5:旅の憂い
「またニホンゴのままだよ」
「またか…」
春からあまり人が住んでいない地域への、恒例行軍に同行する事が決まっている。同行にあたり、絶対守る事をまとめているのだが…。
猫ひっかかれ病、狂犬病、狂牛病などなどに破傷風などがこちらの言葉に変換されない。
たぶん、まだ知られていないので変換する言葉がないって事だろう。
「うーっ。もっと早く言ってくれれば助かったのに」
「いや、どうにかなる物だと思ってなかったから…」
まあね。日本の現代人からすればもっと早く言ってくれればって事でも、こちらの方たちからすれば言ってもどうにもならないと思っている事は多いのだろう。
しかもそれは生き物だけに留まらず、植物もなかなか物騒そうなんだ。
軍事利用できるんじゃないかと言われていたらしい、ギンピーギンピーみたいな植物。
僅かな汁が目に入っただけで失明の恐れがあり、皮膚にかかると酷い火傷になるジャイアントホグウィード。
木の下で雨宿りしてて、葉から落ちた雨粒に当たっただけで大変な事になるマンチニール。
それらを連想させる植物の事例があり、何か対策をしておきたい。
これらは知らずにいるか、事前に対策しておくかでかなり変わるだろう。
この国は菱形をしてて、菱形の真ん中に大河が流れている。その大河から東の地域はそう危ない動植物は少ない。が、大河から西は危ない物が多くてあまり調査が進んでいないらしいんだよな…。
まあ日本でも観葉植物として人気があってよく流通している植物でも、意外と知られてない事もあるけどさ。
例えばポトス。葉っぱは大きいと1メーターくらいまで育つ。花は咲かないと言われているが、十年に一度咲くと言われているんだ。
モンステラ。これも知られてないが、モンステラの中でもデリシオーサは実をつけるし食べれる。
こんな感じで、身近にあっても調べないと知らない事は多いからさ。全部が全部、「中世だから」って事ではないんだけど…。
なんにせよだ。大河を挟んで、植生変わりすぎじゃないか?
「水魔法のおかけで、飲料水に不安がないのは幸いか」
「水?水も気をつける物なの?」
「うん、そうだよ。エキノコックスとか大腸菌は煮沸である程度は対処ができると思う。けど、鉛や水銀なんかの重金属と言われている物が含まれた物はそうはいかない」
日本だとエキノコックスは本州にはいないとされていたが、本州でも報告例が増えてきているそうだ。
つまり元々いない所でも、いろんな細菌や寄生虫の広がりは頭に入れておくべきだろう。
国王陛下方にアレクサンドロス大王の話をしたためか、初めていろんな学者さんたちも同行する事になっている。
ちょっとは以前の調査行軍よりましになるのかな?
今回以前の調査行軍に、学者さんは一人も入っていなかったそうだ。理由は単純明快。「行軍速度が遅くなる」からだ。
調査に行ってて調査しないって、これいかに?!
「調査対象ってほとんどが魔物の動植物だから。普通の、それも植物は最後になるんだ。危険があると思ってなかったから」
「…わかりやすく危険な物からなんだね」
「菌とか細菌、見えないほど小さな虫が命に関わるなんてほとんど知られてないから。調査しようがないよ。
ジューキンゾク?なんて、オオシロさんの皮革工房の取潰しが初めての事案だったよ」
「そういえばサーラちゃんの実家の取潰しの時。酷く調査に時間がかかったそうだし話題にもなってたっけ…」
サーラちゃんの実家が開発した新しい鞣し方法。それになにやら重金属が使われており、川に垂れ流されていたのだ。それが有害だと証明され、取潰しになった事件。それがこの世界では初めての、毒以外での物質での事件だったのだ。
「いつかもっと色んな事が解明されるんだろうけど、解明はできなくても打てる手はあるから頑張るか」
学者でもない、ただの文系のしがない大学生には荷が重い。
それでも可能な注意喚起できる事はある。その部分は広げようと改めて心に誓う。
「うん。色々教えて」
「んー?そう言われてぱっと思いつかないから、ユリシーズさん何か話してよ。何かヒントがあるかも知れないからさ」
「…それも急に言われて思いつかないな…」
そうこうしながら数日かけて懸念事項と対処法をまとめ、王都の調査行軍に加わる学者さんたちにまとめを送ったのだった。
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