63:月一の贅沢
「わーーっ!」
「凧じゃないのに、飛んでるーー!」
教会の敷地に建てているコンテナハウス。その一階の、土魔法で作った調理場の窓から見える庭。
子ども達がハンドランチ・グライダーの練習用の、手投げグライダーを追いかけて遊んでいる。
いつの間にか学者さん達も、あれは何だと集まって騒いでいらっしゃるな……。
飛ばしているのはユリシーズさんだ。
翼の片方の先端を持ち、回転しながら空へ放ると飛ぶんだ。砲丸投げの要領かな?
ユリシーズさんが飛ばすコツを直ぐに掴んだのと、楽しそうだからお任せした。
飛ばしているハンドランチ・グライダーの練習用グライダー。木工も興味があって、何回か作った事がある。
こっちでその機体を作るのに適した木材をなかなか見付けられなかったが、やっとそれなりに飛ぶ物ができたんだ。
頑張ったのは、フィリベールくんのため。
我儘も言わず、お利口にしてくれているからさ。ご褒美にね。
私も月に一度のご褒美。ちょっと贅沢をする。
コーヒーは、コーヒーの木がないのか、ただまだ見付かっていないの分からないがない。
だから、大豆で作ったコーヒーが贅沢の一つ目。
砂糖も贅沢品。なので、普段はあまり砂糖を使わないようにしている。
月に一度だけ、贅沢するんだけどね。
「今日は何を作ろうかな」
橙みたいに、同じ木に花もあれば収穫期の実もある種類のレモン。その新鮮なレモンが沢山手に入ったので、手作りレモンチェッロを作ったからー。
レモンチェッロのザバイオーネとか。んー、白ワインのザバイオーネも良いかな?
あー、でも、レモンのティラミスも良いな。苺のティラミスも捨てがたいぞ。
苺とレモン、どっちが食べたいかならレモンか。
「決めた!レモンチェッロのザバイオーネにしよう」
ちょっとアルコールが入っているが、子ども達の分も作れるし。そうしよう。
アルコールは飛ばせば良いんだし。
って、冷ます時間がなかった……。入れるレモンチェッロを減らすか。
材料は、新鮮な卵の卵黄、レモンチェッロ、砂糖。
量は卵黄1に対して、レモンチェッロと砂糖がそれぞれ大匙1。
レモンチェッロと砂糖は、好みで多少加減も可。
後は好みで、ビスケットや柑橘系フルーツを添える。
フルーツは甘いのより、柑橘系が合う。
コカトリスの新鮮な卵が手に入ったんで、コカトリスの卵で作るが……。上手く出来るかな?
「しっかし……、本当に大きいなあ……」
テレビで見た、ダチョウの卵より大きいと思われる卵を割る。
ハンマー必須の固い殻の、巨大な卵。
……。ちなみにこれ、卵何個分あるんだろう?
巨大なコカトリスの卵を、卵黄と卵白に何とか分ける。
大きいというだけで、かなり大変だわ。
卵白は卵白で、メレンゲクッキーかラングドシャにするか。
あ、新選組局長、近藤勇の好物、卵ふわふわ、洋風黄身なしバージョンとかは……。
それじゃただの汁物になるか。
やっぱりメレンゲのクッキーか、ラングドシャにしよう。
黄身が大きいので、ある程度混ぜてから湯煎にする。
湯煎したタイミングでレモンチェッロ、砂糖を投入。
味をみながら、レモンチェッロと砂糖を入れる。
んーー!コカトリスの卵、味が濃厚!さっぱりした味わいにしたい時は、使わない方が良いかもってくらい濃厚だ。
しかし、そんな事を思っていても、ハンドミキサーで混ぜ続ける手は休めない。これが美味しくする、唯一最大のコツだからね。
こんなもんかな?
味が決まったら、クリーミーになるまで混ぜる。
クリーミーになったら、一人分づつ器へ流し込んで……。
後は冷蔵庫で冷やすっと。
ミントがあれば、ミントを飾るときれいなんだけどな。今日はないので、ミントなし。
で、ザバイオーネを冷やしている間に、卵白をメレンゲクッキーにしよう。
卵白を泡立ててメレンゲを作る。三回に分けて砂糖を投入しながら、しっかり角が立つまで泡立てる。
タネをスプーンで掬い、天板に落して……。
これで焼き上げれば、メレンゲクッキーは完成。
最後に、色んな柑橘類のカットフルーツを用意だ。
◇
「皆ーー!おやつだよーー!」
「わーーい!!」
「喉渇いた〜〜!」
「たくさん走って、つかれたぁ!」
外のユリシーズさんと子ども達に声をかけると、皆一目散に集まって来た。
庭に広げたシートに皆を座らせると、おやつを配っていく。
おやつを聞き逃さなかったデジレさんとミラさん。それにカーニバルの面々も、もちろん集まって来た。
「ユリシーズさん、汗びっしょりだね」
なかなか降りて来なかった手投げグライダーを、風魔法で降ろしてキャッチしたユリシーズさんが、やっとやって来た。
あ。フィリベールくん用は小さいが、私のは大きいからね。
「ああ。なかなか大変」
カットしたフルーツを乗せ、ザバイオーネを。それとメレンゲクッキーを手渡す。
その時、頭をがしがしとタオルで拭っていたんだ。
ここらでは、そろそろ寒くなり始めるらしいが、汗をかくくらい何度もグライダーを投げていたもんね。
「それでも、論文の手伝いより良いよ」
余程、論文の手伝いがダメたったらしいな。
「読むのは平気なのにね」
そう。勉強に、本を読むのは平気なのだ。
デジレさんに本を借りて、最近西部の生物の勉強をしているのも知っているよ。
「生物の勉強と、あれは全然違うよ……」
そう答えるユリシーズさんからは、心底うんざりしている様子が伺える。
「はは。そうだね」
「先生ー!」
「早く食べたいよーっ!」
「あ、ごめんごめん!食べようか。
頂きます」
私の提供するご飯、おやつは、皆で頂きますをすると知られている。
その為、皆で頂きますをするのを待たせていた。
「んーー?!あまぁーーい!」
「レモンの味?」
「冷たいおやつ、美味しーー!」
子ども達は砂糖の入った、初めての甘いおやつに夢中だ。
「優、おみずー」
「もう飲んだの?沢山走ったんだね」
「ん!いっぱいはしったよ!」
「しかし、この量を一人で……」
ユリシーズさんは、メレンゲクッキーを摘みながら呟く。
「絶対、これ、大変だったろ?」
「ネーレさんやキンバリーさんも一緒に作って下さったし。ハンドミキサーがあるから、そうでもなかったよ」
「そうか?でも、土日は休みの筈なのに、休んでいるとは思えない。
明日は俺が思うゆっくりで休んで。これは譲らない」
「う、ハイ」
土日ちゃんと休まないと、月曜日は強制的に休まされるからな……。これは、お父さんがユリシーズさんに頼んだ事だ。
町や村で長逗留する時は、土日は必ず休ませろって。お父さんはユリシーズさんに、くれぐれも頼んだぞと言っていた。
「無理をさせたくないだけだから」
絶妙なタイミングで、そう言われたな。
「うん、分かってるよ」
心配したコカトリスの卵のザバイオーネは、とても滑らかで美味しかった。
贅沢なおやつを味わって食べ終えると、日が暮れるまで手投げグライダーを飛ばして休みを満喫したよ。
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