13:砂金採りの村
「凄い…!クリフパレスみたい」
目的地である獣人さんの村が見えてきた。その景観は、正にクリフパレスとしか言いようがない。
崖の途中に作られた村は、害獣から村を守るにはこれ以上ない作りだろう。所謂、天然の要塞というやつだ。
そして畑は崖の上と下に分けて作られていて、どちらも二重の分厚い塀に囲まれている。
西部にぽつぽつとある獣人さんの村や町は、だいたいどこも堅牢な作りになっているそうだ。
手続きが終わり、崖の途中の村まで階段を登る。アイルたちは下の畑の横にある、馬専用の囲いの中へ放って来た。
非戦闘員さんたちが乗っていた馬車は、この村にある、軍の敷地へ預けた。
階段を登りきると非戦闘員の方たちは軍の敷地、軍以外の戦える人たちは村の方に滞在する事になっている。
軍の担当の方から村長さんに紹介して頂くと、宿に泊まるかキャンプするかを尋ねられた。人数が多くて、全員が宿には泊まれないんだわ。
それならと、私達は広場にコンテナハウスを出し、慣れたコンテナハウスで寝泊まりする事にした。
フェンリルのクー、ルー、シルバーがいるので、村の方たちにとても注目されている。
そこで夜は外でバーベキューにして、色んな方にクー、ルー、シルバーのお披露目みたいな事をする事にしてみた。
◇
「砂金採りですか?!」
砂金採り、面白そう!!やれないかな?!
「ホッホッ。興味津々といった様子ですな。今の時期は雪解けで水は冷たく、流量も多いでの。危険ですじゃ」
フェンリルたちの撫で撫でタイムが終わると、村長さんに色んなお話しをして頂いた。この村が砂金採りのために作られた村だと、そこで知った次第だ。
「滅多と出ませんが、稀に国宝級の魔石が採れますじゃ。本来はそちらが狙いで、金はそれに当たるまでの繋ぎ。ぼちぼちとしかしとりませんでの」
「砂金採りは、魔石採りのついでみたいなものなんですね」
「左様ですの。親指の爪ほどの良質な魔石が一つ採れれば、東部の町で家族を一生養える以上の儲けになりますからのぅ」
ああ、それで小さいながらも堅牢な村が作られているんだ。なるほどねー。
「雪解けの頃には不思議と魔石は出ませぬ。野が一面春の花に覆われた頃から採れるで、今の時期はまだ狩りで生計を立てておりますじゃ」
「この村の方たちは、周りの魔獣は大丈夫なんですか?」
冒険者以外の国民は、好きに転居が出来ない。だから、ある程度は土地に縛られるものだ。しかし、魔物の脅威が強ければ住み続けるのは大変なんじゃないのかな?
「儂らは獣人。普通の人族より戦いに向いとりますでの」
「ほとんどの奴が魔法は使えねえんで、それだけは苦労するがな!」
いつの間にか持ち寄られたお酒で気が緩んだらしい獣人さんのお一人が、気さくにそんな事を教えて下さる。あー、それでゾーイさんは戦闘中に自分で光魔法とかで明かりを作れなくて困るんだと納得した。
魔法が使えない代わりに、高い身体能力を有しているのかな?などと考える。
でも、さっきの言い回しだと使える人もいるような口ぶりじゃなかったか?
「優?難しい顔してどうしたの?」
「うん?んー?何か…、分かりかけた気がしたんだけど…???」
しばらく考え込んでいたらしく、静かになったのを心配してユリシーズさんが声を掛けて来た。
「やっと村に着いて一息つけるんだ。今はただ飲んで食べて、ゆっくり楽しんだら?」
そう言って、空になっていたお皿にお肉と野菜をバランスよく盛り付けて差し出される。
いや、もうけっこう食べたよ?しかし、ユリシーズさんは私を太らせる事を諦めていならしく、事あるごとにこうしてしっかり以上に食べさせようとする。
「食べるのはもうこれが最後ね。これ以上食べたら、食べ過ぎで苦しくなる」
思ったよりずっしり重いお皿を受け取り、ちまちま食べ進める。
「そしたら運ぶよ」
うん。冗談ではなさそうだ。目が本気じゃんか。でも、運ばれる理由が食べすぎて苦しいからなんて恥ずかしいからヤだよ。
◇
「あれー???なんだったかな?」
「どうしたの?」
バーベキューがお開きになり、部屋で木簡に思いついた事や経緯をメモろうとしたが…。思いついた事はすっかり霧散してしまっていた。
まだヒントが足りない気もしていたから、ヒントが揃ったら思い出すかな?
「ん、思い出せない事があっただけ。お風呂入って来るよ」
カーニバルの皆さんは酒場に繰り出してて留守だ。クーとルーとシルバーは、ダイニングで三匹丸まってもう眠っている。静かなコンテナハウスの奥のお風呂に入り、一日の疲れを落とす。
「滞在している間に砂金採りができたら良いな」
西部で初めての村での一日目を反芻し、そんな目標を掲げたのだった。
密かな目標はシェイプアップだな。ユリシーズさんの目論見は成功しているみたい。なんだか体がふっくらしてきてしまっているのは、気のせいじゃないと思う。体重計がないから、体感でだけどさ。
二の腕をムニムニするとお風呂からあがり、部屋へ戻る。
「あふ…っ。眠…」
「俺も、寝ちゃうかと思ってた。おやすみ」
「おやすみなさい」
ベッドに寝転んでいるユリシーズさんの腕の中へ潜り込むと、やっと慣れたおやすみのキスが額に落ちる。
村に着いた安心感と、定位置になってきた腕の中の安心感が相まってあっという間に眠りに落ちたのだった。
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