57:新たな宿泊施設
「んー、なら、Bed & Breakfastより、ホステルが良いかな?」
カロリン村の村長さんから、手間のかからない宿泊施設はないかと相談を受けたのだ。
粗食とはいえ、以前より良い食事が摂れるようになってから、多くの方の体格が良くなり、また、体力がアップしているそうだ。
そうなると、以前より一日で進める距離が伸びた。すると、宿泊施設のなかった村まで到達する方が増えたそうだ。
カロリン村にもそんな旅人が増えているが、民泊可能なお宅は少ない。かと言って、宿屋が必要な程でもない。
田舎はまだまだ一部屋で家族全員が寝起きする家も多く、貸せる部屋がなかったりする。
貸せる部屋はあっても、部屋を貸したくない方もおられる。
宿に代わる宿泊施設がある方が、泊まらせろ、泊まらせないっていざこざも起こらないだろうと。
出発時間はまちまちだから、朝ご飯はいらない事も多いらしい。朝ご飯が要らないなら、朝ご飯付きの安価な宿、B & Bは除外となる。
旅をする人は、必ず食料や調理器具、寝具を持ち歩いている。
なら、自炊可能な宿泊施設、ホステルが向いていると思ったのだ。
施設は提供するが、自炊してもらって、寝具も自前の物を使ってもらう。
そうしたら村長さんのご希望に添う、手間が掛からない宿泊施設になるだろうしね。
「成程。それなら借りる方は気楽だ」
「気楽なのは、貸す方もですね!」
ホステルの説明をすると、ユリシーズさんも村長さんも気に入った様子。
「土魔法ですぐ作りますけど、ホステル建てるのはどこが良いですかね?」
村の共同井戸には、以前、共同炊事場を作った。家に台所がない方たちの為だ。
台所が必要か伺うと、意外にもそれぞれの家に台所がなくても良いとの事。
家に台所がなくても良いならそれで構わないが、共同炊事場くらいはあれば便利だろうと作ったのだ。
そのため、共同井戸の近くには宿泊施設が建てられる程の土地がない。共同井戸の周りは、割と建物が密集しているからだ。
「商人は分からないけど。冒険者にしても、傭兵にしても、皆、水と火に困らない訳じゃないから」
「そうですな。水は、井戸や川から調達するという方も多いですからなあ」
なら、やはりホステルを建てるのは、村の共同井戸の近くにという事になった。
◇
井戸のある道から一本裏に入った道沿いに、住む人の居なくなった古い家があるそうだ。その家を取り壊し、ホステルを建てる事になった。
「それじゃあお願いします」
お昼休憩に畑から戻った方たちに、手が空いていたら古い家の解体を手伝って頂けないかお願いした。廃材とか、欲しい物は持って帰って頂く。木材は薪になるし、意外と需要があるのだ。
すると、結構な人数が集まって下さり、あっと言う間に解体は終わった。
賃金の他にホットドッグを配ると、とても喜んで下さった。
まだ納得できるケチャップは出来ていないが、一応ケチャップが出来たので作ったのだ。
「サンドイッチも良いけど、ホットドッグもやっぱり美味しいわー」
「細長くて食べやすいし、味付きトマトソースが美味い」
「前にバーガーだったかな?振る舞ってもらったやつ。あれも美味かったが、パンの形を変えて、ソーセージを挟むだけでも美味い物が出来るんだな!」
「本当にね!私らは食事分以上にあれこれ出来るほど食料を使えないが、こうして簡単な料理を知れると嬉しいねえ」
そう。皆、美味しい物は食べたいのだ。かと言って、美味しい料理を作る研究が出来るほど食料に余裕はない。
新しい料理を作ろうと挑戦して失敗して食べれない物になるかも知れないなら、確実に食べれらるいつもの料理を作るのだ。
だから、こうして作る変わった料理は、簡単な物でもとても喜ばれる。
「簡単な料理なら、オイル蒸しとかもありますよ。明日、皆で作りましょう」
ギルドに登録してあると別だが、無登録の料理は勝手に広めて構わない。村人でも作れる料理は、ギルドに登録しないようにしている。
ギルドに登録しちゃうと、レシピを無料で見れないからさ。だからギルドに登録せず、皆が作れる物は残している。
明日、そういった料理の作り方を村の広場で教える約束をし、解体を手伝って下さった方たちと別れた。
「さて。お腹も一杯になったし、ホステルを建てるか」
一階は共同で使う台所とお風呂、トイレ。二階が二段ベッドが入った二人部屋を四つにした。
同じパーティーなら、男女が別れて寝れれば良いそうだ。一人部屋は高級過ぎて、気が引けるとか…。
確かに。お爺ちゃんたちの経営する宿。個室が自慢で、それで高級宿だったよ。
それが個室はそのまま、お風呂完備で建て替えたんだ。そしたら物凄い高級宿として有名になったので、身を以て知っている。
まあ、超高級宿となったのは、断熱材入の建物だとか、床暖房があるとか、他にも理由があるんだけどね。
ホステルの事に戻ろう。ガラス窓は、ガラスが割れると困るとの事で、開口には鎧戸だけの設置となっている。隙間風対策に、外と内の二重にしてあるけどね。
お風呂は内鍵付きで、一人で使うタイプが二つ。
台所は薪や井戸水を使うタイプと、自前の魔道具で調理するタイプを作った。
「こんな物でどうでしょう?」
「寝泊まりが出来て食事も作れる。風呂まであって、充分だ」
「これは、私が住みたいです!」
以前の滞在中。村人の家も、希望があった方の家は、土魔法の家に建て替えている。もちろん、孤児院もしっかり建て替えた。
その時、村長さんのお宅は前年に改修したばかりだったんだ。せっかく改修したからと、悩まれたが土魔法の家にはしなかった。
「村長さんのお宅も、土魔法の家にしますか?」
今回も、休みが終わるまでに希望があったお宅は土魔法の家に建て替える心算でいた。そうお知らせもしてある。
「帰って、父に相談してから返事をさせて下さい。
土魔法の家にお邪魔して、建て替えなかった事を後悔していましたから。きっと建て替えを希望するでしょうが」
「もちろん、構いませんよ」
そんなやり取りの後、外へ出る。
鍵や合鍵は、どういう理屈か分からないが魔法では作れない。この建物は村長さんが管理するので、後は村長さんにお任せだ。
「優さん、本当にありがとうございました」
「いえいえ。お安い御用ですよ」
村長さんさんと別れ、教会で預かって頂いているフィリベールくんを迎えに向う。
デジレさんとミラさんとフィリベールくんの三人暮らしの頃。ミラさんが狩りへ出掛ける時も、フィリベールくんは教会で預かって頂いていたそうだ。
それもあってか、フィリベールくんはこの村の教会の子たちと馴染むのが早かったみたい。
今日は一緒に行くか聞いてみたら、教会で遊んでいるとの事。久しぶりに、歳の近い子たちと遊べるのが楽しいようだ。
「もうすぐ三時だから、教会でおやつにしようか」
「全く…。優はどこへ行っても、休む気がないだろ?ここへは休みに来たんじゃなかったの?」
「今日は一日ゴロゴロする予定だったじゃない?そこへ相談が来ちゃっただけだよー…」
〘優、たまには僕たちとも遊んで!〙
〘優、遊んでなのー!〙
〘しばらく優と遊んでないよね〙
あはは。私が休めるのは、もう少し先になるようだ。ユリシーズさんの目が怖いけど、休める時は休むから!
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