチン作るのは苦労したよ。
だけど、魔物由来のゼラチンが、膠の時みたいに普通の動物の物と違っていたら?
もし違っていたら、それで容量を管理しやすいカプセル入りのポーションが作れないかなって。思っていたんだ。
あと、薬草を煮ただけだから不味いしね……。どうにかしたいなって思って、まっ先に思いついたのが、カプセルの錠剤だった。
ゼラチンかゼラチンっぽい物があれば、何かそんな物が作れないかな?
って事で、四苦八苦してまず普通のゼラチンを。
次いで、魔物由来のゼラチンを作った。
魔物由来のゼラチンは、薬のソフトカプセルに使えそうな物になったんだ。
それで、ソフトカプセルにポーションを入れた、ソフトカプセル入りポーション各種を作ってみた。
これはロータリー式で量産。
ロータリー式っていうのは、左右に歯車がある。その歯車が回転するのに合わせて、薄い魔物由来のゼラチンシートが下に送られるのだ。歯車でゼラチンシートの下が閉じられ、そこにポーションが定量落ちる。ポーションが落ちたら上が閉じられ、更に下でカットされてバラバラになる感じだよ。
これは薬ができる動画を見ていて出来た事だ。地球では役に立たないかも知れないが、こっちでは役に立つ無駄知識だったわ。
更に言うなら、粉末にするとか丸薬にする知識はないからさ。これが精一杯だったっていうのもある。
「命の危険はないが、治療が必要な時に必要なだけ飲めて、ポーション特有の味も感じず済んで、大変助かりました!」
「ポーション入り"水ぜりー"も、ある程度の量を飲む時にも分ける時にも役に立ちました!」
こっちは回し飲みより衛生的に配れる様になればと、水ゼリーでポーションを包んだタイプ。
これは製氷皿みたいな大小の型を作り、先ず大きい方へゼリーを注ぐ。大きな型にゼリーを注いだら、すかさず小さい型を重ねる。中が空洞のゼリーを作る為だ。ゼリーが固まったら小さい型を外し、空洞部分にポーションを入れる。ポーションの表面をちょっと凍らせ、固まり始めたゼリーを掛けて冷やし固める。勿論、ゼリー同士をしっかりくっつけて、ポーションが漏れないように注意する。で、固まったら、型から外して出来上がり。
こっちは味はどうにもならないが、衛生面重視。清潔なのは重要。
「かすり傷くらいまで治ればそれ以上ポーションを使わず済むので、そのお陰でポーションが随分節約出来ました!」
「お役に立ったようで、何よりです」
「ご謙遜を!」
「去年から出回っている軟膏ポーションと、かぷせるポーション。ポーション入り水ぜりーにポーション絆創膏。それに、従来のポーションの組み合わせで、状況によって使い分けが出来て助かりましたよ!」
軟膏そのものはあったが、軟膏タイプのポーションはなかったんだ。
どうしても分離してしまって、軟膏にできなかったからだそうた。
そのため、あるのはずっと液体ポーションのみだったんだって。
それが、この世界の方のたゆまぬ努力で、軟膏タイプのポーションが開発されたのだ。
これは傷跡が残る事があると不評だが、余程大きな傷跡でなかったら気にしなくて良いと思う。
いや、顔とか手とかの怪我は気になるだろう。それは使う部分や怪我の程度によって、軟膏タイプと液体タイプを使い分ければ良いと思うしさ。
「我が国では寒冷地版ポーションも作れるが、ポーションは足りていなかったからな」
「ああ!今回の事で、不必要に大量にポーションを飲んでいたり使っていた事も分かったな。
必要なだけ使うようになれば、ポーション不足解消になるよな!」
「寒冷地版?!」
「ええ。平地では、普通のポーションの材料になる薬草は育ちます。が、ちょっと標高の高い寒い所では、ほとんどの種類の薬草は育ちません」
「そういった地域では、高山植物によるポーションが作られるんですよ」
し、知らなかった!そんなポーションもあったんだ?!
冷静になって考えてみれば、しごくご尤もか。
この世界には、気候関係なく育つ植物も、もしかしたらあるかも知れない。
だが、そんな植物よりは寒冷地仕様とか、砂漠気候仕様とかのポーションがある方が納得ができる。
本当に、まだまだ知らない事だらけだわ。
「ところで優殿……」
「怪我や病気で下山する者はおりませんでしたが……」
「そうですね。何かあればブルビィで救援へ行く手筈になっていましたけど、幸いな事に誰も下山する事態にはなりませんでしたね」
「はい!それは大変良かったのですが……」
んん?どうしたんだろう?
何か言いにくい事?
「食事がずっと単調でして……」
ああ!成程。無限収納があるとはいえ、作れる料理が限られていたもんね。
「ひね鶏ですが、鶏が沢山手に入りましたから。若鶏もちょっと手に入りましたし。鶏で色々ご飯を作りますね」
地球のお婆ちゃんの暮らす地方では、ひね鶏と言って、卵を産めなくなった雌鶏も食べられていた。
若鶏より硬い肉になるが、噛めばしっかりした味わいがある。
私はこれも好きで、こちらではトリ肉と言えばひね鶏の肉も大好き。
雌は卵を産むから、若鶏は雄鶏が基本。卵産めないからね……。早々に潰されるんだ。
お父さんは、わざわざ養鶏場を作ってまで若鶏を確保していたけど。
「いえ、出来れば何か野菜を……」
「え?!野菜ですか?」
「パンにオリーブオイルを付けた物と、肉とチーズとドライソーセージしか食べていなかったもので……」
それ、どんな新栄養失調になれるご飯?!いや、栄養失調か?!
私とユリシーズさんは大慌てで温野菜サラダにサラダ、野菜の煮物、野菜炒め、ティアン、クンピルなんかを作ってご馳走したよ。
デザートのゼリーも人気だったが、クンピルが一番人気があった。
クンピルは、じゃがバターの上にトッピングをした感じのトルコ料理になる。
初めてのゼリーより、クンピルは馴染みやすかったみたいだね。
そしてこのクンピル。フィリベールくんの、新たなお気に入りとなった。それと共に、町の名物料理にもなったのだった。
カプセルポーションと、ポーション入り水ゼリーの報酬?
…………見慣れてきてしまった、桁の大きな金額だったよ……。
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