6:ご機嫌は…
シルクと言われると、ほとんどの人が白をイメージするだろう。
しかし、ヤママユガのシルクは緑色をしている。
こちらでは、その緑のシルクが一般的。白いシルクは目を剥くお品だ。
昼のパレードは緑色のシルクで作ったローブ・デコルテを着たが、舞踏会の真っ最中の現在。白い絹を薄紫と紺に染めた、マント・ド・クールをまとっている。
こちらに合わせたずるずるした長い物じゃないよ。地球の現代の物だ。それを自作した。オーダーすると、作ってもらえなさそうだったからね。
お父さんとユリシーズさんは、ホワイトタイの燕尾服。
三人の意見は、「ゴテゴテしてなくて動きやすいデザイン」で一致していた。
王家の皆さまがお風呂にお入りになるようになられ、ノミ・ダニに悩まされる事も減ったためだろう。ナチュラルヘアが流行り始めてて、鬘と帽子は少数派になりつつあるそうだ。
臭いも辛いが、衛生面でもっとお風呂が流行ってほしいね。
そんなこんなで地球のファッションよりの三人が固まっているので、とても目立つ。しかも王妃陛下のお側に侍っているから、余計に目立つ。
「パレードの時のドレスもシンプルでしたけど、こちらもとてもシンプルね。
それにコルセットをしていないのね?」
「はい、王妃陛下。体の形を変えるほどのコルセットの恐さを、多少知っておりますので」
「コルセットの恐さ?」
「内臓がきちんと納まれない事で体調を悪くしたり、心臓や肝臓に肋骨が刺さってしまったり…。
地球では人体に害を及ぼす報告が散見されておりました」
ふふふ。これは事前の打ち合わせありの茶番だ。ダンスなんて踊れないので王妃陛下のお側に侍り、コルセットをなくす方向に持っていく話をしようという物だ。
「それは真なの?」
「本当です。頭痛や目眩といった症状から、中にはお命を落とす事例もあったそうです。
女性のかわいくありたい、男性のかわいくあって欲しいという気持ちも分かります。かといって、それは命を懸けてまでする事でしょうか?」
「私、公爵の助言でコルセットを随分緩めてからとても体が楽になってよ。喘息はまだ出るけれど、とても丈夫になりましたの」
「それは宜しかったです、ベーテ姫」
ベーテ姫は喘息がおありになり、国王陛下の弟君、カッサーニ公アーノルド・ド・メディシス閣下の居城で療養生活をなさっていらっしゃったのだ。
それがご両親の下へ帰れるまでになられて、本当に喜ばしい限りだな。
「王妃陛下、ベーテ王女、女公爵、私どももお話をお聞かせ頂けませんでしょうか?」
「まあ、リランド伯爵夫人。許可致しますわ」
「わ、私も是非」
「私どもも拝聴宜しいでしょうか」
こうしてご婦人方や王宮侍医の方たちも加わり、矯正ではなく補正くらいの締め付けに留めるのが良いって話をしたんだ。
「無理をさせるとこうなります」
話しただけで通じるとは思ってなかったから、用意していた物を持ってきて頂く。
「こちらのトマトをご覧下さい。正常でしたらこのような形に育ちます。しかし、それを型に押し込んで育てるとこのようになります」
この日のため、小さな温室を作ってトマトを育ててきた。そのままの物と、いくつかの実に木の型を被せた物が実った物が混じった鉢。
「このような事が、人の体にも起こっていると?」
「そうです。これで健康になにかしら影響がないはずはありません。お解り頂けましたか?」
切った物もテーブルに出されてて、皆さんそれを凝視なさって黙ってしまっている。
「これは医師として、早急に補正での使用を周知せねばなりませんな」
「そうして頂けると有難いです」
その後、ウェストを括れさせるエクササイズの話をしたら周りの人が増えた。さらには私の着ているドレスのデザインや色遣いの話に及んだ。
「ああ、そうだ。小耳に挟んだのですが…。いかなる目的のためであっても銅塩、水銀、鉛などの服用や人体への使用の禁止も同時にお願いします」
避妊やその他の目的で処方されているらしいと聞いて、血の気が引いたわ。白粉にもまだ使われている物もあるらしい。
「ほう?なぜでしょう」
「毒であったり、中毒症状を起こす物だからです」
それぞれいくつか症状を列挙してみると、どれも知られた症状だと言う。なのでこちらも禁止に動いて下さるとお約束して下さった。ほっ。
◇
「ユリシーズさん、どうしたの?」
方伯から公爵に叙され、その後パレード。夜は舞踏会とてんてこ舞いだった一日が終わってほっとしたのだが、ユリシーズさんのご機嫌が斜めだ。
「優が化粧して、ドレスを着たらキレイなのは前に見て知ってたから楽しみにしてたんだ。
前は付き合ってもなかったし、独占はできなくて当たり前だったけど。
…。……。今日も独占どころか、ずっと側にもいられなかった」
なるほど。ご機嫌斜めの理由は分かった。だが恋愛経験値のない私には、どうすれば良いのか分からないんだけど…。
「どう、言えば良いのか分かんないけど。
いつもずっと一緒にいなくても私の彼氏はユリシーズさんだし、好きな人もユリシーズさんだよ」
キレイと言われ、真っ赤になったのがはっきり分かる。嬉しいけど恥ずかしいな。
「うん、そうなんだけど…。キレイな優を人前に出すと、誰かに拐われそうで恐い」
「拐われても帰って来るよ。ユリシーズさんの所へ」
「ふはっ。優なら本当にできそうだ」
笑い声の漏れたユリシーズさんと簡単なおつまみと赤ワインで遅くまで話し込み、今日もいつも通り二人で眠ったのは明け方近くになってからだった。
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