18:カニクリームコロッケ
「不思議だぁ。畑らしくもないのに、育つ作物があるなんて」
「ここは軍の畑なので、ほとんど食べ物を育てています。村の畑の多くは、上級ポーションの材料を作っているんですよ」
昨日は調査行軍の方たちの、風の魔石で動くボートに乗せて欲しい方たちとー。ボートをじっくり見たい方たちとー…。そうこうしていると、村の方たちも集まってこられてだな…。
宿舎の周りを見て回る事はできなかった。
ただ、夜にバーベキューして村長さんと顔合わせができたので、翌日の朝から村長さん自ら案内をしましょうと申し出て下さった。
今は昨日気になった、軍の畑になっている浮島の近くを通り抜けようとしている。
「野菜は何が育つんですか?」
「主食の水じゃが芋、それにレンコンなど数種の野菜です」
水じゃが芋って何だ?地球にはない種類のじゃが芋なのかな?
村長さんの説明をお聞きしながら、目指す浮島までボートを操る。
10ノットで進んでいるのだが、手漕ぎとは比べ物にならない速度だ。何艘かすれ違った舟の方や、浮島で作業なさっている方を驚かせてしまった。
何人か村の方たちを驚かせた後、目指す浮島が見えてきた。浮島の周りは浮島や建物、舟の材料にもなっている水草が繁茂している可能性がある。
浮島は湖底が浅い部分、浅いといっても水深5メートルくらいあるみたいだが。浅い所に茂った水草を、独特の方法で編んで係留部分と地面の部分の一番湖面に近い部分を作っている。
…のだが、年月が経つと編まれていない水草が浮島の周りに伸びていたりするそうで、これは村の方たちも注意されているそうだ。
オールに絡まっても大変だが、これがスクリューやなんかに絡まると目も当てられない。浮島の近くで風の魔石を切って、オールで漕いで浮島へ接岸する。
「わっ!?最初に降りた浮島よりふわふわ」
「ええ、そうです。ここは作物に合わせた浮島になっとります。気を付けて下さい」
足を付けたら水がけっこう染み出してくるな。通りで靴カバーみたいな物を配布されるわけだ。
「さあ、どうぞ。これが上級ポーションの材料の一つです。年に何度か収穫できます。今の時期は一番摘みで、一番効果が高い物になります」
茶葉か!と、つい突っ込みたくなるな。
「毎年の収穫量は安定しているんですか?」
「それがですね…」
◇
「…と、こんな風にすると横芽が伸びやすいなどあります」
スギナみたいな水草。それが育てている作物だそうだ。言われるまでそれが作物だと思わなかったよ。
「摘み方一つにも、色々あるんですねえ!」
畑の隅の五株ほどに、知る限りの摘芯の仕方なんかを説明しながら実際にやってみた。
「育てる物によって、どうすれば良く成長するのかは変わります。
痩せた土地の方が育つ、特定の組み合わせの野菜を交互に植えた方が良く育つ、どこで脇芽を摘むと実が大きくなる、横から新芽が伸びやすいとか」
「そ、そんなに作物を育てるのにも頭が必要なんですか?」
「長年の経験と勘も大切ですし、知識も増えれば同じ面積の畑からの収穫が増えたり品質が良くなったりしますから」
「はあー、農家でも考える事が必要なんですね」
学がないから農家になったのにと零す村長さん。
「ただ好きで、じっくり観察してその植物を上手く育てる方法を見つける方もいます。
村長さんは育てるのがお好きなんですよね?なら、色々試して、じっくり観察して、どうすればよく育つのか考えるのに向いていると思いますよ」
好きでなければ観察なんてしない。好きであるなら、第一段階はクリアしてると思う。
第一段階がクリアできてるなら、ちょっと勇気を出して次へ進んで大丈夫だと思うんだけどな。
「知識と言われると難しいですね。でも、どうすればよく育つのか考えるのならできそうです」
おおう、言葉がまず尻込みさせたのか。言葉は難しいな。
◇
「アベラさん、大丈夫ですか?」
「揺れてない所へ行きたいで…っう」
そんなに揺れてはなかったが、アベラさんはボートも駄目なようだ。
ユリシーズさんとお互いをこまめにヒーリングしあうようになって、酷い暑がりと汗かきが緩和した。
アベラさんも毎日ヒーリングしてあげたら、乗り物酔いする体質が改善するかな?
村長さんにお昼ごはんにお招き頂いたが、アベラさんがこの調子なので丁重にお断りして宿舎まで戻る事にした。
村長さんは畑仕事をしていらっしゃる、村の方に送って頂くとの事。私は案内して頂いたお礼を言って、宿舎まで戻った。
◇
「カニー!」
アベラさんにヒーリングして、その後宿舎を建てた島から釣りをしてみた。
カニの宝庫だよ!入れ食いだよ!
「かなり釣れたな。もういいんじゃない?」
「そうだね、もう十分だね」
「これでカニクリームコロッケ?っていうの作るの?」
「ここのカニは海のカニと変わらないって事だから、試しに作ってみるんだ」
カニクリームコロッケ、大好き!コロッケのなかで一番好き!
私たちはここでもコンテナハウスで寝起きしている。そそくさとコンテナハウスへ戻り、カニクリームコロッケ作りに取り掛かる。
普通のじゃが芋より水分が多い水じゃが芋を蒸し、弱火にかけた鍋の中で潰しながら水分を飛ばして水分の調整をした。
あとは普通にカニクリームコロッケを作るのと同じ工程で作ってみたんだが…。
「!!!何これ?!今まで食べた事があるなかで一番美味しい!」
「コロッケも美味しいけど、カニクリームコロッケも美味しい」
カーニバルの皆さんは言葉もなくカニクリームコロッケを頬張っていらっしゃる。
「酒のアテにはならんが、なかなか美味いもんじゃな」
「師匠、食べ物をアテ基準にしないで下さいよ。あ、もう呑み過ぎですよ!」
「まだほとんど呑んどらんわい!
嬢ちゃん、カニクリームコロッケはおかわりあるかの?」
「俺も欲しいけど…」
「私も!」
全員おかわりって事で、追加でカニクリームコロッケ作るくらい美味しかった。
水じゃが芋とここのカニと、魔物牛の牛乳とがあって作れる味だったと後に知る。
他で作ってもあの激ウマカニクリームコロッケにならなかったから絶対そう!
こうしてこのカニクリームコロッケは、この村の名物となるのである。
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