33:減った分より増える
「今年は激しい雨がよく降るな…」
コンテナハウスを叩く雨音が、一段と激しくなったのだ。
ユリシーズさんは窓に目をやり、そう溢す。この国出身のユリシーズさんがそう溢す程、今年は激しい雨が多いらしい。
私が転移して来て知っている限りでもそう思う。
本来なら昨日、次の村へ向けて出発だったのだが、出発が延期になったくらいの雨だ。
実は、西部は道路事情があまり良くない。そのため、無理して進むと、馬車の車輪がぬかるみにはまる事がある。
馬車を無限収納に収納して出せば、脱輪は解決する。しかし、雨に打たれて体調を崩す人が出る事を考え、無理はしないようにしているのだ。
それに雨の中、戦闘になった時にぬかるみに足を取られても困る。
なら無理せず、出発を延期した方が遥かに良い。
「お二人とも!手が止まってますよ!」
「ごめんごめん。でもそろそろ、一度ちゃんと休憩にしよう」
料理であったり、簡単な構造のアイテムであったり…。他にも色々作っている。
物を作れば当然、書類仕事も出来る。
こつこつと。いや、思い出したら書類は作っている。
つまり、書類仕事が溜まっているのだ。
アベラさんはちゃんと仕事をして下さっている。が、滞在先や行軍メンバーからアイデアを持ち込まれる事もある。
その案件の相談に乗ったり、書類整備のサポートをする事も多い。
なので、私の事に専念している時間が意外と少ないのだ。
そして私の場合、必ず誰かに確認してもらわないとならない。これが意外と地味に手間。
こちらにない言葉が翻訳されないのは当然。しかもそれは私では見付けられない。
あと、ある程度ちゃんと書かないと、別の言葉とか誤字として認識されるのも困っている事だ。
疲れてる時に書くと、凄い汚い字にたまになるんだよね…。
○って思って書いても、そう思って書いた言葉として認識されない。別の文字、あるいはそのまま誤字として認識されてしまうんだ。
例えば『八』とか『行』。変に書くと、『八』は『丿』と『乀』。『行』は『彳』と『亍』と認識されてしまうといった具合だ。
他の文字として認識もされない字は誤字扱いらしく、翻訳されない。
他にあるのは、えび色みたいなケース。
伝えたいのが海老色の方なのか、それとも葡萄色の方なのか分からない場合も翻訳されない。
振り仮名しないと翻訳されない事もある。さっきの葡萄色なんかもそうだ。
えびいろなのか、ぶどういろなのか?どっちを伝えたいのか、振り仮名がいる。
もちろん、前後の文脈からすんなり翻訳される事も多い。
そうだな。例えば文中にある下品なら、振り仮名しなくても大丈夫。
単語で下品と書くと、振り仮名がいるけどね…。
日本人でも、下品と読めると知っている人は少ないと思うんだが…。
まあそんな諸々があり、誰かにチェックしてもらうのは必須となっている。
ついでに言うと、会話してても同じだよ。今なんて言ったのか聞かれる事も多い。
◇
「ぅんーっ!背筋伸ばすと生き返るっ」
「ああ。でも俺はこういう作業ばっかりは無理…。
採取依頼受けてる方がまだマシ」
「私も厳しいです。
ギルドの仕事は意外と立ったり座ったりしますから。だからこうやってずっと机に向かっているのは慣れないですね」
ははは…。三人とも、思ったよりダメージを受けているようだ。
三人で簡単なストレッチをして体を解す。ああー…。血が巡ってるー…。
「先生ー!」
「優さん、ちょいと良いのす?」
「はい、どうぞ」
子供と女性の声がしたのでドアを開けると、何やら美味しそうな匂いが漂ってきた。
「これなのすがね。学者先生が教えてくれた、食べれる芋のす。料理してみたのすが、あまり美味しくないのす…。
何か美味しくなる方法はないのすかね?」
「あー…、このお芋はねー……」
私はこのお芋、くわいが知っている中で一番近いと思うんだ。くわいは好き嫌いが分かれるお芋だからなあ…。
うーん…。
「まあ色々やってみようか」
皆でキッチンへ移り、持っていらしたくわいを調理してみる。
食べたのは煮物との事。まあ煮物もするが、揚げたり焼いたり一通りしてみようかな。
「これがアク抜きしてから煮た煮物。こっちは皮ごと焼いてみた物。これは…」
村人の家にある調味料を使い、色々作ってみた。何となく、摩り下ろして焼いてみた物もある。
料理が全部できたので、皆でさっそく試食だ。
「じゃが芋とは勝手が違うのすなあ。
アク抜きした煮物。残っとおエグ味が癖になるのす!」
「僕、揚げたのが良いや!」
「私はこれ。焼いたのはホクホクして美味しいよ」
「チップスが美味い」
「でも、一番は…」
「ふわふわ焼き!」✕五人
満場一致で、ふわふわ焼きが一番人気だ。山芋のふわふわ焼きを、くわいみたいなお芋で作ってみたんだ。
そしたら外はカリッカリ!中はすっごいふわっふわ!なのにすっごくもちもちしてて、すっごく美味しい一品に化けた。
村に伝わるタレにとても合い、エグ味はほとんど感じない。
「これ、お好み焼きに使ったら、ふわふわ感は失敗知らずかも」
「お好み焼き、久しぶりに食べたい」
試食を終え、追加でくわいみたいなお芋の摩り下ろしを入れた、オーク肉の豚玉を作ってみる事にした。
このジュージュー焼ける音も久しぶりだな。お好み焼きは、調査行軍に出る前に食べたのが最後だっけ。
厚めのオーク肉の片面が焼け、ひっくり返す。そこにやはり片面が焼けた生地を乗せ、焼き上がるのを待つ。
「うわ。お好み焼きにしても凄い膨らむな」
「山芋入れた時より、厚みが出たな」
他の三人はお好み焼きを知らない。だが、焼き上がりをとても楽しみにしているようだ。
焼き上りにしょう油を回しかけると、ホットプレートに垂れたしょう油が焦げる音と、香ばしい香りが食欲をそそる。
「んーっ、美味しそう!」
「そうだな。一人で一枚ぺろっと食べれそう」
みんな試食でそれなりにお腹は膨れている。それでも食欲をそそるお好み焼き…。さすがお好み焼きだわ。
「!こりゃ酒が欲しくなるわい!」
試食してる時に、暇を持て余してふらっと顔を出したタドリィ親方がそう感想を漏らす。
確かに!くわいではこうはならないだろう。お酒に合いそうな味だ。
「これは子供は嫌うかも知れないのすが、大人は好きそうな味のす!」
確かに。普通のお好み焼きにはない、くわいに似たお芋のほんの僅かなエグ味。それが大人向けのお好み焼きって感じにしている。
胡椒をきかせれば、さらに大人好みのお好み焼きに仕上がるかも!
一枚を皆で分けたのでもの足りず、次を焼いていたら将軍さまがいらした。
それを食べていたら雨の中、狩りへ出掛けていたカーニバルの皆さんが帰宅。そうこうしていたら、母子の旦那さんが奥さんを探しに…。
そうしてぽろぽろ人が集まり、コンテナハウスはいつしか人で溢れていた。
遅くまで飲み食いし、皆を見送る。
「あれ?書類って全部できましたっけ?」
その時、アベラさんが気付いた。
「休憩してて、そこから料理する事になったから…」
「…出来てない…、な」
「いえ、むしろ増えたのでは?!」
うん、たぶん増えたな。明日からこつこつ減らすよ…。
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