56:ヤーン商会へ
海へ行った翌日。
午前中は自家製ツナや、サーモンの冷燻を作りながらゆっくり過ごした。
サーモンは、無限収納に入れっ放しになっていた物だ。
皆のお昼は、ライ麦パンとシーフードマリネ。それにスープ。
昨日食べすぎて、まだ胃もたれしているのだ。
私はサーモンを麺に見立てた、サーモン麺のうどんサラダ。それとライ麦パンにスープ。
「はあ…。サーモン麺、美味しい」
日本の夏みたいな蒸し暑い夏ではないが、それでもひんやりした食べ物が美味しい季節だわ。
「優、それ一口頂ちょうだい」
「どうぞ」
最近気付いたが、生魚は生魚でも、漬けなりマリネなり、何がしか手が加わっている料理。これなら割と抵抗なく、高確率で皆が食べれると気付いた。
ユリシーズさんに至っては、刺し身も割と平気で食べられるくらい、生魚も食べられるようになっている。
その為か、サーモン麺のうどんサラダが気になったらしい。
「これ、美味い。後で作れる?」
「うん、まだ鮭あるから作れるよ」
皆サーモン麺のうどんサラダが気になっていたらしく、結局大皿に作ってテーブルへ出す事になったよ。
「うどんの物とまた違っていて、これも美味しいね」
「そうね。それにこのマリネって言うの、とてもさっぱりしていて。夏には良いわね」
好評なのは良かったのだが、お昼を食べすぎてしまった皆。午後は大人しく、ゆっくり過ごすそうだ。
「じゃあ、私とユリシーズさんは、和食の食材を買いにへ行って来ますね」
「気を付けて」
湿度が低いので、日陰に設置したハンモックがお昼寝には丁度良い。
ハンモックからデジレさんとミラさんに見送られ、ブルビィのいる場所まで移動する。
フィリベールくんはミラさんの腕の中で、早々と夢の中だったりする。お土産買って来るね。
◇
移動中、遭遇した魔物の鹿を、ユリシーズさんが魔法で仕留めた。
「最近、剣で闘っているのを見ないね」
ふと思った事を口にしてみた。
「優がいる時は、近寄らせない事が最優先だから。クーたちとか、親父とかと出てる時は、今でも剣がメインだよ」
「最近、剣を振るってるのを見ないと思ったら…。
ユリシーズさんだけが戦いを負担しなくても、私も自衛出来るよ?」
「優が俺より強いのは良く知っている。それでも護りたいと思うから」
そう言われて、どきっとしてしまった。
うん。護りたいと思ってもらえる存在である事。くすぐったくて、でも心地良い。
差し出された大きな手を取り、並んで歩く。
私もユリシーズさんも、人前でこんな風にするのは苦手で…。こうやって、ひっそり。このくらいの距離感で過ごすのが好きだ。
何て事のない話をしながら、大きな手から伝わってくる温もりを感じる幸せな時間。
ブルビィの所へ着くまで三十分程の時間は、季節市以来の、二人きりの穏やかな時間となった。
◇
「さくらんぼのブランデーも、梨のブランデーも取り寄せて頂いて、ありがとうございます」
「以前、優さんが大量に買い付けたと話題でしてね。我が商会でも取り扱っておりますから。大した手間ではありませんよ」
ブルビィから降りると、事前の約束通り。ここまで迎えに来て下さっていたダカルヤナさんの商会の馬車でお店まで移動して来た。
馬車の中でダカルヤナさんと挨拶を済ませ、食べてみたいと仰っていた品をお贈りしたよ。
「いえ。本当に、ありがとうございます」
「それはもう置いておいて…。日本酒はじめ、色々ございますよ」
「日本酒、あるんですか?!助かる。使う量が増えたから、欲しかったんですよ」
「日本酒は、小樽で五つございますよ。
そうそう。"薄口"なる醤油も入っております」
「薄口醤油?!買う!沢山買います!」
お醤油、濃口と溜りしかなく、ちょっと不便だったんだよね!
欲しかった物や目新しい物と、買いたい物があれこれある!!
「あ。アーモンドも沢山ある…っ!」
和食の食材じゃないけど。アーモンド!あればあるだけ食べてしまうくらいアーモンドが好きだ。アーモンドバターも好き。
アーモンドバターはお婆ちゃん家の地元から、アーモンドバターの美味しいお店の物を送ってもらっていたくらいだった。
アーモンドバターはお婆ちゃんたちの暮らす地域の、有名なB級グルメなんだ。
しかし…。気が緩んでいるのか、アーモンドも、アーモンドバターを食べたい衝動も抑えられない…っ。
「アーモンド、あるだけ下さい」
「ユリシーズさん?!」
「アーモンド、好きなんだ」
いや、知っているけどさ。
「あるだけ食べるから。優が預かっててくれたら助かる」
「うえ?!私もアーモンド好きで、あるだけ食べちゃうんだよ!」
思わず、二人で見つめ合っちゃったよ。
「…母さんが広い無限収納だから、母さんに預けよう…」
ちょっと情けないが、私もそれくらいしないと、本当にあるだけ食べちゃうんだよね。
ミラさん。どうか預かって下さい。お願いします。南無南無。
◇
「これは…!」
「美味しいわ!」
「すり鉢ですり潰してバターと混ぜただけなのに、何て濃厚で風味豊かなの…!」
アーモンドをそんなにどうするのかと尋ねられ、私はアーモンドバターの事をお話したのだ。
食べてみたいとの事で、急遽アーモンドバターを作って試食となった。
アーモンドを、ピーナッツバターみたいに滑らかになるまですり潰しただけのタイプ。食感が残る程度に粗くすり潰したアーモンドと、バターを併せたタイプ。そして、それぞれ少し蜂蜜を混ぜたタイプの、合計四種類作った。
「物足りない…っ」
「ああ。食べ足りない」
ダカルヤナさんとダカルヤナさんの奥さま。お嫁に行かれて実家にはいらっしゃらないが、ご結婚のお祝いのお礼を言いたいと来ておられたキラーナさん。
そして私とユリシーズさんの五人で、アーモンドバタートーストを食べたのだが…。
「優さん!お願いです!もっと食べさせてもらえませんか?!」
「こんなに芳ばしいバターは初めて!どうかお願いですわ!」
「優さま…!」
お願いされなくても、アーモンドバタートースト作るよ!だって、食べたいもん!
「アーモンドバタートーストに黒胡椒。やっぱり病みつきになる!」
「粗く砕いたアーモンドまぶしたのも、手が止まらない」
「黒胡椒を足すとは…!」
「こちらの、ブランデーを僅かに振った物が、この中で一番美味しいですわね!」
「いいえ。クリームチーズを足した物ですわ!」
アーモンドバターに限らず、ジャムに何か足しても美味しくなる。
胡椒だったり、レモン汁だったり、蜂蜜、生姜とかね。
この日は皆、お腹が一杯になるまでアーモンドバタートーストのアレンジに没頭しちゃったよ。
カロリン村に帰ってから、アベラさんに「作る書類が減らないですーっ!!」と叫ばれたけどね。
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