64:フィールドワーク
「サンドイッチなるパンは、本当に美味いですね!」
……。お昼ご飯はペミカンとか、ハルヴァでも良いかな?なんて思ったりしたが。美味しいと言ってもらえると、やっぱり嬉しいな。
ご飯は食べたいが、片手で食べられて匂いや音の出ない食事が良いって……。
気持ちは分かるけど、我儘だなって思っちゃったんだよ。
毎日の缶詰に、ちょっと気分が宜しくない方へ傾いていた。
気分を切り替えて作ったお昼ご飯。朝晩は冷え込む日もあるので、湯煎発酵してしっかり発酵させて柔らかく仕上がったパン。
ここにプラのボウルやタッパーがある筈がないので、しっかり発酵させるには、金属のボウルで湯煎発酵の一択だ。
常温でって言うが、夏と冬は冷暖房をしていても条件が違う。
発酵させたいなら、生地が冷えるガラスボウルや金属のボウルは不向きなんだ。
使うのは、プラのボウルやタッパーが良い。
そんなプラのボウルもタッパーもないので、金属のボウルで湯煎発酵して作ったパンのサンドイッチ。
缶詰になっていても埒のあかない事の為に、フィールドワークへ出る事になったんだ。
そこでお昼ご飯の、柔らかパンのサンドイッチを食べていた時だった。
「ユリシーズさん、あれ何?」
少し離れた所にある木に、物凄い早さで何かが出来上がっているんだけど?!
「ん?……、ああ、あれか。俺も見るのは初めて。タイグンムレスドリが巣を作っているんだ」
「タイグンムレスドリ?もっと詳しく教えて」
「鳥って、大抵は番で巣を作るだろ?あの鳥は、群れ単位で巣を作るんだよ」
「ああ、それでタイグンムレスドリか」
シャカイハタオリの巣みたいな感じかと、何となく理解する。
シャカイハタオリも、蜂の巣を鳥の巣にしたような、何羽もの鳥が一緒に生活する巣を作る鳥なんだ。
「そうなんだ。ただ、一羽の雌に、二羽の雄が付いている不思議な鳥でもある。番は決まっているみたいなんだけど……」
あー、オナガセアオマイコドリだったかな?年上鳥から、求愛ダンスを教わる鳥がいたな。そんな感じなのかな?
「寒いのは苦手らしいから、冬は大きな巣で群れで生活するのは分かるんだけど……。
番は決まっているのに雄が二羽いる理由や、三羽で子育てする理由が分からない鳥なんだ」
へー!あの鳥はオナガセアオマイコドリとは違って、子育てまで教わるのかな?異世界にも変わった鳥はいるもんだな。
フィールドワークへ出る事になった、カカポみたいに数年に一度しか繁殖しない鳥も大概変わっているが。
その鳥は、ご飯を食べている場所の下。傾斜の途中の藪にいる。
繁殖は数年に一度だが、春と秋の二回、抱卵するそうだ。
一腹卵数、あ、一度に生む卵の数ね、は、三個から五個。なのに、たまにニ十羽くらいの雛を連れている雌がいるそうだ。
複数の雌の雛が群れになってしまう、所謂、雛混ぜしやすい種類なのだろう。
それより、地面に巣を作っていて大丈夫なのかな?肉食動物に襲われる危険性が高まらないのか心配になるよ。
それは決まった植物の藪と共生していて、意外と大丈夫らしいのだが。
藪になっている植物には棘があり、棘には怪我の周りを壊死させる毒が含まれているそうだ。
だから、その毒に耐性のあるカカポみたいな鳥しか普通は近寄らないし、近寄れないって。
植物の方は、カカポみたいな鳥の糞で生育が良くなるらしい。植物には窒素、リン、カリウムが必要だからね。
「あ、他の親子が来たぞ」
ヒソヒソと、他の群れが来たと告げる学者さん。
見ていると、すでに親子のいる藪へとやって来た親子が入って行く。
喧嘩しているのかしばらく騒がしかったが、一羽の雌だけが飛んで行ってしまった。
「多分、間違いなく、雛混ぜですね」
「ふむむっ。そんな習性があったとは……」
急に雛が増えるのは、何箇所か巣があって、それが最終的に合流するからだと言われていたのだ。
何箇所か巣を作れば、どこか一箇所の巣が残れば、全部の巣が全滅は免れる。そのため、巣を数箇所作るのだろうという事らしい。
そんなに巣があっても、皆に餌がやれるのかという疑問が残る。
少し大きくなって、自分で虫などを取れるようになれば可能かもしれない。じゃあ、その状態になるまではどうするのって話でもある。そもそも抱卵は?
カルガモみたいに、すぐに自分で餌をとる鳥かもしれないが……。
この鳥はまだ新種でさ。警戒心が強く、まだほとんど生態が分かっていない鳥なんだそうだ。
「雛混ぜする鳥類、結構いるはずなんですよ。知りませんか?」
こっちの世界では少ないのかな?
「無害な生物を詳しく調べ始めて日が浅く……」
「うむ。まだ解らぬ事の方が多くありまして……」
そうなのだ。この辺も地球と違い、家畜にする動物は別だが、人に害を与える魔物の調査が一番。人に害を与えない動物の調査は、後回しなのだ。
「あ、そうでしたね」
雛混ぜって単語は翻訳されたが、雛混ぜを知っている方がいらっしゃらなかったもんな。
「鳥類は雛混ぜをする種類がいると、ちょっとずつ広めて頂けますか?」
「はい!勿論ですよ!」
「ありがとうございます。
話は変わって、タイグンムレスドリなんですが……」
カカポみたいな鳥の事を観察しながら、タイグンムレスドリを見ていて気付いた事をお話する。
「は?!年上鳥から、求愛ダンスを教わる鳥?!」
「地球でもかなり珍しいのですが、タイグンムレスドリも、どうも片方が求愛ダンスを教わっているみたいですね」
ダンスしている派手な鳥。たぶん、婚姻色が現れた年上雄。その雄がダンスした後で、若い地味な雄がダンスを真似て踊っているっぽい。
「……確かに、派手な鳥が踊った後で、地味な鳥が踊っていますな」
「はい。番に一羽雄が付いてるのは、多分求愛ダンスを教わっているんだと思います」
ここで、地球のオナガセアオマイコドリの事をお話しする。
「弟子入りまでに八年?!そこから二年はダンスを教わるだけで、繁殖しない鳥?!!」
「はい。ダンスを教える方の鳥になれるまで、繁殖はしないらしいです」
「もしかして、タイグンムレスドリが三羽でいるのは……」
「ダンスだけじゃなく、巣の作り方や雛の育て方も教わっているのかも知れませんね」
「なんと……!」
そんなに倍率は高くないが、買っていた望遠鏡が役に立った。
帰るのは遅くなったが、十分観察する事が出来たからね。
この世界も、地球の中世ヨーロッパと近世が混じった不思議な世界だよと思いつつ、オナガセアオマイコドリの話の後も鳥の観察を行った。
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