25:人を救う術
「んー…、疲れた…」
「お疲れさま」
まだ名前も分からない、マンチニールみたいな危険な木を見付けてから二日。
調査行軍と合流し、案内して下さった方を町まで送るのと、他に同じ木が生えてないかの調査が並行して行われた。
幸い他には危険な木は見当たらなかったが、怪我人が出た。
猪の魔物が出て、牙で酷く突かれた方が出てしまったのだ。
ポーションのお陰で怪我もすぐ治る世界だが、失血した血まで回復はしない。
休みつつ、食べ物で回復するしかない。
輸血ができればもう少しどうにかなるのかもしれないが…。
案内して下さった方を町まで送った隊が戻るまで、輸血の話で一騒動になった。
他者の血液が自分の体内に入る忌避感がとても強かったのだ。
「そういう救い方もあるという事です。強要はしません、大丈夫ですよ」
これは本心だ。この世界にはこの世界の成長速度や進み方があるだろう。
私もこの世界を第二の地球にしたいワケじゃない。
異世界転移者があっても、この世界はこの世界らしく発展してきているんだ。これからもそれで良いと思う。
「…さっきの話。ユケツ。出来るようになれば良いな…」
「そうだね。輸血ができるようになれば、助かる方は増えると思うよ」
「もっと前に出来るようになっていたら…。俺の仲間は死ななかったかも知れない」
シルバーをクッションに、二人で並んで座っている隣を見る。
ユリシーズさんは辛そうにして、目を閉じていた。
詳しく聞いてはいないが、たぶん自分が死なせてしまったと言っていた方を思い出しているのだと思う。
「地球にはさ、ポーションやハイポーションがないよ。輸血ができても、出血を止められなくて命を落とす方もあった。
輸血とポーション、どっちも揃うと良いね」
どんな亡くなり方でも、きっと誰かにダメージを与える事だろう。
それが自分のせいで死なせてしまったとなれば、いかばかりのダメージとなるだろうか。
「地球ではいつから輸血ができるようになったか知らないけど。輸血ができるようになったばかりの頃。
うううん。その考えそのものが世に現れた時は、今のこの世界の方たちと同じだったと思うよ」
今は受け入れられない事柄も、いつか人々に受け入れられる日が来る物もある。
地球でも輸血も、手術も、移植も…。初めから受け入れられていたわけじゃないしさ。それと同じだろう。
◇
どれくらい何もしゃべらない時間が過ぎただろうか。そろそろ皆のところへ戻ろうと考えた時だ。
「優さま。先程のお話を、もっとお聞かせ願えませんか?」
「ショアラさん、ご苦労さまです。
それは構いませんけど…」
ショアラさんの軍人としての実力は少数精鋭部隊の一つ、双頭隊の中でも、軍全体でもかなり上位に位置したはず。
戦いの他に、医療にも興味があるのかな?
「私の実家は魔法が使える者は軍人に。魔法が使えない者は医者になる者が多いのです。魔法が使えない医者だからか、魔法が使えなくても人を助けられる知識や技術を得る事に貪欲なのですよ」
内心を見透かされた?!そうアワアワしそうになっていると、ショアラさんの後ろから面差しの似た男性が一歩前へ進み出られた。
「これは私の弟、ショーンと申します」
「優公、お初にお目にかかります。
まだお目にかかった事がなく、やっとお会いできて光栄です」
堅苦しい挨拶を四人で交わし、本題へ移る。
ショーンさんにも、会った方たち皆さんにお願いしている事をお伝えしておく。
「貴族らしいというのが分かりませんし、何より気楽でありたいです。楽に話して下さると有難いです」
「分かりました。ではそのように」
無限収納から簡易テーブルセットを出し、皆席に着いてお茶とお茶請けも出して喉を潤す。
「輸血の事についてのお話ですよね。
私は医学を修めたわけじゃありません。知らない事も多い事、ご了承下さい」
「構いませんよ。
私たちには思いもよらない術がある。それが一人でも多く人を救う役に立っていると知れる。どんな事を研究すれば良いのか手がかりを得られる。
その全てが貴重なお話ですから」
ほ。理解のある方で良かった。
ほっとして、あれこれお話する事ができたよ。
「…と、血液型を調べる方法が必要になります」
「血はみな同じではない?!」
「はい。地球だとABO式という方法で、RhプラスとマイナスにそれぞれA型、B型、O型、AB型がありました。
ABO式で判別できない希少な型もありましたよ」
「血に型があるとは…!」
ショーンさんは、それはもう大興奮だった。ショアラさんもそれなりに知識があるのか、興奮気味になられてたけどね。
気が付けば何人かの方たちが、テーブルを遠巻きにして集まって来ていた。
「良ければ近くで聞いて下さい」
テーブルセットは一組しかないので、シートを広げてお盆にカップとポットを用意して声をかけてみる。
すると、おずおずとシートに集まって腰を落ち着けて下さった。
集まった方たちは、皆がみんなお医者さんやヒーラーさんではなかったが、輸血に忌避感はあるものの気にはなったようだ。
◇
「血液から分かる健康状態!両親の血液型から生まれる子供の血液型が分かる!」
「血液にそれほど様々な働きがあるとは…」
DNA鑑定はさすがに話さなかったが、血液で分かる事を知る限り話したよ。
最終的にスマホで録音したり、木簡に筆記したりする方がほとんどになっていた。
皆さんが意見を戦わせていらっしゃるのを見ながら、助かる命は助けたいって気持ちがある事を嬉しく思った。
迷信やお呪いが普通に信じられている時代。そんな時代だから、現代からすればあり得ない治療も対処方法も広く信じられている。
迷信やお呪いも、心の拠り所としては重要だろう。だが、助けるにはそれでは足りない。
助けるための手立てが不可欠だ。
「ユケツができるようになるには色々な道具が必要で、調べる事もあるんだな」
ずっと聞き役に徹していたユリシーズさんがポツリと呟く。
「分からない事。未知なる事。それは時間をかけて解明されるものだから」
分かっている事なら、本や文献を調べれば分かるだろう。ネットがないから、その場ですぐとはいかなくてもね。
「…そうだな。一日でも早くユケツができるようになれば良いな。
それで助かる人間がいるなら、助かって欲しい」
夕闇の近づくなか。私もユリシーズさんもそんな日が早く来る事を、明るく輝く一番星に願った。
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