48:不思議な町の秘密
「形は階段ピラミッドで、機能はバビロンの空中庭園みたい」
教会での寺子屋の授業の後。町の歴史に詳しい方を紹介して頂けないか、教会の方に尋ねてみたのだ。
その結果、寺子屋に来ていた女の子のおじいさんを紹介して下さった。
町規模ともなると、今までみたいな調子でお昼を出すのは厳しい。だからお昼の提供は、孤児院の子供たちと、寺子屋の授業を受けた方たち。他は、妊婦さんと新ママさんへのご飯のお届けに限定したよ。
妊婦さんと新ママさんでお昼を希望される方は、事前に調べていた。
孤児院の子供たちにお願いして、土日の間に調べてもらったんだ。
お駄賃と、プラスおやつが報酬でね。
ご飯のお届けも、一軒銅貨ニ枚のお駄賃でお願いしている。
感覚としては、短期アルバイトをお願いしてるって感じかな。
寺子屋に、筆記具の持ち方や使い方が浸透し始めていてさ。お昼からの時間を、丸々自由に使えるようになってきたのも大きい。
その自由時間に、昨日はマンガリッツァの飼育を見学させて頂いた。後は薬草の畑も見学させて頂いた。
で、今日は町の古老から、歴史をお伺いしたのだ。
「それ、何?」
お話を伺った帰り道。ユリシーズさんと並んで歩く道すがらの事だ。
「この町、とても不思議な形をしてるでしょ?」
「ああ。まさか、昔の人が作ったとは思わなかった」
「そうだよね。地球にも、古代の人がどうやって作ったのか未解明の、底が四角で頂上がとんがった形の建造物があるんだけどさ。それはピラミッドって言われているのね。
殆どがその形なんだけど、古い物に、この町と同じように階段状の物もあるんだ」
階段ピラミッドは世界各地にある。だが、やはり、エジプトのジェゼル王の階段ピラミッドがぱっと思い浮かぶかな。
中は元々あった山が利用されいてるから、日本のピラミッドって言われている作りも混じっているけどさ。
「地球にも、古代人がどうやって作ったか分からない建造物があるんだな」
「そりゃあね。私のいた時代は、ここより文明が進んでいたよ。かと言って、あらゆる事が分かるわけじゃないから」
「そうなんだ。もっと何でも分かる世界かと思ってた」
「そんな事はないよ。分かる事も沢山あるけど、分からない事もまだまだ沢山だよ。
話を戻して、ピラミッドにはピラミッドパワーっていう、不思議な力があるんじゃないかっていう提唱がされててね。その研究がされてたよ」
「へえ。不思議な力が…?」
「うん。この町は、不思議な作物や生物が生まれやすいってお聞きしたでしょ?」
「ああ」
「元にした山に埋められているっていう四角錐。もしかしたらそれが原因で、階段状の部分に作られている畑の作物や生物が変化を起こしやすいのかも」
「…。計算して、町と階段状の畑が作られたって事?」
「たぶんそうだと思う」
町の方たちは、この町を作った方たちの子孫ではない。町は今の住民の祖先が住む時、誰もいない廃墟になっていたそうだ。
寿命が三百年あるエルフさん。五百年という、さらに長い寿命を持つハイエルフさんやドワーフさん。そんな方たちの間に僅かに残されていた記録や口伝から、色んな事が推測がなされたという事だった。
しかし、この町を作った民族や、作られた方法は伝わっていないらしい。ある日突然、町は廃墟になっていたのだそうだ。
ただ、その民族の方たちは、土地の力がピークを過ぎた辺り。それを見極め、土地が弱る前に、新たな定住地を探して旅立つ考えを持っていたようだという。
これはエルフさんやハイエルフさん、ドワーフさんたちが見聞きして、感じた事だそうだ。
「階段ピラミッドは何となく理解した。空中庭園は何?」
「階段ピラミッドはね、周りの段は畑や牧場になってないんだ。
空中庭園は、砂漠の国に嫁いできたお妃さまが、緑の豊かだった故郷を思って悲しまれてね。旦那さんである王さまがそんなお妃さまの心を慰めるため、色んな植物を植えた階段状のテラスを作ったっていう伝説の建築物なんだよ」
「なるほど。確かにここは、階段ピラミッドと空中庭園が合わさった作りっぽいな」
初めてこの町を見上げた時か、はたまたマンガリッツァみたいな豚狩りの帰りか。その時に見た、町の姿を思い出しているのだろう。ユリシーズさんが納得している。
「地球にないのは、魔物避けの効果だな」
そう。なんと、この町には町全体に、かなり強い魔物避けの魔法が掛けられているのだ。
電気柵がなくても、一番下の段々畑にさえ魔物は侵入してこないのだ。
これも恐らく、この町を作った方たちの手による物だ。
「地球にないのは、魔物もだろ?」
「そうだね。魔物もだね」
もしこの世界も、地球のように魔物がいない世界だったとしたら?
クーとルーには出会わなかっただろう。
ユリシーズさんにも出会わなかっただろう。
魔物は怖いけど、それは嫌だな。クーとルー。ユリシーズさんに出会えてないなんて、それは考えられない。
それに、この世界は剣と魔法があって。魔物もいるのが普通の世界。
そんな世界でこの町は、オアシスのようだ。
町には魔物は入って来ない。町から一定距離内にある、一番下の段々畑の周りに広がる畑にも、魔物は滅多に近づかないんだから。
「全部の道に施すのが無理でも、主幹道路だけでも魔物避けが出来ればなぁ」
「ああ。そしたらかなり移動も物流も楽だな」
森や草原の分断は良くないが、何本か安全な道路が東部と繋がればな。そしたらもっと西部の物流が活性化して、東部に近い生活水準になれるだろうに…。
西部は東西を分ける川沿いの一部が貴族の領地になっているが、それ以外は全て王領か国の領地なのだ。
東部へ税を納めるにも何をするにも、東部より強い魔物がネックなんだ。町の維持や防衛にもお金が掛かる。
そのため、西部はあまり領地として分割されないのだそうだ。
だが、全部王領だと王家の力が強くなりすぎる。それで国の領地などという、地球にはない領地が出来たみたい。
「優。歩きながら考え事しないで。ほら、ぶつかるよ」
そう言って、ユリシーズさんに引き寄せられてしまった。前を見ると、私の正面を歩いて来る方が、たまたま子供さんに気を取られていらっしゃる。
ユリシーズさんがそうしてくれなければ、子供さんとぶつかっていた事だろう。
「ごめん。ありがとう」
フードを目深に被った方がこちらを向き、じっとこちら、主にユリシーズさんを見ている。
「ユリシーズ?」
優しそうな女性の声が、ユリシーズさんを呼ぶ。
え、誰だろう?
「…っ?!か、母さん?!」
はい…?
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