26:シュフとの一日
「今日もこのまま野営としよう」
将軍さまが篠突く雨に嘆息しつつ、今日の予定を決定なさった。
輸血の話をした日の夜から降り始めた雨は、四日経った今日も勢いが衰える事なく降り続いている。
小雨なら進むが、こんな土砂降りの中を進んでもね…。体を濡らして体調を崩す方が増えるだけだ。
雨の中、野営地も地盤のしっかりしていそうな高台に移して用心したよ。
主食と野菜は十二分ある。だが、肉は心許ないかもなあ…。
行軍全体の食料となる狩りは、隙間時間にしかしてない。だから普段はちょっと余裕がある程度しかないからね。
こう何日も狩りも行けない日が続くと、肉はすぐに足りなくなる。
ま、クーとルー、それにシルバーから分けてもらえば事足りるんだけどさ。
「ひょえっ?!」
今日はゆっくりしますと宣言し、コンテナハウスのリビングダイニングでだらっとしていた。
小さな部屋に、クーとルーとシルバーの三匹ともは流石に入り切らない。そのためここでだらけていたんだが、いきなりユリシーズさんがおでこ同士をくっつけて来て変な声が出たよ!
「…顔もちょっと赤いし、熱があるな」
あ、ああ…。体温計がないから、おでこくっつけて熱の確認をしてたのか…。
って、今一気に体温が上がったじゃないかっ。
「ユリシーズさんが驚かすから、熱くなったんだよー。手で良いじゃないか…」
「驚く前から、顔は赤かった」
「そう、かなあ…?」
いや、ちょっとボーッとしてた気もする。唇もカサカサしてるかな…。
「優は今日一日ゆっくりしてて。俺が家事全部するよ」
ユリシーズさん、この世界で初めての専業主夫になれるかも。最近、家事の腕がめきめき上がってるから。
怠くて小さく頷いて答えると、大きな手が目を覆った。それと同時にヒーリングしてくれているみたい。
いつしかトロトロと眠りに落ちてしまった。
◇
…?あれ、なんで絵なんか描いてるんだ?服もそんなの着ないっていう、中世ヨーロッパ風の服着てるのはなんでだ?
うわ、ユリシーズさんがめっちゃ主夫してるし。
そっか、夢だな。うん。なんか、見てる分には楽しいかな。
でも、なんで私が画家?
…!世界初の専業主夫からか。
ラヴィニア・フォンターナっていう、十六世紀の女性画家だったよな。そのラヴィニアさんの旦那さんが、世界初の専業主夫って言われていたはず。
夢の中で主夫をしているユリシーズさんは、何だか覇気がないような気がする。
頼まれた絵の具を作ったり、背景を描いたり忙しなくはしている。
ご飯にいたっては、本物のユリシーズさんよりたくさん食べさせようとしているよ。本物のユリシーズさんより、私を太らせる事に余念がないわ。
でも、それだけだ。幸せそうではある。幸せそうではあっても、充実感はなさそう。
『ユリシーズさんはやっぱり冒険者じゃないとね』
夢の中のユリシーズさんを見ながら、そう思ったのだった。
◇
「ごめん、起こした?」
「うううん、そんな事ないよ」
目が覚めたタイミングで、ユリシーズさんと目が合った。
いつの間にか部屋のベッドに運ばれている。運ばれたのに気付かないくらい、グッスリ眠っていたみたいだ。
「お昼、うどん作った。食べれそう?」
「わ、ありがとう。食べる」
ここに食事運ぶから、待っててと言われて待っていると…。
「…ユリシーズさん?」
ねぎたっぷりのうどん。鮭の西京焼き。茶碗蒸し。豆腐のあんかけ。焼きねぎ。以上が運ばれてきたんだが………。
「体調が悪い時に、食べたい物が分からなかったから」
それにしても多いよ。鮭の西京焼きと茶碗蒸しは、ユリシーズさんの無限収納にも常備されているけど。
「食べたい物がない?」
食べ始めないせいか、食べたい物がないのかとユリシーズさんは不安になったみたいだ。
「ヒーリングのおかげでもうすっかり回復してるから、ちゃんと食べられるよ。
安心してね」
書物机と兼用のため、広めに作ったベッドテーブルに並んだご飯を食べ始める。
すると、ユリシーズさんも安心して食事に手をつけ始めた。
「あ。カーニバルの皆さんは?ご飯どうしたの?」
「ん?先にねぎうどんか肉うどんどっちが良いか聞いておいて、このメニューにステーキ足した」
「そうなんだ。ごめんね、ありがとう」
和食に唐突にステーキが付いても美味しく食べれるなら、とやかく言う事もないだろう。うん。
「うどん、美味しい。豆腐のあんかけも、あんが良い塩梅」
「優の下処理した物や、出汁もあったから。
手伝ってきて、簡単な物なら作れるようになってきたしね」
「それがあっても、作れない人は作れないよ」
うちの長兄ならー…。茶碗蒸しは鬆が入り、西京焼きは焦げるか半生。豆腐のあんかけは、豆腐に鬆が入るか、あんがゆるいかドロドロかにしているだろう。
うどんは液体か粉末出汁と、カットねぎで普通に作れるとは思う。
焼きねぎは…。失敗か成功、どっちかだな。
次兄は何もなくても、何かしら作ってくれただろう。料理できる人だからね。
◇
ヒーリングのおかげで体調はすっかり戻っている。だが、「優は普段忙しすぎるから。今日はずっと休んでる事」と、食器を下げるのもダメ出しをされてしまった。
ユリシーズさんに、割り振れる事は割り振ってはいる。それでも体調を崩したので、大丈夫と言っても聞いてもらえなかった。
仕方ないので、ベッドで備忘録の整理をして過ごすかな。
ほどなくして戻って来たユリシーズさんに、それも禁止されたけど。
「キッチンは、ヘチマでシンクもコンロも綺麗にしたよ。
廊下とかリビングダイニングは、天井から床に向かって風魔法で埃払った。最後に床を水魔法ですすいで乾燥しといたから。
今までに何回もしてるから、合ってると思う」
「掃除までしてくれたの?ありがとう」
「どういたしまして。
体も服もだし、家も綺麗に清潔にしておく事。これはオオシロ家のルールだろ?」
「うん、そうだよ」
お風呂掃除と洗濯は、お風呂の後にすぐしてしまう。翌日に持ち越さない。
お風呂は乾燥させてないと、カビが生え易い状態だからね。
日本でならお風呂掃除は、設定できる一番低い温度の水で、洗剤を洗い流した後に壁や床を冷やしていた。お風呂場の温度を下げる事で、菌が繁殖しにくい温度に早くするためだ。
こっちでは風魔法ですぐお風呂場を乾燥させられるので、とても助かっている。
少し話をしていたら、ユリシーズさんがちょっと眠そうになった。
ユリシーズさんがお昼寝する事にしたのは良い。家事をしてくれて、疲れただろうしね。ただ、私はお昼寝するユリシーズさんにがっつり抱え込まれたため、一緒にお昼寝は避けられなかった。
そして、夜。
夜は夜で晩ご飯を作ってくれ、片付けもしてくれた。
何からなにまでしてくれて、感謝しかない。
お風呂上がりには、「そろそろ髪、ポーションで奇麗にしよう。パサパサし始めてる」と、ヘアケア付きだった。
いつかみたいに、髪が傷んだからと切られてはたまらないと、ユリシーズさんは私のヘアケアにも熱心なのだ…。
見習い魔術師さんか、見習い錬金術師さんの作った格安ポーション。この格安ポーションで傷んだ髪や荒れた唇や肌、あかぎれを治すのは、ちょっと余裕のあるお宅では普通にしているそうだ。
ユリシーズさん…。やっぱり主夫ができるかもしれないな。
私は髪のケアをされながら、そんな事を思うのだった。
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