29:昔ながらの村
「はーい、みんな順番に取りに来て」
以前された鞭打ちなどの治っていない子供たちの怪我をポーションで治し、現在おやつにおかずクレープを作っている。
この村は稀少な鉱石や薬草が採れる事がない、いたって普通の村らしい。
主産業は山羊の飼育。山羊の乳で作ったチーズもその一つだが、酸味があるからかいまいち不人気らしい。
もちろん好みはあるが、スモークした山羊乳製チーズすっごい好きだけどな。
いや、羊肉とかの癖のあるお肉も平気だわ。辛くなくって、臭豆腐とかシュールストレミングみたいに突き抜けた臭いがしなければだいたいの食べ物は平気かも。
なので、山羊乳製チーズの独特の香りくらいは平気。
こちらに来て初めての山羊乳製チーズ!美味しくたくさん食べたくて、小麦粉で作るおかずクレープをせっせと作っている。
山羊乳製チーズと普通のチーズを半々にしたし、臭いも酸味もちょっと控えめになっている。…はず。
「お…いしーっ!」
「小麦粉のクレープ、初めて!美味しいね」
「トリとチーズのも、ベーコンとチーズのも美味しい!」
クレープといえば蕎麦粉で作るガレットらしい。ガレットは作れないので、作り慣れてる小麦粉のクレープを作った。そして一つ一つを小さめにして、一人二個渡してある。
「さあさあ、ちゃんと牛乳も飲むんだよ!」
各村でおやつやご飯を作るのが恒例となっており、手の空いている非戦闘員の女性たちが手伝って下さるのも恒例になりつつある。
ニホンショクのレシピ目的と、おこぼれに預かれるのも大きいみたいだけど。
「牛乳はねえ、骨を強く丈夫にしてくれるんだと!」
「子牛のいる時期にしか飲めないからねえ。ちゃんと飲むんだよ!」
私からの受け売りの文句を子供たちにかけつつ、忠実に面倒を見て下さっているよ。
この世界にはまだ乳牛、肉牛以前の牛しかいない。だから牛乳の生産量は少ない。また、子牛のいる時期にしか飲めない貴重品だったりもする。
牛より山羊の飼育に力を入れている村でもあり、牛乳を飲んだ事がない子もいるくらいだ。
「あ、山羊の乳もだよ。飲める時は飲むようにすると良いね。
乳の他にはチーズとか、乳製品全般が骨を丈夫にするんだ。
きのこを併せて食べると尚良いよ」
カルシウムとビタミンDと言っても伝わらない。乳製品ときのこ類と、大雑把な説明に留める。
「あ!だからクレープにいっぱいきのこ入ってるんだ?」
「きのこなら、この辺はいっぱい採れるよ!」
「へー、きのこがたくさん採れるの?きのこ狩りした事ないから、してみたいな」
ある程度クレープ作りに慣れた女性たちが、子供たちの所へ行きなと言って下さった。お礼を言い、素直にお言葉に甘えて席に着く。
私のクレープに入っているチーズは、山羊乳製チーズオンリー、チーズ増量。ユリシーズさんの分は、山羊乳製チーズ少な目になっていたりするクレープを持って。
すると、もう食べ終わっていた子供たちに取り囲まれてしまった。
教会の庭でしているので、村の方たちも匂いに釣られてちらほら交じっていらっしゃる。
「普通なら余所者には教えねぇんすが…。きのこ、採ってみてぇすか?」
「あ、村の秘密とか共有財産とかですか?
お邪魔するのがご迷惑なら、できなくてもかまいませんよ」
残念ではあるが、もしそうなら仕方ない。
「ここにゃ何もねぇんす。むかぁしの暮らしで、どうにか税も納められているけんど…。
ちっとの事で、すぐ村は飢えるのすよ…」
「山羊革は?人気ないんですか?」
「牛の物に比べて、薄いのす。んだもんで、あんまり人気がないのす」
「牛革と比べても、そんなに丈夫さに違いはないって言われてたはずなんだけどな…?」
とは言え、だ。どうしてもそれを頼りなく感じるのは、如何ともしがたい。
「冒険者や傭兵は、革鎧に命を守られる事もあるのす。薄いのは頼りないのす…」
「革鎧?」
「魔物の革は別だけど。普通の生き物の革鎧の素材なら、牛の革の一択」
「ああ、まあそうなるよね。
板金鎧の下に着ける物とか、町の冬の防寒着とかは?牛革より軽くて動きやすいよ?
鞄や靴を作るのにも向いてたはずなんだけど…」
「町の冬の防寒着…」
「鎧にしないのすか…」
え、皮革は鎧にしかしないのか?地球なら、革のチュニックとか色々あった気がするんだけど…?
◇
「水に漬けておいたり、茹でて硬くした物がこの革鎧ですよね?」
「んだあ」
「防寒着に使うには硬くしません。着心地が良くないので。
これは羊で作った物ですが、柔らかいので着心地が良いんですよ」
無限収納にしまっていた、ユリシーズさんのムートンのショートコートを手渡す。
「なんだあ!柔っこい…!」
「んだんだ!それに毛の方が内側で、なんとも温そうだぁ…!」
革ではないが、私が転移して来た時に着ていたコートも出す。
「これは革ではありませんが、薄くて軽くて丈夫なこういうコートにするのはどうでしょう?
革は水に濡れたまま放置すると硬くなったりしますが、防寒着としてはかなり優秀です」
「これは何とまあ…!」
「毛皮でないのす?んでもあったかいのすか?!」
「風を凌ぐだけでも、かなり温かいですよ」
◇
「どんぞ、村のワインですが呑んで下さいのす!」
「ありがとうございます」
新しい道が出来てから、宿場町として作られた村は活気をなくしていたそうだ。そのため、昔ながらの生活をする事でどうにかしていた経緯などを村長さんから伺った。
余所へ行くこともできず、昔の生活に戻って耐えるだけだった村。
それが山羊で色んなことが出来そうだと、村長さん以下、皆不安はありつつやってみようと明るい表情になっていった。
皆が明るい表情になった頃には夜になってて、教会の庭でそのまま宴会に突入しちゃったよ。
「?!甘…っ。昔の、水で割って蜂蜜入れるワイン?でも、アルコール度数は高そうだから、酒精強化ワイン?」
「詳しくは知らねぇのす。村ができた頃から作られてるワインのす。
あの、お口に合わねすか?」
「初めてで驚いただけですよ。頂きます」
色んな物が時を止めた村。この村が豊かになれば良いなと思いつつ、蜂蜜入りの甘いワインを頂いた。
アテにお出しした、お昼から燻していた山羊乳製チーズ。これは後世まで残る名物となったのだった。
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