21:両親の教え
「二階もヒビや穴もないし、問題ないな」
「優、下だけど。窓が全部小さくて、数が多いから。全部の窓にまだガラス窓を嵌め終わってないけど、ガラス窓を嵌め終わったところから鎧戸付け始めてる」
「そっか。順調だね。
引っ越しはどうだろう?」
体育館のような広い一間とシャワールーム、トイレだけの二階。問題がないか見て回る間に、一階ではガラスを嵌めたりの作業が進んでいるようだ。
錬金術で窓ガラスを作れる方、大工仕事で鎧戸が作れる方も多くて助かる。
「あ、優先生!」
「もう引っ越し始めてるよ!」
「教えてくれてありがとう。私たちも手伝うね」
子供たちにはすっかり懐かれた。一番大きな子は12歳。一番小さな子は、まだ生後九ヶ月。
ベビーベッドは一般的ではないらしいので、ベビーベッドと乳母車を作って寄付するつもりでいる。
引っ越しは一日で終われた。少々遅い時間になりはしたが、終わりは終わりだ。
実は引っ越しの途中で、パントリーと洗面台代わりの流しを設置した。それが作業が終わるのが遅くなった理由である。
ただ体育館を想像するとない設備だが、ないと煮炊きができない。それに気付き、慌てて作ったためだ。
教会はまだする事があるが、物の移動は全部できた。祭具の配置など、教会の方にしかできない事があるが。
ドアや窓、鎧戸は全部設置が終わっている。なので実質、引っ越しは終了といって良いだろう。
◇
「なんとまあ…」
寺子屋の教室に使っている、教会の集会室へ入って来られたのは村長さんだ。
「たった一日で、こんなに立派な建物が…」
「おはようございます。
何かあった時の避難所ですから。調査行軍の泊まっている建物より、かなりしっかり作りました」
「有難い事です。何年か前の大寒波の時は、凍死する者が多かったです。
あの時、こんな避難所になっていれば…」
「その事もお聞きして、かなり力を入れて作りました」
しんみりしていると、子供たちや村人たち、軍の方たちが続々とやって来た。
さあ、今日の授業をしようか。
「あ!下から上の線!優先生、分かったかも!」
「あ、分かった?その感覚を覚えてね」
国語の授業は、筆記用具を使う感覚が掴めた人が増えて順調。算数は…。
「隣の狭い避難所を使われますか?」
「ありがとうございます。そうさせて頂きます」
受講希望者が、昨日の倍以上になってる?新しい寺子屋の教室には入り切らないくらいだ。
翌日には国語の時間から、二階の体育館みたいな広い部屋が教室になったよ。
子供たちの参加もだが、村の方たちや軍の方たちの参加者が物凄く増えたんだわ。
「ふーっ。ユリシーズさん、ご苦労さま」
「お疲れさま。今日は…。手伝いの人が多いみたいだな」
「そうだね。昨日ほど大きな建物じゃないから、こんなに人手は必要ないんだけどね」
作業そのものは村の仕事という事で、村人が無償であたっている。元々しっかりした避難所を作る話があり、私はしばらくお世話になるお礼にその話に乗った形。
賄いは、孤児院の子供たちと一緒に食べるついでだった。どうもそれが、手伝うとニホンショクが食べれるみたいだという噂になったっぽい。
「珍しい物が食べれるのも娯楽だと思うし、何かあっても東部へ戻る手段もあるから良いよ」
「いや、でも…」
「後で作業を手伝って下さる方たちなんだ。差し入れみたいなものだよ」
「差し入れ?それって牢に収監されている家族や知人に渡す品の事だよ?」
「えっ?!差し入れはみんなで頑張ろうとか、頑張ってるねって労いじゃないの?」
二人で首を捻ったよ。もしかしたら、本来はユリシーズさんの説明での使われ方だったのかもという結論に落ち着いた。
「こっちはステーキと、付け合せの茹で野菜。これはアリゴ。チーズ入りマッシュポテトって感じかな。最後のこれはピエロギ。何て説明したら良いかな…」
説明としては洋風水餃子が一番しっくりするが、水餃子が例えに使えないだろうしなあ。ラビオリも使えないだろうし、むーっ。
「食べりゃ分かるかも知れないよ!」
「そうそう。無理に説明しなくても、優さんの料理が美味しいのは分かってるんだから!」
賄いを手伝って下さる方たちと合流すると、下拵えの終わった物を無限収納から取り出しながら説明してたんだ。
ピエロギの説明は、例えようがなくて困った。だが、人気は一番あったよ。
「具の入った水遁?」
「水遁あるんですね。うん、そんな感じ。
ピエロギは焼いても良いし、油で揚げても良いよ」
煮たピエロギは女性や小さな子供、ご老人に人気。焼いたり揚げたのは大きな子供や男性に人気となった。
そして皮も具も色々変えれるから、バリエーションが豊富。また、パンより使う小麦が少く安上がりなため、国民食として急速に広まったのには驚いた。
「さあ、美味い物を食べさせてもらったんだ!頑張って避難所を作ろう!」
「おおっ!」
「美味いもの食べさせてもらって、こんなすげぇ建物の避難所を作ってもらえるんだ!頑張らねぇ理由がねぇぜ!」
皆のやる気が湧いたなら、賄いを作った価値は十分だろう。
地球の両親が良く言っていた。
「誰かの役に立てる事は幸い。ありがとうと言ってもらえるのは幸せ。
自分が思っていた程ではなくても、してくれた分に感謝できるのは至難」
私はそんな両親の教えを実行しただけだ。そして、これからも続けてゆく。
◇
ご飯が終わると、小さい避難所を作る島へ移動だ。小学校低学年くらいの子供たちも、上手に水草の舟を操って移動する。
「皆舟を操るの上手いね」
「舟を操れないと、どこにも行けないもん!」
「毎日乗ってたら上手くなるよ!」
「優先生はこの舟は乗れないの?」
「練習したら乗れるかもしれないけど、今は乗れないと思う」
「魔道具の舟は乗れるのに、変なのーっ」
「あはは、そうだね」
泳げるけど、体が濡れるスポーツや遊びは好きじゃなかったからなー。カヤックとか、カヌーとかそういうのはしなかったんだよね。
そんな事を話ながら、一つ目の島にあっという間に到着。土魔法で建物を作り、この島を担当する方たちに後はお任せして次に向かう。
「こっちも一階は作業場で、二階が避難所で良いんですよね?」
「はい。規模もさっきの島と同じ物をお願いします」
村長さんに確認して、土魔法の建物を作る。
お父さんに、「明治時代に作られた堤防に、三和土で作った物がある」と聞いて改良したバージョンだ。
個人的にはこのままでも良いが、色モルタルとかでお好きな装飾を施して頂いて、長く親しまれれば良いなと思う。
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