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26/110

26:シュフとの一日

「今日もこのまま野営(やえい)としよう」


 将軍(しょうぐん)さまが(しの)く雨に嘆息たんそくしつつ、今日の予定を決定なさった。


 輸血(ゆけつ)の話をした日の夜から降り始めた雨は、四日()った今日も(いきお)いが(おとろ)える事なくり続いている。


 小雨(こさめ)なら進むが、こんな土砂(どしゃ)()りの中を進んでもね…。体を()らして体調を(くず)(かた)()えるだけだ。


 雨の中、野営(やえい)()地盤(じばん)のしっかりしていそうな高台(たかだい)(うつ)して用心(ようじん)したよ。


 主食(しゅしょく)野菜(やさい)十二(じゅうに)(ぶん)ある。だが、肉は心許(こころもと)ないかもなあ…。


 行軍(こうぐん)全体の食料となる()りは、隙間(すきま)時間(じかん)にしかしてない。だから普段(ふだん)はちょっと余裕(よゆう)がある程度(ていど)しかないからね。


 こう何日も()りも行けない日が続くと、肉はすぐに足りなくなる。


 ま、クーとルー、それにシルバーから分けてもらえば(こと)()りるんだけどさ。


「ひょえっ?!」


 今日はゆっくりしますと宣言(せんげん)し、コンテナハウスのリビングダイニングでだらっとしていた。


 小さな部屋に、クーとルーとシルバーの三匹ともは流石(さすが)に入り切らない。そのためここでだらけていたんだが、いきなりユリシーズさんがおでこ同士(どうし)をくっつけて来て変な声が出たよ!


「…顔もちょっと赤いし、熱があるな」


 あ、ああ…。体温計がないから、おでこくっつけて熱の確認(かくにん)をしてたのか…。


 って、今一気に体温が上がったじゃないかっ。


「ユリシーズさんが(おどろ)かすから、熱くなったんだよー。手で良いじゃないか…」


(おどろ)く前から、顔は赤かった」


「そう、かなあ…?」


 いや、ちょっとボーッとしてた気もする。(くちびる)もカサカサしてるかな…。


(ユウ)は今日一日ゆっくりしてて。俺が家事(かじ)全部するよ」


 ユリシーズさん、この世界で(はじ)めての専業(せんぎょう)主夫(しゅふ)になれるかも。最近、家事(かじ)(うで)がめきめき上がってるから。


 (だる)くて小さく(うなず)いて答えると、大きな手が目を(おお)った。それと同時にヒーリングしてくれているみたい。


 いつしかトロトロと(ねむ)りに落ちてしまった。


 ◇


 …?あれ、なんで絵なんか()いてるんだ?服もそんなの着ないっていう、中世ヨーロッパ風の服着てるのはなんでだ?


 うわ、ユリシーズさんがめっちゃ主夫(しゅふ)してるし。


 そっか、夢だな。うん。なんか、見てる分には楽しいかな。


 でも、なんで私が画家(がか)


 …!世界(はつ)専業(せんぎょう)主夫(しゅふ)からか。


 ラヴィニア・フォンターナっていう、十六(せい)女性(じょせい)画家(がか)だったよな。そのラヴィニアさんの旦那(だんな)さんが、世界(はつ)専業(せんぎょう)主夫(しゅふ)って言われていたはず。


 夢の中で主夫(しゅふ)をしているユリシーズさんは、何だか覇気(はき)がないような気がする。


 (たの)まれた絵の具を作ったり、背景(はいけい)(えが)いたり(せわ)しなくはしている。


 ごはんにいたっては、本物のユリシーズさんよりたくさん食べさせようとしているよ。本物のユリシーズさんより、私を太らせる事に余念(よねん)がないわ。


 でも、それだけだ。幸せそうではある。幸せそうではあっても、充実(じゅうじつ)(かん)はなさそう。


『ユリシーズさんはやっぱり冒険者じゃないとね』


 夢の中のユリシーズさんを見ながら、そう思ったのだった。


 ◇


「ごめん、こした?」


「うううん、そんな事ないよ」


 目がめたタイミングで、ユリシーズさんと目が合った。


 いつの間にか部屋のベッドに運ばれている。運ばれたのに気付かないくらい、グッスリねむっていたみたいだ。


「お昼、うどん作った。食べれそう?」


「わ、ありがとう。食べる」


 ここに食事運ぶから、待っててと言われて待っていると…。


「…ユリシーズさん?」


 ねぎたっぷりのうどん。(さけ)西京(さいきょう)()き。茶碗(ちゃわん)()し。豆腐(とうふ)のあんかけ。焼きねぎ。以上が運ばれてきたんだが………。


体調(たいちょう)が悪い時に、食べたい物が分からなかったから」


 それにしても多いよ。(さけ)西京(さいきょう)()きと茶碗(ちゃわん)()しは、ユリシーズさんの無限(インベ)収納(ントリ)にも常備(じょうび)されているけど。


「食べたい物がない?」


 食べ始めないせいか、食べたい物がないのかとユリシーズさんは不安になったみたいだ。


「ヒーリングのおかげでもうすっかり回復(かいふく)してるから、ちゃんと食べられるよ。

 安心してね」


 書物(かきもの)(づくえ)兼用(けんよう)のため、広めに作ったベッドテーブルに(なら)んだごはんを食べ始める。


 すると、ユリシーズさんも安心して食事に手をつけ始めた。


「あ。カーニバルの(みな)さんは?ごはんどうしたの?」


「ん?先にねぎうどんか肉うどんどっちが良いか聞いておいて、このメニューにステーキ足した」


「そうなんだ。ごめんね、ありがとう」


 和食に唐突(とうとつ)にステーキが付いても美味(おい)しく食べれるなら、とやかく言う事もないだろう。うん。


「うどん、美味(おい)しい。豆腐(とうふ)のあんかけも、あんが良い塩梅(あんばい)


(ユウ)(した)処理(しょり)した物や、出汁(だし)もあったから。

 つだってきて、簡単(かんたん)な物なら作れるようになってきたしね」


「それがあっても、作れない人は作れないよ」


 うちの長兄(アニキ)ならー…。茶碗(ちゃわん)()しは()が入り、西京(さいきょう)()きは()げるか半生(はんなま)豆腐(とうふ)のあんかけは、豆腐(とうふ)()が入るか、あんがゆるいかドロドロかにしているだろう。


 うどんは液体(えきたい)粉末(ふんまつ)出汁(だし)と、カットねぎで普通(ふつう)に作れるとは思う。

 焼きねぎは…。失敗(しっぱい)成功(せいこう)、どっちかだな。


 次兄(あに)は何もなくても、何かしら作ってくれただろう。料理できる人だからね。


 ◇


 ヒーリングのおかげで体調(たいちょう)はすっかり(もど)っている。だが、「(ユウ)普段(ふだん)(いそが)しすぎるから。今日はずっと休んでる事」と、食器(しょっき)を下げるのもダメ出しをされてしまった。


 ユリシーズさんに、割り()れる事は割り()ってはいる。それでも体調(たいちょう)(くず)したので、だいじょうと言っても聞いてもらえなかった。


 仕方(しかた)ないので、ベッドで備忘(ひぼう)(ろく)整理(せいり)をしてごすかな。


 ほどなくして(もど)って来たユリシーズさんに、それも禁止(きんし)されたけど。


「キッチンは、ヘチマでシンクもコンロも綺麗(きれい)にしたよ。

 廊下(ろうか)とかリビングダイニングは、天井(てんじょう)から(ゆか)かって風魔法で(ほこり)(はら)った。最後に(ゆか)を水魔法ですすいで乾燥(かんそう)しといたから。

 今までに何回もしてるから、合ってると思う」


掃除(そうじ)までしてくれたの?ありがとう」


「どういたしまして。

 体も服もだし、家も綺麗(きれい)清潔(せいけつ)にしておく事。これはオオシロ()のルールだろ?」


「うん、そうだよ」


 お風呂(ふろ)掃除(そうじ)洗濯(せんたく)は、お風呂の後にすぐしてしまう。翌日に持ち()さない。

 お風呂は乾燥(かんそう)させてないと、カビが生え(やす)状態(じょうたい)だからね。


 日本でならお風呂(ふろ)掃除(そうじ)は、設定(せってい)できる一番低い温度の水で、せんざいあらい流した後にかべゆかを冷やしていた。お風呂場の温度を下げる事で、(きん)繁殖(はんしょく)しにくい温度に早くするためだ。


 こっちでは風魔法ですぐお風呂場を乾燥(かんそう)させられるので、とても助かっている。


 少し話をしていたら、ユリシーズさんがちょっとねむそうになった。


 ユリシーズさんがお昼寝する事にしたのは良い。家事をしてくれて、(つか)れただろうしね。ただ、私はお昼寝するユリシーズさんにがっつり(かか)()まれたため、一緒(いっしょ)にお昼寝は()けられなかった。


 そして、夜。

 夜は夜で晩ごはんを作ってくれ、片付(かたづ)けもしてくれた。


 何からなにまでしてくれて、感謝(かんしゃ)しかない。


 お風呂上がりには、「そろそろ(かみ)、ポーションで奇麗(きれい)にしよう。パサパサし始めてる」と、ヘアケア付きだった。


 いつかみたいに、(かみ)(いた)んだからと切られてはたまらないと、ユリシーズさんは私のヘアケアにも熱心なのだ…。


 見習(みなら)魔術(まじゅつ)()さんか、見習(みなら)錬金(れんきん)(じゅつ)()さんの作った格安(かくやす)ポーション。この格安(かくやす)ポーションで(いた)んだ(かみ)()れた(くちびる)(はだ)、あかぎれを(なお)すのは、ちょっと余裕(よゆう)のあるお(たく)では普通(ふつう)にしているそうだ。


 ユリシーズさん…。やっぱり主夫(しゅふ)ができるかもしれないな。


 私は(かみ)のケアをされながら、そんな事を思うのだった。

お読み下さって有難うございます。

お楽しみ頂けましたら幸いです。


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