36:同伴賛成派
「あう。あー、あー」
「簪は駄目だよ。持つと危ないし、お口に入れたらばっちいからね」
「きゃっきゃうーっ」
防壁と電気柵、畑や住居の事が片付き、教会では寺子屋が再開した。普通なら子供たちも村の再建に駆り出されているのだろうが、子供たちの力が要らないくらい再建し終わったためだ。
そんな中、その授業風景を覗いている赤ちゃんを連れた女性に気付いた。
私はもちろん、女性を招き入れた。
そして女性も初級クラスの授業を受ける事になり、赤ちゃんを預かって授業を進めている。
イスラエルの大学とか、アメリカの大学だったと思う。生徒の赤ちゃんを預かり、講義をする大学教授のニュースを何回か見た事がある。
預け先がどうしても見つからなかった場合に限るようだが、赤ちゃん連れで講義が受けられる国があるのだと、とても興味深くニュースを読んだ。
講義の妨げになる程泣いてしまえば、一時退席も仕方ないだろう。だけど大人しくしているなら、教室に赤ちゃんがいても何も問題ないと思う。
なので、女性はしっかり授業を受ける。女性がしっかり授業を受けれるよう、赤ちゃんは私が預かる。
銀の簪は、時に光を反射して光る。赤ちゃんは光る物、動く物、音がする物が好きだ。
頭を動かすと簪も動く。それが赤ちゃんの興味を引いているが、取られないようにすれば済む事だ。
「あーあぅ。あー…」
適度に歩くのが良いのか、そのうち赤ちゃんは眠ってしまった。
ユリシーズさんに事前に教室の隅に用意してもらったハンモック。そこへバスタオル二枚で包んで寝かし付ける。
こっちのタオルは晒しタオルみたいな物だ。寒くないかな?下ろしても起きなかったし、大丈夫かな?よしよし。大丈夫そう。
赤ちゃんが眠ったので、ちょっと声を落として授業を更に進める。
一時間目は算数で、二時間目は国語だった。女性は二時間目の途中から参加だったので、赤ちゃんはそのまま最後まで眠っていたよ。
そして、授業の後にちょっとお話を伺った。
◇
「そっかあ。上の子ほど家の手伝いで、寺子屋に行けない人が多いんですね」
「はい。本当は私も通いたかったんですが…。子守や畑の手伝いで、とうとう通えなかったんです…」
「それで今まで、時々覗いていらっしゃったんですか?」
「下のきょうだいたちが、文字が分かったり計算ができるのが羨ましくて…。通うまではできませんでしたけど、時間がある時、たまに…」
女の子は穢れがあるから教会に立ち入るの禁止って決まりはないだけマシだが、子守しながら授業受けても良いんじゃないか?
ながらスマホとか、物によっては禁止で良い物もある。
子守しながら寺子屋通いは有りだと思う。
赤ちゃんは泣くのが仕事とはいえ、いつも泣いてるわけじゃない。寝てて大人しい事もあれば、起きてても大人しい事もあるんだしさ。
てか、私がメロメロになってダメになりそうだけどね!赤ちゃんは可愛いんだ。仕方ないじゃないか。
春に法案を通した時、女性は産後三週間は無理をさせないという案件は通した。遺産を受け取る事とかも通した。
宗教施設での事は、どこへ掛け合えは良いのかな?
子供への体罰禁止の件は、無我夢中でキナル王子に掛け合ったが…。
この世界は、宗教より王権が絶対的に上なんだよな。…まあ法的に整備するか…。
上手に指しゃぶりしながら眠る赤ちゃん。それを見つめる、私より若いお母さん。
赤ちゃんもお母さんも、その家族も幸せになれるのが良いな。
「私は赤ちゃんと一緒に授業受けても構わないから、私のいる間はいつでも来てね。
で、お昼ごはん食べて行って。栄養も摂らないとね」
「お昼ごはん…!?本当に食べても良いんですか?」
「もちろんだよ。赤ちゃんを育てるのは体力仕事って聞いてる。体力付けるなら、しっかり食事もしないとね」
家電なんてないから、家事そのものが大変。食事も、現代の人間から見れば粗末なものだ。その食事も一日二回。
それじゃ体力も付かないって。
「待っててね。炊き出しと一緒だけど、作ってくるから」
◇
いとこが出産した時、貧血予防に鉄分。骨粗鬆症予防にカルシウム。それに葉酸とか、いくつかの栄養に気を配ってせっせと食べていたな。
含まれる栄養素が地球と全く同じ成分とは限らないけど、粗食より新栄養失調を気にかけたバランスの良い食事の方が良いだろう。
「レバーを使った料理かい?」
「はい、アルコールの入らない味付けで何かありますか?」
レバーの赤ワイン煮とか、アルコールの入る物は作れる。他にはレバニラ炒めとか唐揚げとか、こちらで馴染みのないもの。
これからも無理なく作れて食べれる物が良いが、こっちの料理に詳しくなくて作れない。
「そうさね。トマト煮ならどうだい?」
「それ!それを作ってもらえますか?」
「かまわないが、急にどうしたね?」
私は手短に、小さな赤ちゃんのお母さんに食べさせる料理である事。そんなお母さんの体に必要な食べ物を使った料理を出したい事を説明した。
「妊婦に食べさせる料理は、ほら、妃殿下方の時に噂が広まって聞いたよ。
でも、子供を産んでからも、まだ特別な料理が必要だったんだねえ」
「赤ちゃんを産むって、それだけ大変な事ですから」
「そうさね!癒し魔法のお陰でずいぶん楽になったが、体がガタガタになっちまったよ」
経産婦さんだったり、姉妹や友達が子供を産んだ方たちの理解が得られた。そして、快くレバーのトマト煮を作って下さった。
皆、協力してくれて本当にありがとう。
皆の協力で、レバーのトマト煮。アボカドのチーズ焼き。小エビの素揚げ。セロリと三種類の豆のスープ。レモンスフレが出来上がった。
レモンスフレは皆の分も作ったよ。魔道具のハンドミキサーがなかったら、お母さんの分しか作らなかったけどね!
卵白と卵黄に分けて、それぞれひたすら混ぜる。混ぜれたら合わせて、後は焼いたら出来上がりと簡単。ただ、混ぜるのが曲者だ。
レモンスフレは卵一つで、市販のレモン果汁使って良く作ってた。
卵一つ分を泡立て器で泡立てる。それだけの量を泡立てても、かなり腕がダルくなったもんだ。だから兄たちや両親の分も頼まれたら、迷わずハンドミキサー使ってた。
こっち仕様は、砂糖が高級品だから、砂糖はかなり控えめで作った事。だから好みで蜂蜜か、メープルシロップを掛けてもらう。
あ、蜂蜜は一歳未満の赤ちゃんには厳禁だ。
しかし授乳期間のお母さんが食べても、赤ちゃんに影響はないと言われてる。
いとこが砂糖の取り過ぎ防止にって、砂糖の代わりに蜂蜜と、蜂蜜とか他の糖が入っていないメープルシロップ使ったりしてた。高いってボヤいてたけどね。
料理が出来上がった頃、目を覚ました赤ちゃんを抱いてお母さんがやって来た。
「あ、赤ちゃん起きたんだ。赤ちゃん預かるから、ゆっくり食事して」
「凄い豪華…!これが私のお昼ごはんですか?!」
「そうだよ。授乳期のお母さんは、まだ赤ちゃんの分も食事しないとね!」
これがきっかけで、私の寺子屋の授業は赤ちゃん連づれ可。
妊婦さんと新ママさん用の食事作りと、その配達にも取り組んだ。
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