65:哺乳瓶
「哺乳瓶は通った、と。良し!」
哺乳瓶。実は地球でも、古代の遺跡から、多分、哺乳瓶として使われていたんではないかという出土品があったりする。
ただ、ニップルの部分が陶器や動物の骨とかなんだ。赤ちゃんがそれで吸えたのか謎な物だけど。
まあ、何も無いより良いんだろうな。
そんな哺乳瓶やニップルだが、古代からあるなら絶対作れると作成に取り掛かった。
何故って、食事事情からか、母乳のあまり出ない方が多いと聞いたからだ。これはかなり切実な問題だ。
錬金術でガラス加工は可能だから、瓶部分は以前からある。ニップルの部分。これが今回、登録品になった物だ。
ニップルを作るにあたり、魔物の骨なんかから作った膠。これが役に立った。
魔物由来の膠は、一度貼るとほぼ剥がせないのだそうだ。普通の膠より、水にも熱にも恐ろしく強いという特性のためだ。
剥がそうと思ったら、熱湯で一ヶ月以上煮続けないと剥がせない代物なんだそうだ。
なので、煮沸消毒もしっかりできる。
コルクの蓋に適度な穴を開け、穴から型に入れて形を整えた幼体のスライムの革製のニップルを出す。コルク部分に、長めに残していたスライムの革を魔物由来の膠で接着したら、ニップルは完成。このニップルとガラス瓶を組み合わせたら、哺乳瓶の完成だ。
幼体のスライムの皮が無害なのも助かった。幼体だけあって、酸性が酷く弱いんだ。それを処理すると、口に入れても無害な物に加工できるのだ。
鞣すのかどうするのかまでは聞いていないが、幼体のスライムの革は加工しても柔らかいままなのも特徴。ただ、一年程度で硬くなる。
成体のスライムの革は厚みがあって硬いのが特徴で、ガラス窓のガラスの代わりに使われたりしているそうだ。
領主直轄の畑だと、この革を使った温室やハウスを使って、僅かながらハウス栽培もしているらしい。
ガラスより割れにくいし安いし、重宝しているって。私が家を建てるなら、スライム革の窓にするな。割れにくいのが良い。
ただ、十年くらいで劣化するので、そのくらいの周期で交換する必要があるそうだ。
これは言うまでもないだろうが、ちゃんと処理をしていないと、接触している物をじわじわ溶かす。
「ポップアップテントとか傘とか作るのに、調べた事が役に立ったわ」
「色々作っているそうですもんね」
出来たばかりの哺乳瓶を持ち、お邪魔したのは八百屋のドニさんのお宅。
奥さんが出産なさったが、お乳があまり出ないとお聞きしたのだ。それで奥さんに引き合わせて頂いて、哺乳瓶を作るきっかけになったお話を色々伺ったんだ。
「あはは。まあ……。
ニルダナくん、凄い勢いで飲んでいるね」
「いつもお腹を空かせていたから……」
「あ、ごめん!そういう意味じゃないよ。
哺乳瓶を嫌う赤ちゃんもいるんだ。だから、嫌がらずに飲んでくれているなって意味で言ったんだよ」
「あら、そうだったのね。嫌がる赤ちゃんもいるの?」
「赤ちゃんって、意外と好みが煩いんだよ」
そうなのだ。好みじゃないと飲まなかったり、嫌がって泣いたり大変なのだ。
塩分だったり、脂肪分の多い食事のお母さんの母乳を嫌がって飲まないとかね。
本当に、母乳の味にも哺乳瓶のニップルにも結構煩いんだよ。
「そうなのね。子供はいないのよね?それなのに詳しいわね」
「従姉妹に子供がいたから」
「ああ、成程!」
離乳食が始まれば、豆乳が少しあげられる事。生後一年を過ぎれば牛乳があげられる事。そんな話をしている間に、ニルダナくんは山羊のお乳を飲みながら眠ってしまった。
「寝たね」
「とても満足そう」
「うん、そうだね。
あ、哺乳瓶でミルクを飲ませたら、ゲップをさせてあげて。ミルクと一緒にたくさん空気を吸っているから、必ずさせてあげてね。
こうするんだ」
「ゲップを?分かったわ」
名残惜しいが、抱っこしていたニルダナくんをゲップさせるとそっとベッドへ寝かしつける。そして静かに寝室を後にして、隣のキッチンへ移動する。
「お疲れさま。どうだった?」
「あなた!聞いて!革袋に穴を開けたのより、ミルクをあげるのが簡単だったわ」
アンナさんが哺乳瓶の事を、ドニさんに捲し立てる勢いで話し始めた。
一般的に使われている革袋の哺乳瓶の代用品が、余程使い勝手が悪かったみたい。
哺乳瓶を洗い、煮沸消毒しながらすっかり話し込んでいらっしゃる。
「そうか!なら安心だな」
「ええ!」
「優さん、本当にありがとう。
優さんの指導で作った野菜の食事だが、ユリシーズさんも食べて行ってくれ。
礼にはならんだろうが、是非!」
「ありがとうございます。ご馳走になります」
「ありがとうございます」
「お触れで回って来た方法で育てた野菜。どれも一つが大きく育ったし、味も良くて評判だよ」
「それは良かったです」
畑に何度かお邪魔したから、順調に育っていたのは見て知っている。店先に並んでいるのも知っているし、それを買って食べた事もあるが、評判は初めて聞いたな。
「この夏野菜の煮込み。これが美味しくて、この夏、屋台から家の食事までとても作られたのよ」
「優さんが広めた目玉焼き!あれもオリーブオイルまで美味くて、あれも人気なんだよ」
「ええ!あの目玉焼きのオイルは、パンに付けて味わって食べてもとても美味しいわ」
「私も、あの方法で両面焼いた目玉焼き大好きです」
「フィリはふわふわが好き」
「この見慣れない物?」
「うん!ふわふわ!」
フィリベールくんは、スフレオムレツが大のお気に入り。毎日毎日、朝も昼も夜も食べたがって困るくらい嵌っている。
なんならおやつにも、スフレオムレツを食べたがる。
なので、卵一個で作ったスフレオムレツを八等分して、それを二日の食事毎とおやつにプラスしてあげている。
卵を毎日一個食べるのは、ちょっと食べ過ぎだからね。
「柔かそうだもんな。見た事のない、柔らかそうな食べ物だ」
「本当にそうね。さ、食べましょう」
普通のお宅にしては、とても豪華なお昼ご飯。
主食のパンに、ラタトゥイユみたいな煮込み料理、ドライソーセージとチーズ。
それに、ユリシーズさんが作ったスフレオムレツ。
気を使って下さったのだろうご馳走を頂きながら、すっかり話し込んでしまった。
「あら?ニルダナが起きたみたいね」
ニルダナくんがミルクの時間で起きるまで、色んな話をしちゃってた。
「やってみるから、間違えていないか見ていてもらえるかしら?」
「勿論、良いですよ」
こうして、ドニさんとアンナさんがニルダナくんのお世話をするのを見守った。今は慣れない手付きだけど大丈夫。
慣れない哺乳瓶を使うからと、旦那さんのドニさんも一緒にして下さるそうだしね。
この日から瞬く間に、王侯貴族や裕福層から始まって、哺乳瓶は広く普及したのだった。
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