105:大城家とユリシーズさんの家
「親父が落ち着いたから。そろそろ、それぞれの家の事を話しておきたい」
もうすぐ終わりは始まりの日になろうかという夜。ユリシーズさんが晩ご飯の後に、そう切り出した。
そぞろなデジレさんに説明してもしょうがないから、デジレさんが落ち着いたら場を持とうって話していたからね。
「ああ、そう言えば……。まだ詳しくは聞いていなかったね」
「そうね。デジレったら調査行軍に加わってから色々刺激を受けて、また研究に没頭していたものね」
ははは……。馬車に揺られていても、ペンと紙が手放せない事も多かったもんな……。
学者さんたちと話したり、思いついたらそれをすぐ書きつけられるよう、馬に乗れるけど馬車に乗られたくらいには。
ユリシーズさんの言葉を受け、タドリィ親方たちは気を利かせ、いつもより早く、コンテナハウスの二階のリビングへ移動して下さった。
◇
人の減ったこたつに、生ハムのバター巻きなんかの簡単な摘みとワイン、ぬる燗にした日本酒、フィリベールくんのホットミルク等を揃える。
自分用には、大きな氷を入れたワインを用意した。南フランスで、割と呑まれているワインの呑み方だ。
皆が席に着くと、ユリシーズさんの話しが始まった。
「前にも言ったけど、優はデーティングしている女性。行軍中はデーティング期間にしている。デーティングが終わって、優が嫌じゃなければ……。結婚を考えている」
て……、てへへ。うん、こうしてユリシーズさんのご両親に説明されると、何だか恥ずかしいな……。顔が赤くなっているのが分かる。顔が……、熱ーいっ。
「うんうん。一緒に生活してみて、本当に良いお嬢さんとご縁があったんだと実感したよ」
「本当にそうよね。私たちの事も、フィリの事も大事にしてくれる。違う世界の違う国から来た人だから、時々考えが合わない事もあるわ。
そんな時、話を詳しくて聞いてくれて、お互いの良い落とし所を考えてくれて……」
「うん。俺は余程でなければ、基本的に優を優先。こっちの普通では、優は窮屈だと思うから」
そうなのだ。ユリシーズさんはこちらの普通に、私という人間を矯正しようとはしない。だから、ユリシーズさんの側は楽で心地良いんだ。
「俺の家は、俺は長男だから。両親の老後の面倒を見る契約くらいしか、取り立てて話す事はないと思う。
親父と母さんからは、何かある?」
これも、地球の中世ヨーロッパと同じ。両親の老後は、家を継ぐ人がみるのだ。年金なんてないから、子どもが面倒を見るよ。それも、正式な契約を結んで。
時々契約不履行などで揉めて、荘園裁判所で裁判もあったらしい。
両親から家を受け継ぐには、そのくらいしっかりした契約を結ぶのが一般的なのだ。
「いいや、ないよ。家も私の物ではない。
それ以前に、長らく会ってすらいなかったんだ。そんな私には、何も言える事はないよ」
「ええ。それに、ユリシーズは名誉公爵になったけれど、私たちは只の冒険者。特になにもないわ」
「そう。優は?聞いておきたい事は?」
「んん?特にない……、というか、こっちの普通があんまり分からないから……。何を聞いておくべきかが分からない、かな?」
それもそうか。何かあれば、都度話し合おうという事で落ち着いた。
只、ユリシーズさんの考えとしては、私とユリシーズさんと、それからデジレさんとミラさんとフィリベールくんが暮らしやすい家になるよう、老後の面倒を見る契約までのルールが必要ならそれを作ると付け加えていた。
「家は、建てる予定があるんだけど……。まさか、親父たちと会うと思っていなかったから。だからその家は、親父たちの事は考えた物ではない。
優は同居が普通っていうのは知っていて、同居するなら家を変更するって言ってくれている」
「同居か……」
「とっても嬉しいけど……。貴方たちが建てる家に、たまたま会ったからって住ませてもらうのは……」
「一緒に住みませんか?もっと歳を取って、体が思うように動かなくなったら……。
フィリベールくんも、まだまだ手が掛かる歳ですし」
老人ホームとかの施設があるわけでもなければ、年金もない時代だ。お金もなく、家もなければ浮浪者になるしかなくなる。歳を取り、冬が厳しいこの国で浮浪者になんてなればどうなるの?
義理の親子として一緒に暮らすと、どうなるかは分からない。けど、どうしても一緒に暮らすのが無理なのでなければ、老後のお世話はしたいと思っている。
今日まで一緒に生活して、デジレさんもミラさんもフィリベールくんも、皆良い人だと良く分かっている。なので、一緒に住むのに抵抗はない。
「……ありがとう。世話になるよ」
「そうね。ユリシーズと会えたんですもの……。一緒に住めたらと、淡い期待を持っていたの。
ユリシーズ、優。お世話になります」
こうして、ユリシーズさんのご両親、デジレさんとミラさん、それに勿論フィリベールくんとの同居が決まった。
家は旧王都に帰ってから、本格的にどうするか決めるけれど。簡単に話した限りでは、内扉で繋がった二世帯住宅になりそう。
その後も、少しユリシーズさんの家の事を聞いて、ユリシーズさんの家の方の事はおしまいになった。
「家の方の話は終わったから、次は優の家の事だ。
親父と母さんは、オオシロ家の事をどれくらい知っている?」
「町の人たちと変わらないと思うようよ。
ツヨシと優は、同じ時代の同じ国からの転移者。ツヨシはいくつも大きな功績があり、公爵叙爵の話は度々あったものの、長らく受けず。そのため、陛下の特別なお計らいで、公爵の称号のみを与えられていた。
その後、先の集団暴走を食い止めた功績により、名誉公爵を叙爵」
「優は、方伯を叙爵。その後、先頭に立って集団暴走を食い止めた功績により、一家に二人目となる、異例の名誉公爵に陞爵したのよね」
「二人とも領地を持たないから、領地なしの爵位持ちに倣い、オオシロ公、優公と呼ぶのが正式な呼び方だね」
「ただ、ツヨシからの希望で、ツヨシの正式な呼び方はファミリーネームのオオシロ公なんだったかな?」
「はい。お父さん、こっちへ来てから家名に愛着が湧いて……。大城って呼ばれる事を、とても好むようになったらしいんです」
「この世界に来て、たった一人しか名乗れないファミリーネームになったんだ。愛着も湧くだろう」
「はい!」
そうなのだ。だからお母さんは、お父さんを大城って呼ぶんだよね。
「ご家族は、お父さん、お継母さん、お継兄さん夫婦、養女の妹さん。
お父さんは、建築関係のギルド長であり、建築の仕事を。お継母さんは、服飾のお仕事。お継兄さんは、お父さんの家業の後継者。妹さんは、優の作った料理の学校の責任者で、もうすぐ結婚の予定だったわね?」
「はい、そうです。お母さんと兄は、血が繋がっています。それ以外は、血の繋がりはありません。
それでも家族で、仲が良いです。家族に爵位持ちが二人いる変わった、けど、普通の家族です」
私がじっとしていないから、一緒にいた時間は短い。でも、こっちの世界で出来た、大切で大事な家族だ。
「フィリも、かぞく?」
「フィリベールは、私とミラの大切な家族だよ」
「勿論、家族よ。大切な息子の一人だわ」
今日はミラさんの膝の上で、とても大人しくしていたフィリベールくん。
「優もかぞく?」
「優は、ユリシーズと結婚したらだね」
「ユリシーズに、頑張ってもらわなくっちゃね!」
「お兄ちゃんががんばったら……。
お兄ちゃん、がんばってね!フィリね、優も家族になりたいの」
「母さん……。頑張ってどうにかなる類の事じゃないだろ……」
「ユリシーズさん、頑張らないの?」
「いや、色よい返事がもらえるよう、精一杯努力するに決まっている」
「私も、デーティングだけで終わりって言われないようにするね」
この夜は、この後も沢山話をした。ユリシーズさんの子どもの頃の話を聞いたり、フィリベールくんの事を詳しく教えて頂いたり、デジレさんとミラさんの事を聞けたりと、とても楽しい夜になった。
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