106:遭難事故
「補給部隊が、到着予定日から一ヶ月以上遅れても到着していないんですか?」
「うむ。過日、儂も捜索に出たが、手掛かりすら掴めなんだ」
終わりは始まりまで後七日というこの日、将軍さまに呼ばれ、将軍さまの元へ伺った。
そして聞かされたのが、大規模な砦の中ではここから一番近い砦への補給部隊の遭難だった。
春夏は生き物の動きが活発なため、動きが鈍くなったり冬眠したりしてその数の減る時期。初冬と早春にも、東部からの補給があるのだそうだ。
雪中行軍は生き物が活発に動き回る時期より、迷いさえしなければ行軍が安全だから行われているらしい。
その初冬の補給部隊が、到着予定日から一ヶ月過ぎても、まだ到着していないという。
補給部隊に、いったい何があったんだろう?
「食料は砦へ運ぶための物がある故、心配はいらぬだろう。しかし、従来品の天幕や装備が主。寒さに、いつまで持ち堪えられるかが分からぬ」
あ、そっか。有難い事に、私たちは最新の装備を持たされている。しかし、他は殆どの装備は従来の物のままだ。
傷病者を収容するテントだけ、やっと全体にポップアップテントや簡易ヒーターなどが配給されている。
それ以外は、私物のコットや寝袋、簡易ヒーターの持ち込みが許可されているが……。どれだけの人が、それを買う余裕があるだろうか……。
「一刻の猶予もありませんね。早く見付けて、救助しないと……!」
「ああ。早く見付け、一人でも多く救いたい」
「救助したら、どこへ運べば?」
「優公に出てもらえるなら、竜で運んでもらう事も叶うだろう。中洲の町の駐屯地へ運んでもらいたい」
通って来た中で、一番設備が整っているのはやっぱりあそこか。
砦っていうのは、住む事を考えた建物ではない。個室は、極一部の人にしかない。それ以外の人は、適当な場所で雑魚寝が普通だ。暖炉のある部屋の暖炉の近くは、地位の高い人が優先的に陣取る。暖炉の周りこそまだ暖かいが、暖炉って意外と部屋全体を暖める事に向いていないからだ。
それに、随分常設のテーブルや椅子が普及しているが、これもまだ普通ではない。
樽とかに板を載せ、必要に応じてテーブルを作るのだ。それは、皆が雑魚寝しているのと同じ部屋でもある。
そんな所では、もし重症の傷病者がいても収容には不向きだ。建物そのものも、雨と雪は凌げるが、風や冷えは防げないしさ。
ファンタジー物で描かれる中世は、ほぼほぼ近代。食料事情に至っては、現代の極一部の国の水準。
中世は、そんなに良い物ではないのだ。
「分かりました。ブルビィも呼びますが、ブルビィが来てくれるまでの時間が惜しいです。ですので、直ぐにウインドパックで捜索に向かいます」
ウインドパック、実は改良した二つ目が出来ていてる。いつかユリシーズさんと二人で飛んで、好きな所へ行くためだ。なので、二つある内の一つはユリシーズさんが使って、二人で空から捜索する事にした。
ユリシーズさんは、また別の考えだけどね。何も出来なくっても、せめて近くにはいたい。その為、ユリシーズさんもウインドパックで飛べるようになりたいって。
練習を始めた頃は、地上に降りると青い顔になっていたユリシーズさん。今ではウインドパックで飛ぶのに、すっかり慣れている。……飛ぶのが好きか苦手かは別にして。
クー、ルー、シルバーには、今回はお留守番してもらう事にした。クーたちの足でも、ウインドパックの移動に付いて来るのは無理なんだ。本当は一緒に行ければ良いんだけどね……。
◇
「では、ヒュロデ川より北の原生林へ捜索に向かいます」
「見付からなければ、夕方には戻ります」
「ああ、頼む。只、無理、無茶はせずとも良い。夕方には戻る捜索で構わぬ故」
「はい。クー、ルー、シルバー、皆さんを守ってね。道に迷ったら、ここまで連れて戻ってあげてね」
〘うん……〙
〘任せてなのー!〙
〘あの小さい翼、付いて行けないのが悔しいな〙
クーたちには、将軍さまたちに同行をお願いする事にした。将軍さまたちは前回より、南の方を捜索に行かれるとの事。
捜索範囲は道なき道になるそうなので、護衛と迷った時の道案内をお願いする事にしたのだ。
クーは別々なのが納得いかないみたいだわ、シルバーも私たちに付いて行けないから仕方なくって感じだわ……。
だが、それでもクーたちは頼りになるから。将軍さまたちをお願いね。
「この辺りにもいないね」
『ああ。やっぱり、川より南なんじゃないか?』
私とユリシーズさんは、先ず、補給部隊が最後に出た砦へ向かった。そこから川を越えた北の原生林を低空飛行して、補給部隊を探している。
ブルビィの脱皮した皮で出来た上下は、それだけで色々助かっている。今は風や寒さが緩和されるのが、特に有難い。
それでも一時間半から二時間に一度、原生林の開けた場所に降りて、暖を取ったり休憩もしている。
「南なら、クーたちが匂いさえ感じ取れれば居場所が分かると思う。だから、南は任せて良いと思うんだ」
『それもそうか……。なら、明日も北を探そう。
今日はここまで。日没が近い』
「うん……。でも、もう少し」
『駄目だ。俺たちまで方向を見失う。野営の用意はあっても、危険を犯すべきじゃない』
「うん……。そうだね。二重遭難になったら、迷惑かけちゃうもんね……」
夜になれば、目印になるような明かりもない場所だ。野営して、ちゃんと夜を明かせても、心配を掛けるのは間違いない。
断腸の思いで、エルフさんたちの村へ戻る。
二日目は、夜明けと共に捜索に出たけど、この日も手掛かり一つ得られずに終わった。
三日目、今日ももう日没が近い……。今日の捜索は諦めて、そろそろエルフさんの村へ戻ろうかと思った時だった。
「ユリシーズさん。何か……、煮炊きしているような匂いがしない?」
『そう?……いや、今、一瞬そんな匂いがした』
「この近くに、取り敢えず誰かがいるのかも……!もう少し、今日は探そう」
『……そうだな。誰かいるかも知れないなら、探そう』
[……]
ん?
[……ウ]
「もしかして、ブルビィ?!」
私はブルビィの声が聞こえた気がして、慌てて竜笛を吹いて位置を知らせた。
すると、程なくしてブルビィがやって来た。
[ブルビィ!来てくれてありがとう]
[うむ。のう、優。人族は、いつから飛べる生き物になっておったのだ?]
[背中の魔道具で飛べるのは、私とユリシーズさんだけだよ。それより、ブルビィ!]
私は手短に、遭難した補給部隊を探している事、煮炊きしているような匂いがして、それを辿ろうとしていた事を話す。
[む。少し東の方で火事とは違う、何やら変わった匂いがした。それか?]
[分からないけど、そこへ行ってみたい。ブルビィ、そこまで案内して!お願い]
私とユリシーズさんは、ブルビィが変わった匂いを感じた辺りまで案内をしてもらう事にした。
風の精霊さま、お願いです。匂いを辿れるように、どうかサポートをお願いします!
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