20:久しぶりに先生
私たちが村にいられる時間は限られている。よって、私は村に着いたらまず電気柵作りと、聖魔法を使える方たちに食べれる、食べれないの感知の仕方、病気やポーションを使った後のヒーリング方法を伝え終えると自由時間となる。
滞在している間、自由時間となった午前中は村の寺子屋で先生をする予定。タドリィ親方の住んでいた村でした以来だ。ちょっと緊張するなー…。
「ペンの持ち方は分かったかな?親指と人差し指でペンを摘んで、中指は添える。その中指に薬指と小指は添えるだけで良いよ。
親指は横線を書く時に、人差し指は縦線を書く時に、中指は下から上に向かう線を書く時に意識して使って。
筆記道具をぎゅーって持たなくても書けるから。ふんわり持つのが、綺麗な文字を書くのに大切でもあるよ」
「はい!」
西部の子供たちは、将来大きな金額を扱う事になる確率が高い。そのため、読み書き計算が出来るようになる事に力を入れている所が多いそうだ。
しかし、文字は書けて読めれば良いって感じ。地球では日本人の文字を丁寧に書く人の多さは驚きらしいが、同じ書くなら読みやすい文字が良いよね。
「はーい、じゃあ○、△、□を書くよ。一つ目の形をなぞって五回。○から順番にね」
ユリシーズさんにここから先、子供たちの指導は引き継いでもらう。ユリシーズさんは以前、同じ事をして体得しているから助かる。
私はというと、付けペンを使う方たちの指導にあたる。
◇
「掛け算は、線を使ってやってみようね」
休憩を挟んで、次は算数の時間。
「優先生やユリシーズ先生みたいにまだ書けないのに、次は算数なの?」
子供たちからは、もう書き方の練習しないのかと不評。しかし、文字の練習は毎日ちょっとづつでいいのだ。時間も限られているしさ。
子供たちをなだめ、大人も一緒に掛け算の授業に入る。
「12✕34してみるね」
やろうとしているのは、インド式計算。
この世界には九九がない。算盤はあるが、使いこなせるまで教える時間もないし、出回ってもいない。
掛け算ができれば上出来という現状も鑑みて、インド式計算をチョイスした。
斜線を引いて、交わった点を数えたら答えが出せるからだ。九九を知らなくても、算盤がなくても答えが出せる。
時間も物もなくても教えるには、とても良いと思ってこれにした。
「…交わっている点を数えて、下に数字を書くとそれが答え。点が4、0、8。答えは408」
分かったか確認して、次は練習問題。
「13✕45。はい、やってみて」
黒板とかホワイトボードがないので不便だが、それも経験済み。
工夫して、どんどん授業を進める。
ユリシーズさんと二人、皆答えが出るまで教室を回る。
「皆、答え出たね?じゃあ、せーので一斉に答え言ってくれるかな?
せーの」
585!と、元気に答える声が返って来た。
「うん、皆正解!」
こんな調子で算数の時間は最後まで続いた。
◇
「優先生はすごいね!オレ、字がうまくなるなんて思ってなかった!」
「掛け算もだよ!ボク、今まで掛け算、あんまり正解したことなかったんだ。それが今日は全部正解できたよ!」
「文字はまだ分からんですが、掛け算は目を見張るものがあります!
計算の速さ、正確さ!今まであんなに苦労していたのが嘘のようですよ!」
「文字はね。さすがに一日でどうにかならないんだ。毎日こつこつ練習するしかないんだよ。
掛け算は数が数えられたら誰にでも答えが出せる方法だから、出来るって実感を得やすいね」
緊張の一日目の授業の後。子供たちからはもちもん、参加していた村の大人達からも、軍の方からも授業内容は好評を博した。
ほっとする瞬間だわ。
そして一通り話し終えると皆仕事に行き、孤児院の子供たちだけが残った。
"暴君"の被害と、若くして亡くなるのも不思議ではない世界のためだろうか。
人口200人足らずの村でありながら、孤児は7人とそれなりにいる。
西部自体、巨大な強い魔物が多い地域。その影響で物流はさほど活発ではない。そのため、村の外から来た物はかなり割高になっている。
寄付は多いが物価が高いため、西部の孤児院も貧窮しているところがほとんどらしい。
東部で鉄道のような物の敷設を考えた事があるが、現実的ではない。魔物除けの植物を植えても、それが効かない魔物に線路を荒らされる懸念が拭えないのが一つ。
野盗なんかの格好の標的になりかねないっていうのもある。
東部でそれだ。西部には鉄道はすごく難しい。安全に大量輸送できる手段を作れないものか…。
「優?どうかした?」
午後は孤児院の引っ越しをする。そのお手伝いをしてもらうのに、賄いのお昼ごはんを作っていたのだが…。考え事をしているうちに、手がいつの間にか止まっていたみたいだ。
「うううん、なんでもないよ」
「…無理するなよ」
「うん。さ、ご飯にしよう」
ユリシーズさんに答えると、朝早く起きて仕込んでいたパイなしの具沢山キッシュ、水じゃが芋のつなぎなしチーズ入りガレット、カリカリに焼いたオーク肉入り豚汁もどきを作り上げる。
それを仕切り付プレートによそい、引っ越しを手伝って下さる方たちに振る舞う。
「優先生、これ美味しいー!」
「こんな美味しいの、初めて食べた!」
「水じゃが芋は焼いても美味しいんだね!作り方も簡単!これならあたし達にも作れるね!」
ご飯作りを手伝って下さっている方たちには、簡単で美味しいと好評。子供たちには、美味しいと喜んでもらえた。
「美味しいって言ってもらえたら何よりです」
賑やかにお昼をしていて、取り掛かるのはちょっと遅くなったのは気にしない。
「じゃあ土魔法で建物を作るので、建物が出来たら引っ越しをお願いします」
任せて!と言う返事を聞き、大雨や波が荒い時の避難所も兼ねている教会と孤児院を作る。
普通の島が少ないので、この島の施設は官民共用。かつ、メインの施設なのでそれなりに大きい。
一階は教会、孤児院、病院と避難所の一部。
二階は一人当たりのスペースを畳二枚と考えて、避難民100人の収容が可能だ。一、二階併せて150人収容可能。
もちろん、風呂、トイレ完備だ。
「…規格外だって噂は聞いちゃいたが……」
「想像以上だねぇ………」
「ネーレさんもキンバリーさんも酷いな」
賄い作りを手伝って下さった、調査行軍のお一人のネーレさん。引っ越しを手伝って下さる、黙認された娼婦さんのお一人、キンバリーさん。お二人の感想の他は…。
みんなフリーズしてるのか…。
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