49:ユリシーズさんの家族
ユリシーズさんのお母さんは、少し離れた村から旅をしてこの町まで来られたばかりとの事。
ついたばかりで宿がまだ決まっていないとの事で、コンテナハウスへお招きしたよ。
お風呂を堪能して頂いている間に、軽食を用意する。
「…優…。量も献立も、豪華すぎだよ…」
チキンサンドに卵サンド。ベーコンと野菜の、トマトソースパスタ。野菜色々のティアン。揚げるだけにしていた、唐揚げ、豚カツ。縮みほうれん草のグラタン。山芋ときのこのオムレツ。ドライソーセージにチーズなどなど。
「…あれ?こんなに作ってたんだ???」
やっぱり、かなり緊張しているみたい。何せいきなり、それも初めてユリシーズさんのお母さんにお会いしたんだから。
コンテナハウスに来る道すがら、簡単な挨拶は交わしたけどさ。優しそうな方なのは分かったけど、それでも初彼のお母さんだ。お会いしたら緊張もするよ。
「ふうー。お風呂、どうもありがとう。村を出て以来だから、とても有り難かったわ」
そうこうしていると、お風呂と洗濯を終えたユリシーズさんのお母さん、ミラさんがリビングダイニングへ来られた。
「旅の埃を落とすには、お風呂が一番ですから」
「本当にそうね。私も夫もお風呂を知ってから、お風呂に毎日入らないと気持ち悪くって。
だからこの何日かお風呂に入れなくて、とても気持ち悪かったの」
「なあ、母さん。それより、もしかして親父を探しにこの町へ?」
ええ?!お父さんもこの町にいらっしゃるの?!
「そんなところかしら?拠点にしていた村に何ヶ月も帰って来なくてね。ああ、またどこかで気になる物を見つけたのねって思っていたの。
そんな時、この町でデジレに似た人を見かけたって聞いたの」
「じゃあ、いるかいないか探さないと分からないんだな?」
「そうね。いつもの事ね」
気になる物を見付けたら、家に帰らなくなるって…。どんなお父さんなんだろ…?
「そうだな。親父が家にいた記憶、あんまりない」
「そうね。それでもデジレにしては、家に帰って来ていた方なのよ?」
ますます分からないよー?!
「『西部に魅入られた者』の性だな…」
「うふふ、そうね」
西部に魅入られた者…。調査行軍に出たばかりの頃、ちらっと聞いた気がするな。
東部に比べ、西部には変わった動植物が多く、興味を持つと魅入られてしまう、だったかな?
まさか、家にも帰らなくなるほどだとは思わなかったわ。
「生きているのか死んでいるのかも分からなかったけど、生きてて良かったよ」
ユリシーズさんからご家族の話を聞かないと思ったら、そんなレベルで音信不通だったの?!
って、ユリシーズさんが冒険者で、決まった家を持ってなかったからか…。手紙を送れる先が決まってなきゃ、連絡の取りようがないのか………。
「そっちの子供は…?誰?」
男の子のご機嫌が悪く、簡単な挨拶しか出来なかったからね。
男の子の事は、まだ名前すら聞けていないんだ。
「貴方の弟よ。名前はフィリベール。あ、デジレの理解者の遺児で、養子なの。
フィリベール、お話していたでしょう?この男の人が、貴方のお兄ちゃんでユリシーズよ。隣の女の人は、優さん。ご挨拶できるかしら?」
「お…にいちゃんと、優?
ぼく、フィリ。五さい」
「フィリベール、ユリシーズだ。宜しく」
「はじめまして、フィリベールくん。優です。宜しくね」
そっと隣を覗えば、流石にユリシーズさんの眉根が寄っている。知らない間に弟ができていれば、そりゃ複雑だよね…。
「きゅー、くるくるきゅーっ」
「あ、挨拶は後にしましょう。冷める前に食事にしましょうか」
小さなフィリベールくんのお腹の虫が、盛大に鳴いた。
まだ小さな子供だからね。一度に沢山食べられないから、間食しないと次の食事まで持たない。お腹の虫が鳴くのも当然だ。
「ありがとう。
女性転移者の側に、ユリシーズって男性がいつもいるって噂を聞いていたけど…。
まさか自分の息子のユリシーズだとは思わなかったわ」
「普通はそうだろうな」
「ねえ、おかあさん。たべていいの?まだおはなしするの?」
「ごめんなさい、フィリ。頂きましょう。珍しい食べ物がたくさんね」
「フィリベールくん、沢山食べてね。あ、でも熱い物はふーふーして食べてね」
「アチュっ」
一足遅かった。フィリベールくんは勢いよく、唐揚げに齧り付いてしまっていた。
「母さんはゆっくり食べてて。フィリベール、こっちに来い。冷ましてやるよ」
ミラさんがフィリベールくんのお世話をしようとすると、ユリシーズさんはフィリベールくんを私と自分の間へと呼んだ。
フィリベールくんはミラさんを見上げ、どうしたら良いか悩んでいるようだ。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんに食べさせてもらったら?あ、恥ずかしい?」
「…行く」
ちょっともじもじしていたが、フィリベールくんはテーブルを回り込んでこちらへやって来た。
か、可愛い…っ!
ユリシーズさんはフィリベールくんを抱き上げ、自分の膝へ座らせた。
ユリシーズさんは孤児院の子供たちで馴れたのか、このくらいの歳の子供の扱いは大丈夫らしい。
私はフィリベールくんが食べたい物を冷まし、取皿とフォークを渡してあげる。人見知りしない子供みたいで、躊躇なく差し出した物を受け取ってくれる。益々可愛い!
そんなフィリベールくん。柔らかくて甘いからか、小麦のパンの卵サンドと、ほうれん草の生クリームのグラタンが特に気に入った様子。
一生懸命食べ、すぐにお腹いっぱいになったみたい。そして旅の疲れもあるのか、うとうとし始めた。
「フィリは寝そうね。そうだわ。
フィリが寝ている間に、デジレを探して来て良いかしら?」
「親父を探しに来たんだもんな…。ただ…」
「フィリベールくんのお守りしていますね。デジレさんが見付かったら、ご一緒においで下さい。お部屋もご用意しておきますから」
家主は私だ。ユリシーズさんでは返事が出来なくて、言葉が出なかったのだろう。
その後を引き継ぎ、返事をお返しする。
ユリシーズさんが小さく頭を下げる。うん、大丈夫だよ。
「ごめんなさいね、ありがとう」
「いいえ。
あ、ユリシーズさんのスマホ、お渡ししておけば?女性の一人歩きは危険だから、それとも一緒に行ってくる?」
「スマホ?まあ、便利な魔道具を持っているのね!」
「ああ、持ってる。そうだな…。一緒に行ってくるよ」
ユリシーズさんとミラさんは、デジレさんを探しに行かれた。
ユリシーズさんたちが出かけた後、コンテナハウスで三階を作る。
一階は体が大きなシルバーと、体が大きくなってきたクーとルーのためのワンルームのコンテナハウスとなっている。
もう三匹が一緒に、皆のいるコンテナハウスにいるのは窮屈だからね。
で、二階が私たちの使っているコンテナハウス。ここはもう満室だから、お客さまがある時は三階を作る事になる。
土魔法で階段だけ付ければ、立派な三階建てコンテナハウスの出来上がりとなるんだ。
クーとルーの体が大きくなれば、一階が必要になる事は分かっていた。タドリィ親方たちが泊まる時、部屋が必要になる事も分かっていた。
なので初めから、一階と三階になるコンテナハウスは用意していた。それが思わぬ形で役に立ったよ。
◇
ユリシーズさんたちはデジレさんを伴って、三時間程で帰って来たよ。よくこんな短時間で見付けられたなぁ。
「優、紹介するよ。親父のデジレ。
親父、こちらは優。今付き合っている女性」
…っ。ユリシーズさんに初めて今付き合っているって言われた。へへ。照れるな。
「はじめまして。デジレだ」
「はじめまして。芦屋大城優です」
あ、れ?嫌われちゃったのかな?何か…。
「気にしないで。一段落はつけたけど、書物の続きをしたくて仕方ないのよ」
「ああ、そうなんですね。じゃあお部屋にご案内します」
よ、良かった。ご挨拶しただけだけど、嫌われちゃったのかと思っちゃったよ。
でも、確かに。ユリシーズさんが変わった冒険者って言っていたお父さんなだけあるのかも。
内心、そんな失礼な事を思いつつ、デジレさんたちを三階の客間へご案内したのだった。
そしてこれが、私とユリシーズさんのご家族との初対面となったよ。
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