101:私のお土産は心臓に悪いらしい
「まあ!素敵なお土産!
でも、こんなに高価な物、本当にもらっても良いの?」
「はい、どうぞ。寒いのも冷えるのも、辛いですから」
「そうなのよね。……ありがとう。大切にするわね」
「……足元が温かい。体も温かい……!いや、本当に良い物をありがとう」
デジレさんとミラさんは、ダウン製品のお土産をとても喜んで下さった。
デジレさんはミラさんと話をしている間に、ネックウォーマーとレッグウォーマーをしていらっしゃる。
学者さんたちの為の、ちゃんとした宿舎はあるんだけど……。その宿舎とこのコンテナハウスを行き来するのが面倒臭い方が、自然とこちらに固まってしまってね。
それ以降、私のコンテナハウスに土魔法で講堂と、カプセルハウスを移設した建物を作っている。土魔法で作った講堂にもヒーターはあるが、コンテナハウスと比べると冷える。
一時間に一度の換気を、徹底してして頂いている。だから、部屋が暖まり続ける事もないんだわ。
それでも、普通の建物より中は暖かいんだけど。冷えるものは冷える。
「儂らにまで、こんな土産を……!」
「まさか、綿の上下!?革の前掛けに比べて涼しいっていう、でも貴重な物だよね!?」
タドリィ親方とセーマルくんには、まだ普及していない、厚地の綿の上下をお土産に買って来た。
「麻のとかのもあるみたいだけど、火を使う方には、やっぱり綿素材が良いから」
現代の日本に、未だ綿生地の作業着があるのは、それだけ火を扱う仕事の方に適した素材だからだ。耐火性もあり、通気性も良い。
「嬢ちゃんよ……。土産は、もうちいと心臓に悪くないモンにしてくれんかの……」
「こ、これ……。こんな良い物、使えないよ……」
「ユリシーズさんの助言で、これでも上下各一着に減らしたんですよ」
「洗い替えもって、三着買おうとしていたんだ。色々説明して、一着にさせたから……」
「お、おう。そうなンか?全く……。贈り物のかぷせるはうすといい、嬢ちゃんの贈り物にはたまげるわい……」
「あれ……!!親方の家のあれって、優さまからの贈り物だったんですか?!
親方、元は凄い刀鍛冶だったそうだから、親方が買ったんだって思ってた!」
「いいや。あれは嬢ちゃんの贈り物じゃよ。ある日、いきなり家に設置してくれたわい」
「そうだったんだ!初めて知った!」
「そんな事もありましたねー」
「そんな事……。ふう……。
ユリシーズ、これからもお前さんが、しっかり見張っとれよ?儂が長生きするためにのう」
「そうする」
「え、酷くない?!」
「酷くなぞないわい!……。土産、ありがとうの」
「優さま。俺にまで凄いお土産、ありがとうございます」
「優のお土産って、心臓に悪そうだね……」
「そうね……。ユリシーズ、もしまた機会があったら、心臓に悪くないお土産になるように、私からもお願いするわ……」
「デジレさんとミラさんまで?!」
「当たり前ですよ。それに!一緒に行っていた私にもお土産があるって、どういう事なんでしょうか……?」
「それは色々お世話になっているから、そのお礼だよ」
アデラさんには、洗濯婦や料理を作って下さっている女性たちと同じ物に、ちょっとプラスして贈った。
明日皆に贈るのは、フエルトみたいな製法の生地に、温かい加工のされたネックウォーマーとレッグウォーマー。
首を温めるだけで、随分冷えが緩和されるからね。それに、足首も冷える部位だから。
この行軍中、何かあっても動きやすい様に、女性たちもパンツスタイルになっている。私が穿いている、超ワイドパンツだ。
スカートより動き易いが、寒さはスカートとそこまで変わらない。
それで、首を温めるネックウォーマーと、足首を温めるレッグウォーマーをお土産に選んだ。
アデラさんにはそれにプラスして、温かい加工のされた、大判のショールを贈った。
「先輩たちも驚かれていましたけど、こんな高価な贈り物……っ」
「ちょーっ?!倒れる?!え、何で?」
「……。だから、もっと程々の物をって言っただろ……」
「程々にしたよ?!ダウン製品は王族の方たちとか、本当にお金持ちの貴族や豪商の方でないと買えないんだよね?
だからダウン製品は諦めて、温かい加工のショールにしたよ?」
「……。それでも、普通の暮らしをしている者が、おいそれと買えるような品じゃない……。
そこそこ稼ぎのある冒険者や傭兵でもないと、一生手にする事のない物だ」
「ええー……」
そこまでなのー?!
ミラさんに介抱され、アデラさんは直ぐに気が付いた。
「こんな……、こんな……高価なお礼……」
意識は戻ったんだけど、まだ動揺しているみたいだわ。
「それくらいしても足りないくらい、アデラさんにはお世話になっています。同行して下さって、本当にありがとうございます」
「ユ、優さま〜……!」
アデラさんは、ちょっとだけおっちょこちょいだ。それが原因の一つで、とても自己肯定感が低い。
だが、致命的なミスはしないし、一生懸命で周りが見えなくなってしちゃう、可愛いおっちょこちょいだ。
それで自己肯定感下げちゃうなんて、勿体ない!
そんな気持ちが伝わると良いな。そんな願いも込めたプレゼントは、アデラさんのお気に入りになったようだ。
身に付けてくれているのを、行軍中の寒い時期、何度も見掛けた。
「優ー?フィリにはないの?フィリね、服もうれしいけど、リュカたちにあげたのと同じおもちゃほしいの」
「積み木だね。フィリベールくんのもあるよ。ご飯が終わったら、出してあげるね」
「ほんと?!フィリにもあるー!」
フィリベールくん、ちょっとはしゃぎ過ぎてミラさんに注意されちゃった。普通、おもちゃなんて買ってもらえる物じゃないから。はしゃいでも仕方ない。
アデラさんが倒れたり、フィリベールくんが注意されたり。お土産が高価で心臓に悪いと言われたり……。
そんな夜は更けて行った。
◇
「まあ?!お土産って……」
「ジテンシャって、高価な品物だろう?」
一夜明け、今日はエグランティーヌさんのお宅にお邪魔している。
「あ、はは……。お贈りして、喜んで頂けそうな品にしただけです」
いつか欲しいって話していらっしゃったから、自転車にしたんだけど。確かに、まだ安くはない。
「優は金銭感覚が可笑しいから……。気にせず、受け取ってやって。喜ぶから……」
そう説明するユリシーズさんも、なんだかぐったりしている?!
「嬉しいのは勿論よ!ただ、受け取るには、ちょっと心臓に……」
「優しくない、かな……」
エグランティーヌさんたちにも言われた!!
「そうよ。私たちにまで高価なお土産を買って来てくれていて、驚いたわ……」
エグランティーヌさんの家へ来られていたカーニバルの皆さんにも、ここでお土産をお渡ししたんだけどさ?
「ど、動悸が……」
「これ、なかなか手に入らないヤツでしょ!?」
あ。滅多に見られない、エブリンさんの豹紋が肌に浮いた。
「お、驚いたぁ……」
ゾーイさんは言葉と裏腹に、何だか目が爛々としちゃっている。
そんなお土産はねー。
「はい、錬成ウール鋼です。アダマンタイトじゃないですから」
ウール鋼は、特定の地域から極僅かしか採掘できない、希少金属だ。
そんなウール鋼が他所の地で打たれ、有名になったのがアダマンタイトだよ。
こちらではウール鋼を狙い、ウール鋼の産地は、何度も侵略の脅威に晒されたそうだ。
最終的にウール鋼の産地は侵略され、ウール鋼の知識を持つ方たちも絶えてしまった歴史があるそうだ。
その後、長寿な種族の方たちへの聞き込みが行われ、錬金術師さんたちによる、ウール鋼の再現の研究が重ねられた。そしてどうにか、錬成ウール鋼が出来たのだそうだ。
ただ、似た性質の物ではあっても、アダマンタイトとは比べ物にならないらしいけど。
そんな錬成ウール鋼のお土産は、「まさかお土産といって、ぽんっと渡される日が来るなんて……」と、カーニバルの皆さんに言われてしまった。
そして、「心臓に悪いお土産だわ……」とも…………。
その後、軍の台所へお邪魔して、そこでも心臓に悪いお土産だと言われた。
流石に凹むんだけど……。
留守にしておられた将軍さまには更に翌日、帰営の報告と共に、お土産をお渡ししたよ。
そしたら……「これが皆が言っておった、心の臓に悪い土産か……。確かに、驚くような高価な品だ」と……。
「次があれば、夏の時のような、もっと気楽な土産にせよ」と厳命されてしまったよ……。
私は二日程、ユリシーズさんに慰めてもらってどうにか立ち直ったくらい、酷く落ち込んだ。
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