59:季節の感じ方
道の先で、鹿が頭を木にごりごり擦り付けている。
「うわあ…。角が真っ赤で痛々しいな…」
不思議な町に昨日戻り、朝の散歩に出てみた。
高地にある町なので、私には有難い涼しい気候なのが嬉しい。
「これから角が鋭くなるから。気を付けて」
鹿の角が毎年生え変わるのは知っていた。だが、袋角という角の素となる瘤とか、袋角が膨らんで大きくなって、やがて角の形になるとかはこっちに来るまで知らなかった。
袋角が破れ、中から私が知っている角が出て来るのなんて全く知らなかったよ。
角に袋角がだらーんとぶら下がっているのは、ちょっと不気味な雰囲気を醸し出している。
角には血管が走っていて、袋角が剥けたばかりの所は赤くて痛々しく見えるのも知らなかった。
「あ、本当だ。角の先が丸っこい」
「鹿の種類とか雌雄によって、生え変わる時期は違うけど。鹿の角からも、季節を感じるよ」
「へー!そうなんだ?面白いね」
日本は四季がはっきりしているからな。まして、身近に鹿はいないので、鹿の角から季節を感じる事はなかったわ〜。
こちらに気付いた鹿としばらく見つめ合っていると、鹿はそのうちどこかへ行ってしまった。
「あ、森へ帰ったね」
「ああ。突進して来なくて良かったよ」
「そうだね。向かってこなければ、狩らなくて済むもんね。
そう言えば、こっちでも鹿の角は何かに使うの?」
地球だと、鹿角という名前で、漢方として利用されていたと思う。こちらでも、何かに利用されているのかな?
「骨を強くする薬として、骨折した時に角を粉にして飲む事があるよ」
「へえ、そんな使い方をするんだね」
角くらいなら、薬として飲むのも忌避感はまだないかな?
ミイラとか、人体を薬とかお守りに使うとかは…。考えただけで気持ち悪くなるけどね。
ミイラや人体で作った薬やお守りは、中世ヨーロッパにあったそうだ……。ミイラは、江戸でも薬となっていたらしいが……。
現代でも、アルビノの方の人体をお守りにするっていうアルビノ狩りがある。人を狩って人体をお守りにするって、一体何なんだ?!理解出来ないよ。
「あ、ポルチーニ茸だ。ここらは寒くなるのが早いから、九月にはシーズンが終わるようだな」
「こっちは根セロリがあるよ。今は収穫の時期じゃないんだっけ?」
「うん、今じゃない。もうちょっと先。そうだな、十月くらいからが収穫の時期だよ。ここならもっと早いだろうけど」
「そっか。残念。どっちにしても、八月は収穫する時期じゃないんだよね?」
こうやって山野を歩くと、意外と季節は感じられる。
残念なのは西洋と同じく、シュシェーナ王国にも紅葉はない。
紅葉する木の種類も樹木も少なく、疎らに黄色く黄葉する程度なんだ。紅い紅葉は更に少ない。
これが一番秋を感じられなくて、とても残念に思っている事だ。
「あ、梨!梨も大好き!」
しかし、実を付ける色んな木が生えているのはとても嬉しい。
「ああ、なら、多めに採るか」
「洋梨はないのかな?」
売られていたらついつい買う梨で、割と好きなんだ。
「それは一番収穫期の遅い種類の梨だよ。東部だと、十月頃が収穫期になる」
「そうなんだ」
「…一年中、旬関係なく色んな食べ物が売られている国だったって言っていたけど…」
「うん、そうだよ。だから、旬を知らない食べ物が沢山あるんだ」
旬を気にしていなければ、いつが旬なのか知らない食べ物もとても多い。年中出回っている物も多いしね。
なので、正確な旬を知らない物も多い。
「食べ物に困らないのは羨ましい国だけど、食べ物の旬が分からないのは、美味しい時期を逃しそうだ」
「んー?ずっと食べていたら、知らない内に旬の物も食べていただろうけど…」
それに、その時期にしか食べられない物もあったしね。その時期だから食べる物もあったしさ。
春は、お婆ちゃんの作ってくれるイカナゴのくぎ煮。これが届くと、春だなって思った物だ。新物のイカナゴのくぎ煮は、春に作られるからだ。
私の好物だからと届けられる、お婆ちゃんの手作り桜餅にも春を感じたな。
夏は土用の丑の日の鰻。秋は栗ご飯。冬は恵方巻きと牡蠣。
お婆ちゃんから送られてくる物や、買う物からも季節は感じられていたけれどね。
「無限収納から出して、季節関係なく食べている物もあるけど。こうやって、散歩するだけで旬の物が実っているのを採るのは、凄く季節を感じるね」
キャンプしていて、アケビを見つけたり、木いちごを見付けて食べたり。ヤマメやイワナ釣りでも季節を感じてはいた。
ここでは特別何かしなくても、散歩するだけで常に季節を感じられる。
「あっちに見えるのは…、ザクロ?」
「…そうみたいだな。ちょっと早いけど、食べれるヤツはあるかな?」
「木に生っているザクロは初めて見る!」
「ほとんどそうだろ?」
「まあねー」
桃や梨、柿とか、いくつかは見たことも、木からもいだ事もあった。だが、ほとんど売られている物しか見た事がない。
梨を採り終わり、次はザクロを収穫する。
「あれ?ザクロって………?????」
「地球と違う実り方か何か?」
「うん、形も実の大きさも全然違う。普通の丸っこい、拳大の果実だったよ。実はもっと小さかった」
遠目には分からなかったが、近づくと違和感が。更に近づくと、全く丸くない実だと分かった。
まるで仏手柑のような見た目をしている。仏手柑は、手のような形をした柑橘類だ。
「形は変だけど、粒が大きくて食べやすい。それに、地球のより甘いかも!」
いくつか食べれそうな実があり、一粒食べてみた。
これが酸味もあるが、甘さも十分あってとても美味しい!
「そう?これ、まだ酸っぱいよ?」
いや、こっちのグレープフルーツよりかなり甘いから!
「果物の中では、これ、甘い部類でしょ?」
「そうだな。甘いんで人気がある」
春の桜も、秋の紅葉もないけど。
辺りによくよく視線を向けて散歩すれば、季節の移ろいが実感できる。
食べすぎ、採りすぎ注意なのが難点だけどね。
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