15:少ない人員と労力で
「よっと…。うん。これで良いかな?」
「お疲れさま」
「ユリシーズさんもお疲れさま。護衛ありがとう」
朝から作業して、上の畑にくるっと一周、電気柵を張り巡らせ終わったところだ。
作業中はどうしても無防備になりがちなので、ユリシーズさんとクーとルー、それにシルバーも護衛に付いてくれていた。
クーとルーとシルバーは、てってけ走り回って遊んでいたと言った方が正しい気もするけどね。
とはいえ、フェンリルの気配がすれば大抵の生き物は逃げる。遊んでいるだけで護衛ができちゃうんだから、護衛に徹してなくても良いだろう。
体もずいぶん大きくなったクーとルーも、もうそこそこの生き物から狙われる事も侮られる事もなくなっているっぽい。
索敵というか、気配にも敏感になっているようだ。
たまに鼻をひくひくさせたり、耳を欹てたりして様子を探ったりしているのを良く見るようになったのでそう解釈している。
「クー!ルー!シルバー!護衛ありがとう!」
ちょっと離れた所でじゃれて遊んでいる三匹に声をかける。すると、三匹はだだっと駆けて戻って来た。
〘もう終わったの?〙
〘もう出来たの?〙
〘我らの出番か?〙
「うん、ちょっと休んだらお願いできる?」
すぐにテストしたいところだが、ずっと作業していたので休憩してからで良いだろう。
電気柵と元々あった壁の間で休憩しようと思う。壁の内側では村の方たちがお仕事されているから、そんなところで休むのはちょっとね…。
「みんな、壁の中へ入れ!騎馬隊が何かに追われているッ!」
門の上で見張りをしていた方が叫ぶ。えっと前を見るが、何も見えない。身体能力の差かな。
「クー、ルー、シルバー。騎馬隊の方たちを護りながら、追ってるのをこっちへ誘導できる?」
〘たぶん出来るよ〙
〘やってみるのー!〙
〘楽勝だ〙
クー達がいるのに逃げないってどういう事だろうかと疑問に思いつつ三匹にお願いをして、門衛さんの所まで上がる。スイッチがそこにあるからだ。
「来た…っ。クーたち上手くやってくれてる」
クーとルーは騎馬隊の方たちを護りながら、一緒に壁の内側へ入った。そのタイミングで壁を閉じ、電気柵に電流を流す。
バチバチバチ…ッ。
シルバーが上手く追い立てた鹿の魔物は、20万Aの電流を流した柵に触れて吹っ飛んだ。
どのくらいの電流を流すか悩んだが、大きいしこれで調度良いくらいのようだ。
昏倒している魔物の鹿に、門衛の魔法使いさんが土の槍を放って止めを刺す。
「オオシロ公!凄い!凄いです!ちゃんと魔法が狙った所に着弾して、こんなに簡単に倒せたなんて!
今まで一度もなかったです!」
大興奮なさっているのは、魔法を放った方の門衛さん。軍に所属の魔法使いとしては標準的な、中級魔法を一日に10〜15発放てる方だ。惜しむらくは、命中率がとても低いタイプだった事。
意外とこのタイプの魔法使いさんは多い。お城で魔法の講義をして、そんな方をたくさん見た。
それでこの方にも魔法を的に当てるのではなく、魔法が的に引き寄せられると唱えてから魔法を放つようアドバイスしたのだ。
手に手に拳大の石や杭を持って、壁の上に並んで戦う用意をしていた村人たちもア然としていらっしゃる。
「当てられるようになって良かったですね」
「はい!本当にありがとうございます!」
目には薄っすら涙まで浮かんでいる。せっかく魔法が使えるのに、命中率が低いのが悔しかったんだろうな。
肩や背中を叩かれ称賛されている門衛さんを横目に、私たちは聖魔法を使える方と鹿のところへ向かった。
「触らないように注意しながら、聖魔法で異常がないか探って下さい」
門衛さんのもうお一方。この方は攻撃魔法より聖魔法を得意となさるそうだ。そこで付いて来て頂いて、聖魔法で鹿を調べて頂くようお願いした。
分かりましたと仰り、真面目に調べて下さる。この方も年下の私の言った事をすんなり受け入れて下さるなんて、出来た方だな。
「…なんですかね?全体的に悪寒がするような…、ゾワゾワするような…。なんとも言い難い嫌な感じがします」
「そうですね。病気だったり、何か良くない個体だと思います。
この方法は食べて良いのか駄目な物かの判別にも使えます。駄目な感じの時はそのまま消却処分にする方が良いです。
植物だと毒がある事が多く、動物だと毒があったり人に影響が出る病気の事が多いですから」
この鹿は鹿慢性消耗病とか、この世界特有の鹿が狂うような病気かもなと思うんだ。
何となく後者かと思う。フェンリルの成体、シルバーが気配を消さず追っても暴れ狂っていたからね。
この際だと他の聖魔法が使える方たちにも来て頂いて、同じようにして頂いた。
皆が分かる訳ではなかったが、何人か分かればこれから先、役に立つだろう。
鹿を焼却処分してから村に戻り、騎馬隊の方たちも聖魔法で調べて頂いた。
お一人、さっきと似た嫌な感じが傷口から感じられた。だからさっき嫌な気配が分かった村のお医者さまに病気や細菌とか、他の諸々による物も癒やすつもりのヒーリングを施して頂いたよ。
「ほう!ほう!これがポーションで怪我が治っても、後に不調を訴える者を減らす方法ですか!
聞いてはおりましたが、こうして教われると心強い!」
「お役に立てて何よりです」
そう言って顔をあげると、この村にいる人が全員あつまっているような人だかりになっている。それにビクッと驚いたわ。
そして、聖魔法が使える方たちによる健康診断会?練習会?が始まった。
仕事は良いのかと思うが、私は村の下の畑の柵を作ろうかな。
「いやいや!ここにいて、教えて頂かねば困ります!」
「え?やり方をご存知の方も、した事がある方もいらっしゃるんですよね?」
「この方法の発見者がおられるのですぞ?!そんな方に直に教わるなど、これから先ありません!」
言い切られたし…。まあ、確かにそんな機会はなかなかないだろう。
仕方ないかと思った時だった。
「それは後で。オオシロさんからちゃんと食事させて、ちゃんと休ませて、無理をさせないように言いつかってるから」
そう宣言したユリシーズさんは、未だかつてない固い声だった。思わずみんな「はい」と言ってしまう威圧感にビビった。
崖から落ちて怪我したのと、集団暴走を止めた時は頭に怪我して三ヶ月意識不明になった前科があるからな…。それがあって無理、無茶を酷く警戒させている。
それが分かっているため、しっかり休んでから健康診断会だか練習会だかをする約束をしたよ。
村の下の柵を作るのは翌日になったが、少ない人員と少ない労力で村を守る事ができるようになった。
西部ではこれが標準となったのは、少し先の事だ。
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