17:浮島の村
「お見事!」
「はは、ありがとうございます」
双頭隊の隊長さんのペア、ショアラさんに応える。
砂金採りの村を出て二日目。巨大な鳥の魔物の来襲があった。
その翌日は巨大へびが出たらしい。らしいと言うのは、ユリシーズさんに目を塞がれていたので姿を見ていない。後で話を聞いただけなのだ。
その後出た牛の魔物の群れは見たし、何頭か倒したよ。
そして今度は次の村へ着いた直後、私たちが通って来た道に魔物の狼の群れは現れた。
そろそろ狩りに出ている方たちが戻る頃との事。出くわしては大変だ。よって、村からエア89式小銃で狙えるだけの狼を倒したのが今だ。
「当たって良かったです。なんだか揺れてて、手元が狂って当たらないかと思いました」
「ここは小さな浮島ですから。稀に波の影響や風の影響で揺れる事があるそうです」
「この大きさがあっても揺れるんですね」
正確な大きさは分かりかねるが、小さな漁師小屋10棟ほどが軒を連ねている。
その漁師小屋が建っているのは人工の島。それも浮島なのだ。
見た感じ、島全体は何かの植物で作られている。チチカカ湖のウロス島と同じかなと思う。
で、あれば島は土で水底と繋がっていない。土の代わりに植物で係留している状態だ。なら、大きさはあっても揺れる物なのかと納得する。
湖の大きさは…、どれくらいだろう?同じような浮島が大小合わせて100個ほどあるそうだから、かなりの大きさだと思うんだけど。
「揺れるのはたまにですよ。それにここは陸から近いですが、他の浮島はもっと湖の中心に近い位置にあります。
泳いで渡ってくる生き物は数年に一度か二度の事。奥の島へ渡ってしまえば、守りも堅いです」
日中はずいぶん暖かくなり、生き物の活動も活発になっている。その影響で砂金採りの村からここへ来るまでの間、先頭にいる双頭隊の方たちが戦闘になる回数は如実に増えた。
もちろん私たちが戦う事も増えている。
あれらを普通の冒険者が倒そうと思うと、時間も労力も、もっと掛かるものらしい。
そんなのと戦わずに済むなら、たまにちょっと揺れるくらいは本当に些細な事かもしれない。
◇
「わーっ、ボートハウスもあるんだ!」
三百人からが一度に乗れる舟はないので、陸に近い浮島で舟を待ってしばし。最後の組となる私たちは舟に乗り込み、湖の中心へ向けて進んでいた。
「ああ、あちらは主に漁業を営む家族が住みます。浮島に畑を持つ家族は、浮島に家があります」
「聞いた事はあったけど、あれがか。人を襲う、大型の水棲魔物がいないから出来るって。
船上家屋のまま、良い漁場を探して移動するとも聞いたな」
「ユリシーズ卿はよくご存知ですね」
「国内の事だから。仕事柄」
「ショアラさんは?どうして知っているんですか?」
「私は補給部隊の護衛で一度。配置替えの部隊の護衛で一度。
つご、二度ほど来ましたから」
「補給…」
「西部では肉や魚は賄えても、小麦や米、野菜は村人から買い取れる事が少ないですから。補給はどうしても必要になります」
米か。浮稲、この国では寒くて育たないかな?普通の稲より、ここで育てるのに向いていそうなんだけどな。
野菜は…。水耕栽培には液肥が必要だったはずだし。むむむ…。
そうこうしていると、軍の練兵場になっている島にたどり着いた。ここはこの湖にある、数少ない普通の島の一つなのだそうだ。
「ここでは軍の方たちも畑仕事をなさっているんですか?」
「雇っている下働きたちですが、いくらか自給自足もしております」
練兵場の島の周りには、畑の浮島や、住居のための浮島がいくつか浮かんでいる。そこで作業なさっている方たちが見えたのだ。
後で畑を見せて頂こうと思いながら島に上陸する。そして土魔法で調査行軍全員分の宿舎を作ってしまう。
建物は土魔法だが、中は内鍵付の個室カプセルが並んでいるんだ。
公共スペースの居住性はイマイチだが、部屋は冷暖房完備。もちろん断熱材も使っていて、寒さ対策もバッチリ。
番号がふってあり、いつも同じ人が同じ個室カプセルを使っている。あ、でも二人で一部屋を使ってるんだ。
私もどれだけ無限収納に物が入るか分からないからさ。食料や予備武器とかお預かりする物もあったから、全員分個室カプセルを入れるのはちょっと尻込みしたんだわ。
「凄い…!天幕とは比べようもない!」
「天幕どころか、隊舎や家より快適だ!」
そういえば、軍の方たちは初めて入るんだっけ。
部屋に入り、荷解きを済ませた方たちが凄い凄いと飛び出して来られている。子供みたいなはしゃぎようだ。
◇
「ボート、湖に出て」
そう口にすると、バシャンと水音をたててボートが無限収納から出てきた。
「ユリシーズさんはそこでちょっと待っててね」
「ああ、気を付けて」
ボートに乗り込むと、風の魔石を稼働させる。風を動力としたボートは危なげなく、湖面をゆっくり進む。
手漕ぎボートくらいの速さかな?
これはお父さんの登録品。動力付のボートが欲しいと言ったのは私だが、作ったのはお父さんだ。
若い頃はバイクいじり、パーツを集めてバイクを組み立てたりしていたそうなんだ。
その為か、構造は何となく分かるとの事。問題は動力。地球で使っていた動力がないから、動力部分を作るのが大変だったと聞いた。
私は聞いてもイマイチ分からなかったんだ。ついでに言うと、何も手伝える事はなかったよ…。
その為、これはお父さんの登録品となった。
いや、言い出しっぺが私だと、私の登録品にする約束がある。だが、こればかりは私の登録品にするのは断固拒否した。
そしてどうにかお父さんを説き伏せ、お父さんの登録品にしてもらった。
もっと詳しくとか、改良をとかの相談が来ても対応できなくて困るだけだしね。
手漕ぎくらいの速さに慣れ、風の魔石に手を翳して10ノットと言ってみる。すると、グンとスピードが上がった。
次の15ノットは問題なかったが、20ノットはちょっと安定が悪くなったな。手漕ぎじゃないし、ほどほどの速度が出ている15ノットが出れば十分か。
これで明日から自由に浮島を行き来できる。運転も慣れたし、ユリシーズさんたちの所へ…。
やっぱりか…。黒山の人集りができてるよ…。
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