104:ティッシュ作製
「お願いしてから、まだ三日なのに……」
「かなりの量だな」
エグランティーヌさんに、スライムも土地枯らしもそれなりに集まったと呼ばれたんだ。スライムを捕獲したり、土地枯らしを採取して来て下さった方たちが集まっていらっしゃる。
土地枯らしは、私が驚くくらい集まったとの事……。
「種から芽が出た物もあるみたいなの。そのせいで、今年は土地枯らしの群生地が例年より増えていたからなの」
「種から芽が出るのは、かなり珍しいんだがね。殆どは芽が出ず、そのまま枯れるか腐るんだけど……。偶に、落ちてから時間が経ってやっと芽が出る物があるんだ」
「あー、たまにそんな種類の植物がありますね。球根からは毎年花が咲くけど、種からだと花を付けるまでに何年か掛かる植物」
皆知っている、チューリップがそれだ。球根は毎年花を付ける。しかし、種から花を付けるまで三年から五年掛かるそうだ。
尤もチューリップは、品種改良された種類は、種がなかなか出来ない事が多いそうだけど。
種が出来ても、開花までに時間が掛かるというね……。
「兎に角、これを早く処理しちゃわないとな」
「飼育スペースは出来ているから、問題ないだろ」
「そうね、スライムも土地枯らしも入れてしまいましょう」
「そうだね。仕事は早く終わらせよう」
いつスライムと土地枯らしを持って来て下さっても大丈夫なように作っておいた、土魔法製のスライムの飼育小屋。
土の部分は全部三和土にしていて、根が張れないように対策してある。スライムの活動が活発になるように、硬質スライムガラスで温室にもしてあるよ。
餌やりは、小屋に入らなくても出来るようになっている。外階段を登ると、屋根代わりの硬質スライムガラスを入れた窓になっていて、そこから出来るのだ。
その窓の鍵を開けて、窓を開く。
私と入れ代わりで横幅のある階段を登り、ユリシーズさんとシルヴェストルさんは土地枯らしを小屋に放り込む作業担当。
「代金の精算が終わった方は、土地枯らしとスライムは、ユリシーズさんかシルヴェストルさんに渡して下さい」
そう声を掛けると、私とエグランティーヌさんは階段の下でスライムや土地枯らしの数を確認し、対価をお支払いしていく。
対価はいらないとお聞きしたが、流石にね。無償は申し訳ない。だから、スライム一匹に鉄貨五枚を。長さが二メートル以下の土地枯らし十本一束に、鉄貨一枚。二メートル以上の十本一束は、鉄貨三枚での買い取りとなっている。
「おお!スライムと土地枯らしで、いい小遣いになった!」
「土地枯らしを採って来ただけで、こんなにもらえるの?助かるわ」
「こちらこそ助かります。ありがとうございます」
私は安すぎると思うんだけど、エグランティーヌさんには対価が高いと言われたが。この寒い中、採取して来て下さったんですからと押し切った価格だ。それで、この買い取り価格に落ち着いた。
それでもこんなにと言って下さるなんて、こちらこそ有難い。
そして暫くすると……。
「スライムは十匹くらいでってお願いしていた通りだけど……。土地枯らしが……」
「群生地が増えてこれなら、まだ少ないと思う」
「そうね。それに、これでもまだ全部採取していないわよ」
「一度に採取してきても、邪魔になるだろう?」
うっひょう?!まだこれで一部なの?飼育小屋は、もう半分近く土地枯らしで埋まったって、ユリシーズさんが。
「じゃあ、これ以降は買い取りが終わったら、無限収納に収納だな。補充の餌にしよう」
そしてどんどん、土地枯らしを買い取っていく。ユリシーズさんとシルヴェストルさんも加わったので、捌くスピードが上がった。
最後の方から土地枯らしを買い取り、ほっと一息つく。買い取りに、一時間くらい掛かったかな?
買い取りが終わり、階段を登って窓から温室の中のスライムの様子を確かめる。
「あ、もう冬眠から起きたかな?割と活発に動いて、土地枯らしも食べ始めているね」
「この中、暖かかったからな」
「ええ!水場代わりの水路の水、凍っていたのに溶けているもの!」
「暖炉やひーたーもないのに、不思議だよね。それでも中は暖かかったから、氷は溶けるだろう」
皆で中を覗き込みながら、暫くスライムを観察をした。冬眠していたのを起こしたが、問題ないみたい。お腹が減っていたのだろう。土地枯らしを、凄い勢いで食べている個体もいる。
水路の水は、飼育小屋の目と鼻の先にある川から引いたものだ。水が必用な時、小川の上流側の水路の堰と、そこから延びた小屋の下部の堰を開いて水を流す。下流側の堰も、必要に応じて開く。
スライムも、生きるのに水は必要らしく、飲水がいるのだ。それに、水浴びをする習性もあるそうだ。これは綺麗好きだからだって。
「どう?餌やりしてもらえるかな?」
暫くスライムを観察した後、私はまだ残っていた、エルフの姉妹に餌やりのバイトをしてもらえるか訊ねてみた。
いつか旅に出る日に備え、エルフの子どもたちは小さいうちから様々なお手伝いをするのだそうだ。お手伝いという形での、依頼を熟す練習らしい。それに加え、自分の向き不向きや苦手な事などを知るためでもあるみたいだ。
おままごとみたいだけど、依頼を受ける練習。合格点のお手伝いが出来ると、お金ももらうらしい。ただ、本当にお小遣い程度の金額だそうだけどね。
「うん!餌やり、出来るよ!」
「出来るよ!」
「それじゃあ、お昼前と夕方の二回。毎日餌やりを頼むね」
エグランティーヌさんに紹介して頂いたこの二人にお願いしたのは、この小屋に近い家に住んでいる事。生き物が好きな事。この二つが大きい。
土地枯らしは、姉妹の無限収納に収納してもらっている。だから、変化があるまではコンテナハウスまで来る必要もない。
◇
「本当だ、土地枯らしが消化しきられなくなっている。知らせてくれて、ありがとうね」
ある日の昼前、姉妹がコンテナハウスまでやって来た。
「約束の通りだよ!」
「だよ!」
寒さに負けない、元気な姉妹だ。可愛いな〜。
飼育小屋で、スライムに土地枯らしを餌に飼い始めて五日。スライムが土地枯らしを消化しきらなくなった。これで次の段階へ進める。
「小屋の水路の、下手にこの袋をセットして……っと」
今は水が流れていない、小屋から小川へ水が流れる水路。その小屋の際の水路に、五キロの小麦袋と同じ大きさの袋をセットする。
材質は麻なんだけど、溶けないように一手間掛けている。土地枯らしの根っこを煮て、煮汁を煮詰めた液にしっかり浸したのだ。こうしておくと、直ぐに袋材が溶ける事がなくなると教えて頂いた。
この方法も、勿論オンブルさんたちから教えて頂いた方法。
しかし、スライム。土地枯らしの根を溶かし続けるのが、きっと苦手なんだろうな。だから、根まで餌にするのが、上手く柔紙を作れるポイントなのだろう。
水路の幅と同じ大きさの口の袋を、水路に土魔法で隙間なくセットが終わる。袋のセットが終わると、三箇所の堰を開いて水を流す。
小屋を貫通している水路には、壁の下に当たる部分はスライムの核より狭い網目の三和土製の格子が嵌めてある。だから、ここからスライムは逃げ出せない。
暫くし、袋に柔紙の元になった土地枯らしが集まると水を止める。堰がちゃんと出来た事を確かめると、小川まで柔紙の元を運ぶ。無限収納に入れて運ぶから、重くも冷たくもないのは有難い。
小川に着くと、無限収納から取り出した袋の口を縛る。中身が漏れない様に、ぎゅっとぎゅーっと縛る。使ったのは、長いロープ。ロープの先は、近くの木に確り括り付けるよ。このために、長いロープを使ったのだ。で、ここまで出来たら、後は……。
「…っふ!」
ぼちゃん!
「ユリシーズさん、ありがとう」
「ああ」
浮かないよう重りを付けた袋を、ユリシーズさんに川に投げ込んでもらった。後はこのまま、一晩流水に晒す事になる。
◇
「皆、宜しくねー!」
はーいっと、元気な返事が返って来る。今日は村にいる子ども全員が、柔紙の元を薄く伸ばして乾かすバイトをしてくれるんだ。
餌やりをしてくれている、あの姉妹もいる。
今日は報酬の他に、温かい飲み物とお菓子も出す心算だ。
スライムの飼育小屋の横。柔紙の元を乾かす為の作業小屋で、早速作業に取り掛かる。
「三和土の長い樋に、渡す桶の中身を流し入れて。見にくいけど、樋の中に線を引いているから、その線まで入れていってくれるかな?
あ。端から端まで、隙間や斑なくお願い。それも、乾く前に入れていって」
私は、目の前の樋に、桶の中身を入れる。桶の中に入っているのは、柔紙の元を水に溶いた物だ。何度かその作業を繰り返し、細長い一本の樋に、薄く柔紙の元を広げきる。
子どもたちはやる事が分かると、スムーズに作業に掛かってくれた。
ティッシュの折り畳んで組まれたあの形は、手作業で作るのは厳しい。あの形にするのに、ペタペタ触るのもちょっと考えものだ。
なので、幅十センチ、長さ五メートルの、トイレットペーパー状にする事にした。
芯は、拾ってきた枯れ枝を加工した物。枯れ枝は、先ず三時間蒸す。蒸し終わると、筒状に錬成した刃物で均一な太さの筒に成形。そして出来た物が芯になる。
「全部終わったよ!」
「早いね、もう終わったんだ。お駄賃渡すね。お茶とお菓子も用意してあるから、お菓子も食べて帰ってね」
こうして、子どもたちの手を借り、初めてのティッシュは早晩完成した。
手袋をして、白木に巻き付けたティッシュは巻きが甘いけど……。
それはこれから改良だ。他にもある、改良する事もこれから。
取り敢えず、ティッシュが出来た事が嬉しい!
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