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33/110

33:減った分より増える

「今年は(はげ)しい雨がよく()るな…」


 コンテナハウスを(たた)雨音(あまおと)が、一段と(はげ)しくなったのだ。


 ユリシーズさんは(まど)に目をやり、そう(こぼ)す。この国出身のユリシーズさんがそう(こぼ)(ほど)、今年は(はげ)しい雨が多いらしい。


 私が転移して来て知っている(かぎ)りでもそう思う。


 本来(ほんらい)なら昨日、次の村へ()けて出発(しゅっぱつ)だったのだが、出発(しゅっぱつ)延期(えんき)になったくらいの雨だ。


 (じつ)は、西部は道路(どうろ)事情(じじょう)があまり良くない。そのため、無理(むり)して進むと、馬車の車輪(しゃりん)がぬかるみにはまる事がある。


 馬車を無限(インベ)収納(ントリ)収納(しゅうのう)して出せば、脱輪(だつりん)解決(かいけつ)する。しかし、雨に打たれて体調(たいちょう)(くず)す人が出る事を考え、無理(むり)はしないようにしているのだ。


 それに雨の中、戦闘(せんとう)になった時にぬかるみに足を取られても(こま)る。


 なら無理(むり)せず、出発(しゅっぱつ)延期(えんき)した(ほう)(はるか)かに良い。


「お二人とも!手が止まってますよ!」


「ごめんごめん。でもそろそろ、一度ちゃんと休憩(きゅうけい)にしよう」


 料理であったり、簡単(かんたん)構造(こうぞう)のアイテムであったり…。他にも色々作っている。


 物を作れば当然(とうぜん)書類(しょるい)仕事(しごと)も出来る。

 こつこつと。いや、思い出したら書類(しょるい)は作っている。


 つまり、書類(しょるい)仕事(しごと)()まっているのだ。


 アベラさんはちゃんと仕事をして下さっている。が、滞在(たいざい)(さき)行軍(こうぐん)メンバーからアイデアを持ち()まれる事もある。


 その案件(あんけん)相談(そうだん)に乗ったり、書類(しょるい)整備(せいび)のサポートをする事も多い。

 なので、私の事に専念(せんねん)している時間が意外(いがい)と少ないのだ。


 そして私の場合、(かなら)(だれ)かに確認(かくにん)してもらわないとならない。これが意外(いがい)地味(じみ)手間(てま)


 こちらにない言葉が翻訳(ほんやく)されないのは当然(とうぜん)。しかもそれは私では見付けられない。


 あと、ある程度(ていど)ちゃんと書かないと、(べつ)の言葉とか誤字(ごじ)として認識(にんしき)されるのも(こま)っている事だ。


 (つか)れてる時に書くと、(すご)(きたな)い字にたまになるんだよね…。


 ○って思って書いても、そう思って書いた言葉として認識(にんしき)されない。(べつ)の文字、あるいはそのまま誤字(ごじ)として認識(にんしき)されてしまうんだ。


 例えば『八』とか『行』。変に書くと、『八』は『丿(へつ)』と『(ほつ)』。『行』は『(てき)』と『(ちょく)』と認識(にんしき)されてしまうといった具合(ぐあい)だ。


 他の文字として認識(にんしき)もされない字は誤字(ごじ)(あつか)いらしく、翻訳(ほんやく)されない。


 他にあるのは、えび色みたいなケース。


 伝えたいのが海老(えび)(いろ)(ほう)なのか、それとも葡萄(えび)(いろ)(ほう)なのか分からない場合も翻訳(ほんやく)されない。


 ()仮名(がな)しないと翻訳(ほんやく)されない事もある。さっきの葡萄(えび)(いろ)なんかもそうだ。


 えびいろなのか、ぶどういろなのか?どっちを伝えたいのか、()仮名(がな)がいる。


 もちろん、前後の文脈(ぶんみゃく)からすんなり翻訳(ほんやく)される事も多い。


 そうだな。(たと)えば文中にある下品(げひん)なら、()仮名(がな)しなくても(だい)丈夫(じょうぶ)


 単語(たんご)下品(げひん)と書くと、()仮名(がな)がいるけどね…。


 日本人でも、下品(げぼん)と読めると知っている人は少ないと思うんだが…。


 まあそんな諸々(もろもろ)があり、(だれ)かにチェックしてもらうのは必須(ひっす)となっている。


 ついでに言うと、会話してても同じだよ。今なんて言ったのか聞かれる事も多い。


 ◇


「ぅんーっ!背筋(せすじ)()ばすと生き返るっ」


「ああ。でも俺はこういう作業(さぎょう)ばっかりは無理(むり)…。

 採取(さいしゅ)依頼(いらい)()けてる(ほう)がまだマシ」


「私も(きび)しいです。

 ギルドの仕事は意外(いがい)と立ったり(すわ)ったりしますから。だからこうやってずっと(つくえ)()かっているのは()れないですね」


 ははは…。三人とも、思ったよりダメージを受けているようだ。


 三人で簡単(かんたん)なストレッチをして体を(ほぐ)す。ああー…。血が(めぐ)ってるー…。


「先生ー!」


(ユウ)さん、ちょいと良いのす?」


「はい、どうぞ」


 子供と女性の声がしたのでドアを開けると、何やら美味(おい)しそうな(にお)いが(ただよ)ってきた。


「これなのすがね。学者(がくしゃ)先生(せんせい)が教えてくれた、食べれる芋のす。料理してみたのすが、あまり美味(おい)しくないのす…。

 何か美味(おい)しくなる方法はないのすかね?」


「あー…、このお芋はねー……」


 私はこのお芋、くわいが知っている中で一番近いと思うんだ。くわいは好き(きら)いが分かれるお芋だからなあ…。


 うーん…。


「まあ色々やってみようか」


 (みんな)でキッチンへ(うつ)り、持っていらしたくわいを調理(ちょうり)してみる。


 食べたのは煮物(にもの)との事。まあ煮物(にもの)もするが、()げたり焼いたり一通(ひととお)りしてみようかな。



「これがアク()きしてから()煮物(にもの)。こっちは皮ごと焼いてみた物。これは…」


 村人の家にある調味(ちょうみ)(りょう)を使い、色々作ってみた。何となく、()り下ろして焼いてみた物もある。


 料理が全部できたので、(みんな)でさっそく試食(ししょく)だ。


「じゃが芋とは勝手(かって)(ちが)うのすなあ。

 アク()きした煮物(にもの)(のこ)っとおエグ味が(くせ)になるのす!」


「僕、()げたのが良いや!」


「私はこれ。焼いたのはホクホクして美味(おい)しいよ」


「チップスが美味(うま)い」


「でも、一番は…」


「ふわふわ焼き!」✕五人


 満場(まんじょう)一致(いっち)で、ふわふわ焼きが一番人気(にんき)だ。山芋(やまいも)のふわふわ焼きを、くわいみたいなお芋で作ってみたんだ。


 そしたら外はカリッカリ!中はすっごいふわっふわ!なのにすっごくもちもちしてて、すっごく美味(おい)しい一品(いっぴん)()けた。


 村に伝わるタレにとても合い、エグ味はほとんど感じない。


「これ、お好み焼きに使ったら、ふわふわ感は失敗(しっぱい)知らずかも」


「お好み焼き、(ひさ)しぶりに食べたい」


 試食(ししょく)を終え、追加(ついか)でくわいみたいなお芋の()り下ろしを入れた、オーク肉の豚玉を作ってみる事にした。


 このジュージュー焼ける音も(ひさ)しぶりだな。お好み焼きは、調査(ちょうさ)行軍(こうぐん)に出る前に食べたのが最後だっけ。


 (あつ)めのオーク肉の片面(かためん)が焼け、ひっくり返す。そこにやはり片面(かためん)が焼けた生地(きじ)を乗せ、焼き上がるのを待つ。


「うわ。お好み焼きにしても(すご)(ふく)らむな」


山芋(やまいも)入れた時より、(あつ)みが出たな」


 他の三人はお好み焼きを知らない。だが、焼き上がりをとても楽しみにしているようだ。


 焼き上りにしょう油を回しかけると、ホットプレートに()れたしょう油が()げる音と、(こう)ばしい(かお)りが食欲(しょくよく)をそそる。


「んーっ、美味(おい)しそう!」


「そうだな。一人で一枚ぺろっと食べれそう」


 みんな試食(ししょく)でそれなりにお腹は()れている。それでも食欲(しょくよく)をそそるお好み焼き…。さすがお好み焼きだわ。


「!こりゃ酒が()しくなるわい!」


 試食(ししょく)してる時に、(ひま)を持て(あま)してふらっと顔を出したタドリィ親方(おやかた)がそう感想(かんそう)()らす。


 確かに!くわいではこうはならないだろう。お酒に合いそうな味だ。


「これは子供は(きら)うかも知れないのすが、大人は好きそうな味のす!」


 (たし)かに。普通(ふつう)のお好み焼きにはない、くわいに()たお芋のほんの(わず)かなエグ味。それが大人(おとな)()けのお好み焼きって感じにしている。


 胡椒(こしょう)をきかせれば、さらに大人(おとな)(ごの)みのお好み焼きに仕上(しあ)がるかも!


 一枚を(みんな)で分けたのでもの足りず、次を焼いていたら将軍(しょうぐん)さまがいらした。


 それを食べていたら雨の中、()りへ出掛(でか)けていたカーニバルの(みな)さんが帰宅(きたく)。そうこうしていたら、母子(ははこ)旦那(だんな)さんが奥さんを(さが)しに…。


 そうしてぽろぽろ人が集まり、コンテナハウスはいつしか人で(あふ)れていた。


 (おそ)くまで飲み食いし、(みんな)を見送る。


「あれ?書類(しょるい)って全部できましたっけ?」


 その時、アベラさんが気付いた。


休憩(きゅうけい)してて、そこから料理する事になったから…」


「…出来てない…、な」


「いえ、むしろ()えたのでは?!」


 うん、たぶん()えたな。明日からこつこつ()らすよ…。

お読み下さって有難うございます。

お楽しみ頂けましたら幸いです。


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