108:任務完了
「病気が蔓延して、部隊が弱っていた所に魔物の襲撃に遭ったんですか……。
大変でしたね……」
「は。部隊は二つに別れ、散り散りに逃げました。
ですので、もう一方がどうなったのかは……」
「もう一方も、一人でも沢山生き残っていらっしゃれば良いんですが……」
朝。起きた隊員さんたちから、事のあらましを伺った。
ガルムと言われる、巨大で凶暴な犬系の魔物。そのガルムの大きな群れに襲われ、荷も捨てて逃げたそうだ。
部隊の半数が病に冒されており、討伐が難しかったための選択だったって。
ガルムの襲撃までに、病に倒れた方。ガルムとの戦闘に倒れた方。逃げてここで体力の回復や、病からの回復を待つ間に亡くなった方……。
見付けた三人の方が分かる範囲でも、十一人の方がお亡くなりになられたそうだ……。
「そんな中、生きておられて良かったです。ご飯を食べたら、中洲の町の東にある駐屯地までお送りしますね」
「おお……!帰れる……!帰れるんだ……」
私たちはご飯の後、エグランティーヌさんと長老さまもご一緒に、中洲の町の駐屯地まで移動した。
回収出来たご遺髪と、ドッグタグも一緒に……。
伝染病の方のご遺体は、町や村へ連れて戻れないというからだ……。
中世と言うと、真っ先にペストが思い浮かぶだろう。でも、それ以外の伝染病も恐れられていた。
予防接種や効果のある薬といった物がないからね。だから赤痢や麻疹、インフルエンザといった伝染病も恐れられていたんだよ。
私もそれは理解している。だから、雪洞で亡くなられた三人の方たちは、せめてときちんと埋葬してきた。
三和土で柩を作り、それなりの深さへ埋葬したのだ。その時、ご遺族に何か持ち帰れる物はないかと思ったんだ。
それで、ご遺髪とドッグタグを回収しておいた。ご遺髪とドッグタグは、エグランティーヌさんに聖魔法でしっかり清潔にして頂いたよ。
中洲の町の駐屯地に到着後、私からはご遺髪とドッグタグを駐屯地の責任者の方に。長老さまとエグランティーヌさんから、赤痢がぶり返さないよう、薬を軍医さんに説明と共に渡された。
そして、簡単な聴き取り調査の後、クーたちのいる、将軍さま率いる捜索隊との合流へ向かった。
エグランティーヌさんたちは、将軍さまたちと同行して下さる事になった。病の人と接触すると分かったからね。将軍さまたちが、村に病気を持ち込まない為でもあるそうだ。
「では、私とユリシーズさんは、ここでも空から捜索にあたりますね」
将軍さまたちと合流すると、簡単にこちらの経緯をお聞きした。
「うむ。宜しく頼む」
将軍さまたちは、今日までにバラバラになった武器防具だろう残骸をいくらか見付けられたそうだ。夥しい血痕も、何ヶ所か……。
残念な事に、時に血痕の中には髪や肉片があったそうだ。ガルムは、人なら頭から食べられるような魔物だ……。そのくらいの大きさがある。
そんな魔物と遭遇したのが分かっていて、かつ、そんな痕跡があるとなると、何人かの方は…………。
しかし、全滅とは限らない。だから今は、クーたちが嗅ぎとった臭いを辿っている最中との事。
「クー、ルー、シルバー。やっぱり臭いは分からない?」
『いつか嗅いだ、嫌な臭いの粉が撒かれてるんだ』
『そうなのー。それで、どっちへ行ったか、時々分からなくなるのー!』
『ぶふんっ。この臭い、やっぱり嫌いだな』
群れ虎に襲われていた村で見た、クーたちが苦手な植物の粉が、時々散布されているらしい。それもかなり広範囲に渡って、何回も。
そうなるとクーたちの鼻も効かないので、今は人海戦術に頼って捜索をなさっていらっしゃったそうだ。
「ユリシーズさん、探しに行こう」
「ああ。そうしよう」
ブルビィに前を飛んでもらい、何か気になる臭いがあれば教えてもらうようお願いしてある。
「おーい!北方補給部隊の方ーっ!いませんかーっ!」
「いたら返事しろっ!」
[む?血の臭いも濃いが、人の臭いもするぞ]
[ブルビィ、どこから?!]
[少し先……。うむ。この真下辺りからだ]
[ブルビィ、ありがとう。ちょっと探してみるね]
ブルビィの後ろから離れ、低空を飛んで生存者を探す。
「おーい!誰かーっ!」
「おーいっ!出て来い!探しに来た!」
「ユリシーズさん。返事はないけど、気になる。地上へ降りて、探したい」
『分かった』
地上へ降り、気になった方向を探してみる。あのこんもりした所。あれ、雪洞じゃないかなあ?
「いたっ!ユリシーズさん!いた!」
やっぱり雪洞だった!見に来て良かった!
でも、呼びかけに反応がない……。
「ああ。食事の用意をしていたから、少し前まで意識はあったんだろう」
「うん!これ、飲み込んで!ヒュドラのお肉!体が温まるから。お願い、飲み込んで……!」
からしスプーンみたいな小さなスプーンに、ヒュドラのタルタルステーキをすり鉢で擦った物を掬う。それを喉に詰めないよう、少量を口に入れる。そして、必死のヒーリングの開始だ。
見付けたよ!お願い、死なないで……!
そう思いながら……。
どのくらい経ったのか……。いつの間にか、雪洞はヒーターが設置され、かなり暖かくなっていた。ユリシーズさんが結界を張ってくれているから、雪が溶けても問題ない。
座ったまま意識のなくなっている隊員さんの湿った服は、いつの間にか脱がせられるだけ脱がされ、毛布で包まれていた。
私がヒーリングに必死になっている間に、ユリシーズさんが色いろしてくれたみたい。
一度、微かに口が動き、ヒュドラのタルタルステーキがどうにか飲み込まれた。
そして、暫くすると…。
「……ぅ……ぁ…………」
「!聞こえますか?!口に入れる物、飲み込んで!」
口に、またヒュドラのタルタルステーキを入れる。飲み込まれたのを確かめ、またヒュドラのタルタルステーキを口に入れる。全部で小匙一杯分くらいのタルタルステーキが、どうにか飲み込まれただろうか?
「顔色、戻り始めた……!」
「……ああ、そうだな。優、この人浮かせて。湿っているズボン、脱がせる」
「うん、お願い」
「鼻とか耳とかの凍傷。ハイポーション掛ければ、何とか治りそうになっているな。手の指も、もう少しどうにかなれば……」
「本当?ヒーリングかな?それともヒュドラのお肉かな?」
「どっちだろうな……。足の指は、かなりましだな。ここはもう、ハイポーション掛けよう」
「そうしてあげて。ヒュドラのお肉も、もう少し……」
「分かっているよ。もう少し、食べてさせてみよう」
ヒーリングと、ハイポーションを凍傷に掛けながら、どのくらいの時間、必死に看護していただろう?
「目が開いた……っ」
「あ……?だ……れ?こ…………こ?」
「ここは、あんたが使っていた雪洞だ。俺たちは、西部調査行軍の者。
物は飲み込める?身体が温まる肉、食べて。それと、ハイポーション飲んで」
もしかしたら、助からないのかも……。そんな嫌な事が頭を過ぎる中、精一杯看護していると、どうにか隊員さんは意識が戻って、飛び上がる程嬉しかった。
丁度その時、スマホが着信した。
『こちらショアラ、こちらショアラ。優公、出られたし』
「はい、こちら優です」
『優公、こちら、二人、生存者が見付かりました』
「そちらも?!こちらもお一人見付けられて、今、看護が一段落付いたところなんです」
『それは良かった……!こちらもかなり危険だったのですが、エルフ方のお蔭で、命を取りとめました』
生存者は、先に見付けた八名、後から見付けた一名とニ名の、合計十一名。生存者からの聴き取りにより、死者、十七名。行方不明は四名。
だが、長老さまとエグランティーヌさんのご協力もあり、生存者は増えた。赤痢の患者が出た事による、北方補給部隊遭難救助は、こうして幕を閉じた。
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