14:とりあえず農業を
「アタタ、こ、腰が…」
「待って。癒し魔法掛けるから」
午前中、鍬を振るってもうすぐ来る種蒔きの時期の準備をしただけだ。それでも腰にかなりの負担がかかり、腰が…。
鍬は現代とほとんど形は同じなのは幸い。だが、木製の鍬の先端に、金属のカバーがかかったような代物でとても軽い。いや、軽すぎる。
振り上げるのは楽だが、土に深くささらなくて微妙な代物というしかない。
耕すのって、中世ではまだ牛や馬でしてないのかな…。
すぐさま統括ギルド所属で、私の作る物のあらゆるサポートをして下さる専属の職員さんのお二人。バディのローニーさんとサイラさんに連絡をとって調べて頂いたよ。
結果、馬鋤や類似品はなかった。
マジか…。じゃあこの世界の畑って、全部人力で作ってるの?!獣人さんとか人より力の強い方たちも多いからなのか、そもそも牛や馬を農業に使うという考えが発展しなかったのか…。何にせよないとは…。
「ユリシーズさん、ありがとう。もう平気。でね、ちょっと付き合ってほしいんだ」
村長さんに断り、畑を離れる。そして道すがら、ユリシーズさんに馬鋤の事を話す。
「だからさ、それを作りたいんだ」
「なるほど。そんなのがあれば、とても助かるな」
鉄のインゴットも多少だが無限収納に持ってきている。よって、材料の鉄材には困らない。
「タドリィ親方ーっ」
「おう、お前か。大声出すでないわ」
私達は非戦闘員さんたちの寝泊まりしている、軍の施設へ赴いた。
訪ねたのは前の旅先で出会った野鍛冶の親方、タドリィ親方の作業場。
タドリィ親方は鍛冶屋さんにしては珍しい、一所に落ち着くのが苦手という方だ。そして野鍛冶さんをしていらっしゃるが、元は刀鍛冶で有名な方という経歴の持ち主。
野鍛冶も刀鍛冶も出来て、旅も苦にならない方でもある。
今回の調査行軍にうってつけではと、同行を打診してみた。思った通り、二つ返事で了承を頂けたのだ。
そんな親方の下を訪ね、馬鋤の事を話してインゴットを使って形を作る。そこからあれこれ知恵を絞り、試作品を作り上げる。
アークに轢いてもらったが、悪くはなさそう。
馬鋤を知ってはいるが、紀行物のテレビで見て知っているだけだったのだ。だから細かい部分は分からず、親方を頼ったが正解だったな。
「親方、ありがとう!おかげで一日かからず使える物が出来ました」
「おう。礼なら美味い酒とつまみにしてくれ」
「ご都合のいい日を知らせて下さい。ご用意します」
親方にお礼を言い、前みたいに飲む約束をする。そして、村長さんたちのいる畑に戻って早速お披露目だ。
「なんとのぅ…!」
「すげえ…!」
畑に戻り、さっそくアークに作ったばかりの馬鋤を繋いで鋤いてなかった畑を鋤いて見せる。
畑を鋤き終わると、村長さんに思っていた事を尋ねてみた。
「麦や野菜を育てるのに、畝は作らないんですか?種まきも等間隔にはしないんでしょうか?」
「う、ウネ…??」
うん。私がいなくても続けられる事を覚えて頂こう。
この村の獣人さんは、殆どが肉食動物の獣人さんで主食は肉。パンやご飯も含めて肉以外は副菜だとは昨日伺った。それでも野菜なんかは収穫が足りないらしいからね。
どこまでも畑を広げられないなら、今ある畑からの収穫量を増やそう。って、私もプランターでミニトマト育てたりはした事があるけど、詳しくはない。
土いじりも好きだが、育てるのは観葉植物ばっかりだった。モンステラとかクワズイモ、ポトスにテーブルヤシとかね。
「…アベラさん、近いです」
「あ、あ!すみません!」
アベラさんはこの旅に同行している、統括ギルドの職員さん。ローニーさんかサイラさんが同行できれば良かったのだが、お二人とも既婚者。まして旅に同行するなんて職務はないので、同行は難しかったんだ。
そこで、今回の調査行軍に興味を示したアベラさんに白羽の矢が立った。
アベラさんは馬に一人で騎馬できないので、女性たちと馬車で移動してる。地球のより性能が良いかもしれないサスペンションを使った馬車だが、乗り物酔いが酷いのが落とし穴だった。
「私の方でも記録してますが、宜しくお願いしますね」
「はい!」
初めての旅空での生活と、ずっと馬車に揺られてグロッキーだったが本当にもう平気らしい。かなりヒーリングも受けたらしいけどね。
◇
「…野菜によっては支柱を立てて、釣ってあげる。スイカは下に藁を敷く方が割れにくくて大きく育つとかがあるよ。
育て方も色々研究して下さいね」
「コルセットの話の際に用意されていたトマト!あれは運びやすくするための工夫ではなかったのですな?!」
「土と接していると腐りやすいのには、そのような理由があったとは…!」
アベラさんが加わり、作業を始めてすぐだ。外へ出ていた植物に詳しい研究者さんたちが、何故か合流した。そしてわいのわいのと騒いでいらっしゃる。
「規則正しく植え付けて収穫量が増えるなら、畑を増やすより簡単!何より品種改良より手早く食料自給率が上がる!」
「もっと病害虫に強い種類を作ったり、たくさん実を付ける種類を作る事も大切だと思います。
それには途方もない時間がかかりますから、先ずはあるものを最大限収穫が出来るようにする事も大事な事だと思います」
「そうですな。もっと細かく専門的に研究する者を増やすべきとのお考え、分かったように思いますな」
そのために植物に詳しい方、地質に詳しい方などなど、特に何かの分野に長けた方たちをとお願いして同行して頂いた。
「こうもやる事があっては、他の事にかまけとる暇はありませんな」
「一つの事を細かく研究される方も、その中から二つ三つを組み合わせて新たな一つを生み出す方も必要です。
今はまだまだ一つ一つを細かく研究する事が必要な時代なんだと思います」
「…公とはもっと早くお話をさせて頂くべきでしたな」
「頭の固い者が少ない面子で良かった事だ」
あはは。もしかしてそれも選考基準だったのかな?
「滞在中に出来る事を、たくさんやりましょう」
こうして調査行軍に出て早々に、研究者さんたちと考えを同じにできた。これは大きな収穫だ。
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