102:ティッシュが欲しい!
「ココアは、随分美味しくなりましたね」
「そうね、飲みやすくて美味しくなったわね」
皆にお土産を配ってから二日。私たちは、エグランティーヌさんのお宅にお邪魔している。
お父さんに聞いてきた、ココアの作り方を試す為だ。
試してみて、知っているココアに随分近くなった。しかし、こちらのココアは、地球のココアと違う製法で、思っているココアに出来るのかも。
この日以降も色々試したが、春までに、これ以上思っているココアに近くはならなかった。
「地球のと製法が違うとなると、どうしたら良いんだか……」
「地球のここあは分からないけど、私たちにはこれでも充分!」
「ああ、喉に張り付くような物ではなくなったし、味も風味も良くなった。
エグランティーヌの言う通り、充分美味いと思うが?」
「そう……、ですね」
ここは地球とは違うのだ。地球と同じ品質、同じ味にはならなくっても良いんだよな。忘れていたよ。
春までまだ時間はあるから。それまでぼちぼち、もっと美味しくならないか考えよう。
そう気付くと気持ちを入れ替えて、ご相談を始める。
◇
「スライムの捕獲と、土地枯らしの大量採取?そんな物で、何をするの?」
「スライムは、洞窟などで固まって越冬している。土地枯らしも、冬は子どもでも対処できるくらいに弱くなるから。
どちらも、大量に集めるのは問題ないけど……」
「ジャドゥさんのお父さんに教えて頂いた、『柔紙』を作りたいんです」
私は無限収納から、分けて頂いた実物を取り出す。
「これは、紙なの?」
「とても柔らかいね。ただ、文字は書けないんじゃないのかな?」
お二人は作りたい物の実物に触れ、感じたままの感想を下さった。
「これ、文字を書く為の紙じゃないんです。口元が汚れた時、口元を拭ったり、傷口に当てて、血が垂れないように使う紙なんです」
何より!トイレットペーパーとしても使いたい。今は、携帯ウォシュレットみたいな物で過ごしている。
普通はボロ布とか、それ用の木の枝や葉っぱを使うらしい。しかし、それは辛い物が……。
だからお父さんは、この世界に来てかなり早期に、水の魔石と風の魔石を使って、携帯ウォシュレットを作ったそうだ。
私も、家にあった新しい予備をもらって、以来ずっとそれを使っている。
柔紙は、トイレットペーパーもティッシュペーパーもキッチンペーパーにもなりそうなんだ。一番近いのは、キッチンペーパーかな?
そんな柔紙が出来れば、幅広く使えて、絶対便利になるだろう。絶対に欲しい!
熱望して止まない柔紙作りに必用なのは、スライムと土地枯らし。他は、大量の水。これは川の水を使う。
作り方は、スライムにひたすら土地枯らしだけを餌として与える。すると、飽きるのか、食中りなのか……。兎に角、そのうち消化しきらなくなるのだそうだ。
消化しきらなくなると、溶け切らなかった土地枯らしの残骸を排出するようになるんだって。
それを集めて大量の水に晒し、酸をしっかり洗い流す。
一晩流水に晒したままにすると、酸が残っていた事はないそうだ。
排出された土地枯らしに付着している酸は弱まっているのか、水に流しても不具合はない事も分かっている。
ここは、酸を中和する物で時短出来ないか、試してみる価値はあると思っているよ。
そして一晩流水に晒した土地枯らしを、平らな物に薄く伸ばして乾かすと、柔紙の完成!
紙の柔らかさは、新芽を使うか、乾かす前にすり鉢で砕くと柔らかくなるとの事。
新芽かすり鉢で砕いた以外の物では、違う肌触りになるそうだ。今持っている、ちょっとざらっとした、でも、丈夫な物になるって。
「根っこも極力引き抜いて餌にするのが、上手く作れるコツだそうです」
「根っこも処分出来るのは、とても助かるわ」
「本当にそうだね。根を燃やすと、毒が出るからね」
「その毒で、他の植物を枯らしているって説がある」
「そうなの?」
「うん。他の植物が育たないのは、根から他の植物を枯らす毒を出していて、土地枯らし以外の植物が育たなくなるんじゃないかって」
他の植物を枯らすのは、セイタカアワダチソウとかみたい。燃やしても有毒なのは、夾竹桃みたいだな。
「土地枯らしの実は使えるけど、他は使いようがなかったわ。処分も苦労していたしね」
「村の者に声を掛けて、早速スライムと土地枯らしを集めようか」
「本当ですか?!」
「ええ。土地枯らしは、冬の間に極力処分するの」
「蔓だけになっていて、処分する量が少ないからね」
「一度夏に見ましたけど、一日で景色が変わっていました……。あれを夏に処分するとなると、確かにかなり大変そう……」
「夏はな……」
「夏はね……」
「手が付けられん……」
土地枯らしは、主根まで確実に対処しないと駄目な植物なんだ。
主根が五センチくらい残ると、そこから再生する。茎からも再生する。しかも、成長が異様に早い。
夏はそれ以上増えないように、見付けたら兎に角抜く。他の植物が枯れてしまっているのなら、ぐらぐらと煮立っている熱湯を掛けるのも有効。
抜いた根は確実に乾燥させ、粉末にするのが鉄則。肥料にもならないらしいが、ここまですると、土に蒔いても安全になっているそうだ。
対処は土にも及ぶ。土をニメートルくらい掘り、掘った土を煎って、地中に主根を残さないのも絶対しなくてはならない対処。蔓や葉っぱといった地上部は、この時一緒に処理する。
強力な攻撃こそしては来ないが、丈夫な蔓で絡み付いて来るらしいんだ。これが意外と厄介みたい。四方八方から蔓が伸びて来ると、蔓に掴まって、一人では抜け出せないらしい……。
そんな土地枯らしだが、寒さには弱い。冬は抜くだけで、残っている根は勝手に枯れるそうだ。それが救いの一つ目。冬はほぼ動けないから、子どもでも対処出来るのが二つ目の救い。しかも、抜けば主根も枯るおまけ付き。
抜いた土地枯らしは、地上部は焼却処分。毒のある根は、網に入れて流れが早くて深い川に沈める。すると、寒さに弱いので、簡単に腐ってしまうそうだ。
流石に全部川に入れて腐らせると、ちょっと問題があるそうだ。なので、地上部と根で、別々に対処するんだって。
冬の終わり、土地枯らしを探して回り、繁殖地を潰すのが人々の最大の仕事だと、ユリシーズさんに教えてもらった。
因みにこれは、領主さまの直轄地での、農民の労働奉仕の一つにもなっているとも。麦の刈り入れと、この土地枯らしを駆除する労働奉仕には、領主さまからご馳走とお酒が振る舞われるって。
まあ、そんな手間暇かけて駆除しても、一円にもならなければ実以外利用も出来ない代物だ。出来るなら、やりたくない仕事でもある。
それが利用出来るとなれば、かなり助かるだろう。
「近いうちに、スライムと土地枯らしは用意するわね」
「スライムが毎年冬眠している洞窟もあるし、土地枯らしの群生地も分かっているから。用意するのに、それほど時間は掛からないと思う」
「本当に?助かります。皆さんのお手空きの時でかまいませんから、宜しくお願いします」
冬、エルフの村の男性は防具作り、女性は織物の仕事をしていらっしゃる。だから、そうお伝えしたのだが……。
三日後、沢山のスライムと、大量の土地枯らしが届けられた。
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